ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ずっと雨続きで外仕事なせいでちょっと最近苦労しています、
もしかしたら梅雨明けまでたまにちょこちょこ投稿がお休みになる事があるかもしれません、
それでも二日連続で滞る事は無いようにしますので、それまでは申し訳ありませんが、宜しくお願いします!


第788話 楽しめよ

 アスナ達三人を笑顔で見送ったスリーピング・ナイツの一同だったが、

三人の姿が見えなくなった瞬間に、テッチとシウネーがその場に崩れ落ちた。

 

「ふ、二人とも、一体どうしたの?」

「い、いや、何かどっと疲れが……体が疲れる事なんかないはずなんだけどさ」

「一度に処理しないといけない情報が多すぎて大変でしたね」

 

 どうやらテッチはセラフィムの、そしてシウネーはユキノの指導を受けたせいで、

ある意味脳がパンクしてしまったようだ。

 

「よし、とりあえず休憩にしよっか、食事もしないとだしね」

「兄貴との約束だからな!まあたまに破っちまうけどよ!」

「食事をしたら、とりあえず経験値を使ってスキル取得なりステータスアップもしないとね」

 

 腹が減っては戦は出来ない。まあ実際にここで腹が減る訳ではないのだが、

それでも食事と睡眠は、彼らにとってはとても重要な儀式のようなものであった。

何故ならそれを行う事によって、例えゲームの中でも、自分達は普通に暮らしているのだと、

自分に言い聞かせる事が出来るからである。

そしていつかハチマンに手料理を食べてもらう事が目標なノリと、

女子にモテる為には料理が出来た方がいいのではと考えて密かに修行していたジュンが、

持って来た食材を料理し、一同は食事をしながら先程の戦闘についての話を始めた。

 

「というか、俺達よくあの数を捌けたよな……」

「最後は八匹くらい居たよね……」

「やっぱりヒーラーが多いと、あの数でも楽だよねぇ」

「うちの弱点って実は後衛の少なさだよね」

「魔法戦闘とか何それって感じ……」

「私も多少は攻撃魔法が使えますけど、そうすると回復の手が足りなくなっちゃいますしね」

「強敵に挑む時は、臨時で後衛を増やさないといけない事もあるかもね」

 

 そして話題は今日の三人の話に移った。

 

「ユキノさんには色々とお世話になりっぱなしで頭があがらないよなぁ」

「さすがは正妻様と言うべきか」

「でもあの三人の誰が兄貴の彼女でも違和感無かったよな」

「あ~、それは思った」

「しかしヴァルハラの幹部ってヒーラーが多いんだな」

「そういえば幹部って何人いるんだろ?」

 

 そのノリの疑問にユウキはハッとした顔をした。

 

「そういえばさっき思ったんだよね、

ボク達もそろそろヴァルハラの事をそれなりに知っておくべきじゃないかなって」

「あ~、確かにそれはあるかも」

「もう結構ヴァルハラのメンバーの人達と関わっちゃってるしね」

「それじゃあちょっと調べてみるね」

 

 ユウキはそう言ってコンソールを開き、テントに備え付けのモニターと連動させ、

そこにヴァルハラのギルド専用ページを表示させた。

 

「幹部は四人かぁ、ソレイユ、キリト、アスナ、ユキノって書いてあるね、

そのうちヒーラーが二人かぁ、なるほどなるほど」

「……前から思ってたけど、これってメンバー専用ページだよな?

何でユウキはここにアクセス出来るんだ?」

「えっ、そ、そうなの?」

「多分そのはず、前見たのと違うし。みんな、ちょっと自分のコンソールに、

ヴァルハラのページを検索して呼び出してみてくれよ」

 

 ジュンがそう言い、他の者達はその言葉通りにヴァルハラのホームページにアクセスした。

ユウキも慌てて別窓を開き、同じように検索してヴァルハラのホームページを開いてみた。

 

「あれ、本当だ、書いてある内容が全然違う……」

「だよな、詳細な地図とか素材情報とか、そんなのあったっけかなって前から思ってたんだ」

「ユウキはここの事、ハチマンさんに教えてもらったの?」

「あ~、うん、前にリアルでハチマンがボクのスマホにアドレスを入れてくれてさ、

IDとパスもその時入れてくれて、保存しっぱなしかな」

「「「「「さす兄……」」」」」

 

 一同はそのユウキの言葉を聞き、

自分達は何だかんだハチマンに見守られているのだと改めて実感した。

 

「敵わないなぁ……」

「もうこうなったら早く強くなって、兄貴離れするしかないな、なぁみんな!」

「うん、そうだね!」

「それしかないよね」

「うん、頑張ろう」

 

 盛り上がるユウキと男達に、だがノリとシウネーは目を合わせなかった。

 

「………ノリ?シウネー?」

「えっ?あっ、うん、もちろん強くなるよ?

なるけど、別に焦ってハチマンさん離れをする必要はないんじゃないかな?」

「そ、そうですね、私も別に異論はありませんが、せめて未成年の間くらいはその……」

「あっ、二人とも、ボクだって実はそう思ってたのにずるい!」

「ハチマンさん離れはユウキに任せるわ、うん」

「ええ、リーダーにお任せしましょう」

「えええええええええ!?」

 

 そう絶叫するユウキの肩を、ジュンがポンと叩いた。

 

「頼むぜリーダー、一緒に頑張って兄貴離れをしような」

「ああああああ、はめられた!?」

「そんな事ある訳ないだろ、ほれ、もう休憩も十分だろ、行こうぜ」

「ユウキはハチマンさん離れの為に、そして私とシウネーは単純に強くなる為に頑張ろう!」

「う、裏切り者~~~~~!」

 

 こうしてスリーピング・ナイツの修行が開始された。

最初は単純に、体術スキル由来のソードスキルの型をなぞるところからスタートである。

システムアシストに頼って動く事が悪い訳ではないが、それでは応用がきかない。

システムに動かされるのではなく自分の意思で動く、

そこから始める事によって、一同は効率的な体の動かし方を体に馴染ませていった。

それは後衛のシウネーも例外ではなく、ある程度動けるようにと熱心に修行していた。

 

「さて、そろそろ飯にしようぜ」

「あっ、もうそんな時間?つい夢中になっちゃって気付かなかったよ」

 

 ハチマンとの約束通り、三食はきちんと摂り、しっかりと睡眠もとるが、

それ以外の時間は全て修行の時間である。

時々その成果を確認するように狩りもするが、基本起きている時間は全て修行にあて、

スリーピング・ナイツは少なくとも自分と同じくらいの能力を持つ相手には、

負ける気がしないくらいまでその戦闘能力を高めていた。

 

「体術スキルの動きって、他の武器を使ってる時にも応用が出来るし、

兄貴の言った通り本当に戦い方の幅が広がるよな」

「うん、そうだね、ボクも自分がどんどん強くなってきてる実感があるよ」

 

 そんな日々を繰り返す事、実に一週間、その習熟度には個人差があり、

シウネーやタルケンはまだ少し手こずっていたが、

メンバーの中で一番習熟度が高いユウキは、並行して別の作業を行うようになっていた。

オリジナル・ソードスキルの開発である。

 

「ユウキ、そろそろ飯だけど、そっちの調子はどう?」

「う~ん、これ、確かに難しいね。

二連くらいまでの動きはほとんど網羅されちゃってるから、

開発するとしたら三連からになるんだけど、斬り上げ、斬り下げ、突き、

結構な頻度で既存のソードスキルと同じになっちゃうし、全然コツが掴めないんだよね」

「そっかぁ、こういう時、兄貴なら何て言うんだろうなぁ」

「う~ん、参考にならない言葉なら、一つ思い付くのがあるんだけどね」

「どんな言葉?」

「『もっとゲームを楽しめよ』みたいな?」

 

 その言葉を聞いた一同は、確かにハチマンなら言いそうだとうんうんと頷いた。

 

「あ~、それあるそれある」

「楽しむ、か……ソードスキルで壁にお絵かきでもしたらどうだ?」

「お絵かきかぁ、こんな感じ?」

 

 ユウキは微妙に位置を変えながら壁に連続して三度突きを放ち、

ドヤ顔で仲間達の方に振り返ったが、壁がえぐれる訳でもなく、

何を描いたかさっぱり分からなかった為、

仲間達は曖昧な笑顔を浮かべる事しか出来なかった。

 

「むぅ、反応が薄い」

「っていうか何を描いたのか俺達には分からねえよ!」

「そう言われるとそうか、上手く描けてると思うんだけどなぁ」

「だから何をだよ!」

「ネコ」

「三回しか突いてないのにネコとか意味が分かんないわよ!」

 

 その言葉に珍しくノリが切れ、ユウキは慌ててこう言い訳をした。

 

「ご、ごめんごめん、ネコは言いすぎた。ネコの尻尾」

「ネコの尻尾を描こうとした意味が分かりませんね……」

 

 さすがのシウネーも理解不能という風にそう呟き、

ユウキは頭をかきながら、再び壁に今度は五度突きを放った。

 

「犬の尻尾」

「回数以外の違いが分からねえ……」

「あっ!」

 

 その時ユウキがとても驚いたようにそう叫んだ。

 

「え、何?」

「どうかした?」

「い、いや、ボクってばソードスキルの登録モードのままにしてあったんだけど、

今の突きがオリジナル・ソードスキルとして登録可能になった……」

「「「「「えええええええええ?」」」」」

 

 そしてユウキは再び同じ動作をしたが、その威力は今度は先ほどまでとは段違いであった。

ついでに言うと、剣が綺麗に発光している。

 

「うおおおお」

「な、何か威力が上がってねえ?」

「ソードスキルとして登録されたから?」

「そうみたい、段階的に突きの威力が上がってるね」

「と、登録するのか?」

「う~ん、一応したんだけどさ、まだまだいける気がするからもう少し先を目指してみるよ」

 

 ユウキはヒントを掴めて嬉しかったのか、明るい笑顔でそう言った。

 

「もう少し先か……」

「せめて二桁には乗せたい!」

「二桁か、目標は高く持たないとな!」

「うん、ちょっと頑張ってみる!」

 

 こうしてユウキは突き主体のオリジナル・ソードスキルの開発に没頭し、

この日のうちに八連までは達成する事が出来た。

 

「そういえばユウキ、ソードスキルの仮登録はしたんだろ、名前はどうしたんだ?」

「うん、五連の段階だとわんこの尻尾、で、八連まで増えたからそっちは消して、

今度はハチマンのしっぽって名付けたよ」

「「「「「……………」」」」」

 

 だがここからが、ユウキの苦難の始まりであった。

その後三日間、ソードスキルの連打数を増やす事が出来なかったのである。

ユウキの修行は尚も続く。


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