ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第804話 ちょっとしたトラブル

 そして話はスリーピング・ナイツが全滅した数日前の夕方、

アスナがユウキと二度目の邂逅を果たしたその次の日へと戻る。

オリジナル・ソードスキルを開発すると意気込み、

何日かに渡って色々と試していたアスナであったが、

一向に新しいソードスキルの登録が出来ず、完全に煮詰まっていた。

 

「うぅ………これ、本当に実装されてるのかな………」

「いや、もちろんされてるからな」

「あっ、ハチマン君!」

 

 いつの間に来たのか、そう声を掛けてきたのはハチマンであった。

どうやらハチマンは、アスナが煮詰まっているという話を聞き、激励に訪れたらしい。

二人はそのまま並んで地面に腰掛けた。

 

「調子はどうだ?」

「あまり良くはないかなぁ……かなり色々試してるんだけどね」

「コツが掴めれば案外すぐかもしれないけどな」

「そうだね、早く掴んでそのまま一気に完成っていければいいな」

 

 そう言いながらアスナは剣を持って立ち上がったのだが、再びその場に座った。

 

「う~ん………」

 

(これはかなりきてるな、気分転換でもさせた方がいいか)

 

 ハチマンはそう考え、どこかいい場所はないかと考え始めた。

 

(そういえば昨日、紅莉栖にモニターを頼まれたんだったな、

あれをこことリンクしてもらえば、前に話していた通り………)

 

 ハチマンは何かを思いついたのか、そのままアスナに誘いをかけた。

 

「アスナ、今日の夜、ちょっと一緒に出かけないか?」

「うん、別にいいけど、どこに行くの?三十三層とか?それともアスカ・エンパイア?」

「あ、いや、こっちじゃない、リアルの話だ」

 

 そう言われたアスナの顔が、パッと輝いた。

最近は色々あった為、二人だけで出かけるのはかなり久しぶりなのである。

 

「それじゃあ早く落ちて準備しなきゃ!」

「いや、ちょっとこっちにも準備があってな、

二時間後くらいにキットで迎えに行くから、

それまでに準備しておいてくれればそれで問題ない。

確か今日は寮じゃなく、自宅に戻ってるんだよな?」

「うん、今日は自宅だよ」

「それじゃあ自宅まで行くわ」

「ありがとう!それなら後一時間くらい、このまま頑張ってみるね」

「ああ、アスナならきっと出来る、今はちょっと煮詰まってるかもしれないが、

そういう時期は必ずあるものだから、もっと楽しむつもりでリラックスしてな」

「うん!」

 

 ハチマンはそう言って街の方へ戻っていき、

アスナは鼻歌を歌いながら、上機嫌で剣を振り始めた。

ハチマンと会った事で、特に何かヒントを掴めた訳ではなかったが、

どうやら落ち込んでいた気分を高揚させる効果はあったようだ。

そしてアスナはリラックスした状態で鼻歌に合わせて剣を振り、それに合わせて踊り始めた。

実はこれは、神崎エルザのALOのテーマソングのCMを真似したものである。

エルザは普段、そんなアイドルのような真似はしないが、

その曲に合わせてゲーム内のNPCが踊るというCMが放送されており、

エルザが密かにその踊りを練習しているのを知っていたアスナは、

いつかカラオケでエルザと一緒に踊りながら歌おうと考え、

たまに一人で練習していたのであった。

 

「う~ん、ここはどうだっけなぁ、ちょっと映像を見てみようかな」

 

 アスナはそう呟き、CMの動画を画面を大きくして宙に映し出した。

 

「あっ、そうか、ここはこうして………こう!

そしてここの決めポーズで、パラレル・スティング!」

 

 パラレル・スティングとは、刺突系の二連撃ソードスキルである。

 

「あ、あれ、今何か……」

 

 アスナはパラレル・スティングを放った後、

何かを掴めたような気がしてそのまま動きを止めた。

 

「今パラレル・スティングの軌道の終点が………う~ん」

 

 アスナは悩みながらも、とりあえず表示させていた動画を一旦消す為に手を伸ばし、

その流れで時間表示に目がいった。

 

「あっ、やばっ!もうこんな時間じゃない、急いで準備しないと!」

 

 アスナはそう言って、全速力で街へと駆け出し、街に入った瞬間にログアウトした。

 

 

 

「とりあえずシャワー、シャワーを浴びなきゃ!」

 

 明日奈はそう言って、ドタドタと下におりていき、浴室へと向かった。

その音に驚いたのか、京子がリビングからひょこっと顔を出した。

 

「明日奈、何をバタバタしているの?」

「ごめん、これから八幡君とお出かけだから、急いでシャワーを浴びないと!」

「もう、そういうのはもっと余裕を持って準備しなさい!」

「は~い!」

 

 丁度その時家のチャイムが鳴った為、

京子はそれ以上は何も言わずにリビングに戻り、インターホンの操作を始めた。

それを横目で見ながら明日奈は浴室のドアを開けて中に入り、

服を脱いだ時点で、着替えの下着を忘れた事に気がついた。

 

「あ、しまったなぁ、まあいっか、どうせ後でどれを着るか悩む事になるんだし、

洗濯物を無駄に増やす事もないよね」

 

 明日奈はそう呟き、出来るだけ簡単に済ませようと思って体を洗い始めたのだが、

いざそうなってみると、ここもそこもとあちこちが気になり、

結局念入りに体を磨く事になってしまった。

 

「うぅ、時間大丈夫かなぁ?まあでも家に迎えに来てくれる事になってるんだし、

ちょっとくらい遅れても平気だよね」

 

 そう言いながら、明日奈は浴室のドアから顔を出し、そっと外の様子を伺った。

先ほど来客があった事を覚えていたからである。

 

「お母さん?」

 

 明日奈は試しに京子に呼びかけてみたが返事は無く、

リビングに人がいる気配もまったく無い。

 

「出かけたのかな?まあいいや、ちょっとはしたないけど、このまま裸で部屋に……」

 

 明日奈はそう言うと、さすがに恥ずかしかったのだろう、

急ぎ足で自分の部屋へと向かい、その扉を開けた。

 

「さて、急いで準備し………な………」

 

 明日奈はそう呟きかけ、中に二人の人物がいるのを見付け、硬直した。

 

「………明日奈、あなた、さすがに年頃の女の子がそれはどうかと思うわよ、

まあ八幡君にサービスしたい気持ちは分かるけどさ」

「おっ、お母さん………というか、えっ?は、八………」

 

 そして京子の後ろから出てきた八幡が、

困った顔をしながら明日奈に下着を差し出してきた為、

明日奈は何も考えられないままその下着を受け取り、いそいそとその場で着替え始めた。

 

 

 

 その少し前、京子は明日奈が浴室に消えたのを横目で見つつ、

インターホンのボタンを押して、来客の様子を確認しようとしていた。

 

「はい、どちら様ですか?」

「あ、明日奈、俺だ、八幡だ」

「あら?」

 

 京子は八幡が自分と明日奈を間違えている事に気付き、

ニヤニヤしながら明日奈の真似をした。

 

「八幡君!待ってて、今行くから!」

 

 そして京子は玄関の扉を開け、いきなり八幡に抱きついた。

 

「八幡君!」

「うわっ、いきなりどうしたんだよ明日………いや、今日?じゃなくて京子さん?」

「違うよ八幡君、私は明日奈だよ、二十五年後の」

「え、あ、いや、そう言われると確かにそうなるのかもしれませんけど……」

 

 八幡はさすがに京子相手に強く出る事も出来ず、まごまごしていた。

京子はそんな八幡の顔を見て満足したのか、八幡を解放し、家の中に招き入れた。

 

「ふふっ、ごめんなさい、冗談よ冗談。でも私と明日奈の声、そんなに似てた?」

「そうですね、普段はそこまで意識する事はないんですが、

たまに、あれっ?って思う事がありますね」

「そう、それはちょっと嬉しいわね」

 

 京子はそう言うと、八幡をリビングに案内し、手際よくコーヒーを出してきた。

 

「はい、砂糖とミルク増し増しね」

「あっ、す、すみません」

「それでね、ごめんなさい、悪いんだけど、明日奈は今シャワーを浴びてるのよ」

「あ、そうでしょうね、俺が予定より早く来ちゃっただけなんで、このまま待ってます」

「今日はこの後デートなのよね?」

「はい、その予定です」

「そう………今日はそのまま帰ってこなくていいから、

三ヶ月後くらいに、孫が出来たって報告をしてくれると嬉しいんだけど?」

「い、いや、それは………」

 

 もしこれが理事長だったら、八幡ももっと強い態度で説教なりなんなりしたと思うが、

さすがに京子相手だと、八幡もそこまで強く出れないのであった。

 

「あら、嫌なの?」

「嫌というか、ちょっと早いかなと」

「私としては、一刻も早く八幡君に、お義母さんと呼んで欲しいのよねぇ」

 

 そう言いながら京子は、チラッチラッと八幡の方を見た。

どうやら催促されているようだと思った八幡は、

そんな京子対し、真面目な表情になってこう言った。

 

「いや、今でもちゃんとそう思ってます、お義母さん」

 

 八幡がそう言った瞬間に、京子はソファーにどっと倒れた。

 

「うわっ、お、お義母さん?」

「だ、大丈夫、ちょっと興奮しすぎてのぼせただけだから」

「そ、そうですか……」

 

(京子さんって、最初会った時はもっとクール・ビューティーって感じだったんだけどな)

 

 今でも八幡以外の前ではそうなのであるが、八幡は当然その事を知らない。

そして京子はスクッと立ち上がり、八幡の肩をポンと叩いた。

 

「八幡君にそこまで言ってもらったんだから、私も女気を示さないといけないわね、

八幡君、明日奈の部屋に行くわよ?」

「え?あ、はい、でも何でですか?」

「実はさっき、明日奈は着替えも何も持たないで浴室に入っていったのよ。

だから明日奈が出てくる前に、今日明日奈が着る勝負下着を私達で選びましょう」

 

 どうやら京子はその事をしっかりと見ていたようだ。

さすがデキる女はその観察力も一味違う。

 

「い、いや、それはさすがに……」

「大丈夫大丈夫、さあ、行きましょう」

「あ、ちょ、ちょっと……」

 

 そんな八幡の手を京子は強引に引っ張り、

二人はそのまま二階の明日奈の部屋へと突入する事になった。

 

「あら、思ったよりも綺麗にしてるわね、まあでもこの後あの子は何を着ていくか迷って、

この部屋中を服でいっぱいにしちゃうんだけどね」

「そ、そういうものですか」

「そうよ、その中には当然下着も混じる事になるから、

今から私達がする事は、ある意味あの子の部屋の片付けと同義なのよ!」

「何ですかそのエクストリーム理論……」

 

 その八幡の言葉には反応を示さず、

京子はいきなり明日奈の下着の入った引き出しを開けた。

 

(うわ、京子さん、マジでやりやがった……)

 

「あらあらまあまあ、これなんか私にも似合うと思わない?」

「ちょっ、想像しちゃうじゃないですか、そういう事を言わないで下さい!」

「あら、別にいいじゃない、私だってまだまだ女盛りなのよ?」

「た、確かに京……いや、お義母さんは凄く若く見えますし、お綺麗ですけど……」

「あらあらあら、私を口説いてくれるの?

もう、八幡君ったら、今日は明日奈じゃなくて私と一緒に出かけない?」

「いや、そういう訳には……」

「ふふっ、冗談よ、それでね、私はこの辺りがいいと思うんだけど」

 

 そう言いながら京子は、いくつかの下着を取り出して八幡に見せてきた。

 

「は、はぁ、いいんじゃないでしょうか」

「もう、こんなチャンスは滅多に無いんだから、もっとしっかり選びなさい」

「は、はい……」

 

 八幡はさっさと選んでこの場から脱出しようと思い、

京子が差し出してきた下着の中から何となく目についた、

生地が一番少ない下着を手に取った。

 

「あら、それはまた随分と大胆な……そう、あの子も大人になったのね……」

「ま、まあ俺達ももう成人ですからね」

「これをあの子が………?これは孫の顔が早く見れそうね、うん、実にいいわ!」

「い、いや、これはたまたま目についたのを手に取っただけでですね……」

 

 その瞬間に、バタバタという足音と共に、部屋のドアが開けられた。

 

「さて、急いで準備し………な………」

 

 全裸の明日奈はそのまま硬直し、京子はニヤニヤしながら明日奈に言った。

 

「………明日奈、あなた、さすがに年頃の女の子がそれはどうかと思うわよ、

まあ八幡君にサービスしたい気持ちは分かるけどさ」

「おっ、お母さん………というか、えっ?は、八………」

 

 そして八幡は、困った顔で手に持った下着を明日奈に差し出したのであった。


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