その次の日から、デュエル専用ステージ建設計画が、ハチマンとナタク、
それにユージーンとついでにカゲムネによって、着々と進められる事となった。
先ず最初に決めなくてはならないのは、どのくらいの規模の施設を作るかという事である。
こういった場合、先ず用地の確保が頭に浮かぶが、
そもそもどれくらいの広さの土地が必要になるのかが決まらなくては話にならない。
という訳で今日四人は、サラマンダー軍のギルドハウスの一室に集まっているのであった。
「ステージのサイズはどのくらいがいいと思う?」
「話に聞く突進技とやらが十分に放てるくらいは必要なのではないか?」
「突進技、突進技ね……」
ハチマンは先日見たアスナのフラッシング・ペネトレイターの事を思い出しながら、
脳内で大雑把に必要な範囲を計算した。
「それだと多分、五十メートルくらい必要になっちまうぞ」
「何っ?突進技とはそれほどのものなのか……」
「丁度アスナが使った時の映像があるぞ、見てみるか?」
ハチマンは先日コマチが録画した映像が丁度手元にあった為、ユージーンにそう提案した。
「是非頼む」
「それじゃあちょっとここのモニターを借りるぞ」
そしてモニターに映し出されたアスナの姿を見て、ナタクですら思わず息を呑んだ。
当然ユージーンとカゲムネも呆然としていた。
「こ、ここまで凄まじいとは……」
「凄いですね……」
「中々使いどころが難しいんだけどな」
「問答無用で敵との距離を詰められるのが大きな利点ですね」
「ただデュエルで使う奴がいるかっていうと、正直何とも言えないんだよな」
「確かに一対多の戦いじゃないと力を発揮出来ない技ともいえるか」
「まあこれは最上級突進技だから、もっと弱い突進技なら使う奴もいるだろうし、
二十五メートル四方くらいのスペースがあれば十分なんじゃないか?
イメージは小学校のプールで」
「かもしれませんね」
「よし、それじゃあサイズはそのくらいとして、
俺としては十メートル四方くらいの小さなフィールドが、
メインステージとは別にいくつかあった方がいいと思うんだが」
その話し合いの途中でユージーンが突然そんな事を言い出した。
「ほうほう、その心は?」
「俺達クラスなら戦いに広いスペースが必要になるが、
初心者から中堅プレイヤー同士の戦いだと、そのくらいのスペースがあれば十分ではないか?
そういった奴らが気軽に遊べるような場所も作った方がいいと思ってな」
「おお、指導者っぽい発言だな、将軍の肩書きは伊達じゃないんだなユージーン」
「お前達を見ていると、後進を育てるのを怠ってはいけないと実感させられるからな」
こういった部分がユージーンの長所なのだろう。
脳筋なのは間違いないが、脳筋なだけではないのだ。
「デュエルに場外負けはありませんけど、設定した方がいいんですかね?」
「いや、別にいらないだろ。ただ一応客席の安全の為に、
四方を一メートルくらいの壁で囲った方がいいかもしれないな、
上級者ならそれすらも攻撃の手段として上手く使いこなすだろうし、
見ごたえも増すだろうよ」
「客席はどの程度整備しましょうかね」
「周囲を階段状に囲むくらいでいいだろ、
まあそれとは別に、枡席っぽい場所を作るのもいいかもしれないな」
「いいですね、それ」
ニコニコと笑顔でそう言うナタクを見て、
さすがに申し訳ないと思ったのか、ハチマンがすまなさそうな顔でこう言った。
「あ~………何か負担ばっかり増えてすまないな、ナタク」
「いえいえ、こういうのも楽しいですから」
それから話し合いは続けられ、とりあえずステージは全部で五つ作られる事になった。
中心に二十五メートル四方のメインステージを設置し、
その四隅を十メートル四方のサブステージが囲む事となる。
メインステージの四辺は客席と言う名の段差で囲まれる事となり、
施設全体としては、余裕をもって八十メートル四方くらいの広さを確保する事となった。
「ここまでやるならさすがに運営の許可をとる必要がありそうだな」
「大丈夫、もう連絡して許可を得てある」
「お、お前、仕事が早いにもほどがあるだろう」
早いといってもハチマンにしてみれば、アルゴにメールするだけである。
公私混同を避ける為に、あくまで全てプレイヤーの手だけで建設を行うと伝えてあったが、
実は一つだけアルゴからサポートを受けられる事となっていた。それは場所の選定である。
といっても条件に合う場所を何ヶ所か候補地としてピックアップしてくれるだけなのだが、
それだけでも十分手間が省け、かなり計画が前倒しで進められる事だろう。
そして話し合いは、その場所決めの段階へと進んだ。
「さて、先ずは場所の選定にあたって、必要な条件をあげていくか」
「ふ~む、先ずは交通の利便性か」
「街からそれなりに近い方がいいですね」
「後は基本平らな地形である事だな」
「床部分は平らであれば自然のままでいきたいですしね」
「後はモンスターが沸かない事か」
「だな、安全地帯であるのは絶対条件だ。
出来れば街から現地へのルートも安全なのが望ましい」
ここで一つ問題が発生した。空中戦闘、いわゆるエアレイドの扱いをどうするかである。
そもそもアインクラッドは、プレイヤーが空を飛ぶ事を踏まえた作りにはなっていない。
ALOの敵は空中からの攻撃に対応する動きをとるようにプログラミングされているが、
SAOではそんな事はなく、空中からの一方的な攻撃に対してモンスターは無防備であった。
「空中戦闘も出来るのが望ましくはあるよな」
「空中でソードスキルを放つと踏ん張りがきかない分、難易度が跳ね上がるけどな」
「確かにそのせいで地上戦がメインになるんだろうが、
それでも空中戦闘をはなから否定するのもなぁ」
この話し合いの結果によっては、当初予定していたアインクラッドではなく、
アルヴヘイムに施設を建設する事も検討しなくてはいけなかったのだが、
それはアルゴからの一通のメールによってあっさりと解決した。
「あ~………」
「ハチマン、どうかしたのか?」
「今開発日記をチェックしてみたんだが、
SAOでの飛行についての対応がもうすぐ完了するらしく、
十一月を目安にSAOでも空を飛べるようになるらしい」
ハチマンは、まさか直接開発からメールが来たと言う訳にもいかず、
誤魔化すようにそう説明した。
「ほほう?それは通常の攻略もはかどりそうだな」
「ちなみに十メートルを超える高さより上では一切地上への攻撃が出来なくなるらしい」
「逆に言えば、そこまではモンスターが対応してくるようになるのだな」
「調整は大変だっただろうなぁ……」
迷宮区は変わりなく飛べないままのようではあるが、
それでも調整作業はかなり難航したと思われ、ハチマンは内心でアルゴ達を労った。
「とりあえず今上がった条件に当てはまる場所にいくつか心当たりがある、
そこに案内するから四人で回ってみようぜ」
「そうか、助かる」
「それじゃあ行きましょうか!」
ハチマンはアルゴからの連絡に従い、三人を何ヶ所か、それっぽい場所へと案内した。
そして三ヶ所目、二十四層主街区の少し北にある、
巨大な木がある観光スポットの小島に到着した時、
一同はそこがあまりにもおあつらえ向きの場所であった為、思わず感嘆の声を上げた。
「おお、これはこれは……」
「木のある小島へは細い道があるのみ、スペースは二百メートル四方くらいはあるから、
あまり景観も損ねなくてすみそうだよな」
「観光スポットになってるだけあって、敵も沸きませんしね」
「よし、ここにしようハチマン、ここを見てしまってはもう他の場所は考えられん」
「だな、ここしかないって感じだな」
こうして場所が決まり、そのままナタクの指示のもと、
サラマンダー軍の職人が数人動員され、デュエル専用ステージの建設が始まった。
ハチマンも積極的に手伝っていたが、途中そのせいで、
その不審な動きに気付いたフカ次郎とクックロビンの残念コンビに見つかってしまい、
口止めをして手伝わせるというハプニングもあったが、概ね建設は順調に進み、
一週間ほどで見事なステージが完成する事となった。