ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第816話 こんなの知らない

 アシュレイの店を出た後、

転移門を経て二十四層にたどり着いたスリーピング・ナイツ一行であったが、

道中でランが、そういえばといった感じでアスナに質問をしてきた。

 

「ねぇアスナ、さっき『ハチマン君達が』って言ってたみたいだけど、

もしかしてこの先に、ハチマン以外にも誰かヴァルハラの人がいるの?」

「あ、うん、ハチマン君の他に、キリト君にユキノ、後はセラとロビンとシノノン……

あっとごめん、セラフィムとクックロビンとシノン、それにリオンちゃんがいるね」

 

 愛称では通じないと思ったのだろう、

アスナはセラフィムとクックロビンとシノンをしっかりとフルネームで言い直した。

 

「へぇ、ハチマンとユキノさん以外は知らない人ばっかりね」

「やっぱり俺達勉強不足だよなぁ」

 

 一応一同は理央とは面識があるはずだが、理央はその時リオンとは名乗らなかった為、

その事に気付く者は誰もいなかった。

 

「一応全員二つ名持ちだし、副長が全員集合状態なんだけどね」

 

 アスナは知らなければまあそんなものかと思いつつ、苦笑しながらそう言った。

ちなみに一応副長の一角であるソレイユは、メンバーの中では別枠扱いされている。

 

「えっ、そうなの?」

「うん、ちなみにキリト君以外はみんな女の子かな」

 

 その言葉にジュンが素早く反応した。

 

「聞いてた比率よりちょっと高いけど、俺は別に羨ましくなんかないからな!」

「ジュン、誰も何も言ってないわよ」

「い、いじられる前に言ってみただけだよ!」

「心配しなくても誰もジュンをいじってる暇なんかないわよ、

もし私達がいじるとしたらハチマンの方だし」

「そ、そうか、確かにそうだな!」

「あ~………多分今のハチマン君のガードは鉄壁だと思うから、

いじったり出来るかどうか分からないよ?

多分ファンの女の子達もどうやっても近付けないような状況だろうし」

 

 アスナは対ハチマン強行派がほぼ勢揃いという、

その豪華メンバーの事を思い浮かべながらそう言った。

ちなみに強行派の残りにはフカ次郎とイロハが居る。

穏健派はユイユイ、ユミー、スクナ、メビウス、シリカ辺りであり、

ハチマンをおもちゃにする派がソレイユ、フェイリス、レヴィ、アルゴで、

絶対中立派がリズベット、コマチ、リーファ、クリシュナ、アサギなのであった。

 

「そうなの?それってユキノさんがいるから?」

 

 そうユウキが思ったのは当然であろう、

アスナは当然その言葉の裏の意味には気付かないまま、

単に言葉の表面だけをとらえてこう答えた。

 

「ユキノは案外寛容な方だから、こういう時は過剰な反応を示さないよ、

よっぽどおかしなファンじゃない限りは、ハチマン君が嫌がってない限り大目に見るからね」

「そ、そうなの?それじゃあ一体誰が………」

「他の全員」

 

 その言葉にスリーピング・ナイツの全員が硬直した。

 

「そ、それはどういう……」

「あ~、まあ今いるメンバーはかなり個性的だからね、

まあちゃんと紹介するからみんなはそこまで警戒しなくてもいいよ」

 

(今回は私もいるんだから、おかしな事にはならないしね)

 

 アスナはそんな事を考えながらそう言った。

 

「個性的……」

「もしかして全員がランみたいな人だったりして」

「何それ怖い」

「常識で考えてそんな事ある訳ないんじゃないかな、だってあのランだよ?」

「あなた達、私の事を褒めすぎよ」

「「「「「「褒めてない!」」」」」」

「あはははははは」

 

 そんなスリーピング・ナイツの会話に笑いながらも、アスナは内心でこう思っていた。

 

(実はそんな事あるんだけどね)

 

 だが黙っていた方が面白そうだと思ったアスナはそれ以上何も言わなかった。

この辺り、どうやらアスナもハチマンもしくはソレイユに毒されているようである。

 

「あ、後ね、ヴァルハラのメンバーじゃないけど、ユージーン君もいるみたい」

「えっと、どちら様?ユウジン?アスナのお友達?」

「あはははは、確かに友人だけどね、ユウジンじゃなくてユージーン、

サラマンダー領の領主の弟さんで、まあ今は有名無実化しつつあるけど、

サラマンダー軍の将軍だよ。前にALO最強の剣士って言われてた人かな」

「その人はそんなに強いの?」

「うん、魔剣グラムの所有者で、こっちの攻撃は普通に防がれちゃうけど、

向こうの攻撃はこっちの武器を素通りしてくるっていう、とても厄介な相手だよ」

「何それずるい」

「チート武器かよ!」

「へぇ、面白そうな武器だねそれ」

 

 ほとんどの者が驚く中、ユウキが冷静にこう質問してきた。

 

「でもそんな武器を持ってるのに、今は最強じゃないんだ?」

「そうだね、今の最強は多分キリト君じゃないかなぁ、

ハチマン君も事あるごとにそう言ってるしね」

 

 その言葉に一同は仰天した。

 

「えっ、兄貴が最強じゃないの?」

「う~ん、多分ハチマン君は、そう言われてもキッパリと否定するんじゃないかな」

「兄貴よりも更に上がいるんだ………」

「少なくともハチマン君は、

キリト君とソレイユ姉さんは自分より強いっていつも言ってるよ」

 

 実はハチマンは、アスナの事も自分より強いと日ごろから言っているのだが、

さすがにその事を自分で言うのは恥ずかしかったようである。

 

「へぇ、そうなんだ」

「アスナ、さっき言ってた通り、後で色々聞かせてね。

ボク達ももっと色々な事を勉強しないとだし」

「うん、後でね」

 

 そんな会話を繰り広げているうちに、遠くによく目立つ巨大な木が見えてきた。

 

「あっ、目的地の観光スポットの木ってあれの事?」

「うん、そうだよ。でもハチマン君達は、あんな所に集まって何を………」

 

 そう言いながら、アスナはピタリと足を止めた。

 

「アスナ、どうしたの?」

「あ、うん、あの木の周りって何も無かったはずなんだけど、

よく見るとなんか凄く沢山の人が集まってない?」

「ん~?そういえば確かにそんな気も……」

「というか何か壁みたいな物があるよね?」

「その上に人の頭が沢山見えるな」

「あれって何だろうね」

「「「「「「「「う~ん」」」」」」」」

 

 一同は唸ったが、当然誰も正解にたどり着く者はいない。

もし当てられたら多分その者は神である。

 

「まあでもここってば観光スポットなんでしょ?だったらそれなりに人はいるんじゃ」

「う~ん、そういうレベルじゃないような」

「というかここにはあんな壁みたいな物は絶対に無かったはずなんだよね」

「まあとりあえず行ってきましょう、そうすれば理由が分かるはずよ」

「うん、そうだね」

 

 そして一同は、その木に向かって歩いていった。

 

「あ、確かに人が沢山いるね」

「その向こうにはいないみたいだけど、何があるのかよく見えないね」

「兄貴はどこかな?」

「こういう場合は普通、一番人が多い所にいるんだけど、

今日に限っては多分、人がまったくいない所にいるんじゃないかな」

 

 そのアスナの分析は正しいのだが、そもそも壁が邪魔をして、

その向こうに何があるのかは全然見えない。

そしてその壁の目の前に来た一同は、やっとそれが何なのかを理解した。

 

「これって、古代ギリシャの遺跡とかによくある闘技場の座席みたいな奴?」

「何かそんな感じだね」

「あ、あっちに道がありますよ、あそこから座席の上に上がれるかもしれません」

「行ってみようぜ」

「そうね、そうしましょう」

 

 そして一同はその道から座席の中へと入り、

そこでここがどんな場所なのか、やっと理解する事となった。

中央にはいわゆる天下一武道会タイプのステージがあり、プレイヤー同士が戦っている。

そしてその左右にも小さなステージがあり、

そこでもまた、プレイヤー同士が戦っていたのである。

 

「これってまんま闘技場じゃね?」

「うん、どう見てもそんな感じだね」

「随分盛り上がってるねぇ……」

 

 そんなジュン達の言葉が聞こえてきたが、アスナは呆然としてしまい、中々言葉が出ない。

 

「あ、あそこに立ってるの、ユーザー伝言版じゃね?」

「本当だ、え~っとなになに?

『誰でも気軽に使えるデュエル・ステージへようこそ、ヴァルハラ・リゾート』だって」

「えっ、うち!?嘘………私、こんなの知らない」

 

 アスナはその言葉に愕然とした。そんな話は誰からも聞いた事がなかったからだ。

だがまさか自分に対してハチマンが意地悪をするはずがない。

黙ってここに呼び出した事から考えても、これは恐らくサプライズという奴だろう。

アスナはそう考え、きょろきょろと辺りを見回してハチマンの姿を探した。

 

「あ、アスナ、あそこ、ほとんど人がいないよ」

「あそこにいるのって兄貴じゃね?」

「やっぱりさっきアスナが言った通り、人が全然いないね」

「あっ、アスナ!」

 

 一同がハチマンを発見した途端、アスナはそちらに向かって走り出し、

他の者達は慌ててその後を追った。

よく見るとハチマンの左隣にはユキノが居り、ハチマンの右隣には誰もいなかったが、

どうやら誰がハチマンの隣に座るか場所を争っているのだろう、

四人の女性らしきプレイヤーが激しくにらみ合っているのが見えた。

 

「うわ、あれって修羅場かな?」

「どう見ても女同士の争いだね」

「さすがは兄貴、修羅場が似合う兄貴だぜ!」

「ジュン、落ち着きなさい、日本語が変よ」

「ユキノさん、さすがだなぁ……」

「兄貴の隣をガッチリキープしてるね」

 

 通常こういった場合、ユキノも加えた五人で左右の席を争うのが普通である。

だが今日の場合はユキノがこの場に先着しており、

そのおかげで悠々と片方の席を確保していたのであったが、

そんな事は知らないスリーピング・ナイツから見れば、

その光景は確かにそう見えても仕方がなかった。

 

「しかしアスナは足が速いなぁ……」

「それだけじゃないわ、見て、観客の人達が、みんな道を開けていくわ」

「うわ、何かすごい……」

「さすがはヴァルハラの副長みたいな」

「あっ、見て、あの四人がアスナに気付いたみたい」

「これは更なる修羅場な予感?」

「私達も急ぎましょう」

 

 そしてスリーピング・ナイツの目の前で、遂にアスナはハチマンの近くまでたどり着き、

その四人と向かい合ったのであった。

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