ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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やっと試験が終わりました!今日の午後に自己採点してみます!
そしてお待たせしました、今日から再開です!


第822話 違和感の正体

 最初アスナが消耗戦を選んだのを見て、ハチマンもそれしかないだろうなと感じていた。

 

(ここまで見てきた感じだとフィニッシュの威力は、

オリジナル・ソードスキルの方が既存のソードスキルよりも上だからな、

削りきれると思った瞬間にアスナが自身のオリジナル・ソードスキルを繰り出せば、

十分に勝機はあると思うが、相手はあのユウキだしなぁ………)

 

 ハチマンの見るところ、今のユウキの実力は、

キリトやアスナを超えている可能性があるように思われた。

ステータス的には確かに劣るのだが、とにかく相手の攻撃に対しての対応力が半端ないのだ。

事実今目の前で戦っているユウキの動きは、いわゆる『ぬるぬる動く』感じであり、

調子が悪いとはいえ、あのアスナを相手にまだ余裕があるようであった。

 

(武器は同ランクで特に違いは無いが、問題は防具の差なんだよなぁ)

 

 実はアスナのオートマチック・フラワーズは物理と魔法のバランス型ビルドになっており、

物理特化のユウキのオートマチック・フラワーズと比較すると、

攻撃力においてやや劣る構成となっている。

これは基本はヒーラーというアスナのスタイルに合わせて調整されたものであったが、

その微妙な差がこういった勝負では重要になる。

 

(やっぱり打ち負けるよな)

 

 その直後にアスナが傷を負ったのを見てハチマンはそう思ったが、

同時にそこからアスナの顔つきが変わったのを見て、

これで互角の形勢までは持っていけるかとも感じていた。

 

「ん、どうやら目が覚めたか?」

 

 ハチマンは思わずそう呟き、同時にアスナの動きが加速した。

そこからはしばらくお互いのHPをじわじわと削っていく戦いとなったが、

ハチマンはアスナが左手の拳を握ったのがしっかりと見えた為、

もうすぐ戦いが大きく動くと確信した。

 

(なるほど、いい不意打ちだ)

 

 そしてアスナの拳打によってユウキの体が少し浮いた瞬間に、アスナの暁姫が光を放った。

 

「スターリィ・ティアー!」

 

(おお、あれがアスナのオリジナル・ソードスキルか)

 

 ハチマンはアスナの剣筋をもっとよく見ようと目を凝らしたが、

それによって別のものもまた見えてしまった。

必死に足を伸ばしたのであろう、よく見るとユウキの足の先が僅かに接地しており、

同時にユウキの持つセントリーがアスナ同様に発光した。

 

「ここでかよ!」

 

 ハチマンは思わずそう叫び、他の者達も驚いたような声を上げた。

 

「マザーズ・ロザリオ!」

 

 同時に僅かに金属音が聞こえ、ハチマンはアスナの剣の威力が減衰されるのを確かに見た。

 

(これは………削りきれないままアスナが硬直に入っちまうか)

 

 そしてマザーズ・ロザリオによってアスナのHPが敗北ラインを超え、

ユウキがマザーズ・ロザリオのフィニッシュを放とうとした瞬間に、

ハチマンはアスナのHPが全損するのを予感し、脳内が沸騰するのを感じた。

 

 ギリッ

 

 ハチマンは歯を食いしばり、同時にその全身から鬼気のような物が放出された。

周りの者達はそれを感じ取り、背筋を凍らせた。

 

(あ、兄貴が怖い………気がする)

(何これ何これ)

(やばいやばいやばい)

 

 だがその雰囲気は一瞬で霧散し、

周りの者達はハチマンが落ち着いてくれたのだと安堵した。

怖くてハチマンの方が見れなかった為に誰にも分からなかったが、

実はこの時ハチマンの隣にいたユキノが、

大丈夫だという風にハチマンの膝にそっと手を乗せていたのであった。

それによってハチマンは若干落ちつきを取り戻し、

直後にアスナが何とかユウキの剣の軌道をずらしてHPを僅かに残す事に成功した為、

完全に平静を取り戻す事に成功した。

 

「あ、兄貴………?」

 

 ここでスリーピング・ナイツの一同が、恐る恐るハチマンの方を見てきた。

 

「ん、どうした?」

「いや、さっきの………」

「ああ、悪かった、怖がらせちまったか?」

「う、うん………」

「すまん、もう大丈夫だから心配しないでくれ」

「そっか、それならいいんだけど」

「頭じゃもう平気だって分かってるんだがなぁ……」

 

 その最後のハチマンの呟きで、他の者達も何となく事情を察した。

まあ本当の意味で理解出来た訳ではないが、気持ちはちゃんと伝わっている。

キリトとアスナならばハチマンの気持ちを完全に理解出来たと思うが、

そのキリトは今はステージ上におり、アスナは丁度こちらに向かってきている最中であった。

 

「あれってアスナのオリジナル・ソードスキル?」

「うん、スターリィ・ティアーって言うの。

ユウキのマザーズ・ロザリオと比べたら、全然まだまだなんだけどさ」

「そんな事ないよ、凄く綺麗で速いなってびっくりしたもん!」

「ふふっ、ありがとうユウキ」

 

 アスナとユウキはそんな会話をしながらハチマン達の下へと到着した。

 

「みんな、お待たせ!」

「おお、凄かったなユウキ」

「いいもの見せてもらったわ」

「アスナがあそこまで強いなんて本当にびっくりしたよ!」

「まあ負けちゃったけどね」

「いやいや、互角の戦いって言っていいと思う」

「うんうん、今回の結果は偶々だって」

「どうかなぁ、まあでも今度またやろうね、ユウキ」

「うん、約束ね!」

 

 そんな和やかな雰囲気の中、アスナとユウキはそれぞれの場所に腰を下ろした。

ユウキはスリーピング・ナイツの中央、そしてアスナは当然ハチマンの隣である。

 

「それにしてもさぁ……兄貴とアスナってどんな関係なんだろ?」

 

 後ろを気にしながらタルケンが突然そんな事を言い出した。

 

「あ、それそれ、気になるよね」

「えっ?ボクがいない間に何かあった?」

「さっき兄貴が、アスナのHPが全損しかけた時、凄え怖かったんだよな」

「そうなの?」

「うん、あれはマジでやばかった……」

 

 いつも陽気なジュンがやや顔を青くしながらそう言ったのを見て、ユウキは少し驚いた。

 

「そうなんだ……」

「あと、さっき兄貴が何か気になる事を言ってなかった?」

「ああ、そういえば何か気になったよな……何だっけ?」

「ユキノさん絡みで何か………あっ!SAOが何とか!」

「命がけの近接戦闘はしてないとか」

「そもそもさっき兄貴、ユキノがSAOにいてくれればって言ってなかった?」

「えっ、そうなの?」

「どういう事?」

 

 スリーピング・ナイツの一同は、困惑した顔でチラリと後ろを見た。

そこにはハチマンに体をもたせかけるアスナの姿があり、

ハチマンがそのアスナの頭を軽く撫でていた為、一同の困惑はそこで最高潮に達した。

 

 

 

 一方こちらはハチマンとアスナである。

 

「ごめん、負けちゃった」

 

 アスナは戻ってすぐに、笑顔のままハチマンにそう言った。

 

「ん、いや、まあアスナが満足してるみたいだから、別にいいだろ」

「えっ、私ってばそんな風に見える?」

「ああ、とても晴れやかな顔をしているぞ」

「そっかぁ、確かにそんな気持ちなんだよね、

全部出し切ったっていうか、まあそんな感じ」

「そうか、それならいい」

「あと………怖がらせちゃってごめんね?」

 

 アスナはそこで本当に申し訳なさそうな表情をし、再びハチマンに謝った。

 

「ん、何の事だ?」

「だってハチマン君、多分私がさっき全損しかけた時にさ……」

「何か感じたのか?」

「うん、だから必死で死なないようにって頑張ってみたよ」

「そうか、逆に何かごめんな」

「ううん、私こそごめんね」

 

 そう言ってアスナはハチマンにもたれかかり、ハチマンはその頭を優しく撫でた。

そんなハチマンの気持ちが伝わったせいか、

ヴァルハラのハチマン強行派組も全員大人しくしており、二人を暖かい目で見守っていた。

逆に動いたのはスリーピング・ナイツ組である。

 

「ハ、ハチマン………」

「ん、ユウ、どうかしたか?」

「あ、あのね、ちょっと聞きたい事があるんだけど………」

「おう、俺に答えられる事なら何でも答えてやるぞ」

「えっと、ハチマンとアスナの関係って………」

 

 その質問に、ハチマンとアスナは首を傾げた。

当たり前すぎて、当然スリーピング・ナイツも全員知っていると思っていたのであろう。

 

「あれ、言ってなかったか?アスナは俺の彼女だぞ」

「うん、私はハチマン君の奥さんだよ?」

 

 その言葉にハチマンは苦笑したが、さすがに周りから突っ込みが入った。

 

「アスナ、どさくさ紛れに飛躍しすぎではないかしら」

「そうだよアスナ、まだ早い!」

「まあ実質的にはそうかもしれないけどね」

「ハチマン様、後で私の頭も撫でて下さい」

「っていうか羨ましい………」

 

 ヴァルハラ組は突っ込み半分、冷やかし半分で口々にそう言ったが、

当の質問をしたユウキを始めとする一同は、完全に固まっていた。

 

「おいユウ、どうした?お~い?」

 

 ハチマンはそう言いながらペチペチとユウキの頬を叩き、それでユウキは再起動した。

 

「かっ、彼女!?アスナってハチマンの彼女なの!?」

「ちゃんと言ってなかったんだな、悪かった」

「別に悪くはないけど……ええっ?それじゃあユキノさんは?」

「何故そこでユキノの名前が出てくるのか分からないが……」

 

 その言葉にユキノも困惑した顔をした。

 

「もしかして、私がハチマン君の彼女だと勘違いしていたの?」

「う、うん!」

「どうしてそんな事になったのかしら……」

「だってほら、体術スキルを取りに行った時に、凄く仲が良さそうだったから」

「ハチマン君、その話を詳しく」

 

 その瞬間にアスナがじとっとした目でハチマンにそう言った。

最近珍しい、アスナのヤキモチを焼く姿である。

 

「え、あの時にそんな事あったか?」

「あれじゃないかしら、私がバランスを崩して上の穴から落ちそうになったのを、

ハチマン君に受け止めてもらった時?」

「ああ~、あったあった、違うんだアスナ、ユキノがおかしな体勢で落ちてきたから、

俺が慌てて下で受け止めた事があったんだが、

多分こいつらはその時に勘違いしたんだと思う」

「あの運動神経のいいユキノが?体勢を?」

 

 アスナは疑いの目でじっとユキノを見た。

ユキノは若干冷や汗をたらしながら、素直にこう告白した。

 

「ごめんなさい、わざと体勢を崩したわ」

「やっぱり!」

「え、お前あれわざとかよ!」

「ごめんなさい、ハチマン君なら受け止めてくれるだろうなって思ってそれで……」

 

 その言葉を聞いたアスナは、ハチマンとユキノの顔を見比べながらこう言った。

 

「まあいいか、でもユキノ、今度何か奢ってね」

「分かったわ、それじゃあみんなで女子会といきましょう」

 

 アスナにそう言われたユキノはヴァルハラの仲間達に向けて笑顔でそう言った。

 

「当然私も参加する」

「あ、私も行きたい!」

「私も私も」

「あ、じゃあ私も」

 

 そんな和やかなヴァルハラ組を見て、スリーピング・ナイツはぽかんとした。

 

「え、アスナ、それでいいの?」

「うん、まあ今更だし、普段はみんな私に気を遣ってくれてるし、

間違いが起こらなければそれくらいならたまにはいいんじゃないかな」

「そ、そうなんだ……」

「これが真の正妻力……」

「アスナってやっぱり凄い……」

 

 こうしてやっと誤解は解け、

アスナはスリーピング・ナイツにハチマンの正妻認定をされる事となった。ラン以外には。


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