同盟のプレイヤー達がいなくなった後、ランは多くのプレイヤーに囲まれる事となった。
「あんた凄いな!」
「ヴァルハラの関係者って言われた時は眉唾だなって思ったけど、
あの強さを見せつけられたら納得だわ!」
「どうして今まで無名だったのかしら」
「ハチマン様に『絶刀』を名乗るように言われたって本当?」
「お姉様!私と付き合って下さい!」
最後に百合百合しいセリフが聞こえ、ランは思わず身を固くしたが、
その女性プレイヤーがそれ以上何かしてくる気配が無かった為、
ランは安堵しながら愛想よくそのプレイヤー達の相手をし、
答えるべき事にはきちんと答えていった。
そして場が落ち着いた頃、同盟と最初に揉めていた中堅ギルドのメンバーが、
申し訳なさそうな顔でランに謝罪してきた。
「『絶刀』さん、結果的にうちの揉め事を肩代わりしてもらうような形になってしまった、
本当に申し訳なく思う」
「あら、別に気にしないでいいのよ、私がこの場に飛び込んだのは、
単に個人的にムカついたってのが主な理由な訳だしね。どう?多少は溜飲が下がった?」
そのランの言葉に、周りにいた中堅ギルドのプレイヤー達は大声で笑い出した。
「あはははは、正直胸がスカっとしたよ、あいつらはいつもあんな態度だからさ」
「そうだそうだ、絶刀さんがあいつらを叩きのめしていくのを見た時は本当に嬉しかったぜ」
「確かに嫌な態度だったわよね。でも一つ疑問があるのよ、戦った感じ、
ALOのトップを張れるような実力を持ったプレイヤーはいなかったと思うんだけど、
本当にあそこって攻略に関しては他の追随を許さないような成果をあげているの?」
どうやらランはそんな印象を抱いたようで、その言葉を聞いたそのプレイヤー達は、
難しい顔をしながらランにこう答えた。
「それなんだよな……あそこは人数は確かに多いんだよ、複数のギルドの集合体だしさ」
「個人の実力はうちくらいの中規模ギルドとそんなに変わらないのに、
何故か必ず初見クリアを達成しちまうんだよな」
「SAOサバイバーの事を嫌ってるから、メンバーの中には一人もいないはずだし、
本当にどうしてクリア出来るのか謎なんだよ」
複数のプレイヤーからのその話にランも同意した。
「なるほど、それは確かにおかしいわね、そんなに簡単な訳がないものね」
「まあヴァルハラの連中が簡単に初見でクリアするのは分かるんだけどな!あはははは!」
一人のプレイヤーがそう言い、他の者達は再び楽しそうに笑った。
「でもハチマン達は、滅多に攻略には出てこないんでしょ?」
「おう、人数が足りなそうな時は手伝いのノリで来てくれるんだけどよ、
その時もアドバイスくらいはくれるが、
上から目線でああしろこうしろって言ってくる事は絶対にないんだよな」
「その時はうちも初見クリア余裕だぜ!」
「その時だけはな!」
「他の時はやっぱり難しい?」
「だなぁ、うちも知り合いとかと協力して、毎回三十人以上で突入してるんだけど、
やっぱり初見じゃ中々なぁ」
「そうなんだ、ちなみにハチマンも攻略に参加したりするの?」
「いや、ザ・ルーラーは基本来ないな、よく来てくれるのは黒の剣士だな」
「後はツヴァイヘンダーシルフか?」
「必中も結構多いよな」
「へぇ、そうなんだ」
(まあハチマンは色々と忙しいみたいだからなぁ)
ランはそう思いながら、しばらくそのギルドのメンバー達と楽しく会話をしていた。
こういう場ではランはかなり社交的であり、
ハチマンを相手にする時に時々見せる変態っぷりは欠片も見せる事がない。
そんな話題の尽きない中、会話のきりのいい所でランはその中堅ギルドの者達に別れを告げ、
本来の目的の為に主街区巡りを再開する事にした。
「さて、そろそろ私は行くわ。今日の事は本当に気にしないでいいからね、
私が好きで首を突っ込んだだけなんだから」
「そう言ってもらえると多少気が楽になるが、それならせめて何かお礼をさせてくれないか」
ランはそう言われ、別にいらないと言いかけた後、ある事に思い当たり、
駄目元でそのプレイヤーにこんな頼み事をした。
「そういう事ならお礼というか、もし知ってたら教えて欲しい情報があるんだけど、いい?」
「もちろんだ、うちに分かる事なら何でも教えよう」
「それじゃあ………」
ランは間を置いた後、少し申し訳なさそうな口調でこう言った。
「七人くらいで使うのに丁度いい、ギルドハウスのいい物件に心当たりはないかしら?」
「物件?ああ、もしかして今は、ギルドハウスを探してる最中だったのか?」
「そんな感じ。ここから下に下にって主街区を下って行こうかなって思って」
「待ってくれ、ちょっと仲間に確認してみるわ」
「ありがとう、それじゃあその辺りに座って待ってるわ」
ランはそう言って近くにあった噴水に腰掛けて足をブラブラさせはじめた。
丁度その時横を通りかかった一人のプレイヤーが、あっと叫んでランに話しかけてきた。
「あれっ、ランさん?」
「むむっ、誰かと思ったらルクスじゃない!久しぶりね」
「前一緒にスモーキング・リーフに行って以来ですね!
スリーピング・ナイツのみんなを遠目に見る機会は何回かあったんですが、
ランさんだけいなかったからどうしたのかなって思ってたんですよ」
「ごめんね、ちょっと用事でしばらくログイン出来なかったのよ」
「そうだったんですか!体調不良とかじゃなくて本当に良かったです!」
ランにとって、ルクスと会うのは本当に久しぶりであり、
そんなルクスが自分の事を心配してくれていた事が分かった為、
ランは嬉しくなり、ルクスを強引に自分の方に抱き寄せた。
「もう、ルクスは本当にかわいいわね」
「えっ?えっ?ラ、ランさん、ちょっと恥ずかしいです」
「照れるその表情もかわいいわね、このままお持ち帰りしたいくらいだわ」
丁度そこに先ほどのプレイヤーが戻ってきた。
「絶刀さんよ、いい情報が………って、お取り込み中かい?」
「あっと、久しぶりに会ったからつい………ごめんなさい、大丈夫よ」
ランはそう言ってルクスを解放し、そのプレイヤーから情報を聞く体勢になった。
だがランはまだルクスの手を握ったままであり、
ルクスも特に用事がある訳ではなかった為、何となくそのままその場に佇んでいた。
「うちのギルドの話になるんだが、つい先日念願のギルドハウスを買ったんだよ」
「あらそうなの?やったわね、おめでとう」
「おう、ありがとな!でな、その際に複数の物件を仮予約状態で押さえてあったんだが、
その中の一番小さい物件なら多分七、八人で使うのに丁度良さそうだって話になってな、
今から俺がそこまで案内して仮予約をキャンセルするから、
その後にそっちで仮予約しておくといいぜ。
そこにするにしろ他の物件にするにしろ、そうすればとりあえず一週間はキープ出来るぜ」
「なるほど」
その言葉に短くそう頷いたランは、チラリとルクスの方を見た。
その視線を受け、この為に自分に残っていて欲しかったのだと思い当たったルクスは、、
まだそこまでALOのシステムに詳しい訳ではなかったが、
SAO時代に同じシステムがあった事を思い出し、ランに小さく頷いた。
「ありがとう、それじゃあお願いしようかしら」
「任せてくれ、お安い御用だ」
そのプレイヤーはドンと自分の胸を叩き、他の者達を帰らせた後、
ランとルクスの前に立ってそのまま歩き出した。
「二人とも、とりあえず転移門から十一層に飛んでくれ」
「分かったわ、十一層ね」
そう返事をした後、ランはルクスにこう尋ねた。
「ごめんね、そんな訳で今から物件を紹介してもらうんだけど、少し時間はあるかしら?」
「一緒に行けばいいんですね、全然平気です、さあ行きましょう!」
「ありがとうルクス」
そして二人は転移門から十一層に飛んだ。
「ここは何ていう街なの?」
「ここは主街区のタフトですね、レンガと石でつくられた綺麗な街ですよ」
「本当だ、凄く清潔感があって綺麗な街ね」
ルクスからの説明にそう頷きながら、ランは前を歩くプレイヤーに声を掛けようとし、
ある事に気が付いてこう言った。
「ごめんなさい、そう言えばまだあなたの名前を教えてもらってなかったわね」
「おっとすまん、俺の名はスピネル、ギルド『ジュエリーズ』のリーダーをやってる」
「ジュエリーズ?もしかして宝石っぽい名前の人ばっかりとか?」
「立ち上げの時はそうだったんだが、今は特にこだわってない感じかな」
「なるほどなるほど、で、スピネル、あとどれくらいで着くのかしら」
「もう着くぜ、転移門から近くていいだろ?」
「もう?」
「おう、お、ここだここだ」
「早っ!」
そう言ってスピネルが立ち止まったのは、綺麗なレンガ作りの一軒家だった。
「悪い、俺もこの後ちょっと用事があるんでな、キャンセルだけしたら戻らないといけねえ」
「ううん、十分よ、ありがとうスピネル、
また機会があったらうちのギルドと一緒に遊びましょう」
「喜んで!それじゃあまたな、絶刀!」
「うん、また」
そう言ってスピネルは去っていった。
もう三十四層の攻略は始まっているだろうから何かと忙しいのだろう。
そして残された二人は、とりあえずその一軒家を仮予約し、中に入った。
「うわ、素敵な家ですね、立地的にも申し分ないですし」
「部屋数は………一階は広めのリビングとそれに併設されたキッチン、か」
「二階には中くらいの部屋が二部屋と、大きめの部屋が一つありますね」
「庭もそれなりに広いわね、よくここが売れ残っていたものだわ」
「ですね」
「ルクスはこの家の事、どう思う?」
「そうですねぇ、正直凄くいいと思います、ここを買うんですか?」
「まだ候補の一つだけど、そうなるかもしれないわね」
「わぁ、もしそうなったら遊びに来てもいいですか?」
「ええ、喜んで」
こうして紹介された拠点候補を仮予約で押さえたランは、
その後もルクスに付き合ってもらい、いくつかの拠点を仮予約した。