そして話はスリーピング・ナイツが全滅した数日前の夕方、
アスナがユウキと二度目の邂逅を果たしたその次の日へと戻る。
オリジナル・ソードスキルを開発すると意気込み、
何日かに渡って色々と試していたアスナであったが、
一向に新しいソードスキルの登録が出来ず、完全に煮詰まっていた。
「うぅ………これ、本当に実装されてるのかな………」
「いや、もちろんされてるからな」
「あっ、ハチマン君!」
いつの間に来たのか、そう声を掛けてきたのはハチマンであった。
どうやらハチマンは、アスナが煮詰まっているという話を聞き、激励に訪れたらしい。
二人はそのまま並んで地面に腰掛けた。
「調子はどうだ?」
「あまり良くはないかなぁ……かなり色々試してるんだけどね」
「コツが掴めれば案外すぐかもしれないけどな」
「そうだね、早く掴んでそのまま一気に完成っていければいいな」
そう言いながらアスナは剣を持って立ち上がったのだが、再びその場に座った。
「う~ん………」
(これはかなりきてるな、気分転換でもさせた方がいいか)
ハチマンはそう考え、どこかいい場所はないかと考え始めた。
(そういえば昨日、紅莉栖にモニターを頼まれたんだったな、
あれをこことリンクしてもらえば、前に話していた通り………)
ハチマンは何かを思いついたのか、そのままアスナに誘いをかけた。
「アスナ、今日の夜、ちょっと一緒に出かけないか?」
「うん、別にいいけど、どこに行くの?三十三層とか?それともアスカ・エンパイア?」
「あ、いや、こっちじゃない、リアルの話だ」
そう言われたアスナの顔が、パッと輝いた。
最近は色々あった為、二人だけで出かけるのはかなり久しぶりなのである。
「それじゃあ早く落ちて準備しなきゃ!」
「いや、ちょっとこっちにも準備があってな、
二時間後くらいにキットで迎えに行くから、
それまでに準備しておいてくれればそれで問題ない。
確か今日は寮じゃなく、自宅に戻ってるんだよな?」
「うん、今日は自宅だよ」
「それじゃあ自宅まで行くわ」
「ありがとう!それなら後一時間くらい、このまま頑張ってみるね」
「ああ、アスナならきっと出来る、今はちょっと煮詰まってるかもしれないが、
そういう時期は必ずあるものだから、もっと楽しむつもりでリラックスしてな」
「うん!」
ハチマンはそう言って街の方へ戻っていき、
アスナは鼻歌を歌いながら、上機嫌で剣を振り始めた。
ハチマンと会った事で、特に何かヒントを掴めた訳ではなかったが、
どうやら落ち込んでいた気分を高揚させる効果はあったようだ。
そしてアスナはリラックスした状態で鼻歌に合わせて剣を振り、それに合わせて踊り始めた。
実はこれは、神崎エルザのALOのテーマソングのCMを真似したものである。
エルザは普段、そんなアイドルのような真似はしないが、
その曲に合わせてゲーム内のNPCが踊るというCMが放送されており、
エルザが密かにその踊りを練習しているのを知っていたアスナは、
いつかカラオケでエルザと一緒に踊りながら歌おうと考え、
たまに一人で練習していたのであった。
「う~ん、ここはどうだっけなぁ、ちょっと映像を見てみようかな」
アスナはそう呟き、CMの動画を画面を大きくして宙に映し出した。
「あっ、そうか、ここはこうして………こう!
そしてここの決めポーズで、パラレル・スティング!」
パラレル・スティングとは、刺突系の二連撃ソードスキルである。
「あ、あれ、今何か……」
アスナはパラレル・スティングを放った後、
何かを掴めたような気がしてそのまま動きを止めた。
「今パラレル・スティングの軌道の終点が………う~ん」
アスナは悩みながらも、とりあえず表示させていた動画を一旦消す為に手を伸ばし、
その流れで時間表示に目がいった。
「あっ、やばっ!もうこんな時間じゃない、急いで準備しないと!」
アスナはそう言って、全速力で街へと駆け出し、街に入った瞬間にログアウトした。
「とりあえずシャワー、シャワーを浴びなきゃ!」
明日奈はそう言って、ドタドタと下におりていき、浴室へと向かった。
その音に驚いたのか、京子がリビングからひょこっと顔を出した。
「明日奈、何をバタバタしているの?」
「ごめん、これから八幡君とお出かけだから、急いでシャワーを浴びないと!」
「もう、そういうのはもっと余裕を持って準備しなさい!」
「は~い!」
丁度その時家のチャイムが鳴った為、
京子はそれ以上は何も言わずにリビングに戻り、インターホンの操作を始めた。
それを横目で見ながら明日奈は浴室のドアを開けて中に入り、
服を脱いだ時点で、着替えの下着を忘れた事に気がついた。
「あ、しまったなぁ、まあいっか、どうせ後でどれを着るか悩む事になるんだし、
洗濯物を無駄に増やす事もないよね」
明日奈はそう呟き、出来るだけ簡単に済ませようと思って体を洗い始めたのだが、
いざそうなってみると、ここもそこもとあちこちが気になり、
結局念入りに体を磨く事になってしまった。
「うぅ、時間大丈夫かなぁ?まあでも家に迎えに来てくれる事になってるんだし、
ちょっとくらい遅れても平気だよね」
そう言いながら、明日奈は浴室のドアから顔を出し、そっと外の様子を伺った。
先ほど来客があった事を覚えていたからである。
「お母さん?」
明日奈は試しに京子に呼びかけてみたが返事は無く、
リビングに人がいる気配もまったく無い。
「出かけたのかな?まあいいや、ちょっとはしたないけど、このまま裸で部屋に……」
明日奈はそう言うと、さすがに恥ずかしかったのだろう、
急ぎ足で自分の部屋へと向かい、その扉を開けた。
「さて、急いで準備し………な………」
明日奈はそう呟きかけ、中に二人の人物がいるのを見付け、硬直した。
「………明日奈、あなた、さすがに年頃の女の子がそれはどうかと思うわよ、
まあ八幡君にサービスしたい気持ちは分かるけどさ」
「おっ、お母さん………というか、えっ?は、八………」
そして京子の後ろから出てきた八幡が、
困った顔をしながら明日奈に下着を差し出してきた為、
明日奈は何も考えられないままその下着を受け取り、いそいそとその場で着替え始めた。
その少し前、京子は明日奈が浴室に消えたのを横目で見つつ、
インターホンのボタンを押して、来客の様子を確認しようとしていた。
「はい、どちら様ですか?」
「あ、明日奈、俺だ、八幡だ」
「あら?」
京子は八幡が自分と明日奈を間違えている事に気付き、
ニヤニヤしながら明日奈の真似をした。
「八幡君!待ってて、今行くから!」
そして京子は玄関の扉を開け、いきなり八幡に抱きついた。
「八幡君!」
「うわっ、いきなりどうしたんだよ明日………いや、今日?じゃなくて京子さん?」
「違うよ八幡君、私は明日奈だよ、二十五年後の」
「え、あ、いや、そう言われると確かにそうなるのかもしれませんけど……」
八幡はさすがに京子相手に強く出る事も出来ず、まごまごしていた。
京子はそんな八幡の顔を見て満足したのか、八幡を解放し、家の中に招き入れた。
「ふふっ、ごめんなさい、冗談よ冗談。でも私と明日奈の声、そんなに似てた?」
「そうですね、普段はそこまで意識する事はないんですが、
たまに、あれっ?って思う事がありますね」
「そう、それはちょっと嬉しいわね」
京子はそう言うと、八幡をリビングに案内し、手際よくコーヒーを出してきた。
「はい、砂糖とミルク増し増しね」
「あっ、す、すみません」
「それでね、ごめんなさい、悪いんだけど、明日奈は今シャワーを浴びてるのよ」
「あ、そうでしょうね、俺が予定より早く来ちゃっただけなんで、このまま待ってます」
「今日はこの後デートなのよね?」
「はい、その予定です」
「そう………今日はそのまま帰ってこなくていいから、
三ヶ月後くらいに、孫が出来たって報告をしてくれると嬉しいんだけど?」
「い、いや、それは………」
もしこれが理事長だったら、八幡ももっと強い態度で説教なりなんなりしたと思うが、
さすがに京子相手だと、八幡もそこまで強く出れないのであった。
「あら、嫌なの?」
「嫌というか、ちょっと早いかなと」
「私としては、一刻も早く八幡君に、お義母さんと呼んで欲しいのよねぇ」
そう言いながら京子は、チラッチラッと八幡の方を見た。
どうやら催促されているようだと思った八幡は、
そんな京子対し、真面目な表情になってこう言った。
「いや、今でもちゃんとそう思ってます、お義母さん」
八幡がそう言った瞬間に、京子はソファーにどっと倒れた。
「うわっ、お、お義母さん?」
「だ、大丈夫、ちょっと興奮しすぎてのぼせただけだから」
「そ、そうですか……」
(京子さんって、最初会った時はもっとクール・ビューティーって感じだったんだけどな)
今でも八幡以外の前ではそうなのであるが、八幡は当然その事を知らない。
そして京子はスクッと立ち上がり、八幡の肩をポンと叩いた。
「八幡君にそこまで言ってもらったんだから、私も女気を示さないといけないわね、
八幡君、明日奈の部屋に行くわよ?」
「え?あ、はい、でも何でですか?」
「実はさっき、明日奈は着替えも何も持たないで浴室に入っていったのよ。
だから明日奈が出てくる前に、今日明日奈が着る勝負下着を私達で選びましょう」
どうやら京子はその事をしっかりと見ていたようだ。
さすがデキる女はその観察力も一味違う。
「い、いや、それはさすがに……」
「大丈夫大丈夫、さあ、行きましょう」
「あ、ちょ、ちょっと……」
そんな八幡の手を京子は強引に引っ張り、
二人はそのまま二階の明日奈の部屋へと突入する事になった。
「あら、思ったよりも綺麗にしてるわね、まあでもこの後あの子は何を着ていくか迷って、
この部屋中を服でいっぱいにしちゃうんだけどね」
「そ、そういうものですか」
「そうよ、その中には当然下着も混じる事になるから、
今から私達がする事は、ある意味あの子の部屋の片付けと同義なのよ!」
「何ですかそのエクストリーム理論……」
その八幡の言葉には反応を示さず、
京子はいきなり明日奈の下着の入った引き出しを開けた。
(うわ、京子さん、マジでやりやがった……)
「あらあらまあまあ、これなんか私にも似合うと思わない?」
「ちょっ、想像しちゃうじゃないですか、そういう事を言わないで下さい!」
「あら、別にいいじゃない、私だってまだまだ女盛りなのよ?」
「た、確かに京……いや、お義母さんは凄く若く見えますし、お綺麗ですけど……」
「あらあらあら、私を口説いてくれるの?
もう、八幡君ったら、今日は明日奈じゃなくて私と一緒に出かけない?」
「いや、そういう訳には……」
「ふふっ、冗談よ、それでね、私はこの辺りがいいと思うんだけど」
そう言いながら京子は、いくつかの下着を取り出して八幡に見せてきた。
「は、はぁ、いいんじゃないでしょうか」
「もう、こんなチャンスは滅多に無いんだから、もっとしっかり選びなさい」
「は、はい……」
八幡はさっさと選んでこの場から脱出しようと思い、
京子が差し出してきた下着の中から何となく目についた、
生地が一番少ない下着を手に取った。
「あら、それはまた随分と大胆な……そう、あの子も大人になったのね……」
「ま、まあ俺達ももう成人ですからね」
「これをあの子が………?これは孫の顔が早く見れそうね、うん、実にいいわ!」
「い、いや、これはたまたま目についたのを手に取っただけでですね……」
その瞬間に、バタバタという足音と共に、部屋のドアが開けられた。
「さて、急いで準備し………な………」
全裸の明日奈はそのまま硬直し、京子はニヤニヤしながら明日奈に言った。
「………明日奈、あなた、さすがに年頃の女の子がそれはどうかと思うわよ、
まあ八幡君にサービスしたい気持ちは分かるけどさ」
「おっ、お母さん………というか、えっ?は、八………」
そして八幡は、困った顔で手に持った下着を明日奈に差し出したのであった。