ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第785話 家族

 時間は戻り、スリーピング・ナイツが二度目のラグーラビット狩りに行った次の日、

スリーピング・ナイツを代表してユウキとタルケンがこの日、

スモーキング・リーフにラグーラビットの肉を売りにきていた。

要するにリーダーと金庫番だけで店を訪れたという訳なのである。

 

「こんにちは!」

「ど、ども……」

「おっ、ユウキにタルなのな、久しぶりなのな!」

「今日の店番はリナ?」

「リンねぇねも庭の倉庫にいるのな」

「そっか、今日はこの前約束したラグーラビットの肉を売りに来たんだけど」

「おお、早かったのな、リツねぇねから話は聞いてるのな、

それじゃあはい、先にこれを渡しておくのな」

 

 そう言ってリナは、ユウキに二本の武器を差し出してきた。

それはユウキが夢に見るほど欲しがっていたセントリーと、ランのスイレーであった。

 

「い、いいの?」

「もちろん後でお代は頂くのな」

「もちろんだよ!タル、お金の話は任せる!」

「分かりました」

 

 そしてタルケンとリナがお金の話を始めた横で、ユウキはスイレーをしまうと、

庭に出て嬉しそうにセントリーを振り始めた。

 

「………あれっ?」

「どうした?何か気になる事でもあるのか?」

 

 何かに気が付き首を傾げるユウキに、庭の倉庫から出てきたリンがそう声をかけた。

 

「あ、リン、えっとね、気のせいかもしれないんだけど、

この前振った時よりも何か手になじむというか、そんな感じがしたから」

「ああ、それなら昨日ハチマンがナタクと一緒に調整していたぞ」

「ハチマンが!?」

「ああ、夜遅くにナタクを連れて調整に来てな、

熱心にその武器のバランスをいじっていたぞ」

「そうだったんだ、うわぁ、さすがというか、ハチマンには頭が上がらないや」

 

 リンにそう答えながら、ユウキはもう一度セントリーを振った。

 

「うん、やっぱり前よりも使いやすい」

「なら良かったじゃないか」

「う、うん!でもハチマンは一体どうやって………あっ!」

 

 その時ユウキは、先日のハチマン扮する盗賊との会話を思い出した。

 

『このバランスがお前にとっては最適なバランスなのか?』

『そうだ!でもどうしてそんな事を聞くんだ?』

『いや、ただの興味本位だ』

 

「そっか、あの時かぁ」

「問題は解決したようだな」

「うん、ありがとうリン!ついでにさ、

キャンプ用品みたいなのを売っているお店とか、どこか知らない?」

「それならうちに一通りあるぞ、ナタクが作ったものらしいが、

さすがに使いどころがほとんど無かった為に、いくつか残して処分する事にしたらしい」

「あるんだ!お願い、それをボクに二セット売って!」

「それはもちろん構わないが、

キャンプ用品みたいなの、と言うからには他にも何か必要なのか?」

「うん、長期間野営を続けるのに必要なアイテム一式みたいな?」

「分かった、揃えるから店の方で待っててくれ」

「うん、分かった!」

 

 ユウキは笑顔で店に戻っていき、リンは倉庫へと入っていった。

 

「……だそうだ、何を用意すればいい?」

「あいつらどこかでキャンプを張るつもりなのか、ナタク、どうする?」

「そうですね……」

 

 その倉庫の中にはハチマンとナタクがいた。

ユウキ達が尋ねてくるのを見越して、

何かあった時にすぐ対応出来るように先に来ていたのである。

 

「それじゃあこれとこれ、それにこれか……

寝具は前にリンさん達に提供したのと同じ物でいいとして、

ハチマンさん、スリーピング・ナイツって全部で何人でしたっけ?」

「一応ランの分も用意しておいた方がいいだろうから七人だな」

「それじゃあ八つ用意しておきます」

「………何故だ?」

「だってハチマンさんが付きあわさせられる可能性もあるじゃないですか」

「そ、そう言われると確かに……」

 

 他にも食材や諸々の道具類を、ハチマンはリンにどんどん運ばせていった。

 

「リン、全部運び終わったら、相手の手持ち金額から見て払える額を提示してくれ。

足りない分は俺が出すから」

「分かった、リナに丸投げして、その時に残りの武器も見せておけばいいな」

「悪いなリン」

 

 ハチマンはそう言ってリンの頭を撫で、リンは頬を赤らめながらハチマンに言った。

 

「し、仕事だからな」

 

 ハチマンのこの癖は色々と問題があるのだが、

周りの者達も、本人に悪気が無いのは分かっている為、

中々控えるように言い出せないのが現状だ。

 

「家族の為に頑張ってるんだな、えらいぞ」

 

 だがそのハチマンの言葉にリンはきょとんとした。

 

「家族?家族とは何だ?私は姉妹達の為に頑張っているんだが」

 

 その言葉には、さすがのハチマンもきょとんとした。

 

(家族という概念がないのか……本当に謎だよなぁ)

 

 だがハチマンが、知らないとまずい言葉なのかと、

リンを動揺させるような態度をとるような事は決してない。

そしてハチマンは時間をおかずに即座にリンにこう言った。

 

「助け合って生きているのが家族だ、だからリンにとってはあの五人が大切な家族だな」

「なるほど、じゃあハチマンやナタクも私の家族なんだな」

 

 リンが笑顔でそう言った為、ハチマンとナタクは思わず涙腺を緩ませた。

 

「ん、二人とも、どうかしたのか?」

「いや、何でもない、リンの言う通りだと思ってな」

「そうです、僕達は家族です!」

「リンねぇね~?」

 

 その時外からリンを呼ぶリナの声が聞こえ、リンは慌てて運搬作業を再開した。

 

「それじゃあ家族の為に頑張ってくる」

 

 そう何の疑問も持たずに当たり前のように言って去っていったリンを、

二人は眩しい思いで見送ったのであった。

 

「すまん、待たせたな」

「ううん、いきなり変な事を頼んじゃったのはこっちだから」

「どこかでキャンプでもやるのか?」

「うん、山ごもりをちょっとね!」

「山ごもり?」

「まあちょっと集中して修行しよう、みたいな?」

「なるほど……確かに強くないと、家族を守れないからな」

「か、家族?」

 

 ユウキは何故リンがそんな表現を使ったのか分からなかったが、

その言葉を何となく嬉しく感じた。

 

「うん、まあ家族みんなで強くなろうってね」

「そうか、ならこれも必要か?」

 

 リンはそう言って、ハチマンとナタクに渡された武器をユウキに差し出した。

それは一目見て業物と分かる、両手剣、メイス、盾、槍、ハンマー、杖の六種類であり、

それを見たユウキとタルケンは目を輝かせた。

 

「これは?」

「おばば様から必要なようなら売るようにと渡された」

「やった、さっすがおばば様!」

「これで全員分の武器が揃うね」

「タル、資金に余裕は?」

「キャンプ用品の値段次第だけど、多分問題ない、大丈夫」

 

 タルケンは大体の品の相場を把握している為、

素早く脳内で合計金額を計算してそう言った。

 

「さっすが珠算検定の段位持ち、計算が早いね、ボクにはチンプンカンプンだよ」

「チンプンカンプンって言葉をリアルに使ってる人、初めて見た……」

 

 タルケンにそう言われたユウキは思わず顔を赤らめた。

 

「うぅ、それはランの影響……」

「ああ、確かにランは、そういう死語的なのを多用するからね……」

 

 そんな二人の様子を見て、リンはこっそりリナに耳打ちした。

 

「リナ、値付けは任せた、この感じだと相場通りでいいから」

「分かったのな」

 

 そして全ての武器と物資が引き渡され、

ユウキとタルケンは意気揚々と仲間達の所に戻っていった。

 

 

 

「うわ、何だこれ、こんな物まで買ってきてくれたのか?タル、金は大丈夫だったのか?」

「あ、うん、それはまったく問題ないよ、さすがラグーラビット貯金は偉大だね。

ちなみにこの武器は、向こうから必要かどうかって見せられたんだよね」

「多分ハチマンがおばば様に手を回してくれたんだと思う」

「おお、さっすが兄貴だぜ!」

「さすがの気配りだね」

「兄貴、愛してます!」

「タル、さすがにそれは気持ち悪い」

「羨ましかったらノリも叫べばいいのに」

「なっ、べ、別に羨ましくなんかないからね!」

「まあいいや、とりあえず武器の使い心地を試してみようぜ、

確か街に訓練場があっただろ」

「そうだね、場合によってはバランス調整とか必要だろうし」

 

 だがその必要はなかった。その装備が各自に合わせて最適化されていたからである。

 

「さすが兄貴……」

「さす兄!」

「神様仏様ハチマン様!」

「兄貴、愛してます!」

「あっ、ノリ、どさくさ紛れに何言ってんの!」

「ず、ずるい……」

「ユウキもシウネーも羨ましかったら言えばいいじゃない」

「くっ、やっぱりさっきのタルが凄く羨ましかったんじゃない!」

「こういうのは先に言った者勝ちだかんね」

「さっきは言えなかった癖に……」

「タル、何か言った?」

「い、いや、何でもない……」

 

 こうして新しい武器の性能に浮かれつつも、全員新しい武器の習熟に成功し、

パーティの飛躍的な強化を果たしたスリーピング・ナイツは、

この日からしばらく姿を消す事となったのであった。




すみません、明日の投稿もお休みとなります!

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