今日から一週間休みなので、そこで出来るだけ書き溜めたいと思います!
スリーピング・ガーデンに向かう道中、
ランが後ろを歩くハチマンとアスナをチラ見しながらヒソヒソとユウキに話しかけてきた。
「ユウ、あなたね………」
「ん?ラン、一体どうしたの?」
「どうしたじゃないわよ、どういう事なのユウ!」
「え~?何の事?」
「あの格好からして、アスナさんってヴァルハラの副長じゃないのよ!」
「あ、うん、それがどうしたの?」
「さすがにハチマンから与えられた試練をこなすのに、
ハチマンの所の副長を借りたら駄目でしょう!?」
「あ~………うん、それはボクも考えないでもなかったんだけどね、
さっきも言ったけど、ヒーラーだからまあセーフかなって思ったし、
何より下手に知らない人に頼むよりは、全然いいと思わない?
むしろこれ以上の人材はいないっていうか」
「むむ………」
確かにユウキの言いたい事も分かるのだ。
アスナは今のスリーピング・ナイツにとって、ヘルプとしては最高の人材であった。
あくまで自分達が主体で敵を倒すとして、アスナには回復補助のみを担当してもらい、
野良のプレイヤーを雇った場合と比べてユウキ達に不利益な行動をとる心配もなく、
ヴァルハラの副長である以上、ヒーラーとしての腕はALOのトップクラスだろうし、
その実力に何の疑問も差し挟む必要はなく、その上他のメンバー達とも仲が良い。
「むぅ……一応言ってみて、ハチマンの反応待ちという事にしておこうかしら、
もしそれでハチマンが駄目と言ったら諦めるのよ、ユウ」
「うん、分かった、それでいいよ!」
そんな二人の後方でアスナもまた、ひそひそとハチマンに話しかけていた。
「ねぇハチマン君、ユウキ達って多分凄く強いよね?」
「ああ、まあそうだな」
「で、戦ったのって黒鉄宮の例の気持ち悪いカエルだよね?」
「おう、トード・ザ・インフェクションだったか、あの感染カエルだな」
その言葉から、ハチマンがインフェクションの意味を正確に把握している事が分かる。
もっともその意味をハチマンに教えたのは丁度パーティに参加していたクリシュナであった。
「強さから言えば、大体アインクラッドの三十層のフロアボスくらいの強さになるのかな?」
「それよりは劣るだろうが、フィールドボスくらいの強さはあるかもしれないな」
「なるほど、それでも負けたとなると、やっぱり初見クリアを連続で続けるのって、
天文学的な確率の低さになりそうだよね」
アスナはそう遠まわしな言い方をしたが、何が言いたいのかは明らかである。
「だろうな、色々と落ち着いたら、本気で同盟を調査してみるか」
「それがいいね、何をしているのかは分からないけど、
真っ当な攻略方法じゃない可能性が高いもん」
二人がそう真面目な話をしているうちに、一同はスリーピング・ガーデンへと到着した。
「着いたよ!ようこそボクらの家、スリーピング・ガーデンへ!」
「ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?」
「いい所じゃないかユウ、それじゃあ中を案内してくれ」
「うん、こっちだよ!」
ハチマンは当然のようにランをスルーし、ランはそんなハチマンに猛抗議した。
「ちょ、ちょっと!何で相手してくれないのよ!」
「相手をしてもらえるような事を言え、以上だ」
「ぐぬぬ……」
ランはその場で悔しそうに立ち止まり、どこかからハンカチを取り出して噛み締めたが、
それがランにとっては痛恨のミスとなった。
リビングに移動した後、録画を担当していたシウネーが準備をしている間、
一同は思い思いの場所に座る事になったのだが、そのせいで出遅れたランは、
ハチマンの隣をアスナとユウキに先に確保される結果となってしまったのだ。
もっとも急げばアスナが座っている位置は確保出来た可能性があり、
事実ランも早めにその事に気付いて小走りでその場所へと向かっていたのだが、
アスナがこれ以上無いくらい自然な態度でハチマンの隣にスッと腰を下ろした為、
抗議をする間もなく場所を奪われたというのが実際の話であった。
(むむむむむ、もしかしてアスナさんって、
ユキノさんの最大のライバルだったりするのかしら………)
その極めて自然な動きを見てランはそう思ったが、
その事をハチマンの前で直接口に出すのは躊躇われた為、
無言のままハチマンの前に座り、チラチラとアスナの様子を観察するに留める事にした。
「それじゃあ準備が出来ましたので、動画を再生しますね」
「おお、何か映画を見るみたいなワクワク感があるな!」
「まあ自分達がやられ役の映画だってのが情けない所だけどね」
「まあそう言うなお前達、初見でやられるのは仕方がないさ、要は次勝てばいいんだよ次」
ハチマンが励ますようにそう言い、それを横目で見ていたシウネーは、
微笑みながら再生ボタンを押した。
「出た出た、トード・ザ・インフェクション!」
「ねぇ兄貴、インフェクションってどういう意味?」
「ん?ああ、感染とかそういう意味だな」
「ああ~、そういう事か!名前の意味が分かってれば、
余計な実験をしなくてもある程度敵の攻撃が推測出来たのに!」
「だな、勉強しろ勉強」
「ちぇ~っ、もう少し頑張るかぁ」
以前トード・ザ・インフェクションに遭遇した時に、
ハチマンが同じ事をクリシュナに尋ねていたのを知っているアスナは、
そのハチマンのセリフを聞いて、クスクスと笑っていた。
「ふむ、敵から放たれた液体を調べたのか、よく敵が襲ってこなかったな」
「それが謎なんだよね、攻撃してきたからにはこっちの事を感知してると思うんだけど」
「攻撃はしてくるが動かない敵も中にはいるからな、
もしかしたらそれかもしれないな。待ち伏せタイプの敵って奴だ」
「へぇ、そんなのがいるんだ」
「で、触ってみたら、傀儡化・カエルっていう状態になったと」
「そうなんだよ兄貴、凄く気持ち悪い感覚だった」
「全部避けないといけないってのは面倒だな」
「一応口に注目して戦ってたんだけど、口を開いた瞬間に避ける事になるから、
さすがに全部は避けられなかったなぁ」
「ふむ………アスナ、どう思う?」
ここでハチマンはアスナに話を振った。
攻略慣れしているアスナなら、何かに気が付いたかもしれないと思ったからだ。
その期待通り、アスナはこんな指摘をしてきた。
「口を見てからだと確かに避けきるのは難しいね、でも見て、カエルの口が開く前に、
喉が不自然に膨らんでるでしょ?多分あそこを見れば上手く避けられるんじゃないかな」
「あっ、本当だ!」
「さすがはアスナ!」
「ううん、こうして動画で見てるから気付いただけだし、
実際その場にいたら気付いたかどうか分からないよ」
ユウキに褒められたアスナは、謙遜するようにそう言った。
「まあでも顔の向きを見てから避けるのでも、
若干回復の手間がかかるだけで、削り自体は順調じゃないか」
「特にユウキとランさんの削りが凄いね」
「いやぁ、それほどでも!」
「ふっ、さすがは私ね」
「腕もそうだけど、二人の持ってる武器ってちょっと凄くない?」
「金策をかなり頑張ったのよ!…………私以外のみんなが」
「この武器はね、スモーキング・リーフのおばば様に売ってもらったんだよ!」
そう言いながらユウキはアスナにセントリーを差し出し、、
アスナはそれを見せてもらいながら尋ねるような口調でこう言った。
「おばば様?」
アスナはスモーキング・リーフの六人とはかなり親しかったが、
スモーキング・リーフにそのような人物がいるなどとは全く知らなかった為、
訝しげな視線をハチマンに向けた。
「お、おばば様ってのは、スモーキング・リーフの出入りの商人プレイヤーでな、
ナタクやリズの作った製品を、たまに売ってあげてるんだよ」
「えっ?あのクラ………あ、ううん、そっか、そんな人がいたんだね」
アスナはその時こう言うつもりであった。
『えっ?あのクラスの武器は、今まで絶対に他のギルドには流さなかったよね?』
だがハチマンの目を見て何か言えない事情があるのだと悟ったアスナは、
それ以上何も言わないでおく事にした。
これが夫婦の機微という奴であろうか、もっとも二人はまだ夫婦ではないが。
「さて、そろそろ敵のHPが半分を切るな、この辺りで何か動きがあったんだろ?」
「よく分かるね、ハチマン」
「まあ大抵の敵がそうだからな」
そしてトード・ザ・インフェクションの体がいきなり崩れ、
さすがのハチマンとアスナもあんぐりと口を開けた。
「うげ………」
「ちょっと気持ち悪いね」
「まるでAKIRAだな」
「AKIRAって何?」
「ああ、まあ今度見せてやろう」
「あ、アニメか何かなんだね」
そう言いながらも二人は画面から目を離さず、じっと敵の動きを注視していた。
「これ、多分フィールドを分けたんだね」
「だろうな、赤がダメージゾーンだってなら、他の部分にも何かあるだろうな」
「やっぱりそういうものなんだ」
「そうだな、せめて検証している余裕があれば、
また違った結果になったかもしれないけどな、残念だったな」
「もう一人ヒーラーがいればまた違ったかもね」
「あ、アスナもやっぱりそう思う?」
「そうだねぇ、誰か他に回復補助を出来る人はいないのかな?」
「ごめん、ボク達ってば、いわゆる脳筋だからさ……」
ユウキはそう言ってポリポリと頭をかき、他の者達もそれに習った。
「で、二人での削りを選択したのか、まあそれしかないよな」
「ごめんなさい、私の力が及ばなかったせいで……」
「いや、お前のせいじゃないさ、物理的に無理だからな」
そう言ってハチマンはシウネーの頭を撫で、再び画面に目を向けた。
その瞬間に画面から凄まじい轟音が走った。
ユウキが『マザーズ・ロザリオ』を使ったのだ。
「い、今のは?」
アスナが呆然とした顔でユウキにそう尋ねた。
「うん、『マザーズ・ロザリオ』ボクのオリジナル・ソードスキルだよ!」
「オリジナル・ソードスキル………」
アスナは画面を見ながら呆然とそう呟いた。
「十………いや、十一連か?」
「うん、十一連ソードスキルだよ!やっぱり斬撃メインだと難しくて、
突きを主体にしたら上手くいったんだよね」
「突きを主体………」
(私の方針は間違っていなかった)
アスナはポジティブにそう考え、
『スターリィ・ティアー』が自分の終着点ではないと改めて確信し、
絶対にその上を目指そうと心に誓った。
そしてアスナは自分の遥か先をいくユウキを心から賞賛した。
「凄い凄い!まさかこんな凄い技を開発してたなんて、本当にびっくりした!」
「えへ、ありがとうアスナ、でもあの敵にはあんまり効かなかったんだよね」
「そういえば何か喋ってたように聞こえたかも」
「まずい、とか言ってたな」
「うん、まあ見てて」
そして画面の中のユウキが丁度その説明をした。
『ラン、こいつ、一度溶けた後に再構成されたんだと思ってたけど、勘違いだった!
こいつの体はまだゲル状態のまま、多分物理ダメージに対する耐性か、カットがついてる!』
「なるほど、そういう事か」
「このパターンだと、魔法メインで攻撃してたら魔法耐性がつくタイプの敵だね」
「そうなの?」
「ああ、ALOでは鉄板の一つだな」
「ああ、そっち系の情報も集めるべきでしたね……」
「まあ初見じゃそのタイプの敵かどうか判別するのは無理だから気にするな」
ハチマンがタルケンをそう慰めた時、テッチが横からハチマンに言った。
「兄貴、そろそろ問題の時間だぜ!この後にいきなり俺達の意識が無くなったんだよ!」
「そうそう、私とユウだけが生き残ったのだけれど、二人ともその場面は見てないのよね」
「ふむ………」
一同は画面を注視し、その瞬間を待った。
そしてランとユウキ以外の五人がいた部分の床が一瞬発光し、
床からゲル状の何かがいきなり飛び出して五人を飲み込んだ。
「うっわ」
「そういう事か………」
「こっちのフィールドにも何か仕掛けがあるだろうとは言ったけど、
まさかの即死ギミックとはね」
「これはたちが悪いな………」
その後、ランとユウキはかなり頑張っているように見えたが、
いくら敵の攻撃を全てかわしたとしても、ダメージゾーンの上で戦っている以上、
敵に勝利する術はもはやなく、そこでスリーピング・ナイツは全滅する事となった。
「なるほどな、こういう流れだったか……」
「改めて動画で見ると、でも勝てる目が無かった訳じゃないわよね?」
「そうだな、時間ギリギリに全員でダメージゾーンに踏み込んで、
かなり高価なポーションを各自が使用すれば、まあギリギリ何とかなったかもしれないが、
多分それでも本当にギリギリだぞ」
「ハチマンの分析でもそれだと、何か一つでもミスればそこで終わりと」
「やっぱりもう一人、後衛がいるかぁ……」
そしてユウキはやや躊躇いながらも、お願いするような口調でハチマンに言った。
「ねぇハチマン、次このボスに挑む時、
アスナに手伝ってもらったりするのって、駄目…………かなぁ?」
その言葉にハチマンとアスナは目を見張ったのだった。