ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第801話 スリーピング・ガーデン

「何でと言われても、みんなを待っていたからとしか……」

 

 言えないのだけれど、そう言いかけたランに、いきなりユウキが抱きついた。

 

「ランの馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!」

「ちょっとユウ、いきなり何を……」

 

 だがユウキはランから離れようとはしない。

リーダーとしての責務を果たそうとずっと気を張ってきたユウキであったが、

ランと再会した事により、張り詰めていた気持ちが一時的に切れたのだろう。

そして他の者達も、口々にランを気遣うような事を言った。

 

「おいラン、体の方は大丈夫なのか?」

「検査だったのよね、結果は問題ないの?」

「まったく心配させすぎだよね」

「いきなりだったからなぁ」

 

 次々と仲間達に心配され、ランは申し訳なさを感じていたが、

理由を言う訳にもいかないのでここは誤魔化すしかない場面である。

 

「もちろん大丈夫よ、昨日も同盟のプレイヤーをデュエルで何人も血祭りにあげたわ。

ブラッド・フェスティバルよ、わっしょい!」

 

 ランは仲間達を安心させようと、ついついそんな事を言ってみたが、

さすがはランを付き合いの長い連中である。当然全員その最後の言葉はスルーした。

唯一の例外がユウキである。

 

「その言葉を付け加える意味が分からないんだけど」

 

 そう言いながらもユウキは、以前と変わらぬランの様子に安心したような表情を浮かべた。

 

「でもデュエルって………」

「とりあえずその話も後で詳しくみんなに教えるわ」

「まあ元気そうで良かったよ、これでやっとボクのリーダーとしての仕事も終わりかな」

「うむ、ご苦労」

「い、いきなりえらそう………」

「えらそうなのではないわ、エロいのよ」

「そこはエロいのよって言う場面だよね!?」

 

 ユウキは慌ててそう返したが、

自分が『えらいのよ』と『エロいのよ』を間違えた事にはまだ気付いていない。

 

「あら、ユウまでエロいのよと言うなんて、

やはり私のエロさがこの一週間でパワーアップしたという事ね」

「えっ?ボクそんな事言ってないよ?」

 

 そう言いながらユウキは仲間達の方を見た。

だが二人の漫才を黙って見ていた他の五人は一斉に首を振った。

 

「言ってたぞ」

「言ってたね」

「言ってました」

「言ってたわよ」

「そ、その、ドンマイですよ!」

 

 五人にそう断言されたユウキは、愕然とした顔で頭を抱えながらその場に蹲った。

 

「ど、どうしよう、ボクにランの病気が染っちゃった……」

「おいコラ、実の姉のエロさを病気扱いするんじゃないわよ」

 

 ランは片言でそう言いつつも、そっとユウキの頭を抱きしめ、

ユウキは一瞬ビクッとしたものの、そのままランに身を任せ、

若干甘えるようなそぶりを見せた。姉妹の感動的なシーンである。

だが次のランの言葉がそのいいシーンをぶち壊しにした。

 

「はい、ユウにエロ菌が感染したわ、次はユウが鬼ね」

「この感動的なシーンでいきなり何を言っちゃってるの!?」

「はいはい、あなたにそういうのは似合わないのよ、いつも通りの明るいユウでいなさい」

 

 ランはそう言ってそっぽを向いた。どうやら今のはランなりの照れ隠しのようである。

それでユウキも立ち上がり、いつも通りの笑顔を見せた。

 

「まあランが元気そうで本当に良かったよ、でも連絡くらいしてくれれば良かったのに。

ギルドメンバーリストの名前も消えたままだったし」

 

 そう言われた瞬間に、今度はランの挙動が怪しくなった。

 

「そ、それはみんなの気を散らしちゃいけないと思って」

 

 ランは目を逸らしながらそう言った。不審な事この上ない。

 

「別にそんな事で気は散ったりしないけど……もしかして面倒だった………とか」

「そ、そんな事ある訳が……そもそも……」

 

 ランがそう言いかけた時、横で二人の話を聞いていたリナが、空気を読まずにこう言った。

 

「あれ?でもランはヨツンヘイムに行くのは面倒臭いって言って………」

「あああああ、今日も空が青いわ、実に清々しい一日ね!

さあみんな、今日も張り切って活動しましょう!」

 

 ランは慌ててそう叫んだが時既に遅し、

スリーピング・ナイツの一同はランを白い目で見つめ、

誤魔化しきれないと悟ったランはその場で正座をし、床に三つ指をついて素直に頭を下げた。

 

「ごめんなさい、面倒だったのでサボりました」

 

 その謝罪を受けた一同は、ランらしいと苦笑する事しか出来なかった。

 

「まあ別にいいだろ、確かにあそこに一人で来るのは面倒だしな」

「だね、とりあえずお互いの話を聞かせ合わないとだし、

素材を換金してもらってどこかで落ち着こうよ」

「それならもう確保してあるから大丈夫よ」

「そうなの?一体どこに………って、それは後でいいか。

リョクちゃん、とりあえず素材の買取りをお願いしていい?」

「あいよ、いつもありがとじゃんね。

あ、前の素材の代金の残りは、もうランに渡してあるからね」

 

 そして無事に素材の売却を終えた一同は、今回もかなりの金額になった事を喜びつつ、

ランの案内でそのまま十一層へと転移した。

 

「で、その宿ってどこ?」

「こっちよ」

 

 そしてランに、どう見ても宿屋ではない建物に案内された一同は目を丸くした。

 

「こ、ここは?」

「スリーピング・ナイツのギルドハウス候補の一つよ、

勝手な事をしてしまって悪かったけど、いい物件だからとりあえず仮押さえしてあるわ」

「確かに素敵な物件ですね」

「仮押さえって、お金は?」

「仮だからまだかかってないわよ、今のうちの資産も大体把握出来たから、

資金的に無理の無い範囲で全部で五件程押さえてあるわ」

「ええっ?よくそんなに見つけたね」

「ここは昨日の同盟とのデュエルの時に知り会った人に紹介してもらって、

他の四件はルクスと一緒に探して見つけた所ね」

「ルクスが手伝ってくれたんだ!」

「ええ、昨日偶然会ったから、付き合ってもらったの」

「し、仕事が早え………」

 

 そして中に入った一同は、情報のすり合わせを始めた。

 

「こっちはまあ簡単かな、運良くラグーラビットの新しい狩り場を見つけてさ、

そのせいで当分資金のやり繰りに困らないくらいの大金を手に入れたよ」

「それはリナから聞いたわ、かなり稼いだってのは知ってたけど、

まさかここまでとは思わなかったけどね」

「で、それを二回ほどやった後、

ヨツンヘイムに行って各自で体術を意識しながら修行してさ」

「で、ボクがオリジナル・ソードスキルの開発を終えた所で戻ってきたって訳」

「オリジナル・ソードスキル?完成したの?」

「うん!」

「聞いて驚け、多分今のALOでは最高峰の、十一連だぜ!」

 

 十一連と聞いた瞬間に、さすがのランも呆然とした顔をした。

スモーキング・リーフでの雑談でそれ系の話も出てきたのだが、

まだ五連以上のソードスキルを開発出来たプレイヤーは一人もいないと聞いていたからだ。

その話をランから聞いた一同は、難しい顔をしながら口々にこう言った。

 

「やっぱり突き中心にしたのが勝因みたいな?」

「ソードスキルっていうと、どうしても斬撃メインで考えちゃうからね、

まあ突きもそう簡単じゃないだろうけど、斬撃より楽なのは確かだし」

「派手に剣を振るうのは格好いいけど、どうしても体重移動がね」

「それでもまあそのうち誰かが開発すると思うけどな!」

「それにしても十一連って………」

 

 ランは漠然と、それが個人に作れる限界近い領域なんだろうなと感じていた。

 

「で、名前は?」

「えっと、マザーズ・ロザリオにした」

「マザーズ・ロザリオ……」

 

 そう言われたランは、以前ハチマンにもらい、

今もずっと胸に掛けっぱなしのロザリオを握りしめ、

ユウキもそれを見て、大切そうに自分の胸にかかっているロザリオを握りしめた。

 

「最高の名前ね」

「うん、ありがとうラン!」

 

 ユウキ達の話はそれで終わり、そして次はランの番となった。

 

「私の方は簡単よ、あなた達がヨツンヘイムにいると聞かされて、

そこまで行くのが面倒だと感じた私は………」

「め、面倒だって、もうハッキリ言っちゃうのね」

「素材の料金を受け取って、大体の手持ち金額を把握出来たから、

そろそろうちの拠点も探しておかないといけないと思って、

三十四層から順番に、いい物件がないか探しておこうと思ったのよ」

「確かにいつまでも宿屋暮らしってのもな」

「うん、ラン、グッジョブ!」

「ありがとう、で、その三十四層で、ちょっとしたトラブルに巻き込まれたの」

 

 そしてランは、ジュエリーズと同盟のいざこざや、

その流れでハチマンを侮辱されて我慢が出来なくなり、

デュエルを吹っかけて全員をボコボコにした事をみんなに話した。

 

「おお」

「ラン、えらい!」

「よくやった!」

「でしょ?さすがの私も我慢する事は出来なかったわ」

「分かる」

「多分俺でも同じ事をした!」

「ボクもきっとそう!」

 

 一同大絶賛である。

 

「でね、その流れで何かお礼をしたいって、

ジュエリーズのリーダーのスピネルって人に言われたから、

この物件を紹介してもらったと、まあそういう訳」

「そういう流れかあ」

「で、他にも四件あると」

「うん、そのデュエルの直後にルクスと会ってね、一緒に回ったわ」

「それじゃあ早速そっちも見てみようぜ!」

「そうね、行ってみましょうか」

 

 さすが思い立ったらすぐ動くがモットーのスリーピング・ナイツは、

そのまま他の四件の物件を見た後で、やはり最初の物件が一番いいという事になり、

元の十一層へと戻ってきた後、速攻でその物件の購入を確定させた。

この家は当然スリーピング・ガーデンと名付けられ、

遂にスリーピング・ナイツは、ALOに確固たる拠点を確保する事に成功した。

 

「よし、それじゃあ今日は色々と必要な物を分担して買いに行きましょう、

その状況によっては、今度ハチマンを呼び出して、

足りない物を色々と作ってもらわないといけないしね」

 

 スリーピング・ナイツはALOでの生活基盤を整備し終えた後、

話し合いを経て、次の目標である黒鉄宮に向かう事となる。

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