ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第793話 Sランクミッション(中盤)

 首尾よくギガゾンビ二体と雑魚集団を殲滅したランは、次なる戦いに挑む為、

奥へ奥へと移動を続けていた。

 

「さて、この辺りはビルの裏路地になってて、横の窓から敵が襲ってくるのよね。

で、私からは見えなかったけど、確かあの時は、

レヴィとモエモエが背後に向けて銃を撃ってたから、多分背後からも敵が襲ってくるのよね」

 

 ランは、こここそ居合いの出番だと思い、

背後をしっかりと警戒しつつ、武器を構えたままじりじりと進んでいった。

そして前回攻略した通り、窓の中からいきなりゾンビが飛び出してきて、

ランのすぐ前の地面に着地した。今思えばこのゾンビも変異種なのであろう。

 

「ハッ!」

 

 ランは掛け声と共に居合いでその敵を一刀両断にした。

 

「おかわり!」

 

 その声が聞こえた訳ではないだろうが、釣られるように再び敵が飛び出してきて、

待ち構えていたランの居合いの餌食となった。

 

「ふっ、余裕ね、さすがはがラン様ね」

 

 ランちゃんだのラン様だの、やはりまだ高揚状態は続いているらしい。

こういう時は得てして予期せぬ罠にはまる。

だがこの時のランのケースは必ずしもランの責任という訳ではないだろう。

 

「う~ん、後ろからは何も来ないわね、私の記憶違いだったかしら」

 

 ランは若干冷静さを取り戻し、首を傾げつつも尚も前進した。

 

 ポタッ

 

 その時突然上から何か液体のような物が降ってきて、思わずランはそちらを見た。

そんなランの眼前に黒い物が迫り、ランは思わず硬直した。

それは一匹の変異種のゾンビであった。

 

「きゃっ!」

 

 さすがに上からの重力加速度が加わっていた為、

ランは立ったままでいる事が出来ず、その変異種に押し倒された。

同時に肩に嫌な感触が走る。

 

「な、何で上から?」

 

 ランはそう叫びつつも、敵を跳ね除け一刀両断にした。

そこにもう一匹のゾンビが振ってきたが、そちらはちゃんと見えていた為、

ランは居合いで空中にいたそのゾンビを横薙ぎにした。

 

「そっか、あの時はもっと早くにここを通過したから……」

 

 前回の攻略の時はメンバーが充実していた為、この道はガンガン走りながら殲滅していた。

ランは普通に横だけに集中して敵を叩き落としていたが、

後で聞いた話だと、キヨモリは窓ごと敵をぶった斬っていたらしい。

 

「あの時って上から敵が落ちてきたんだ、しまったな、ちゃんと確認しておけば良かった」

 

 ランはそう言いながら、先程嫌な感触を受けた肩の状態を確認すべく、

誰もいないのをいい事に上半身をはだけさせ、ブラを完全に露出させて肩を確認した。

ちなみにこの道は、前に進まなければ新しい敵が出てこないのは確認済であった。

 

「あ………」

 

 予想通り、ランの肩には噛み跡があり、ランはそれを見て、

自分がまもなくゾンビになるという事を理解した。

 

「しまった、やっぱり感染してたか……せっかくいい調子だったのになぁ……」

 

 このままでは仕様的に、あと十分でランは行動不能になり、

残念だが、その時点でクリア失敗となる。

 

「時間の無駄ね、リザインっと」

 

 ランはそのまま退出ボタンを押し、そのまま外に出たのが、

そんなランを見て、何故かハチマンは呆然とした顔をした。

 

「お、お前、中で何やってたんだ?まさか一人ストリップでもしてたのか?」

「えっ?」

 

 そう言われてランは、やっと今の自分の格好に気が付いた。

だがハチマンに見られるのはむしろ望む所なので、ランは時に何も隠そうとはしない。

キヨモリに見られるのは微妙なところだが、直接素肌を見せている訳ではないので、

ランはセーフと判断したようだ。どうせ相手は枯れたお爺ちゃんなのである。

 

「えっと………」

 

 ランはどうしようか考え、どういう思考回路を辿ったのかは分からないが、

ゾンビの真似をしてハチマンの方へとじりじりと近付いていった。

 

「あ”~~~~~、あ”あ”あ”あ”あ”~~~~~」

 

 当然ハチマンは、そのランの頭をガシッと掴んでガードする。

 

「お前、何がしたいの?」

「死体だけに?」

 

 ランはとっさにドヤ顔でそう言い、ハチマンも即座にこう言い返した。

 

「全然上手くなんかねえよ、とりあえずそのドヤ顔をやめろ」

「ちぇっ」

 

 ランはゾンビ風に正面に伸ばしていた手を下げ、ハチマンもランの頭から手を離した。

その瞬間にランはハチマンに飛びかかり、その肩をガシガシと噛んだ。

 

「はい、ハチマンもゾンビね」

「本当にお前が何をしたいのかさっぱり………あ、ああ、そういう事か、

ドンマイだわ、まあ気を取り直して頑張ってこい」

「は~い」

 

 ランは素直にハチマンの肩から口を離し、

そのまままたぶつぶつと何か反省するように呟いた後、

再び中に入ろうとして、思い出したようにハチマンにこう言った。

 

「次負けたら全裸で出てくるから期待しててね、ハチマン」

 

 ランはおそらくハチマンが慌てる姿を見て溜飲を下げようとしたのかもしれないが、

ハチマンとて多くの女性に囲まれ、日々経験値を稼いでいるつわものである。

いつまでもランにやられっぱなしになったりはしない。

 

「マジか、期待しとくわ、いやぁ、楽しみだなぁ、お前の裸、特に胸」

「へっ?」

 

 まさかのそのハチマンの返しにランはもじもじし始めた。

 

「え、えっと……」

「お前が出てくる場所ををじっと見ておくから、しっかり脱いでから出てくるんだぞ」

「う、嘘よ嘘、冗談だってば、それじゃあ行ってくるね」

 

 ランは慌てたようにそう言うと、そのまま再び中へと入っていった。

 

「ふう、これでよしと」

 

 ハチマンはそう呟いて振り向いたが、

そこにはハチマンを白い目で見つめる三人の姿があった。

ちなみに女性三人であり、キヨモリはニヤニヤしているだけであった。

 

「今のランちゃんのあの行動は何?」

「多分あいつ、今回はゾンビに菌を感染させられて負けたって事だと思う」

「ああ、そういう事、それはそうと………エロ大魔王」

「おっぱい星人?」

「ムッツリ」

「違うぞ、あいつはただの耳年増だから、ああ言っとけば自分から引いちまう奴なんだよ。

だからわざとああいう事を言っただけだ」

「どうだか」

「実際引いたじゃねえか」

「まあそうだけど、『特に胸』はどうなの?あれは別に言う必要が無かったんじゃない?」

「ち、違う、誤解だ、あいつがいつも胸をアピールしてくるから、

それに合わせてそう言ったまでだ」

「ふ~ん、まあここにいる四人が全員胸が大きくて良かったわね、おっぱい星人さん」

「違うからな」

 

 そんなハチマンの肩を、キヨモリがポンと叩いた。

 

「小僧、今度儂が巨乳でエロいお姉ちゃんのいる店に連れてってやるからな」

「行かねえよ!」

 

 外ではこんな掛け合いがまだ続いていたが、ランは既に頭を切り替えており、

めげずに再び先ほどの位置まで同じように攻略を進めていた。

 

「さてと、今度は最初から上に注意を払ってればあそこは問題ないだろうけど、

そこまで行くのが骨なのよね……」

 

 ランは再び同じ手順で変異種を倒し、ギガゾンビを倒し、

元の場所に戻ってくると、上から降ってくる変異種をあっさりと倒した。

 

「まあタネが分かれば余裕よね、さてと、最後の山場のギガゾンビ五体と変異ギガゾンビか」

 

 そう言ってランは遠くにかかる橋を見た。

そこには線路が通っており、上の段と下の段の二重構造になっている。

上下の道の高さの差は約二メートル、

ランなら普通に立てて、多少なら跳ねたりも出来る高さである。

 

「とりあえずあそこに行くまでにまだ雑魚が沢山いるけど、今の私の敵じゃないわね」

 

 この時のランは、自分の事をいつも通り私と呼んでいた。

つまり冷静さを取り戻していたという事である。

さすがのランも、全裸でハチマンの前に出るのは恥ずかしかった。

あんなのはただの冗談なのだから、別に普通の格好でいればいいだけなのだが、

ランはその約束?を本気で実行すると決め、それを口実に自分を追い込んでいたのである。

ランは今回で絶対にクリアするつもりなのだ。

そして三十分後、道中の雑魚の殲滅を終え、ランは最後の関門である橋の前に立っていた。

 

「ここは私なりに考えていた攻略法があるのよね、集中、集中……」

 

 変異ギガゾンビと普通のギガゾンビの違いは簡単である。

変異ギガゾンビは巨大な剣を二本持っており、その剣を凄まじいスピードで振るうのだ。

ちなみに手は四本あり、二本は素手でこちらを捕まえようとしてくる、

何とも厄介なラスボスであった。ちなみに前回はハチマンが囮になり、

その隙を突いてソレイユが変異ギガゾンビを投げ、下にポイした。

ランはそれを見て、改めてソレイユへの尊敬を深めたものであった。

 

「さて、前座のギガゾンビには、

ちょっとずるいかもだけどロケットランチャーを使っちゃいましょう、何匹かは倒せるはず」

 

 ロケットランチャーの弾は凄まじく高い為、

よほどの時でない限り使われる事はないのだが、

さすがに今回はハチマンも許してくれるだろう、

別に禁じられた手段という訳でもないし、これも戦術のうちである。

ちなみにミッションでの使用は一回につき一発だけという仕様になっている。

 

「それじゃあいきなりぶちかますわよ!」

 

 ランは敵の姿が見えた瞬間に、いきなりロケットランチャーを発射した。

 

 シュバッ!

 

 という音と共に弾丸が一直線に敵に向かい、先頭のギガゾンビに命中して爆発した。

 

「やったか!?」

 

 ランはそうフラグまがいなセリフを吐いたが、

そんなフラグが立つ事はなく、普通に二体のギガゾンビが消滅した。

だが逆に言えば、ロケットランチャーをもってしても、

二体のギガゾンビを倒すのが精一杯だったという事になる。

 

「残るは三体か………幸い作戦を実行するのに丁度いい穴が開いてくれた、

要は最初のギガゾンビの応用、私ならいける、冷静に、冷静に……」

 

 ランは自分にそう言い聞かせながら敵に向かって走った。

目指すはロケットランチャーのせいで開いた橋の真ん中の大穴である。

橋が落ちる事は無い為、下の通路は破壊不可能属性となっており、健在であったが、

上の線路の中央部分に大穴が開いており、

ランはそこでギガゾンビ三体を相手にするつもりだった。

 

「とにかく先に着く事!」

 

 ランは全速力で走り、その言葉通りに先にその穴に飛び込んだ。

それを確認した三体のギガゾンビは、ランの後を追ってその穴に飛び込んだ。

 

「はい、残念でした!」

 

 ランは下まで降りてはおらず、穴のフチに手をかけてぶら下がっていた。

その目の前をギガゾンビが通過し、ランはギガゾンビの頭を踏み台にして上へと戻り、

即座に体勢を低くして居合いの構えをとった。

下に降りたその三体のギガゾンビは慌ててその穴から上に顔を覗かせ、

その瞬間にランはダッシュし、穴の縁を蹴って飛び、その勢いのまま刀を振りぬいた。

ランの持つ刀が光を反射し、まるで雷のような閃光が走る。

 ランは驚異的な跳躍力を見せ、穴の反対まで到達すると、

そのまま刀をしまいながらこう呟いた。

 

「殲滅完了」

 

 刀が鞘に納まる、チン、という音と共に背後の三体の首が落ちる。

 

「残るはあんただけよ、変異種!」

 

 もしかしたら錯覚かもしれないが、ランは変異ギガゾンビがその声に応え、

ニヤリと笑ったような気がした。こうしてソロクリアを賭けた最後の戦いが幕を開けた。




明日は免許の更新とか参院選の投票とかで忙しいのでお休みさせて下さい、すみません!

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