ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第792話 Sランクミッション(前半)

 それではランのSランクミッションがどう進行されたか見てみよう。

 

 

 

「分かったわ、敵の配置は言われた通りに覚えておいたし、コツも何となく分かった、

今の自分が持つ能力をフルに生かして挑戦してみる」

「とりあえずこれを持っていけ、前にGGOでお前が使ってたのと同じ奴だ」

 

 最近のランは、ゾンビ・エスケープ内では刀のみで戦っていた為に銃を所持していない。

それを踏まえてハチマンが差し出してきたのはベレッタ92であった。

ランは確かにこの銃を、アチマンとしてのデビュー戦で使った覚えがあった。

その時の腕はお粗末であったが、ゾンビ・エスケープで揉まれた今は、

ランも普通に銃も扱えるようになっている。

 

「懐かしいなぁ、うん、使わせてもらうわ」

「これも持っておいた方がいい、きっと役にたつ」

 

 次にモエカが手渡してきたのは定番のAK47である。

 

「ありがとうモエモエ」

「違う、モエカ」

「え~?モエモエって呼び方の方がかわいいのに」

 

 そのもはや定番となりつつあるやり取りの横から、レヴィがランに話しかけてきた。

 

「お嬢、持てるならこれも一応持ってっときな」

 

 そう言って最後にレヴィが差し出してきたのは、巨大な一本の筒のような物であった。

 

「これは?」

「ロケットランチャー」

 

 それはまさかの最終兵器であるロケットランチャーであった。

 

「どうだ、持てるか?」

「えっと……うん、大丈夫みたい、私のアイテムストレージは最大まで拡張してあるからね」

「それなら良かった、弾は一発しか無いが、派手にぶちかましてやってくれ」

「ありがとうレヴィ、ぶちかましてくる!」

 

 ランは笑顔でそう言い、五人の方を見た。

 

「それじゃあ頑張れよラン」

「頑張るんじゃぞ、我が弟子よ」

「ランちゃんファイト!」

「お嬢なら出来る!」

「頑張って」

 

 そう激励され、ランは目を潤ませながら五人に勝利を約束した。

 

「任せて!ギガゾンビなんかこのランちゃんがひと捻りよ!」

 

 そしてランは、高揚した気分でSランクミッション『パンデミック』にソロで突入した。

 

「しまった、ちょっと乗せすぎたか?」

「かもねぇ」

「まあ何度か失敗すれば頭も冷えるじゃろ」

 

 ランはハチマン達にそんな心配をされていたとは露知らず、

中に入ると早速最初の敵をどうしようかと考え始めていた。、

 

「さてと、最初は変異種と雑魚のコンビだったわね、雑魚掃除は簡単だから、

とりあえずここは右の通路に駆け込んで、背後の危険を無くしてと」

 

 ランは三叉路に向かって駆け出し、風のような速さで先も見ずに右の通路に突っ込んだ。

もちろん既に抜刀済みである。

 

「おらおらおら、ランちゃんのお通りよ!」

 

 このセリフから、ランが今かなり調子に乗っている事が察せられるが、

少なくともこのクラスの敵相手にランが遅れをとる事はない。

ランはそのまま通路の先にいた雑魚を一刀両断にしまくって蹂躙すると、

即座に刀をしまってAK47を取り出し、三叉路目掛けて銃を乱射した。

そのおかげで奥の通路にいる雑魚がかなりのダメージを受け、その動きが鈍った。

同時に三叉路に飛び込んできた変異種の集団も各所にダメージを受けて動きが鈍くなり、

それを見たランは銃を放り出して抜刀し、一気に敵に肉薄した。

通常はゾンビが相手だと、大口径の銃で首から上を一気に破壊するのがセオリーなのだが、

通常のアサルトライフルでのフルオート射撃でも部位破壊には繋がる為、

ランは上手く敵の戦闘力を削ぎ、狭い通路で壁に刀を当てないように気を付けて剣を振るい、

突きと斬撃の中間のような攻撃で次々と敵の首を刎ねていったのであった。

ここは別に刀だけで戦っても問題ないケースであったが、

浮かれているとはいえランはそれなりに冷静であり、

いずれALOで魔法銃を使う機会があるかもしれないと考え、

銃の扱いにも慣れておくべきだと判断し、銃も積極的に使う事にしたのである。

 

「さて、次!お待ちかねのギガゾンビ二体と雑魚集団ね!」

 

 ランは敵に感知される距離まで近付くと、ギガゾンビに背中を向けて今来た道を戻り、

途中で発見してあった狭い通路へと飛び込んだ。

狙い通りに移動速度の遅い雑魚は取り残され、

動きが素早いギガゾンビも通路が狭い為に一体ずつしか中に入ってこれない為、

ランはまんまと一対一の状況を作り出す事に成功した。

 

「後は素早くこいつらを倒せばいいだけね!格好良く決めてやるわ!」

 

 ランは敵の両手による振り下ろし攻撃を紙一重で避け、その腕を駆け上がり、

そのまま居合いの要領でギガゾンビの首を一撃で刎ね…………られなかった。

ギガゾンビがランの乗っていた両腕をいきなり振り上げたからである。

 

「あっ、やばたにえん!」

 

 だがこの体勢ではどうする事も出来ない。

宙に放り出されたランをギガゾンビはそのまま空中でパチンし、

ランはいつかのようにミンチにされたのであった。一回目のチャレンジの終了である。

 

 

 

「おっ、お嬢が戻ってきた」

「時間的にはまあ予想通り?」

「最初のギガゾンビでやられた感じだろうな」

 

 完全に外に排出される前からそんな声が聞こえ、

目覚めて直ぐにそちらを見たランの目が、ハチマンの目とバッチリ合った。

ランはつい先ほど、『ギガゾンビなんかひと捻り』と言った手前、

さすがに恥ずかしいと思ったのか、

照れ隠しのつもりでいきなりハチマンに向けて色っぽいポーズをとった。

 

「うっふ~ん」

 

 だがハチマンは無表情でランから目を逸らし、

ランはその格好のまま屈辱でぷるぷると震え出した。

 

「ランちゃんはこんなにかわいいんだから、ちょっとは反応しなさいよね!」

 

 ランはそう叫んでハチマン達に背を向け、

一人で反省会でもしているのかぶつぶつと呟き始めた。

しばらくそうしていた後、ランは呟くのをやめ、黙って消えていった。二度目の挑戦である。

そんなランを見て、ハチマンは肩を竦めながらこう呟いた。

 

「さて、次はどのくらいで出てくるかねぇ」

 

 

 

「キーッ、ハチマンの奴め、今に見てなさい、吠え面かかせてやるわ!」

 

 そんなそこはかとなく昭和っぽいセリフを吐きながら、

ランはとりあえずギガゾンビの所までは、先ほどとまったく同じ行動をとった。

 

「さて、さっきみたいなミスはもうしないわよ」

 

 ランは今度は周辺を予め探索し、

最初に全員で通ったルートとは少し外れる所にある別の狭い通路で、

手すりの無い階段を発見し、ここに敵をおびき寄せる事にした。

 

「ここならいけるわね」

 

 ランはそう言って階段の下に、足場代わりのロケットランチャーを置いた。

 

「ちょっと贅沢な足場だけど他にいい物が無いのよね」

 

 ランはそう呟くと、再びギガゾンビを釣りに走った。

今回も先ほどと同じように、敵の速度差を生かしてギガゾンビと雑魚を分断し、

まんまと通路におびき寄せたランは、先ほどと同じようにギガゾンビに空振りさせ、

その瞬間にロケットランチャーを踏み台にして階段の上へと駆け上がり、

そこでギガゾンビの首めがけて渾身の居合いを繰り出した。

 

「死にたくなりなさい」

 

 そうどこかで聞いたような聞かないようなセリフを言い、

ランが刀を振りぬいた瞬間にギガゾンビの動きが止まった。

その後ろには二体目のギガゾンビが控えていたが、

前のギガゾンビが動きを止めた為にこちらに来れず、

じれたように前のギガゾンビをドンと押した。

その瞬間に前にいたギガゾンビの首がコロリと落ち、

後方のギガゾンビはその体勢のまま前によろけ、地面に手をついた。

今ランの目の前には、二体目のギガゾンビの首が無防備のまま晒されている状態であった。

 

「あれ、これは予想外にありえんてぃーな棚ボタラッキー?」

 

 ランはもう一体のギガゾンビも、最初の一体と同じ手順を踏んで倒すつもりでいたが、

まさかの二体目の無防備状態を受け、即座に次の居合いを繰り出し、

連続してその首を叩き落とす事に成功した。

 

「よっしゃ~、ランちゃん大勝利ぃ!」

 

 そう叫んだランの視界に大量の雑魚ゾンビが映り、

ランは慌ててAK47を取り出すと、そちらに銃口を向けた。

 

「弾幕薄いぞ、何やってんの!」

 

 ランは膝撃ちで高さだけを気にしつつ、狙いを付けずにそのままAK47を乱射した。

敵が多かった為にその命中率はかなり良くなり、

多くの雑魚がその攻撃によって倒れる事となった。

 

「残敵を掃討せよ!ラジャー!」

 

 ランはギガゾンビを見事に葬った事で気を良くしたのか、

そんな一人芝居を挟みつつ、残る雑魚集団をあっさりと殲滅した。

 

「ざっとこんなもんね」

 

 再び調子に乗り始めたランの挑戦は続く。


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