度々で申し訳ありませんが、土日の更新はお休みさせて頂きます。
本当に申し訳ありません。
アスナとユウキはステージの上で対峙していたが、
その雰囲気はとても和やかなものであった。
「いやぁ、まさかアスナが剣を使えるなんて想像もしてなかったよ」
「別に隠してた訳じゃないんだけど、何かごめんね」
「ううん、こっちがヒーラー補助でって事でお願いしてたんだし、
元はといえばヴァルハラの事を何も調べてないボク達が悪いんだから気にしないで」
「それじゃあお互いプラマイゼロって事で、勝っても負けても恨みっこなしね」
「この後ヴァルハラの事について教えてもらわないといけないんだし、
そもそもボクとアスナが勝った負けたでギスギスする事なんかあり得ないよ」
「うん、そうだね、それじゃあそろそろ始めようか」
「そうだね、あんまりギャラリーを待たせちゃいけないもんね」
この戦いに臨むにあたり、二人はどちらも自分の事を挑戦者だと思っていた。
アスナにとってユウキは、
自分の倍以上の連撃数を誇るオリジナル・ソードスキルを持つ強者であり、
ユウキにとってアスナは、恐怖の象徴と呼ばれる程のプレイヤーであり、
どう考えても格上だとしか思えなかったのだ。
まあそれを言ったらユージーンもアスナと同じような立場なのだが、
ハチマンの事をよく知っている分、ユウキにとってユージーンは、
そこまで格上だと感じられないというのが正直な所であった。
そして二人は構えをとり、真剣な表情で向かい合った。
ユウキがいつもの通り、軽くステップを踏みながら、
まるで弓を引くように剣を構えたのに対し、
アスナは頭上高く剣を掲げた後、その剣の切っ先をユウキへと向けた。
「兄貴、この戦いってばどうなっちゃうの?」
「ん?まあ今のままならユウキが勝つんじゃないか?」
「えええええ?そんなあっさり………」
「最近のアスナはずっと調子が悪かったからな、
見た感じ、まだ状態的に良くはなってないと思うぞ」
「へぇ、そうなんだ」
その時アスナとユウキが同時に動いた。
最初は様子見なのだろう、主導権争いが行われている。
お互い一歩も引かずに凄まじい突きの連打を放ち、
どちらもその場から動こうとしない、いや、動けない。
二人とも、可能なら相手の懐に飛び込みたい所なのだろうが、
そんな事はそう簡単には出来そうもないようである。
「あ、兄貴………アスナって本当に調子が悪いの?」
「ああ、動きの切れがいまいちだな」
「あれでいまいちなんだ………」
「ユウキと互角に戦える奴がいるなんてちょっと信じられないんだけど………
あ、もちろんランと兄貴は別ね!」
「そんなフォローはいらん、ユウキ相手に俺が勝てるかっていうと、正直微妙だぞ」
「え、そうなの?」
「ああ、元々俺は、突き主体で攻撃してくる敵は苦手なんだよ、
カウンターが取りづらいからな」
そう言われたスリーピング・ナイツ組は、戦っている二人の方をチラッと見た。
「って事は、兄貴はアスナは苦手なの?」
「アスナとの戦闘か?そうだな、少なくとも俺は一度も勝てた事はないな」
「嘘っ!」
「いや、本当だ。アスナと戦う時は何故か力が入らないんだよ。
もしかしたら何かの病気かもしれないと思って経子さんに相談もしたが、
『八幡君、それは病気じゃないわ』と苦笑されながら断言されちまった。
まったく何なんだろうなこれは」
ジュン達はその言葉に首を傾げた。言葉の意味が分からなかったからである。
「んんん?どういう事?」
「力が入らない?それって攻撃出来ないって事?」
「おう、アスナに向かって剣を振り下ろすだろ?で、まあ攻撃が当たったとして、
その時の音が、ザシュッ、じゃなく、ポコッ、だと思えばいい」
「んんん?それってどういう意味?」
ハチマンがアスナ相手にまったく攻撃を出来ないという事は、
SAO組ならよく知っている事であったが、この場にその事を知っている者はいない。
だが知らないなりに推測は出来たのか、ユキノとセラフィムが次々とハチマンにこう言った。
「ハチマン君、それは病気よ」
「ハチマン様、絶対にそれは病気です」
ちなみにシノン、リオン、クックロビンの三人は、
スリーピング・ナイツと同様に意味が分からなかった為、きょとんとしているだけであった。
「え、マジで?病名に心当たりとかあったりして?」
「ええ、それは………」
「ハチマン様、それは………」
そう二人が何か言い掛けた時に、ステージの方から大歓声が上がった。
二人はおそらく『恋の病』と言いたかったのだろうが、
この会話はここで中断し、再開される事は無かった。
「あっ!」
「アスナが距離をとった!」
「胸のあたりに攻撃が当たったね」
見ると確かにアスナの胸のあたりに赤い線が走っていた。
どうやら主導権争いを制したのはユウキの方だったらしい。
ユウキはまだ若干余裕があるのか、それで笑顔を見せたが、
アスナはきゅっと歯を食いしばった後、スッと目を細めた。
「ん、どうやら目が覚めたか?」
それを見たハチマンがそう呟いた瞬間に、アスナがいきなり動いた。
その攻撃を先ほどと同じように捌こうとしたユウキであったが、
その速度は先ほどの比ではなく、いきなりユウキの頬に赤い筋が走り、
それでユウキもアスナの変化に気が付いたのか、アスナ同様にスッと目を細めた。
「それが本当のアスナ?」
「どうかな、でもユウキのおかげで、自分が剣士だって事をやっと思い出せたよ」
アスナはそう言って半身になり、剣を肩口で水平に構え、左手をユウキに向けた。
「行くよ!」
アスナはそう叫んでユウキに突撃し、二人は中央で剣を合わせたが、
アスナはその瞬間に剣を払うようにユウキの剣を跳ね上げ、そこから更に一歩踏み込んだ。
「リニアー!」
アスナはそこで、何千回、何万回と使ってきた技を繰り出し、その剣が加速した。
「くっ」
だがユウキはそれを反応速度の速さだけでかわし、
そのまま一回転して水平に斬撃を繰り出して反撃した。だが今のアスナは止まらない。
アスナはその攻撃を体を低くしてかわし、そのままユウキの懐に飛び込んだ。
「まだまだ!」
そこから二人の超至近距離での斬り合いが始まり、
アスナも突きだけではなく、斬撃も交えながらユウキに対して攻撃を続け、
ユウキもそれに応じて自分の持つ全能力を駆使し、二人の体にどんどん傷が増えていった。
(このくらいまで減らせば………多分いけるはず)
激しく斬り結びながらも頭の一部分に冷静さを残していたアスナは、
自分とユウキのHPを見ながらそう判断し、ユウキの隙を突いていきなり拳打を繰り出した。
「えっ?」
これはさすがのユウキも予想していなかったのか、その攻撃をまともにくらい、
ユウキの体が少し浮いた。
「スターリィ・ティアー!」
その瞬間にアスナは自身のオリジナル・ソードスキルを発動させ、
ユウキのHPを一気に削りにかかった。
(いける!)
だがその瞬間に、危険を察知したのだろう、踏ん張りのきかない状態であるにも関わらず、
ユウキもアスナ同様にソードスキルを放った。
「マザーズ・ロザリオ!」
そして二人はお互いの持つ剣が放つ光に包まれ、
観客達は思わず腰を浮かせ、二人の戦いに見入った。
(嘘っ!)
(危なっ!)
マザーズ・ロザリオの最初の何発かがアスナの剣にかすり、
そのせいでスターリィ・ティアーの威力が減衰されたのか、
ユウキは敗北に追い込まれる事なくHPをまだ六割程残していた。
ユウキは既に地面に足をつけており、その体勢も万全である。
一方アスナは技を終えた後の硬直状態にあり、
マザーズ・ロザリオの残り何発かを迎撃するのはもう不可能な状態にあった。
(届かなかったかぁ……)
アスナは今まさに自身の体に迫り来るユウキの剣を見ながら呟いた。
「負けは確定したけど、でも私は絶対に死なない、死ぬ訳にはいかない」
今のアスナのHPは既に残り三割となっており、
半減決着モードの敗北ラインをとうに超えていた。
おそらく一瞬でシステムの判定が行われ、アスナの敗北が告げられる事であろう。
だがその前におそらくマザーズ・ロザリオのフィニッシュによって、
アスナのHPは全損するはずである。アスナはそれだけは避けたかった。
ハチマンに自分が全損する姿を見せる訳にはいかないと考えたからである。
(死なないと分かっていても、ハチマン君はきっとショックを受けちゃうはず)
そう考えたアスナは、硬直が解けるか解けないかの一瞬に剣をわずかに動かし、
そっとユウキの剣に触れさせ、その軌道を変える事に成功した。
「えっ?」
もはや勝利が確定していたユウキは、フィニッシュの軌道がズレた事に驚愕したが、
その直後にシステムがユウキの勝利を宣言し、
アスナのHPが一割ほど残った状態でこの戦闘は終了した。
「ふう、負けちゃったね」
「アスナ、最後に一体何をしたの?」
「あ、うん、私が全損する姿をハチマン君が見たらショックを受けちゃうと思って、
ユウキの剣の軌道をずらしたんだよ」
「あの状況でそんな事を………やっぱりアスナは凄いや!」
ユウキは笑いながらアスナに抱きつき、こうして二人の戦いは、ユウキの勝利に終わった。