「アスナ、あの時は貴重なアドバイスをどうもありがとう!」
ユウキはアスナがヴァルハラの幹部だった事に驚きつつも、
再会出来た事に対する喜びを爆発させ、嬉しそうにアスナの手を握った。
アスナも先日ユウキと会話中に回線落ちしてしまった事が心残りだったらしく、
ニコニコと微笑みながら、その手を握り返していた。
そんな二人の方に、続けて二人の女性プレイヤーが近付いてきた。
ユキノとセラフィムである。
「あら、誰かと思ったらあなた達だったのね、大丈夫?私の魔法で怪我とかはしなかった?」
「ユキノさんも来てたんだ!」
「はぁ、いたのが知り合いで良かったぁ」
「ちょっと驚いたけど大丈夫っす!」
「ワ、ワタクシ達には特に被害は出てません」
「またタルのそれが始まった……」
その言葉から、タルケンが凄まじく緊張しているのが分かる。
美女が三人揃っているのだから、それも仕方ないだろう。
「ユキノもユウキ達と知り合いだったんだ?」
「ええ、以前ちょっとね。アスナこそユウキさん達と知り合いだったなんて驚いたわ」
「私も前二十二層でちょこっとだけ」
「そうなのね、奇遇だわ」
そうにこやかに会話する二人をセラフィムがつんつんとつついた。
「あら、どうしたの?」
「求む、紹介」
「そういえばそうだったわね、ここで立ち話をしてると敵が沸いてしまうかもだし、
あちらの岩陰に移動しましょうか」
「そうだね、そうしよっか」
一同はその言葉に従い、以前トンキーが岩に擬態した小さな広場へと移動した。
そこにはどこかで見たような不自然な岩があり、スリーピング・ナイツはそれを見て驚いた。
「あっ、これ、もしかしてテント?」
「あら、よく分かったわね、これの事を知ってる人なんて、
うちのメンバー以外にはいないはずなのだけれど」
「実は同じ物を、さっきスモーキング・リーフで売ってもらったの!」
「同じ物をスモーキング・リーフで?なるほど、そういう事ね」
ユキノは、多分ハチマンが裏で手を回したんだろうなどと考えながら無難な事を言った。
そして一同はその八畳くらいの大きさのテントの中に入り、
少し狭かったがその場に腰掛けた。
「さて、最初に自己紹介といきましょうか、
私は絶対零度のユキノ、ヴァルハラの幹部を拝命しているわ」
「私はアスナ、同じくヴァルハラの幹部をやってます」
「セラフィムです、宜しくお願いします」
その自己紹介を聞き、
ユウキは改めてアスナもヴァルハラのメンバーなのだと実感した。
今日の装備は確かに以前会った時とは違って完全武装といった感じであり、
その性能も凄まじいように見える。
「ボクはユウキ、スリーピング・ナイツっていうギルドのリーダーをやってるよ!」
「ジュンです、宜しく!」
「テッチです、タンクをやってます」
「ワタクシはタルケンと申します、ど、どうぞ宜しくお願い致します」
「タル、緊張しすぎ、私はノリ、宜しくね」
「シ、シウネーです、初めまして」
こうして簡単な自己紹介が済んだところで、最初にユキノがユウキ達にこう尋ねてきた。
「それで、ユウキさん達は今日は何故こんな所に?」
「えっと、実はここで山ごもりをしようと思って!」
「山ごもり?そうなの?」
「うん!色々とヒントをもらったから、この辺りで一気に強くなっておきたいなって!」
ユウキは明るい笑顔でそう言った。
「ゲームで山ごもりってあまり聞かないけど、
そこまでして強くならないといけない理由が?」
セラフィムのその当然の疑問に、ユウキは真っ直ぐな目でこう答えた。
「うん、ボク達、ヴァルハラに勝ちたいんだ!」
その言葉にアスナとセラフィムはきょとんとし、
その事を既に知っていたユキノも形の上だけは驚いたような顔をした。
「なるほど、でも正直正面からうちとぶつかっても、
勝てる見込みはほとんど無いかもしれないわね」
「人数も違うしね」
「ヴァルハラには今何人くらいのプレイヤーが参加してるの?」
「丁度三十人かな」
「そんなにいるんだ!それだと確かに正面からぶつかるのは厳しいかも」
ユウキはこの時初めてヴァルハラの総数を知り、難しそうな顔で考え込んだ。
「ならどうすればいいと思う?」
「えっと………」
ユウキはまだ明確なビジョンを持っていなかった為、そう口ごもった。
「ヴァルハラがまだ成し遂げていない事をやるとかってのはどう?」
「確かにそういう方向性を目指すのもアリ」
「もちろん正面からぶつかってきてくれてもいいんだけどね」
ここでアスナとセラフィムが横からそう言ってきた。
敵に対して随分親切な事であるが、二人からすればライバルの登場は大歓迎なのである。
特にライバルを求めているアスナから見ればそうであろう。
「まだ成し遂げていない事……何があるんだろう」
「ふふっ、まあ頑張って考えてみるといいわ、仲間と一緒にね」
「う、うん!」
ユキノが柔らかく微笑みながらそう言い、ユウキは頷いた。
「でも総合的な強さ的にはどうなんだろ、ユウキ、今のステータスって大体どれくらい?」
「えっとね、ボクの場合は一番高いのがAGIで……」
そのユウキが開示した数値を聞いて、ユキノが横からこんな提案をした。
「なるほど、それならここでひと狩りしていきましょうか、
うちはタンクが一人にヒーラーが二人だから、私達があなた達をサポートするわ」
「それは有り難いけど、ユキノさん達の方の用事はいいの?」
「もうすんだよ、ここにはスター・スプラッシュとかカドラプル・ペインとかの、
ソードスキルの威力に変化があるのかどうか検証しに来ただけだからね」
「あ、そういう事だったんだ!」
横からアスナがそう答え、ユウキはうんうんと頷いた。
ユウキは軽く流してしまったが、これには重要な示唆が二つある。
一つは威力の変化という言葉、これは要するにSAOの時と比べて、という意味なのだが、
ユウキはその事に気付けなかった。もう一つはソードスキルの名前である。
スター・スプラッシュとカドラプル・ペインは細剣の技であり、
今は三人とも武器をしまっているが、通常タンクは細剣を持たないし、
ヒーラーであるユキノも細剣を持つはずがない………通常は。
その通常ではない例外が横にいるアスナなのだが、
アスナのその雰囲気から、ユウキはアスナの事を後衛だと思い込んでしまっていたのである。
更に先ほどのユキノの言葉がそれを助長したのは間違いない。
ちなみにソードスキルの威力については、以前よりも確かに強いが、
そもそも以前とはステータスの違いがある為、
おそらくSAO時代と同じくらいだろうという結論が出ていた。
「まあ用事が済んだんだったら、ちょこっとだけお付き合いをお願い!」
「ふふ、ちょこっとだけね、それじゃあ早速やりましょうか」
「うん!ゴー、スリーピング・ナイツ、ゴー!」
そして狩りが始まった。釣り役は適役がいなかった為、アスナが引きうけた。
「アスナ、大丈夫?」
「うん、とにかく走るだけだしね、こっちに来た敵のヘイトをみんなで頑張ってとってね」
「任せて!」
そして最初の釣りで、スリーピング・ナイツの一同は、目を剥かんばかりに驚いた。
アスナがいきなり三体の敵を釣ってきたからだ。
「うおっ」
「いきなりか」
ジュンやテッチはそう驚いたが、すれ違い様にアスナが二人にこう言った。
「最初は軽めにしておいたから、まあ堅実にね」
「えっ?」
「あっ、わ、分かった!」
テッチは敵にスキルを飛ばし、盾でしっかりとその足を止めた。
その横でセラフィムは、いきなり最初の敵にシールドバッシュを飛ばし、
その凄まじい威力で敵はその場にごろんと転がる事になった。
「ええええええ?」
「巨人族を転ばすなんて……」
驚く一同に、ユキノが鋭く指示を飛ばした。
「ほらみんな、さっさと攻撃よ」
「あっ、う、うん!みんな、攻撃開始!」
こうして激しい狩りが開始された。
「なぁノリ、何か楽じゃね?」
「あ、うん、それ、私も思った」
「ワタクシも……」
「タル、あんた戦闘中くらい、いい加減普通に喋れるようになりなよ」
アタッカーの三人は、戦闘が進むに連れ、そんな感想を抱くようになっていた。
ヒーラーが二人、アスナも敵を釣ってきた後にヒーラー役をこなしている為、
実質三人のヒーラーからの回復と補助を受け、タンクも二人で敵の攻撃をしっかりと阻み、
釣られてくる敵の数は多くとも、戦闘自体はまったく危なげなく進行していた。
それでいて経験値の貯まりが凄まじく早い。
(やばい、セラフィムさんやばい……)
テッチはセラフィムのタンク姿を見ながら、
その技術を参考にしようと必死でそちらを観察していた。
(ユキノさん、凄いです……)
同じくシウネーも、横で回復をしているユキノの姿を見て、
何とかその立ち回りをものにしようと悪戦苦闘していた。それからしばらく狩りは続き、
少なくともテッチとシウネーの戦闘技術は格段に向上する事となった。
優秀なプレイヤーと一緒の戦闘経験は、やはり重要だという事なのだろう。
「さて、今日はこのくらいかしらね」
「あっ、そろそろお店の予約の時間に間に合わなくなっちゃうね」
「お店?何の?」
「あっ、うん、今日は三人で一緒に出かける約束があったんだよね」
「あっ、そうなんだ!そんな日にこんなに助けてもらっちゃってごめんね」
(いいなぁ……ボクもいつかきっと……)
「ううん、大丈夫だよ、好きでやってる事だから」
この戦闘を経て、アスナとユウキはかなり仲良くなっていた。
アスナが釣ってきた後に、主にユウキの補助を担当していたせいもあるのだろう。
「それじゃあ私達はこの辺りでお暇するわ、また会いましょう」
「今日は本当にありがとう!」
アスナは名残惜しそうに、最後にユウキの手を握った。
「ユウキ、また一緒に遊ぼうね」
「うん、アスナ、また一緒に遊ぼう!
あ、あとさ、アスナはヴァルハラの幹部だけど、もしかして二つ名とかがあるの?」
アスナはその質問に、微妙な表情をしながらこう答えた。
「あ、う、うん、あるよ」
「何ていうの?」
「えっと………バ、バーサクヒーラー」
その言葉にユウキは特におかしな顔をせず、笑顔でただお礼を言った。
「そっか、ありがとう!」
アスナはその表情を見て、気にしすぎだったかと反省し、
笑顔でユウキに別れの挨拶をした。
「それじゃあまたね、ユウキ!」
「うん、またね、アスナ!」
そしてアスナが去った後、ユウキは一人呟いた。
「バーサクヒーラー……神聖系魔法でも乱射するのかな?」
今日のユウキは仲間を気にしながら戦っていた為、
そこまで実力を発揮出来ていなかったが、
『現時点』でのユウキの実力について、アスナはある程度把握する事となった。
だがユウキはアスナの実力を知る事なく、こうして二人の二度目の邂逅は終わりを告げた。