ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第080話 これが最後だ

「おおおおおおおおおおおおお!」

「やった!やったぞ!」

「俺達の勝利だ!」

「さすがは四天王!」

 

 あちこちから大歓声があがったが、この日一番の賞賛は、やはりハチマンに向けられた。

そのハチマンはと言うと、アスナがジャンピングハグをしてきたので、

それを受け止めるのに必死だった。それを見てほとんどの者が驚いていた。

どうやら二人の関係を知らない者の方が多い事にハチマンは気付いた。

 

「あー、すまん言ってなかったな。俺とアスナは先日結婚した」

 

 それを聞いた者の反応は、納得する者が数割、

残りは主に悲しみと嫉妬の入り混じった反応を見せた。

そしてアスナが、さも当然というようにドヤ顔で、皆に言った。

 

「ほらみんな、私の愛する旦那様はこんなにすごいんだよ!」

 

 その言葉を聞き、一部の者達はまたかと頭を抱え、他の者達はぽかんとした。

 

「おいアスナ、こんな時までそれはちょっと恥ずかしいからさすがにやめような」

「でも、本当の事だし」

「わかったわかった」

 

 ハチマンは、優しい表情でアスナの頭をなでなでした。

アスナはそんなハチマンにしっかりと抱きついていた。

 

 その言葉と姿に我に返った一同は、口々に叫び始めた。

 

「ちくしょー!見せつけやがって!」

「アスナさ~ん、そんなぁ……」

「まあ俺は二人がお似合いだって昔から思ってたけどな」

「俺も俺も!」

「まあここは皆で二人の結婚を祝おうぜ」

「そうだな!」

「ありがとう、みんな!」

「その、ありがとな」

 

 ハチマンはそう言いながら全員の顔を見渡し、その過程でしっかりと、

ヒースクリフのHPが半分近くまで減っている事を確認し、アスナに耳打ちした。

 

「アスナ、俺はちょっとネズハの所にいってくる。全員を配置につかせた後、

ヒースクリフに話しかけて、ポーションを使わせないようにうまく誘導してくれ」

「……いよいよだね、わかった」

 

 そしてハチマンは、わざとヒースクリフに聞こえるように言った。

 

「それじゃ、俺はまずネズハを労ってくるわ。あいつ一度も休んでないしな」

「はーい」

 

 ハチマンはネズハの下へ向かい、表面上は労っているように見えるように、

肩をぽんぽんと叩きながら、握手をするふりをして麻痺回復ポーションを握らせた。

驚くネズハの表情をヒースクリフから隠しつつ、ハチマンはネズハに言った。

 

「ネズハ、自然な表情で聞いてくれ。時間が無いので詳しく説明している暇はないが、

この後ある事件が起こる。その時お前はそのアイテムを有効に活用し、

タイミングを見て攻撃してくれ。何の事かわからないと思うがすぐ分かる。すまん」

「いえ、わかりました」

 

 ネズハは詳しい説明を求めず、ハチマンに従った。

今まで積み重ねてきたハチマンへの信頼はとても大きかったようだ。

 

「本当にすまん。とりあえず休んでいてくれ。そのアイテムは絶対に手に持ったままだ」

「はい」

 

 ハチマンは引き返し、アスナと交代でヒースクリフの前に立った。

 

「後半休ませてやれなくてすまなかったな」

「何、最高の結果が出せたじゃないか。これくらいどうってことはないさ」

 

 ハチマンはその言葉に頷いた。

 

「それじゃ俺も少し休憩するぞ。お~いゴドフリー!」

 

 ハチマンに呼ばれて、ゴドフリーが走ってきた。

 

「ゴドフリーも団長を労ってやってくれ」

「おう、そうだな!団長、お疲れ様でした!」

 

 ハチマンはゴドフリーがヒースクリフに話しかけたのを確認すると、

エギルとクラインの後ろに回り、キリトにゴーサインを出した。

キリトはそれを見て、ヒースクリフに向けて全力で突撃した。

 

「むっ」

 

 最初に気付いたのはゴドフリーだった。

そのゴドフリーの視線に気付いたヒースクリフは振り向き、

突撃してくるキリトの姿を見て咄嗟に防御しようとしたが、ギリギリ間に会わなかった。

ガキン!と言う大きな音を聞いて振り向いた皆が見た物は、

ヒースクリフに攻撃を仕掛けたキリトの姿と、その頭の上に表示された、

《IMMORTAL OBJECT》の文字だった。

 

「お前いきなり団長に何しやがるんだよ!」

「おいちょっと待て、あれって……」

「え……?」

「不死属性……団長?」

 

 ヒースクリフは、長い長い溜息をついた。

 

「ふう…………」

 

 一同が注視する中、ヒースクリフがキリトに尋ねた。

 

「どうして気付いたのかねキリト君。もし私の正体に気付く者がいるとしたら、

それはおそらくハチマン君だろうと推測していたんだがね」

「いや、お前の推測は合ってるぞ。最初に気付いたのはハチマンだ。

ヒースクリフ。いや、茅場晶彦!」

 

 そのキリトの言葉を聞いた瞬間、周囲がざわついた。

 

「ヒースクリフが茅場?まさかそんな事が……」

「でも今の表示、不死属性って出てたのを見ただろ?」

「まさか……まさか……」

「団長!」

「団長、まさか本当にあなたが茅場晶彦なのですか?」

 

 最後にゴドフリーがそう尋ね、ヒースクリフがそれに答えた。

 

「まさかこんなに早くバレてしまうとは想定外だったがね。そうだ。私は茅場晶彦だ」

 

 そう言いながらヒースクリフはウィンドウを操作した。

次の瞬間、全員が麻痺状態に陥った。

 

「ぐあっ……何だ……?」

「団長……」

「さて、これで落ち着いて話せるね。ハチマン君、いつ気付いたのかね?」

「この前俺の前で、システムアシストを使ったでしょう?

前から疑いは持ってたけど、確信したのはその時ですね」

「……やはりあの時か。あの時はキリト君のあまりの攻撃の鋭さにまずいと思って、

咄嗟にシステムアシストを使ってしまったんだ。

君には気付かれていないと思ったのだが、あれは演技だったのだね」

「ええ、まあ」

「私とした事が、これは一本とられたようだ。いや、さすがと言うべきか」

「うかつでしたね」

「まったくだよ。もうちょっと君達と一緒に冒険を楽しみたかったのだがね」

「団長!」

「嘘だと言って下さい、団長!」

 

 血盟騎士団の団員達は、まだこの事態が信じられないというように、

必死にヒースクリフに声をかけていた。そんな団員達に向けヒースクリフは言った。

 

「最初から私は、九十五層あたりで自ら正体をバラして、

百層のボスとして君達の前に立ちはだかる予定だったんだがね」

「まあ、最後はそうするつもりなんじゃないかと思ってました」

「そこまで推測してたのか、さすがだねハチマン君。

とても残念だが、私はこのまま百層で君達を待つ事にするよ。

しかしまあ、ここでただ立ち去るだけと言うのもつまらない。

ここは一つ、君達に最後のプレゼントをしようじゃないか」

「プレゼント?」

「ああ。ここで誰か一人、代表の者と私がデュエルを行う。

もし私に勝てたら、このゲームをクリアしたものと認めようじゃないか」

「……わかりました。その話、乗ります」

 

 キリトとクライン、そしてエギルはこの一連の流れに驚いていた。

ハチマンの推測通りに話が進んでいたからだ。

もちろんアスナの反応はいつも通りだったが、そこはあえて触れないでおこう。

 

「で、今度こそハチマン君が私の相手をしてくれるのかい?」

「いや、どう考えても俺のスタイルだと勝つのは無理ですね」

「それじゃ、キリト君と再戦という事になるね」

「そうですね。それじゃ頼んだぞ、キリト」

「ああ」

「それでは私とキリト君のHPを全快させて、キリト君の麻痺を解除しよう。

完全決着モードでデュエルだ。もちろん私の不死属性も解除しておく」

「やっと決着がつけられるな、ヒースクリフ」

「そうだな、今度こそちゃんと決着をつけようじゃないか」

 

 そしてキリトが、その場にいる者だけではなく、もちろん声は届かないのだが、

気持ちの上ではアインクラッドにいる者全員に聞かせるようなつもりで叫んだ。

 

「俺はここに囚われている全ての人達の想いを背負って戦う。

そして必ず皆を解放してみせる。ヒースクリフ、お前がこの世界そのものだとするならば、

俺はその世界そのものを、みんなの想いの力で超えてやる」

「システムを意思の力で超える、か。そんな事が出来るのならば、是非見せてもらおう」

「いくぞ」

「ああ」

 

(意思の力でシステムを超える、か……こっちもそろそろ準備しないとな)

 

 ハチマンは二人が構えたのを見て、クラインとエギルに素早く耳打ちした。

 

「手はず通りに二人は俺とアスナが飛び出した瞬間に麻痺回復ポーションを使ってくれ。

俺達はデュエルが始まった瞬間に使用する。これが本当に最後の戦いだ。頼むぞみんな」

「おう」

「やってやろうぜ」

「絶対にここできめよう」

 

 そして合図と共についに運命のデュエルが開始された。


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