ここで話はスリーピング・ナイツがデュエル・ステージに到着した直後へと遡る。
ハチマンの姿を発見した瞬間、アスナはそちらに向けて走り出していた。
「あっ、アスナ!」
後ろからユウキの声が聞こえた気がしたが、アスナはそれでも足を止めず、
ハチマンの方へ向かって進み続けた。
よく見るとセラフィム、クックロビン、シノン、リオンの四人がハチマンの隣を争っており、
アスナはその少し前から歩き始め、ゆっくりとそちらに近付いていった。
「あっ、アスナ!」
「あら?それじゃあこの勝負は後日に持ち越しね」
「だね、さあアスナ、この席に座って座って」
「あ、うん、ありがとうみんな」
四人はあっさりとアスナに席を譲り、
それまでの争いの激しさが嘘だったように、大人しく後ろの席に座った。
「おうアスナ、やっと来たのか」
「うん、ハチマン君、ここって………」
「ここはアスナの為にハチマン君が作ったデュエル・ステージよ」
横からユキノがそう言い、さすがのアスナも驚いた。
「わ、私のため!?」
「いや、まあそれだけじゃないが、こういう場所があれば、
みんなももっと気軽にデュエルを楽しめるだろうと思ってな」
ハチマンはそっぽを向きながらそう言った。どうやら少し照れているらしい。
「それじゃあやっぱりここまでずっと教えてくれなかったのって、サプライズ?」
「まあそうだな、いきなりバラしたら面白くも何もないだろう」
「実は私達も、今日初めてここの事を知ったんだよ!」
「キリトなんかはしゃいじゃって、いきなりユージーンを呼びつけて、
順番待ちの列に並びに行ったわ」
「ふふっ、キリト君らしい」
そして二人の出番を待つ間、アスナがハチマンにそっと尋ねてきた。
「ねぇハチマン君、ここに来る前に、アシュレイさんの店に寄ったんだけどさ……」
「ん?ああ、アレを見たのか」
「うん、オートマチック・フラワーズだった………
ねぇ、あの二人って、ハチマン君にとってどんな人?」
「そうだな、あの二人というか、あいつらについての知識は、
アスナも一応持っている………はずだ」
「えっ、そうなの?」
「まあ直接の面識は無かっただろうが、あいつらは元々京都にあった眠りの森にいたんだよ。
今は東京の眠りの森にいるんだがな」
「えっ、眠りの森って………それじゃあもしかして………」
その言葉にアスナは頭を鈍器でガン、と殴られたような気がした。
「終末医療の………」
「まあそういう事だ、京都では九人いたメンバーも、今は七人に減っちまった」
その言葉の意味が分からないアスナではない。
アスナは実際かなりショックを受けていたが、
とても悔しそうにそう言ったハチマンの目の光が消えていないのを見て、
何とか涙を流す事なく踏みとどまった。
「楓ちゃんの時みたいにどうにかなりそうなの?」
「そうだな、正直一番症状がまずいのはランとユウキなんだが、
そっちはアメリカで宗盛さんが頑張ってくれてて、徐々に成果が出つつある状態だ。
その絡みで俺は今度アメリカに飛ぶつもりだ。
アスナには留守番を任せる事になるんだが、その間アスナはあいつらの傍にいてやってくれ。
そしていつも前向きでいられるように、あいつらの前では笑顔でいてやってくれ」
「うん、分かった、私に出来る事なら何でもするよ」
アスナはそう即答し、これからは決して泣かないようにしようと心に誓った。
「ちなみに他の奴らの両親は普通に存命だが、ランとユウキの親はもういない。
あいつらは天涯孤独という訳だ」
「あ、つまり二人は優里奈ちゃんのポジションって事?」
「まあいずれはそうなる可能性もあるだろうが、そこはうちの嫁と相談だな」
「うちの嫁ねぇ……うん、それじゃあその事も真面目に考えておくね」
「頼むわ」
ハチマンは申し訳なさそうにそう言った後、
きょろきょろと辺りを見回しながら、アスナにこう尋ねてきた。
「で、そのランやユウキ達はどこだ?一緒に来たんだよな?」
「あっ、しまった、みんなの事を忘れてた」
アスナはてへっと頭を叩き、ハチマンと同じように辺りを見回し始めた。
その瞬間に客席の雰囲気が変わり、何だろうと思ったアスナは、
その視線の先にスリーピング・ナイツがいるのを発見した。
「というか何この雰囲気」
「アスナ、分かるだろ?早く助けに行ってやれ」
「助け?ああ、もしかしてみんなは、うちに絡もうとしてるって思われてる?」
「そういう事だな、ほれ、あいつら泣きそうになってるぞ」
「うん、それじゃあ行ってくるね」
そう言ってアスナは立ち上がり、
そのままスリーピング・ナイツをこちらに引っ張ってきた。
「ぷはぁ、助かった!」
「やっと解放されたわね」
「ありがとうアスナ!」
「おうお前ら、俺が作ったデュエル・ステージによく来たな、まあそこに座ってくれ」
ハチマンにそう言われ、一同は大人しくハチマンの前に座った。
「首尾よくトード・ザ・インフェクションを倒したみたいだな、よくやったな、おめでとう」
「ふっ、余裕だったわよ」
「まあ大体アスナのおかげなんだけどね」
「えっ、この子達があの腐ったカエルを倒してくれたんだ!?」
興味深げにスリーピング・ナイツの方を観察していたクックロビンは、
その言葉を聞いて思わずそう言った。
「というかそこの二人が着てるのってオートマチック・フラワーズだよね?
アスナもいつの間にか出向してるし、一体何がどうなってるの?」
「アスナが気分転換の為に出向するってこの前言っただろ。
で、こいつらは俺の身内だと思ってくれていい」
「えっ?じゃあ私の身内でもあるって事?」
そこから長い漫才が始まり、そのおかげで場は和み、
とてもいい雰囲気のまま、キリトとユージーンの戦いを迎える事になったその矢先、
例のハチマンの裏声が響き渡り、一同は思わず大爆笑した。
「あはははは、ハチマン君、何それ?」
「さすがにやりすぎじゃないかしら」
「いいんだよ、わざと煽ってるんだから」
ハチマンはそう言い、一同が思わず首を傾げた時、ユージーンがこう言った。
「ハチマン、ふざけるな!キリトと戦った後に俺と戦え!フルボッコにしてやる!」
「やだよ面倒臭い」
だがハチマンは取り合わない。煽った癖にそりゃないよと一同が思った瞬間に、
ハチマンはいきなりとんでもない事を言い出した。
「あ~はいはい、それじゃあこいつを倒せたら、次は俺が相手をしてやるよ」
そう言ってハチマンは、ユウキの肩をポンと叩いた。
「えっ、ボク!?」
「おう、お膳立てはしてやったぞ、ユウ、今日この場でお前は絶剣になれ」
ユウキはその言葉にぶるっと震えた。
「分かった、やってみる!」
ユウキはやる気満々な表情で試合を見始め、そして終盤に入り、
ユージーンの剣が光ったのを見て、ハチマンは思わず立ち上がった。
「えっ、どうしたの?」
「いや、あんなの見た事が無いと思ってな、
多分あれはユージーンのオリジナル・ソードスキルだ」
「あら、あのユージーン君が?」
「まああいつはとんでもないバトルジャンキーだからな、
陰で凄まじい努力をしたんだろう」
「凄いなぁ、一体何連なんだろ?」
「どうだろうな、ここで勝負に出るからには、かなりの多段だと思うが……」
その時ユージーンの叫び声が周囲に響き渡った。
「くらえ、八連撃『ヴォルカニック・ブレイザー』!」
「自分でネタバレすんな!」
ハチマンはその言葉に思わずそう突っ込み、周囲の者達は苦笑した。
「でも八連って凄いじゃない、驚いたわ」
ソードスキルには縁の無いユキノが、感心したようにそう言った。
「だな、あいつ、本当に頑張ったんだな、ここは真面目に褒めてやろう」
「うん、そうだね」
そう言いながらアスナは、心の中で密かに闘志を燃やしていた。
(私もいつかきっと………)
そして戦いがキリトの勝利に終わった後、遂にユウキの出番が来た。
「ユウ、頑張るのよ」
「ユウキ、俺達の代表は任せたぜ!」
「勝って来いよ!」
「うん、任せて!」
そして最後にハチマンが、ユウキにこう言った。
「切り札はあまり見せるもんじゃないが、ユージーンは強いからな、
先制して一発でKOして、こいつらの度肝を抜いてやれ」
「うん、分かった!」
そう言いながらユウキはステージへと走っていった。
「ハチマン、どういう事?」
「ん?ああ、まあ楽しみにしているといい」
「へぇ、ハチマンがそこまで言うなんてね」
シノンはそう言って大人しく座り、そこに試合を終えたキリトが合流してきた。
「お疲れだなキリト、随分と焦ってたみたいだが、上手くやったな」
「正直危なかったわ、ユージーンがアホで良かったよ……」
「あの技名を叫ぶのが無かったら、初見じゃやられてたかもな」
「やっぱりハチマンもそう思うか?」
「おう、さすがの俺でも絶対にやられてたわ」
「まあユージーンらしいといえばらしいか」
そう言って二人は笑い合い、そしてキリトの目がスリーピング・ナイツへと向いた。
「で、こちらは?」
「こいつらはスリーピング・ナイツ、俺の身内だ。
そのうち俺達を超えようと挑んでくるかもしれないが、まあ普段は宜しくしてやってくれ」
「オーケーオーケー、向上心があるのはいい事だ。
俺はキリト、宜しくな、スリーピング・ナイツ」
それに答えてランが自己紹介をしようとした時、丁度試合が開始された為、
この続きは後という事になった。そして壇上では、ユウキとユージーンが笑顔で話していた。
「ボクの名はユウキ、スリーピング・ナイツのユウキだよ、宜しく!」
「ふむ、これはこれはご丁寧な挨拶痛み入る。
俺はサラマンダー軍の将軍職を拝命している、ユージーンという者だ」
「それじゃあ今日は宜しくね!」
「おう、お互い全力で戦おう」
二人は礼儀正しく握手を交わし、少し離れて構えをとった。
ユージーンはどっしりとした構えであり、
ユウキはいつもの半身での軽くステップを踏む構えである。
「やはりお前はスピードタイプか」
「うん、ボクのスピードってば、ハチマン並だから覚悟してね!」
「ほう、それは楽しみだ………」
その瞬間にユウキが動いた。
「うおっ」
ユウキはぬるぬると動き、咄嗟に迎撃しようとしたユージーンの剣をすり抜け、
ユージーンの体に傷を作っていく。
「これほどまでとは!」
そんな二人の最初の手合わせを見て、セラフィムが驚いたような顔で言った。
「ハチマン様、あの子は一体……」
「まあ期待のホープだな、どうだ、あの攻撃は防げるか?」
「私が、というなら問題はありません、こちらから手出しは出来ませんが、
まあ防御に集中すればいけます」
「だそうだ、ラン、どうする?」
「そうね、さすがにタンクをタイマンでどうにかするのは骨が折れそうだし、
その時は大人しく二人でかかるわ」
「それだと私も厳しいです、ハチマン様」
「ほうほう、お前でもか」
「はい、多分一時間くらいしか持たないかと」
「………だそうだ、ラン?」
「………ど、努力するわ」
その時ステージに集中していたアスナが、あっと声を上げた。
「ユウキがいきなりいくみたい!」
「まあそう言ったからな、
最初の動きからすれば、使わなくても勝っちまったかもしれないが、
今日の目的はそっちじゃなく、観客にユウキの名を覚えさせる事だからな」
そのハチマンの言葉で何かが起こると思ったヴァルハラ組は、ユウキの動きに注目した。
「ねぇユージーンさん、さっきの技、凄かったね」
「ふむ、褒めてもらって光栄だな」
「でもああいうの、ボクも使えるんだよね」
「何っ!?」
そう言ったユウキの剣が光りだし、
ユージーンも思わず『ヴォルカニック・ブレイザー』を発動させる体勢に入った。
お互いの剣が光り輝く。
「えっ、ソードスキルの撃ち合い?」
「大丈夫なの?」
「まあ見てろって」
そしてユウキが弾丸のようにユージーンの方に飛び込んだ。
「いくよ!『マザーズ・ロザリオ』!」
「ふん、負けんぞ!『ヴォルカニック・ブレイザー』!」
二人は一歩も引かず、相手の攻撃をくらうのを上等で足を止めてお互いの技を繰り出した。
「全段命中させれば絶対に負けん!それで終わりだ!」
ユージーンはそう叫んだが、それは焦りの裏返しであった。
(何だこいつのソードスキル、突き主体なせいか、速い!)
ユージーンが二撃を放つうちに、ユウキのマザーズロザリオは、
既に最初の段階である五撃目を撃ち終えていた。
(五連とは凄まじいが、もう硬直するだろう、それで俺の勝ちだ!)
だが六撃目が飛んできた為、ユージーンは内心で驚愕した。
(な、何………だと………)
そして何が起こったのか分からないまま、ユージーンの意識は唐突に消滅した。
半減決着なのに、まさかの全損である。
ここまでユージーンが放ったヴォルカニック・ブレイザーは六撃目くらいであったが、
その時点で既にユウキはフィニッシュに入っていたのだ。
斬撃系ソードスキルと刺突系ソードスキルの差がここで顕著に出た。
おそらくトータルの威力は同じくらいだと思われるが、とにかく速さが違うのだ。
そしてシステムメッセージでユウキの勝利が宣言されたが、
客席は完全に静まり返っていた。ヴァルハラ組もさすがに度肝を抜かれたのか、
誰も声を発しようとはせず、さすがのスリーピング・ナイツも、
この状況で歓声は上げられなかった。
「へへっ、ボクの勝ちだね!」
ユウキがそう言った瞬間に、観客席から凄まじい歓声が巻き起こった。
「うおおお、あの子、ユージーンに勝っちまったぞ!」
「しかも一瞬でかよ!」
「何だよあのソードスキル、オリジナルだよな?信じられねえ!」
「ユ・ウ・キ!ユ・ウ・キ!」
ハチマン達も大興奮する中、ユウキが大きな声でこう叫んだ。
「みんな、ボクはユウキ、『絶剣』のユウキだよ、
これから一緒に遊んだり、敵対したりする事もあるだろうけど、その時は宜しくね!」
その言葉に今日一番の大歓声が上がった。
「絶剣?絶剣って言ったか?」
「そういえばヴァルハラと一緒にいるのって、先日暴れた絶刀じゃないか?」
「あの二人、凄く似てるよな、もしかして双子か?」
「絶剣!絶剣!」
「絶刀!絶刀!」
その声に押され、ランも仕方なくステージに上がり、
二人に対する賞賛が惜しみなく注がれ続け、こうしてランとユウキの名は、
その二つ名と共に、一気にALO中に拡散する事となったのだった。
だがこの日の出来事はここで終わりではなかった。