「でもなぁ、何であれだけでユキノが俺の彼女だと勘違いするんだ?普通ありえないだろ」
事情は分かったが、ハチマンはどうしてもその事が納得いかなかったらしく、
首を傾げながら腕組みをし、スリーピング・ナイツに向けてそう言った。
「その時ってどんな状況だったの?」
「あの時は確か、ユキノがバランスを崩して上から落ちてきたから慌てて受け止めたんだよ。
まあ確かにお姫様抱っこの形にはなったが、それ以外に受け止める方法は無いだろ?」
「う~ん、確かに変な体勢で受け止めるのは危ないもんね」
「だろ?で、感謝の印にちょっと首に手を回されたが、それ以上の事は何も無かったし、
あんなんで彼女認定されちまったら正直たまらん」
「首に手を………ねぇ」
アスナはそう呟いてチラリとユキノの方を見た。
当のユキノは、てへっ、といった顔でアスナに手を合わせており、
アスナは不覚にも、同性ながらそのギャップに萌えてしまい、
ユキノに対してそれ以上特に何か言う事は無かった。
代わりに発言したのは、思った事がすぐ口から出てしまうジュンであった。
「ああ、それならランだよ兄貴」
「ラン?」
「うん、ランがユキノさんの事を彼女認定したから、俺達も何となくそうかなって思ってさ」
「ほう、ランがねぇ……」
ハチマンがそう言ってスッと目を細めたのを見てジュンは焦った。
「あっ、ち、違う、今のは別に悪い意味で言ったんじゃないから!」
「大丈夫だ、ちゃんと分かってる。単に発端がランの思い込みだったって話だよな?」
「う、うん」
「ならまあキリトには悪いが、ランに事実をちゃんと教えておくとするか」
ハチマンはそう言って悪い顔をし、他の者達は苦笑した。
「何をするつもりか分からないけど、まあ程ほどにね、ハチマン君」
そのアスナの言葉にハチマンは首を傾げた。
「何を言ってるんだアスナ、ほら行くぞ、こっちだ」
「えっ?えっ?」
「ランに俺達が付き合ってるってしっかりと教えてやらないといけないからな」
ハチマンはそう言うと、戸惑うアスナの手を引いて前へと進み出た。
「あの子は確かユウキだったか、ランの妹は随分強いんだな、正直驚いたよ」
「ふふっ、自慢の妹なのよ、欲しいと言われても絶対にあげないわ」
「いや、そんな事を言うつもりはまったく無いよ!」
「本当かしら、ああ見えてあの子、脱ぐと………別に凄くないけど、
まあとってもかわいいのよ」
「そんな情報は俺には必要ないから!」
「ちなみに私は脱ぐと凄いのよ」
「そんなの見れば………あ、いや、無し、今のは無し!」
一方次に戦う予定のキリトとランは、ハチマン達が真顔で何か話しているのを見て、
戦い始めるのを一旦止め、様子見をしつつ雑談をしていた。
キリトがランに遊ばれている感もあるが、
基本ランがボケてキリトが突っ込むスタイルである。
「それにしてもあの技、マザーズ・ロザリオって言ったかな、あれは本当に凄いな」
「私が言うのもアレだけど、それは同感ね、我が妹ながら本当に恐ろしいわ」
「いつかユウキとも戦ってみたいもんだ」
「その為には私を倒さなくてはいけないわよ?」
「ここを通りたかったら私を倒してから行けってか?」
「それもいいけど、私的にはここは通行止めだ、他をあたれ、の方が燃えるわ」
「おっ、ランはそっち系もいける口か」
「どの作品が元ネタなのかは知らないんだけどね」
その会話は中々盛り上がっており、どうやらこの二人は中々馬が合うように思われた。
「しかし私としては、アスナがあそこまで戦えた事の方が驚きなんだけど」
「俺としては、アスナの事を知らなかった事の方が驚きだよ」
「………アスナってそんなに有名人なの?」
「ああ、SAOの頃からな」
「あら?その時アスナは別の名前でプレイしていたのではなかったかしら?」
この言葉にはさすがのキリトも『?』となった。
「一体どうすればその発想になるんだ?」
「………えっ?」
「アスナは今も昔もアスナであって、その名を別人が名乗った事は一度も無いんだけどな」
「えっ?えっ?SAO時代にアスナを名乗ってたのはユキノさんじゃ?」
「いや何でだよ、何でそう捻くれた考え方をするかな」
キリトにそう言われたランは、ここで核心となる言葉を発した。
「だってハチマンの彼女はユキノさんでしょう?」
「はぁ?スリーピング・ナイツってハチマンの身内みたいなものなんだろ?
それなのに何でそんな勘違いをするんだ?」
「か、勘違い?」
そう言われたランは、慌ててハチマン達がいる方を見た。
丁度その時ハチマンとアスナが前に進み出て来た。
「お?」
「ハチマンとアスナ?」
そして二人の目の前、ステージの裾近くに腰を下ろしたハチマンは、
そのままアスナを自分の膝の上に乗せ、二人をじっと見つめた。
「ハ、ハチマン君、さすがにちょっと恥ずかしいんだけど」
「大丈夫だ、俺も恥ずかしい」
「じゃ、じゃあみんなの所に戻ろ?」
「この戦いが終わったらな」
「う、うぅ……」
アスナにとってはとんだ羞恥プレイであったが、
その光景は、ランをこれ以上なく混乱させるのには十分だったようだ。
「あれ?えっと………あ、あれ?」
「あいつらは一体何をやってるんだ……」
キリトは呆れた声でそう言いながらも、そろそろ勝いを始めようとランの方を見た。
そのランは混乱の極み状態にあり、キリトはこのまま始めていいのかとさすがに悩んだ。
その時ハチマンからキリトに声がかかった。
「キリト、デュエル開始だ」
「えっ、こんな状態のまま始めていいのか?」
「おう、手加減は一切無しな」
「あっ、そういう………」
キリトはこれまでの経緯から、ハチマンがランにお仕置きしようとしていると感じ、
やれやれと肩を竦めながらこう言った。
「今度別の機会に万全の状態でやらせてくれよな」
「おう、その時はユウキもセットでな」
「オーケーオーケー、それじゃあデュエル開始だ、ラン」
「そ、そうね、そろそろよね」
ランは動揺したままそう答え、そして二人のデュエルが始まった。
そのせいで多少は頭が冷えたのか、
ランは最初、キリトを相手にその全ての攻撃を叩き落とす事に成功したが、
やはり気になるのだろう、どうしてもチラチラとハチマンの方を見てしまい、
そこをキリトに狙われ、手痛い一撃をくらう事になった。
「ぎゃんっ!」
「ぎゃんっって、まるで昭和だなおい………」
「一周回ってかわいいでしょ?」
ランは臆面も無くそう言い、深呼吸をした後、刀を青眼に構えた。
どうやら今の一撃で頭が冷えたらしい。そんなランを見て、キリトもニヤリと口角を上げた。
「それが本気か?」
「行くわよ」
そこから二人の激しい斬り合いが始まった。
基本待ちのはずのランは、珍しく自ら攻勢に出て、積極的に敵に隙を作ろうとし、
キリトはキリトでその事を分かっているのか、最低限の動きでその攻撃をいなしていた。
「さすがね」
「一応最強の看板を背負っているんでね」
「じゃあその看板は私がもらう事にするわ」
「うちの幹部を全員倒せたらな」
「あっ、それじゃあ無理、だってソレイユ師匠がいるんでしょ?」
「いきなり諦めるのかよ!」
キリトはそう突っ込んだが、それはランにとっては明らかに隙であった。
刀をだらりと下げたままスッと前に出たランは、
キリトの右手を掴んでいきなり投げ飛ばしたのだ。
「うおっ」
「決まりね」
ランはそのままソードスキルの体勢に入ったが、経験の未熟さであろう、
一撃でこの勝負の決着を狙った為、若干最初に溜めがある技を選択し、
そのせいでキリトにほんの一瞬ではあるが、余裕を与える事となった。
「まだまだ!」
キリトはそう言って先ほど捕まれた右手を必死に伸ばし、地面に手をつく事に成功すると、
そのまま強引に体を捻って低い体勢からの回し蹴りを放った。
「あっ、しまっ………」
ランはキリトに足を刈られてその場に転ばされ、
その間に立ち上がったキリトがランの目の前に剣を突きつけた。
「どうする?まだやるか?」
「いいえ、今日のところは私の負けよ、
今度はもう少しソードスキルの実戦練習をしてくるわ」
「そうだな、その方がいい」
「それじゃあ申し訳ないのだけれど起こしてもらえるかしら」
「ああ、もちろんだ、俺は紳士だからな」
キリトがそう言ってランに手を伸ばした瞬間に、横から声がかかった。
「その必要はない、お前はこっちだ、ラン」
「きゃっ!」
それはいつの間に横に来たのか、ハチマンであった。
ハチマンはランのお腹に手を回し、そのままランを肩にかついだ。
久々に見せるハチマンのお米様抱っこである。
「わ、私をどうするつもり!?まさかアスナと一緒にペロリと食べちゃうの?」
「お前の妄想にアスナを巻き込むな、キリト、みんなの所に戻ろうぜ」
「お、おう」
ランに伸ばした手を持て余していたキリトはそう言われて手を引っ込め、
そのままハチマンの後に続いた。その隣にアスナが並ぶ。
「キリト君、ランはどうだった?」
「このまま成長したら、多分凄い剣士になるだろうな、性格とか色々な部分を含んでだけど」
「じゃあユウキは?」
「あの子はある意味完成してるな、まあ今度やり合ったとして、
そう簡単に負ける気は無いが、それはアスナもだろ?」
「うん、私もユウキに勝ちたい」
「そうか、ならお互いもっと強くなろうぜ」
「うん!」
そんな二人の耳に、観客の中からこんな声が聞こえてきた。
「さっきの戦闘には驚かされたが、何だよ、俺でも何とか互角に戦えそうな感じじゃねえか、
ヴァルハラもスリーピング・ナイツも実はその程度か?」
その声は、同盟の連中がたむろしていた場所から聞こえ、
ハチマン達三人はそちらにチラリと目を向けたのだった。