ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第800話 業腹ね

 ランは結局全部で五件の物件を仮予約した。

ちなみに同時に仮予約が出来るのは、ギルド一つにつき五件までとなっている為、

その全ての枠を使った感じとなる。

 

「ふう、とりあえずこんなものかしら」

「どの物件も素敵でしたよね、でも一番はやっぱり最初の所ですかね?」

「そうね、私もそう思ったわ」

 

 二人はそのままスピネルに紹介してもらった最初の家に戻り、

リビングでくつろぎながら、少し雑談をした。

 

「そういえばルクスは何であそこにいたの?新しく行けるようになった三十四層の観光?」

「あ、いえ、はじまりの街でとある噂を聞いたからですね、

三十四層で同盟相手に『ゼットー』っていう女性プレイヤーが無双してるって言ってたから、

ちょっと興味本位で見に来たんですよ、もっとも間に合わなくて、

それっぽいプレイヤーはもういなかったですけどね」

「えっ?」

 

 ランはそのルクスの言葉にキョトンとした。

 

(あれ、さすがにあの状況なら私が絶刀だって分かるんじゃないかなぁ……

連呼されてたのにおかしいわね、発音が違うせいかしら。

ルクスは喋り方はのんびりしてるけど、別に鈍くはないはずなんだけど)

 

 そんな事を考えていたランに、ルクスは次にこう尋ねてきた。

 

「ランさんは見ましたか?ゼットーさん」

 

 そのルクスのアクセントがやはり引っかかったランは、

まさかと思いつつも恐る恐るルクスにこう聞き返した。

 

「ね、ねぇルクス、ゼットーさんってそのプレイヤーの名前?」

「はい、私はそう聞きました」

「ああ、やっぱり………」

「やっぱり何ですか?」

 

 きょとんとするルクスに、ランははっきりとこう言った。

 

「ルクス、ゼットーってのは、プレイヤーの名前じゃなくて二つ名よ。

字で書くと、絶対の絶に刀よ。だから発音もそうじゃないわ」

「えっ?」

 

 そのランの言葉が徐々に脳に染み渡るのと同時に、

ルクスの顔がどんどん赤くなっていった。

 

「わ、私ったら何て勘違いを……」

「まあ気にしない気にしない、噂話を小耳に挟んだだけだったらしょうがないわよ。

で、もう分かったと思うけど、私がその『絶刀』よ」

「ええっ、ゼットー……じゃなかった、絶刀ってランさんの事だったんですか!

そういえばずっと目の前でそう呼ばれてたのに、

私ってばはなから人の名前だと思ってて、言葉が脳に入ってきてませんでした……」

「あは、ルクスにもそんなドジっ子な部分があったのね。、

前にハチマンにね、自信がついたらそう名乗るように言われてたの。

もっとも人前で名乗ったのは今日が初めてなんだけどね」

「って事は、やっとそう名乗る自信がついたって事なんですね」

「ええ、今の私は相当強いわよ、ふふっ」

 

 ランは躊躇いなくそう言い、得意げに鼻を膨らませた。

 

「凄いなぁ、前から強かったランさんがもっと強くなったなんて、

一体どのくらいのレベルなのか想像もつかないです!」

 

 その言葉に気を良くし、ランが何か言おうとしたその時、不意に玄関の呼び鈴が鳴った。

 

「あら?誰かしら。ここを知っている人は限られてるし、

いたずらじゃなければもしかしてスピネルかな?」

 

 ランはそう言って外を見る為のモニターを表示させ、

それを見た瞬間に慌てて玄関の方へと走っていった。

 

「あっ、ちょ、ちょっとランさん!」

 

 ルクスはランにそう声をかけたがランは止まらない。

 

「どうしちゃったんだろ」

 

 そう思ったルクスはモニター画面を見てみる事にし、

そこにハチマンの姿が映っている事に気が付いた。

 

「ああ、そういう」

 

 ルクスはそれで納得し、とりあえずこの場で待つ事にし、

ほどなくしてランがハチマンを伴って戻ってきた。

ランはその後二人に飲み物を用意したが、今はキッチンに何もない為、

ストレージにしまっておいた飲み物を出しただけである。

 

「あれ、ルクスも来てたのか」

「はい、偶然三十四層でランさんとお会いしたんですよ」

「というかハチマンはどうしてここの事が分かったの?」

「三十四層でさっき揉め事があったんだろ?

そこでうちの名前が出たっていう情報が伝わってきたんでな、

状況を把握しようと聞き込みをしたら、スピネルの所が揉めた事が分かって、

ジュエリーズの所にギルドハウス購入のお祝いがてら、出向いてみたら、

ここの住所とお前の名前が出てきたんでな、

お前の方の事情も聞いてみようと思って出向いてきたって感じだな」

「あっ、そういう事だったんだ」

「というかお前、遂に自分から絶刀を名乗ったんだな」

「うん、そろそろかなって思ったの」

「まあそうだな」

 

 ハチマンは頷きつつ、続けてランにこう言った。

 

「それじゃあもう他のプレイヤーに、簡単に負ける訳にはいかなくなったな」

「望むところよ、向かってくる敵を全部フルボッコにしてやるわ」

「まあ頑張れよ」

 

 ハチマンはそう言ってお茶を飲むと、ランの顔を真っ直ぐ見ながら言った。

 

「それじゃあ同盟と揉めた時の事をお前の視点から教えてくれ」

 

 そう言われたランは、ハチマンにさっきの出来事の説明を始めた。

 

 

 

「………とまあこんな感じ」

「ふむ、ルクスが聞いた噂ってのはどんな感じだ?」

「あ、はい、概ね今の話の通りですね、まあ私は直接その現場は見られなかったんですけど」

「ふ~む」

「ちなみに周りにいた人達の反応は、また同盟かって、嫌悪感に満ちた感じでしたね」

「なるほど、同盟の疑惑はやはり世間的には結構根が深い問題なんだな」

「どうなの?やっぱり同盟は何か不正を行っているの?」

「いや、まだ分からん。だが何かをしているのは間違いないだろうな」

「何か、か………」

 

 ランはそう呟いた後、じっとハチマンの顔を見つめた。

 

「同盟の事を調べたりしないの?」

「それはまあそのうちな、現状特にうちに被害が出ている訳じゃないし、

バグ等の不正利用をしている気配もないからな」

「結局基本的には当事者間で何とかしろって事になるのね」

「当面はそういう方向になるだろうな、まあうちが動くとすれば、

同盟が明らかにプレイヤー倫理にもとる事をやってたとか分かった時だろうよ」

 

 だがランはかなり不満げのように見えた。

 

「ラン、不満か?」

「ええ、ハチマンを侮辱したあいつらにでかい顔をさせておくのは業腹なんだけど」

「言わせとけ言わせとけ、目に余るようならうちで潰すから気にするな」

「無理、気になる」

「じゃあお前があいつらに一泡ふかせてやるといい」

「うん、そうする」

 

 ランはためらいなくそう言い、ルクスはそれを聞いてさすがだなと頷き、

ハチマンは苦笑しつつも特にランを止めたりするようなそぶりは見せなかった。

 

「まあ事情は分かった、それじゃあ俺は今日は落ちるぞ」

「あっ、私もそろそろ友達とお出かけする用事があるので落ちますね」

 

 蛇足ではあるが、その友達とはリズベットとシリカの事である。

ルクスには昔のハチマン並に友達が居らず、

他に友達と呼べるのはアスナとキリトくらいのものなのだ。

そして二人が去った後、ランは大人しくベッドに横になって直ぐに眠りにつき、

色々あったこの日はこうして終了した。

 

 

 

 そして次の日の朝、ランは再び朝一番にスモーキング・リーフへと向かった。

これは単に一人で朝食をとるのが寂しく感じられた為であり、

ランは図々しくも、リナの作った朝食のお相伴に預かるつもりでいたのである。

 

「あっ、ラン、遊びに来たのな?」

「………そこは、何か用事?と聞いてほしい気もするわね」

「ランは用事が無くてもよくここに来るからな、

まあランと話すのは面白いからいつでも歓迎なのな」

 

 そう言ってリナは、ランの分の朝食の用意を始めた。

 

「ランも一緒に朝ご飯を食べていくのな?」

「ありがとうリナ、有り難く頂くわ」

 

 そこに続々と姉妹達が入室してきた。

 

「おっ、ラン、久しぶりだな、元気か?」

「うん、元気元気」

「なら良かった、今度一緒に狩りにでも行こうぜ、新しい魔法の練習をしたいんだよな」

 

 リクはそう言って快活に笑った。次に出てきたのはリョクである。

 

「およ、ラン、家探しは上手くいった?」

「うん、五つほど候補を押さえておいたわ、ありがとうね、リョク」

「どういたしましてじゃん」

 

 そしてその後にリンとリョウが続く。

 

「おはよう」

「おはようリン、ちょっと眠そうだけど大丈夫?」

「昨日は在庫整理に少し手間取ってな、でも問題ない、大丈夫だ」

「そう、それなら良かったわ」

「あっれ~?ねぇラン、とりあえず戦う?」

「ごめん、ソードスキルの復習もしたいし、また今度ね」

 

 どうやらリョウは、ランの成長を敏感に感じ取ったらしい。

そしてその後からリツがパタパタと足音を鳴らしながら姿を見せた。

どうやら走ってきたらしい。

 

「みんな、もうすぐ………あ、ラン、来てたのにゃ?」

「うん、朝ご飯をご馳走になりにね」

「丁度良かったにゃ、もうすぐスリーピング・ナイツのみんなが戻ってくるらしいにゃ」

「もうすぐ?そうなの?」

「今から帰るって連絡が、たった今あったのにゃ。

なのでみんなは持ち込まれる素材を整理する為に、その時間に家に残ってて欲しいのにゃ」

「今から?まあまだ時間はあるよな?」

「そうにゃね、多分四時間くらいはかかりそうかにゃ」

「オーケーオーケー、それじゃあ俺は、それまでもう一度寝てくるぜ」

「私もそうしようかねぇ」

「それじゃあ私は倉庫にそのスペースを確保しておこう」

「ならリナもリンねぇねを手伝うのな」

「大丈夫だ、大した量じゃないから、リナはランとお喋りしているといい」

「む~ん、分かった、そうするのな」

 

 そしてまったりした時間が過ぎ、

遂にスモーキング・リーフにスリーピング・ナイツのメンバー達が戻ってきた。

そんな彼らが見たのは、リツとリナと一緒に美味しそうにお茶を飲むランの姿であった。

 

「あらみんな、待ちくたびれたわよ」

「「「「「「何でいるの!?」」」」」」

 

 これがランが仲間と再会するまでの顛末である。




スリーピング・ナイツが遂に再び全員揃いました!

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