ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第786話 出撃、スリーピング・ナイツ

「みんな、準備はいい?」

「おう!」

「バッチリよ!」

「ヨツンヘイムは初めてだ、どんな所なんだろうな」

 

 新しい武器にも慣れ、大量の荷物を分担して持ったスリーピング・ナイツは、

今まさに山ごもりへと出発しようとしているところであった。

目的地はまさかのヨツンヘイムの奥地である。

トラフィックスの影響で、今ヨツンヘイムにはほとんど人はいない。

ユウキは体術の修行をしつつ、修行の成果を確認する為に巨人族と戦って経験値を稼ぎ、

過疎な為に品薄ぎみな巨人族由来の素材で金策するというプランを立てていた。

上手くいけば確かに得る物が大きいプランである。

 

「ちなみに今日の場所を決める為に、ヴァルハラのホームページを参考にしたよ!」

「そりゃ信頼度高いな」

「もう体裁とかどうでもよくなってるね」

「ボクが見られるところにホームページなんか置くからいけない!」

「どんな理屈だよ!」

「使えるものは敵からの情報でも使うんだ!」

「いや、まあ別に文句とかは無いんだけどな、

この武器もどう見てもヴァルハラ産の製品だし……」

「しかしこのテント、岩に擬態するなんて便利だよなぁ」

「まさにボク達の為に作られたアイテムだね!」

 

 邪神族、主にトンキーの能力に似た性能のそのテントは、

使用すると完全に岩にしか見えず、その中に入れば睡眠中にも敵に襲われる事はない。

だが設置すると移動させる事は出来ないので、

これを使って敵の真っ只中を進む事は不可能である。

更に言うと、敵のターゲットにされた後に使用するのも不可能であり、

完全に野外で休憩する為のアイテムであった。

ちなみに一般販売はされておらず、ナタクが設計したアイテムの為、

ALO内に十個しか存在しないレアアイテムだったりする。

そのうちの八個はヴァルハラの所有であり、残りの二つはここにある。

 

「それじゃあ出発!」

「「「「「おう!」」」」」

 

 ちなみに今回の目的地は、ハチマンの誕生日の時に、

ヴァルハラ・リゾートが連合を待ち伏せるのに使った広場であり、

ユウキはそこにある岩陰でキャンプを張るつもりだった。

トンキーが岩に擬態したあの場所である。

ちなみにナタクがこのテントを開発したのもその話を聞いたのがキッカケであった。

ただでさえ人が来ない所で目立たない所に岩にしか見えないテントを張るのだ、

見張りを立てなくても恐らく他人に見つかる事はそうそう無いだろう。

そもそも人が通りかかるかすら怪しく、当然スリーピング・ナイツも全員そう考えていた。

 

「人が全く来ない場所で長期間キャンプとか、『SDI』以来?」

「いや、その後に『俺T』で大貴族を敵に回した時にやったはず」

「それを言ったら……」

 

 どうやら全員キャンプの経験は豊富なようである。もっともゲームの中での話であるが。

 

「しかしSDIとか懐かしいな」

「『サバイバル・デッド・アイランド』だっけ?」

「飛行機が落ちて絶海の孤島に放り出されるんだよな」

「それに何故かゾンビ要素が加わってるっていう謎設定だったわね」

「俺Tはもう一回やりたいよなぁ」

「『VRで俺TUEE転生』な」

「あれをやった後に他のゲームをやったら自分が弱くなった気がして仕方がなかったけどね」

「それある!」

「お前はソレイアルさんか!」

 

 などとソレイアルをネタにしながら、一行は和気藹々と目的地へと向かっていった。

ナビゲート役は言いだしっぺのユウキである。

 

「シナリオが短い癖に自由度が高くて、まあいいゲームだったよな」

「誰でも異世界チート無双が出来るってのはやっぱ爽快だよね」

「個別シナリオは定番の俺TUEE勧善懲悪ものだったけど、でもそれがいい」

「唯一不満があるとすれば、異世界の設定が単に魔法があるだけの地球の中世だって事だね」

「それ系は食傷ぎみなんだよなぁ」

「何故か必ず異世界の方が文化が遅れてる事になってるよね」

「でも面白かったのは確かだね」

 

 その時ジュンがふと思いついたようにこんな事を言い出した。

 

「なぁ、よく考えると、兄貴達は素であの状態なんじゃね?」

「そう考えると恐ろしいね」

「やっぱりチームとしての強さなのかな」

「まああれだ」

 

 ジュンは少し言いよどんだ後に、若干言いづらそうにこう言った。

 

「戦略級魔導師が何人もいる時点で、偏差値が高い事は分かる」

「ALOの呪文、複雑だもんなぁ……」

「それ以前に僕達の学力も平凡だしねぇ」

「まああれだ、勉強が出来るのと呪文が覚えられるのはまったく別物だ、うん」

「大丈夫だよ、ジュンにもいつかきっとALOの魔法が使えるよ」

「う………」

 

 この会話から、ジュンがまだALOの魔法を一つも使えない事がよく分かる。

そんな話をしながら一行は、あっけなく目的地の近くまでたどり着いた。

マップまでご丁寧に用意されているのだからまあ当然なのだが、

ここまで何度かあった戦闘も全員が危なげなくこなしており、

スリーピング・ナイツ全体の強さが確実に上がっている事が証明された格好だ。

 

「さて、そこを曲がれば目的地に………ってあれ、参ったな……」

 

 最初に角を曲がったユウキがそう言ってこちらに戻ってきた。

ユウキはまさかという顔で仲間達にこう言った。

 

「なんか先客がいるみたい」

「何いいいいい?」

「えっ、本当に?」

 

 一同はその報告に驚き、角から顔を覗かせ、その言葉が事実だと確認した。

 

「この時期のこんな所にまさかプレイヤーがいるなんて……」

「参ったな、ボクにもこれは想定外だったよ、どうしようかなぁ」

 

 ユウキは頭を抱え、他の者達も困ったように顔を見合わせた。

 

「とりあえず場所を譲ってもらえないか交渉するか、

今からどれくらいここに留まるか確認して空くまで待つか、それとも一緒にやるかかな」

「ボクもそれくらいしか思いつかないけど、みんなはどう思う?」

 

 ユウキはそのノリの提案を受け、それでいいのか確認するように仲間達の顔を見回した。

 

「一緒に……まあどんな人か話してみないと何とも」

「おかしな人達と一緒にはやれないですしね」

「あ、でもよく見えなかったけど、多分あの服装は、女の子の三人組だった気がする」

「マジかよ!是非ご一緒させてもらおうぜ!」

 

 ジュンは即座にそう言ったが、

他の者達はジュンのそういう所には慣れっこなのか、誰も相手にはしない。

 

「え、本当に?珍しくない?」

「確かに街中でもそんなの一度も見た事ないよ」

「しかもここ、ヨツンヘイムの奥地だよ?そこに女性が三人なんて……」

「ヴァルハラなら分かるけどなぁ」

 

 完全にスルーされていたジュンがめげずにそう会話に復帰し、

他の者達はそれを聞いてハッとした顔をした。

 

「その可能性は………うん、かなり高いよね」

「だったら事情を話せばどうなるにしろ揉めたりはしないはず」

「でも兄貴、俺達の事を仲間に話していないっぽくね?」

あ~、確かに一部の人にしか言ってなかったっぽかった」

 

 ちなみにスリーピング・ナイツ番とも言うべきレコンは、

スリーピング・ナイツの強さがかなりアップした為、今は監視の任を解かれていた。

そのレコンは今はお礼という事で、ハチマンに誘われてキリトと三人で遊びに出かけている。

キリトを誘ったのもハチマンなので、当然の全ての支払いはハチマン持ちである。

 

「とりあえずどんな人かちゃんと見てみようよ」

「だね、先ずはそこからかな」

「どれ………」

 

 一同は話がそう纏まった為、通路の角から顔を出し、その三人をよく観察しようとした。

 

「よく顔が見えないな」

「一人はタンクだね、でもあの装備、さすがに極まってるなぁ……」

「テッチ、そういうのってやっぱ見て分かるもん?」

「うん、意匠の凝り方が凄いからね、明らかにプレイヤー・メイドの品で、

店で買えるような物じゃないと思うよ」

「あっれ、残りの二人はオートマチック・フラワーズってのを着てるっぽくね?」

「えええええ?って事はヴァルハラの幹部じゃん!」

「なぁ、ヴァルハラの幹部って何人いるんだ?」

「さぁ……」

 

 ここにきて、ヴァルハラ関連の情報を全てシャットアウトしていた事が災いした。

ユウキは街に戻ったら多少はヴァルハラの情報も仕入れようかなと思いつつ、

その三人の装備をもっとよく観察した。

 

「全員背中に違うマークをつけてるね、炎の盾に羽根が生えてるのと、

剣の十字架と氷の十字架かぁ」

「ああ、識別マーク!」

「そういえば前に兄貴が話してくれたっけ、

ヴァルハラのメンバーは、全員別の個人マークを付けてるって」

「言ってた言ってた、確か敵に威圧感を与える為だっけ?」

「確かに威圧感あるなぁ……あの胸」

「ジュン、どこを見てるのよ!」

「タンクの人の胸」

「こいつ、ぬけぬけと……」

 

 その時三人のうちの一人が隣の女性に何か耳打ちし、

その話しかけられた女性が何かの呪文の詠唱を始めた。

 

「ん、何だ?」

「戦闘準備?」

 

 一同は何だろうと思って顔を見合わせたが、

その直後にスリーピング・ナイツの周囲にいきなり氷の柱が持ち上がった。

 

「うおおおおお」

「何だこれ、何だこれ」

「こ、こんな事が出来るのは……」

 

 そう言って慌てて三人の方に目を戻した一同は、

すぐ近くで自分達をしげしげと観察する女性の姿を発見し、心臓が飛び出るほど驚いた。

 

「うおっ」

「い、いつの間に……」

「まさか今の一瞬でここまで移動を?」

「…………あああああ!」

 

 その時突然ユウキがそんな大声を上げ、その女性に向かってこう呼びかけた。

 

「前に二十二層の川で会った人だ!」

「あっ、あなたは確か、ユウキ、だったっけ?」

「うん、あの時お姉さんは落とされちゃったから、

お姉さんの名前は聞けずじまいだったけどね!」

「あの時は本当にごめんね、お母さんがうっかりコードを抜いちゃってさ」

 

 そしてその女性は、残りの二人の方に振り返り、こう呼びかけた。

 

「ユキノ、セラ、多分連合の人じゃないっぽい!」

 

 その瞬間に、まるで手品のように氷の檻が消滅した。

 

「敵かもしれないって思ったから、驚かせちゃったね。

私の名前はアスナだよ、よろしくね、ユウキ」

 

 そう言ってその女性、アスナはにこやかに微笑んだのであった。

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