「とりあえずユージーンさんの蘇生をしてしまいましょうか」
そう言って立ち上がったのはユキノだった。
そして長い詠唱を経て無事に復活したユージーンは、
豪快に笑いながらユウキに歩み寄った。
「いやぁ、言い訳のし様が無いくらいの完敗だ、お前は強いな」
「うん、ボクは強いよ!」
「あの技、凄かったな。てっきり俺がナンバーワンだと思っていたんだが」
「えへっ、今はボクがナンバーワンだね!」
「あはははは、絶剣だったか、いい二つ名だ、いずれ俺がもっと強くなった時にまたやろう」
「うん、またやろう!」
ユウキとユージーンは固く握手をし、再戦を誓った。
だがこういう状況を黙って見ていられない者が一人いた、
バトルジャンキー二号ことキリトである。
「よし、ユウキ、次は俺とやろう」
キリトは突然そう言って立ち上がった。
「何っ、キリト、それはずるいぞ!」
「俺はお前に勝った、ユウキもお前に勝った、それじゃあ当然次は俺の番だろ?
どうだユウキ、俺と戦ってみたくないか?」
「うん、戦ってみたい!」
バトルジャンキー三号であるユウキが、その申し出を断るはずもなく、
ユージーンは悔しそうではあったが大人しく引き下がり、仲間達の方へと移動していった。
二人はそのままステージ上に移動しようとしたのだが、
そんな二人の肩を、誰かが掴んで止めた。
「ん、ハチマンか?こうなったら止めても無駄だぞ」
「そうだよ、ボクももうやる気になっちゃってるからね!」
「いや、俺じゃないぞ」
「「あれ?」」
その言葉に振り向いた二人の前にいたのは、なんとハチマンではなくアスナであった。
「あれ、アスナ………?もしかしてボクを心配してくれてるの?
それなら大丈夫だよ、絶対にボクが勝ってみせるから!」
そんなユウキにアスナは首を振った。
「今の私が勝てるとは思わないけど、でも一度戦っておかないと、
私は前に進めない気がするんだよね」
「………何の事?」
「キリト君、ユウキとは私が戦うわ」
アスナはキッパリとそう宣言し、スリーピング・ナイツの一同は仰天した。
ユウキはその言葉に呆然とし、ランは目を細めて無言を貫いていた。
「ちょ、ちょっとアスナ、本気?」
「さすがに無茶だよ!」
「何でそんな事を………」
ランとユウキ以外の者達が口々にアスナに声を掛けてきた一方で、
きょとんとしていたのはヴァルハラ組である。
「みんなは何を言ってるの?」
「アスナが戦うのがどうして無茶なの?」
「えっ?」
「どうしてって、だってアスナは……」
その時アスナから、名状し難い何かの気配が漂ってきて、
スリーピング・ナイツの一同は慌ててそちらを向いた。
そこには一振りの剣を握ったアスナが立っており、
その姿を目にした一同は、背筋がゾクリとするのを感じた。
「アスナ、その剣………」
「あ、これ?私の愛剣で暁姫って言うんだよ、凄く綺麗な剣でしょ?」
「も、もしかしてアスナって剣が使えたり?」
「あ~、うん、まあそれなりにね」
「で、でもアスナはヒーラーで……」
この時呆然としていたユウキが我に返り、そう呟いた。
だがそんなユウキにユキノが威厳のある声で言った。
「よく分からないけど、あなた達は何か考え違いをしているみたいね、
うちの副長というのは、ALOでは恐怖の代名詞なのよ?」
恐怖、つまりそれは、強大な戦闘力を有しているという事に他ならない。
ユウキは尚も迷っているようだったが、そんなユウキにランが言った。
「ユウ、あの幻の意味がやっと分かったわね、これは運命よ」
「あっ、そっか!分かった、ボクはアスナと戦うよ!」
その言葉でユウキはパッと顔を輝かせ、
ランも以前見た幻が事実だった事に満足したのかニヤリと笑った。
だがランの体も戦いたがっているのか、武者震いが止まらない。
「さてと、そういう事なんだけど、キリト君、いい?」
「ユウキ本人とハチマンがいいってなら俺は別に構わないぜ、
別に戦うのが今すぐじゃなきゃ駄目なんて事はないしな」
「いいよね?ハチマン君」
「アスナの好きにするといい」
ハチマンは鷹揚に頷き、ユウキは当然頷いた為、
アスナとユウキが戦う事がここに決定された。
「さて、それじゃあ俺はどうするかな」
「それならキリトはランの相手をしてやってくれ。
どうやらこいつ、武者震いが止まらないみたいなんでな」
「別にハチマンが戦ってもいいんじゃないか?」
「やだよ、絶対こいつ、途中でセクハラとかしてくるし」
「え、それは俺も嫌なんだけど………」
「大丈夫よ、私はハチマン以外にセクハラはしないわ」
ランはそう断言し、キリトはほっと胸をなでおろした。
「ならまあ軽く相手をしてもらおうかな」
「いいえ、やるからには本気で相手をして頂戴。
もし手加減なんかしたら、私は一生付き纏うわよ……………………ハチマンに」
キリトは一瞬固まり、最後の言葉の意味を理解した瞬間に、焦ったようにわめき散らした。
「ハチマンにかよ!ちょっとビクッってしちゃったじゃないかよ!」
「おいキリト、絶対に手を抜くなよ、絶対だぞ」
ハチマンも遅れて言葉の意味を理解したのか、焦った顔でキリトにそう念押しした。
そしてランは、申し訳なさそうな顔でキリトに謝罪した。
「ごめんなさい、勘違いさせてしまったわね、
お詫びに服の上から私の胸の膨らみを見て、妄想を膨らませる事を許可するわ」
「おいロビン、選手交代だ!どう考えてもこれはお前向きの相手だろ!」
キリトのその叫びを聞いたクックロビンは、じっとランの顔を見た。
ランもクックロビンを見返し、一触即発かと思われたその瞬間、
ロビンはランに親指を立て、ランもそれに答えた。
どうやら変態同士、通じる物があったらしい。
「駄目か………」
「まあ諦めろキリト、ランもさすがに戦いが始まったらふざけたりはしないはずだ。
そんな事をしたら、三人いるランの師匠にぶっ飛ばされちまうだろうしな」
「師匠?師匠って誰だ?」
「京都のじじいと姉さんとうちの娘だな」
「え、マジかよ………じじいって前に動画で見た、アスナのところのご隠居だろ?
それにソレイユ姉さんと………ん、娘ってユイちゃんか?ユイちゃんは何の師匠なんだ?」
これに対するハチマンの答えは衝撃であった。
「何だ知らないのか?うちのユイは全部のソードスキルのデータを知ってるから、
今やランは刀系のソードスキルは全部使えるし、
他の武器のソードスキルへの対策もバッチリっていう、まさにチート状態なんだぞ」
「え、何それずるい……」
「そんなに褒められると照れるわ」
「おいハチマン、どうしてハチマンの知り合いはこんな子ばっかりなんだよ!」
「すまん、俺も努力はしてるんだが………
とりあえずラン、キリトと戦うって事で異論はないな?」
「ええ、もちろんよ」
「それじゃあ決まりだ、みんな全力で頑張れよ」
こうしてランとキリトが戦う事も決定され、
四人はデュエル・ステージの順番待ちの列に加わった。
その前に並んでいた者達は慌てて四人に場所を譲ろうとしたが、
アスナとキリトがそれを断った。
例えヴァルハラのメンバーといえども特別扱いは駄目だ、
二人はそう主張し、その者達はその言葉に納得し、順番待ちの列に戻った。
こういう細かい所がヴァルハラの名声を支えているのである。
そしてその待ち時間の間に、残された者達は仲良くお喋りしていた。
「兄貴、アスナってどのくらい強いの?」
「そうだなノリ、アスナは俺よりも強いって言ったら信じるか?」
「驚くけど信じるよ、だって兄貴の言う事だもん」
「そうか、まあここにいる誰よりも強い事は確かだな」
「そこまでなんだ………」
「まあノリも、いずれ相手の強さが肌で分かるようになるさ、頑張れよ」
「う、うん!」
「ちなみに不意打ち出来れば私は勝てるわよ、最初に大きいのを当てて、
あとは必中ソードスキルの引き撃ちかしら」
その時横からそう言ってきたのはシノンである。
「確かにシノン相手だとそうかもしれないな」
「兄貴、引き撃ちって?」
「ああ、お前らの中には遠隔攻撃の使い手はいないもんな、
引き撃ちってのは下がりながら弓や銃を撃つ、例のあれだ」
「あ~、あれかあ!そっか、それじゃあシノンさんって弓使い?」
「ええそうよ、なのでここでのデュエルには参加しにくいのよね」
シノンは残念そうにそう言った。やはりシノンもデュエルがしてみたいのだろう。
「私も不意打ちすればいけるわね、遠くから足を凍らせれば後はどうとでもなるでしょうし」
続けてユキノがそう言ったが、それにはハチマンが疑問を呈した。
「でもアスナなら、足を切り落としてユキノに迫っていくとかやりそうじゃないか?」
「うっ………否定出来ないのが恐ろしいわね、それじゃあ腰まで氷漬けにするわ」
「ユキノさんでもそんな感じなんだ……」
「そうね、接近されたら終わりかしら、私は近接戦闘のスキルを上げていないもの」
「でも多分ユキノはどんな武器でもそれなりに使えるよな」
「まあ、リアルとは違ってここではスタミナ切れも起きないし、
それなりには可能でしょうけど、やはり命がけの近接戦闘を経験していない私では、
アスナに対抗するのは無理だと思うわ」
「ユキノがSAOにいてくれたら、俺ももっと楽が出来たと思うんだがなぁ」
「ハチマン、私は私は?」
「お前はこの前死にたがってたから駄目だ、役にたたん」
「ごめんなさい反省してますもうしません」
クックロビンは慌ててハチマンに謝り、ヴァルハラ組は楽しそうに笑った。
だがスリーピング・ナイツ組は全員変な顔をしており、
それを疑問に思ったハチマンは、そちらに声をかけた。
「ん、お前らどうした?」
「いや、今の会話に何か違和感が………」
その瞬間にステージから大歓声が上がった。どうやらユウキとアスナの出番が来たらしい。
「おっ、話は後だな、今はあっちの戦いに集中しよう」
「あ、うん、そうだね!」
「ユウキ、頑張れ!」
「アスナもファイト~!」
真実の一端に手を掛けかけたジュンやノリ達であったが、
結局その手はそこから離れてしまったようだ。実に惜しい事である。
そしてアスナとユウキの戦いが、遂に幕を開ける事となった。