仮眠室から出た八幡は、そのままその場を離れてしまうのが躊躇われ、
隣接した自動販売機の前のソファーに腰掛け、
心配そうな顔で理央のいる仮眠室のドアを眺めていた。
「くそ、理央にあんな顔をさせちまったのに、はいそうですかと帰れる訳がないだろ……
とはいえ仮に顔を合わせたとしても、何を言っていいのか分からねえ……」
八幡はそんな葛藤を続け、どうすればいいか決める事が出来ず、その場に留まり続けた。
「………八幡、何してるの?」
そんな八幡に声を掛けてきたのは紅莉栖であった。
どうやら飲み物を買いに来たらしい紅莉栖は、迷い無くドクペを購入した後、
少し考え込んだ後、ドクペをもう一本買い、八幡に差し出してきた。
「はい、これ、おごりね」
「お、おう、ありがとな」
そして紅莉栖はそのまま八幡の隣に腰掛けた。
「で?」
「ちょっと理央と色々あってな」
「理央と?ああ、もしかして言い寄られたりしちゃった?」
「…………」
「ふ~ん、まあ若い時は勢いで突っ走ったりしちゃうものよね」
八幡を取り巻く女性関係にそれなりに詳しい紅莉栖は、
八幡が何も言えないのを見て何となく何があったのか理解したのか、訳知り顔でそう言った。
「さっきキョーマも言ってたが、お前の方が理央より若いと思うが……」
「言ったのはあんたでしょうが!」
「俺だろうがあいつだろうが、多分同じ事を言ったはずだ」
「知ってる?正論ってのはたまに人をイラッとさせるものなのよ」
「とりあえず落ち着け、ほんの軽い冗談だ」
紅莉栖はそう言われ、深呼吸をした。
「オーケーオーケー、それについてはとりあえず置いておきましょう。
で、八幡は理央に気持ちを伝えられてどうしたの?キッパリと断ったとか?」
「いや、その前に向こうが引いた」
「へぇ、そこは最後の最後で踏みとどまったんだ」
その時八幡のスマホにメールが届いた。
それはALOの中からアスナが送ってきたメールであった。
「お、アスナがオリジナル・ソードスキルを完成させたらしい」
「あら、やったじゃない、それじゃあ八幡はALOに行ってきなさいよ、
こっちの事は私に任せなさい、上手く事を収めておいてあげるから」
「いや、でも………」
「気持ちは分かるけど、八幡にはどうする事も出来ないでしょ?」
「まあそうなんだが……」
八幡はそう煮え切らない態度を見せたが、そんな八幡に紅莉栖は言った。
「これは役割分担よ、それがいつもの私達のやり方でしょ?
だから理央の事は私に任せなさい」
「お前………やっぱりいい女だよな」
「ふえっ!?い、いきなり何を仰られますか!?」
突然八幡がそんな事を言った為、紅莉栖は激しくテンパった。
「いや、まあ普段も色々な機会に色々な奴にそう思ってはいるんだが、
お前以外にはそんな事、口に出して言えないからな」
「まあ確かにあんたが恋愛関連のあれこれから自由でいられるのは、
私と他数人が相手の時くらいよね」
「そういう事だな、それじゃあ後は紅莉栖に任せるわ、頼むぞ相棒」
「任せなさい、相棒」
二人は笑い合い、自分の役割を果たす為、それぞれの目的地へと向かって歩き出した。
オリジナル・ソードスキル『スターリィ・ティアー』を完成させたアスナは、
早くその事を仲間の誰かに伝えたいと思い、街に向かって全力で走っていた。
そしてはじまりの街に到着し、中央広場付近に差し掛かった時、
とある事を思いついて足を止めた。
「そうだ、ハチマン君にだけは先にメールで伝えておこうかな」
アスナはそのままハチマンにメールをし、直ぐに返信を受け取った。
『今ソレイユだから、すぐログインしてそっちに行くわ』
「ハチマン君が来てくれるんだ、え~と、それじゃあ待ち合わせは……」
アスナは剣士の碑で待ち合わせをしようと返信し、そのまま走り続けた。
「あっ、ハチマンく~ん!」
アスナが丁度剣士の碑に到着した時、同時にハチマンも姿を現した。
「おう、やったなアスナ」
「うん、今回は本当に苦労したけど、ハチマン君のおかげで無事完成したよ」
「俺のおかげ?俺、何かしたっけか?」
「それは後で披露する時のお楽しみね」
「そうか、それじゃあこのままヴァルハラ・ガーデンに………」
ハチマンがそう言いかけた時、二人の近くにいきなり多数のプレイヤーがPOPした。
「おっと、どこかのパーティが全滅でもしたか?」
「みたいだね」
二人はそう言いながら少し横に避けたが、
そんな二人の耳に、聞きおぼえのある声が飛び込んできた。
「だぁ、やられたぁ!」
「みんな一体何があったの?」
「いや、それが俺達にもよく分からなくてさぁ……」
「録画はしておきましたから、一度拠点に戻ってそれを見ながら反省会ですね」
「そうね、それじゃあとりあえずスリーピング・ガーデンに………」
そう言って振り向いたランとハチマンの目がバッチリ合い、
その横ではユウキがアスナを目ざとく見付け、こちらに掛け寄ってきた。
「あ、あら?ハチマンじゃない」
「アスナ~!」
「ユウキ!久しぶり!」
無邪気に再会を喜ぶ二人の横で、ランは気まずそうな顔でハチマンに話しかけてきた。
「おほんおほん、これは格好悪い所を見られてしまったわ」
「いや、別にそんな事は思わねえよ、っていうか一体何とやり合ったんだ?
今のお前達が負けるなんて、フィールドボスにでも喧嘩を売ったのか?」
「いや、えっと………黒鉄宮の、ハチマンが私達への試練として設定したアレ………」
「マジか、あの気持ち悪くて絶対に触りたくなかった腐れガエルって、
そんなに強かったのか?」
「あ、やっぱりそう思ってたんだ……」
ランにジト目で見られたハチマンは、その視線を華麗にスルーした。
「いやぁ、それは災難だったな」
「災難っていうか、まあどうして負けたのかもよく分からないんだけどね、
気が付いたら私とユウ以外の全員が死んでたし」
「む、敵の攻撃方法も分からないのか?」
「一瞬の出来事だったんだよ兄貴」
「でも録画はしておいたので、これからそれを見て検証しようと思ってます」
ジュンとシウネーが横からそう言い、反対からもこんな声が掛けられた。
「ハチマン君、その映像、私達も一緒に見せてもらわない?」
少し離れた所でユウキと話していたアスナが、横からハチマンにそう言ってきた。
「ん、まあ俺は別に構わないが」
「というか、ハチマン君ってやっぱりユウキ達と知り合いだったんだね、
ユキノが知り合いだったから、もしかしたらとは思ってたんだ」
「ああ、こいつらは俺の弟と妹みたいなもんだ」
ハチマンはそう言って、たまたま自分の右手の近くにいたノリの頭を撫でた。
そのラッキーなノリに対し、ランとユウキは頬を膨らませたが、ハチマンは取り合わない。
「というか、アスナがユウと知り合いだった事の方が驚きなんだが」
「そう?もう会うのは今日で三度目だよね、ユウキ」
「うん!ボク達とっても仲良しなんだよ、ハチマン!」
「そうか、まあ世間は狭いって奴だな」
ハチマンはそれで納得し、その正面にいたランがアスナの前に出て、丁寧な挨拶を始めた。
「アスナさん、始めまして、スリーピング・ナイツのリーダーのランと言います、
妹がとてもお世話になっているみたいで、どうもありがとうございます」
「これはご丁寧にありがとうございます、ヴァルハラの副長を努めております、アスナです」
そう言われたランは、同時にアスナの服装を見て一瞬ギョッとしたような表情をした。
だが特に何も言う事はなく、すぐに笑顔を作ってアスナにこう言った。
「堅苦しいのはここまでにして、アスナさん、確かさっき、映像を一緒に見るって……」
「あ、うん、私もあのボスの事は知ってるけど、
まさかそこまでおかしな敵だとは思ってなかったから、ちょっと興味があって」
「なるほど……ちょっと検討させて下さい。
ユウ、しばらくアスナさんとお喋りしてていいわよ」
「いいの?やった!」
ユウキは無邪気にそう言い、言われた通りにアスナと話し始めた。
そしてランは、ハチマンにこっそり話しかけた。
「ハチマン、これってどうなの?」
「確かに俺が与えた試練に関しての映像を俺達が見て何か言うってのは、
結構線引きとしては微妙な気もするな。まあでも別にいいんじゃないか?
俺達はただ思った事を言う、お前達はそれを参考にする、
まあ利用出来るものは何でも利用するってのは、普通にアリだろ」
「ふむ、それじゃあお言葉に甘える事にしようかしらね」
「で、どこで見る?」
「うちのギルドホーム」
その言葉にハチマンは目をパチクリさせた。
「おお、あの家を買ったんだな、やるじゃないか」
「ふふん、凄いでしょ!」
「それじゃあ早速うちのホーム、『スリーピング・ガーデン』に向かいましょう」
「つ~か名前をパクんなコラ」
「てへっ、まあいいじゃない、それじゃあ行きましょ」
こうしてハチマンとアスナは、スリーピング・ガーデンの正式購入後、
初の訪問者となったのだった。