「ここ?随分と綺麗な建物だねぇ」
「ここは先月完成したばかりで、まだ誰も使った事が無いらしい、
社内での予約が始まったら案外大人気になるかもしれないな」
「どうだろう、ここって周りに何も無いし、結構山奥じゃない?」
「まあそうなんだが、うちの社員は他社と比べて免許の取得率と車の所持率が高いから、
その辺りはみんな何とかするんじゃないか」
「えっ、そうなんだ、それは知らなかったなぁ」
「ちなみに紅莉栖はまだ十七なのに、もう免許を持っているらしいぞ」
「えっ、そうなの?」
「ああ、アメリカで十六になった時に直ぐ取得したらしい」
「ああそっか、あっちは早いんだ、凄いなぁ……」
そして八幡は、チラリと空を見上げてこう言った。
「しかし確かにこんな山奥だとは思っていなかったから来るのも若干大変だったが、
その分星も綺麗に見えそうで良かったな」
「うん!凄く楽しみ!」
八幡と明日奈がそんな会話をしている横で、
キズメルとユイは、何故か下を向いて黙っていた。
それに気付いた明日奈は、きょとんとしながら二人にどうしたのかと尋ねた。
「二人ともどうしたの?何かあった?」
「いや、せっかくだから屋上とやらに行くまで、空を見ないようにしようと思ってな」
「車の中でも極力上は見ないようにしてたんですよ、ママ!」
「あ、そうだったんだ、それじゃあとりあえず中に入ろうか、
そうすれば無理に下ばかり向いている必要もないしね」
「そうしてもらえると有り難い」
その言葉を受け、八幡が家の鍵を開け、四人はそのまま中へと入った。
「これでオーケーっと。俺はとりあえず屋上の様子を見てくるから、
いつかまたみんなでここに来る事もあるだろうし、
三人は保養所の設備でもチェックしながらのんびりとしててくれ」
「うん分かった、そっちはお願いね、八幡君」
「おう」
八幡はそう言って、二階へと上がっていった。
明日奈はそれを確認した後にリビングへらしき部屋へと向かって歩き出したが、
何故かキズメルとユイが、明日奈の後に付いてこようとする気配がない。
「あれ、二人とも今度はどうしたの?」
「いや、アスナ、ドアが……」
「ごめんなさいママ、私達にはこのドアは閉められません!」
「ドア?あっ、そうか、二人は実際にここにいる訳じゃないもんね、
ごめんごめん、その事をすっかり忘れてたよ」
明日奈はそう言ってドアを閉め、三人は楽しそうに笑った。
こんなどうでもいい事でも、今の三人にとってはとても楽しい出来事なのだろう。
「それじゃあ改めてリビングに行こっか」
明日奈はそう言って二人の前に出ようとした。
入り口のドアを閉めた為、位置関係が先ほどとは逆になっていたからだ。
だがキズメルとユイは、今度は先ほどとは真逆の行動をとった。
まだ明日奈が開けていない部屋の扉に向かって突っ込んでいったのだ。
「あ、危ない!」
「ん?何がだ?」
「どうしたんですか?ママ」
「うおおおおおお!」
その瞬間に明日奈は、年頃の女の子にあるまじき驚愕の雄叫びを上げた。
その理由は簡単である。振り向いたキズメルとユイの顔が、
まるでレリーフのようにドアの表面に浮かび上がっていたからである。
「あはははは、作戦成功だなユイ」
「はい、大成功です!」
そんな明日奈を見て、二人は嬉しそうにそう言った。
「二人がドアを素通りしちゃう理屈は何となく分かるけど、作戦ってどういう事!?」
「うむ、実はな、これと同じ事が夕方にソレイユの次世代技術研究部であったんだよ」
「ちなみにその時の被害者はパパです!」
「まあその時はわざとやった訳ではなかったのだがな、すまん、今のはわざとだ」
「ちなみにその事を提案したのもパパです!」
ユイはそう言った瞬間に、明日奈の目がスッと細くなった。
「へぇ、ふ~ん、そうなんだ」
「マ、ママ、ちょっと雰囲気が怖いですよ」
「気のせいだよ、そう、八幡君がねぇ……」
タイミングが悪い事に、その時丁度八幡が二階から降りてきた。
その表情はまったく普通であった為、おそらく外に居たか何かで、
今の明日奈の雄叫びは聞いていなかったのだろう。
聞こえていたら、こんなに平然とした顔はしていないはずである。
「お~い明日奈、こっちの準備は終わっ…………てなかったわ、
すまんすまん、それじゃあまた後で」
八幡は明日奈の表情を見て身の危険を感じたのか、
そう言ってスッと踵を返し、屋上へと戻ろうとした。
その瞬間に明日奈が凄まじいスピードでダッシュし、八幡の足首をガシッと掴んだ。
「はぁ~~~ちぃ~~~まぁ~~~んん~~~くぅ~~~ん?」
「ひいっ」
八幡は、髪を振り乱しながら足にまとわりついてくる明日奈の剣幕にかなりびびり、
その原因についてすぐに思い当たり、
キズメルとユイに余計な事を言うんじゃなかったと後悔した。
「ま、待て明日奈、俺が悪かった!俺一人が驚かさせられるのはずるいから、
明日奈にも驚いてもらおうだなんて、下らない事を考えた俺が悪かった!」
「大丈夫だよ八幡君、痛いのは最初だけだから、ねっ?」
「い、一体俺に何をするつもりだ……」
「そうだねぇ、どうしよっかなぁ……斬る?刺す?それとも搾り取る?」
「搾り取るって何だよ!」
そしてもう逃げられないと悟った八幡は諦めて体の力を抜き、
明日奈がその上に圧し掛かろうとした瞬間にそれは起こった。
二人の顔の前に、人の生首が二つ、突然浮かび上がってきたのである。
「うおおおおおおおお!」
「きゃああああああああ!」
「明日奈、そろそろ落ち着いたらどうだ?」
「パパ、ママ、仲良くしなきゃ、めっ、ですよ?」
よく見るとそれはキズメルとユイであった。
二人はどうやら階段の下から床板を通過して顔を出したらしく、
八幡と明日奈はその事を理解し、安堵のあまりその場にへたりこんだ。
「今のはマジびびったわ……」
「う、うん、心臓が止まりそうだったね……」
そして二人は顔を見合わせて笑った。
「すまん明日奈、俺が余計な事を言ったばかりに……」
「ううん、よく考えたら滅多に……というか、多分一生見る事がないレアな光景だったし、
私もちょっと過剰反応しすぎちゃったよ、ごめんね」
こうしてキズメルとユイの体を張った仲裁のおかげで、
二人の喧嘩とも言えない喧嘩はあっさりと終わり、
そのまま四人は八幡に案内されて、屋上へとのぼった。
そこにはレジャーシートの上にいくつかクッションが置いてあり、
四人はそこに寝そべって、満天の星を眺めた。
「おお、壮観だな」
「凄い………これを見せられたら、私のちっぽけな悩みなんて一気に吹き飛んじゃうよ」
「パパ、ママ、お空がキラキラしてます!」
「なるほど、確かにアインクラッドの空とはまったく別物だな、
まるで空が泣いているかのようだ」
「ふふっ、星の涙って感じかな」
四人はそのまま感動した様子で静かに星空を眺めていたが、
やがて八幡がボソリとこう言った。
「やっと約束を果たせたな、みんな、待たせて悪かった」
「ううん、かなり早かったと思うよ」
「そうですよ、全然遅くなんかなかったです!」
「謝る必要なんかないさ、私達は家族なんだからな」
四人の間には血の繋がりが一切無いが、そんな事はまったく関係なく、
この四人は今この瞬間、確実に家族であった。
「ああ、そうだな」
「うん、そうだね!」
四人はそのまましばらくそうしており、
やがて明日奈がくしゃみをしたのをキッカケに、四人はリビングへと戻る事にした。
「どうだ明日奈、気分転換にはなったか?」
「うん、バッチリ!今日はこんなに素敵な所に連れてきてくれてありがとう、八幡君!」
「パパ、ありがとうです!」
「これが感動するという気持ちなのだろうか、ありがとう、八幡」
三人にそうお礼を言われた八幡は、照れ隠しなのか、頭をかきながらこう言った。
「礼なら今度、クリシュナやリオンに言ってやってくれ」
「あ、確かにそうだね!」
「そうか、あの二人にも礼を言わないとな」
「ですね!」
そして八幡はチラリと時計を見ながら三人に言った。
「さて、もういい時間だし、この続きは今度という事にしてそろそろ帰るとするか」
「あ、あの………八幡君」
その提案の直後に、明日奈が八幡の顔色を伺うようにそう声を掛けてきた。
「ん、どうした?」
「えっと、ちょっと移動で疲れちゃったし、今日はこのままここに泊まっていかない?」
確かに時間はもう夜の十一時を回っており、
今から戻るのも、いくら運転をキット任せにしているとはいえ、
かなり体に負担がかかると思われた。
「そうだな、長距離移動は座ってるだけでも体力を消耗するし、
明日は多少学校に遅刻するくらいのつもりで今日は泊まっていくか」
「やった!」
幸いここに来る途中の高速のインターで軽く食事を済ませてあった二人は、
食事の事は気にせず一緒に風呂にだけ入り、
(キズメルとユイもいたかもしれないが、
ニューロリンカーを風呂場に持ち込むのは躊躇われた為、その姿は二人には見えなかった)
この日は大きな窓のある部屋で、星空を眺めながら四人で並んで寝る事にした。
もっともキズメルとユイには基本寝る機能はついていない為、
(以前ユイがSAOで初めてハチマン達に会った時は、
寝ていたのではなく機能の一部が壊れ、自己修復中だけだっただけである)
二人は先に寝た八幡と明日奈の顔と、そして星空とを幸せそうな顔で交互に眺めていた。
そして次の日の夕方、学校から帰ってすぐにALOにログインしたアスナは、
昨日までの悩みが嘘のように体が軽く、今なら何でも出来そうだと感じていた。
「昨日は星が凄く綺麗だったなぁ」
アスナは昨日の事を思い出しつつ、
地上に星を顕現させようというつもりで星の形に剣を振るった。
その瞬間に、今までピクリともしなかった、
オリジナル・ソードスキルの認証システムがピコンと反応した。
「えっ?ま、まさか今のが登録可能になったの?」
コンソールに目をやると、そのソードスキルは当たり前だが五連の突きで構成されていた。
「何も考えずに本当にリラックスした状態で動けたせいかなぁ」
アスナは今までの苦労は何だったのかと苦笑しつつ、
名前を入力する為のスペースに目をやった。
「名前か………」
そんなアスナの脳裏に、昨日四人で見た星空がフラッシュバックしていく。
「うん、これしかないね、私は昨日見た星空を、きっと一生忘れない」
『スターリィ・ティアー』
星の涙、そう名前を入力し、登録を完了させたアスナは暁姫を構え、
裂帛の気合いを込めて、今自らが作り出したばかりのソードスキルを放った。
「スターリィ・ティアー!」
その五発目をアスナが放った瞬間に、
剣を追いかけるように星のようなエフェクトが発生した。
おそらく偶然そのエフェクトが選択されたのであろうが、
アスナはそれを天からの贈り物のように感じた。
「もっと先までいけそうな気もするけど………」
アスナはそう呟いた後、珍しく興奮したような様子で、
空に向かって両手を広げながらこう叫んだ。
「とりあえずの目標は達成したぞぉ!」
こうしてアスナのオリジナル・ソードスキル『スターリィ・ティアー』がここに誕生した。