ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第789話 ユウキの完成

「ユウキ、そろそろ飯の時間だよ」

「もうそんな時間かぁ、うん、一息入れるよ、分かった、今行く!」

 

 三日後、ユウキは焦りを感じながらも食事の時間に遅れる訳にはいかない為、

オリジナル・ソードスキルの開発を切り上げ、

呼びにきたノリと共に仲間達の方へと戻っていった。

 

「調子はどう?」

「正直煮詰まってる……」

「八連から伸びないよねぇ」

「何かが足りないか間違ってるかなんだろうけど、それが何かが分からないんだよね」

「まあとりあえず腹ごしらえしてひと休みしなよ、

こういう時は無理をするよりも、気分転換の方が多分大事なんだと思うし」

「うん、そうだね、さすがにボクも疲れたから休むよ……」

 

 ユウキは慣れない頭を使いすぎて見るからにへとへとになっていた。

通常の戦闘であれば延々と動き続けられるユウキも、

さすがに今回のような行動は勝手が違ったのだろう。

 

「おうユウキ、どんな感じだ?」

「う~ん、全然変わってない……」

「ありゃ、まあ満足するまでやればいいさ、八連だって凄いんだし」

「それはそうなんだけどね……」

 

 そのユウキの表情から、ジュンはまだユウキが満足していない事を理解した。

 

「まあとりあえず飯だ飯、ほい、ユウキの分」

「うん、ありがと」

 

 そしてジュンに手渡されたシチューを口にし、ユウキは顔を綻ばせた。

 

「うわ、美味しい!でもどこかで食べた事があるような……」

「おう!これはラグーラビットのシチューだからな!

自分達用のストック分を使って作ってみたぜ!」

「えっ、ジュン、ラグーラビットの肉を調理出来るようになったの?」

「かなりギリギリだけどな」

「凄い凄い!」

「これで女の子にモテる事は間違いないな!わはははは!」

 

 そうは言ったものの、結果から言うとジュンは特にモテなかった。

料理が出来るようにするというその方向性は間違っていないのだが、

そもそも個人ハウスかもしくは部屋でも借りて、

そこに親しくなった女性を呼びでもしない限り、料理を振舞う機会などは訪れはしないのだ。

街中でいきなり、『俺の作った料理を食べてみない?』

などと言っても誰も相手にはしてくれないのである。

 

「ふう、ごちそうさま、それじゃあボクはちょっと横になってくる」

「おう、食った後すぐ寝ても牛にならないのがゲームのいい所だよな」

「え~?何それ、昭和?」

「意味はよく分からないが、ランがたまに言ってたんだよ」

「ああ、ランはそういうとこあるよね……」

 

 そう言いながらユウキは女性用のテントに戻り、うとうとし始めた。

 

「はぁ、何がいけないんだろうなぁ……」

 

 

 

「おい、起きろユウ、起きろ」

「えっ?ハ、ハチマン?」

「おう、お前が悩んでるって聞いたから来てやったぞ」

「あ、ありがとう!もうボクどうしていいか分からなくてさ……」

「そういう時は基本に立ち返れ、

動きがシステムに適正な動きとして認識されないって事は、つまりどういう事だ?」

「それはきっと、動きが不自然か、もしくは体重移動が……あっ!」

「そういう事だ、あと一歩だからな、肩の力を抜いて頑張れ」

「う、うん!ボク頑張るよ!」

 

 そう言ってユウキはハチマンに強く抱きついたのだが、

その瞬間にハチマンは、苦しそうにノリの声でこう言った。

 

「ユ、ユウキ、く、苦しい………」

「えっ?」

 

 

 

「ユ、ユウキ、中身が出ちゃうから……く、苦しい……」

「あ、あれ、ノリ?ハチマンは?」

「ハチマンさんがいる訳ないじゃん」

「そ、そっか……」

 

 どうやら先ほどのハチマンとの会話は夢だったらしく、

気が付くと目の前にはユウキに抱き潰されて苦しそうにしているノリの姿があった、

ハチマンだと思ってユウキが抱きついたのは、どうやらノリだったようである。

 

「まったくもう、ハチマンさんの夢でも見たの?」

「う、うん、ハチマンにアドバイスしてもらった……」

「アドバイスねぇ……」

 

 それは多分ユウキの潜在意識の声なんだろうなと思いつつも、

ノリは笑顔でユウキに言った。

 

「で、アドバイスって言うからには何か参考になった?」

「うん、凄くなった!」

「そう、それじゃあ頑張ってね」

「うん、早速試してみる!」

 

 そしてユウキは少し遠くに離れて再び剣を振り始めた。何ともせわしない事である。

 

「八連まではいいんだよ、で、八発目を放つ時に、踏み込みをこう……

いや、剣を振る力加減を少し弱めて……」

 

 そうぶつぶつ呟きながら試行錯誤するユウキを、ノリは微笑ましく見つめていた。

 

「やっぱりユウキはリーダー以前に一人の剣士なんだよなぁ、

まあしかし、今のユウキにはランも不満はないでしょ、ラン、早く戻ってきなさいよね」

 

 

 

 その日の夜遅く、いつも通りのサイクルだとそろそろ寝る時間であったが、

ユウキはまだ剣を振っていた。

 

「お~いユウキ、そろそろ寝る時間だぞ」

「待って、多分もう少し、もう少しだから」

 

 ユウキは何か手応えを掴んでいるのか、そう言って剣を振り続けた。

 

「あんまり無理するなよ」

「うん!」

 

 そう元気に返事をしたものの、どうしてもあと一歩のところで技として繋がらず、

ユウキは内心で少し焦っていた。

 

「ふう、駄目だ、ちょっと落ち着いて……」

 

 ユウキは胸に手を当てて深呼吸し、その時手に何かが当たった。

 

「ん、ああ、お母さんのロザリオか……

そういえばハチマンにもらってからずっと付けっぱなしだっけ……」

 

 ユウキは首にかけていたロザリオをいじりながら、

それをもらった時の事を思い出し、何となくそのアイテムの説明文を読んだ。

 

『母から受け継いだ祝福されたロザリオ』

 

「ロザリオ、ロザリオか……待てよ、八発目を頂点として、残りを十字架の形に………」

 

 ユウキはそう呟くと、

軽い気持ちで十一発目までを八発目から繋げて十時の形に撃ち込んだ。

その肩からは完全に力が抜けており、何となくいい感じに技は繋がった。

 

「今のは良かった気がする!そっか、ボクってば肩に力が入りすぎてたのか……」

 

 そしてユウキは脱力状態から今度は本気で技を放つつもりで今の動きをトレースした。

 

 

 

 ドカン!!!!!!

 

 その凄まじい音に、スリーピング・ナイツのメンバー達は慌ててテントの外に飛び出した。

見るとユウキが満足そうに立ち尽くしており、ユウキはこちらに気付くと、

満面の笑顔で仲間達に言った。

 

「遂に完成したよ、ボクの技」

「「「「「おおおおお!」」」」」

 

 仲間達はユウキに駆け寄り、口々にユウキを祝福した。

 

「やったなユウキ」

「おめでとう!」

「凄い音でしたね、威力も凄そうです!」

「結局何連になった?」

「十一連かな」

「名前は?」

「マザーズ・ロザリオ」

 

 ユウキは胸の十字架をいじりながら、誇らしげにそう言い、

その表情を見て、仲間達はユウキの修行が終わった事を理解した。

 

「これで準備は整ったかな、みんなの方の修行の調子はどう?」

「おう、バッチリだぜ!」

「後はユキノさんに言われた、ヴァルハラを超える為の方法を相談して考えるだけかな」

「あっ、そうだね、その事も考えないといけないんだった」

「でもまあそれは、ランが戻ってきてからでいいだろ」

「そうだね、そうしよっか!それじゃあ朝まで寝て、そのまま荷物を片付けて街に帰ろう!」

 

 そして次の日の朝、キャンプを引き払ってアルンに戻り、

真っ先にスモーキング・リーフに顔を出した一同の前に姿を現したのは、

リツとリナと一緒に美味しそうにお茶を飲むランの姿であった。

 

「あらみんな、待ちくたびれたわよ」

「「「「「「何でいるの!?」」」」」」

 

 こうして全員が揃い、スリーピング・ナイツは次の段階へと移る事となった。


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