「それじゃあヴァルハラについての説明を始めよっか」
「「「「「「「アスナ先生お願いします!」」」」」」」
「み、みんなノリノリだね……」
一同は元気いっぱいにそう答え、アスナはたじたじとなりながらそう言った。
「あっ、そうだアスナ、せっかくだからこの眼鏡をかけてみて!」
そんな中、何故そんな物を持っていたのかは分からないが、
ユウキがどこからか眼鏡を取り出してアスナに差し出してきた。
「眼鏡?別にいいけど……」
アスナは特に断る理由も無い為、その眼鏡を素直に受け取ってかけてみた。
「へぇ………」
その眼鏡はただのネタ装備であり、特に何かエンチャントがついている訳ではないのだが、
何故か身が引き締まる気がし、アスナは自然とあらたまった口調になっていた。
「それでは不肖ながら、私がヴァルハラについてレクチャーしたいと思います、
みなさん、居眠りしないでちゃんと授業を聞いて下さいね」
「「「「「「「は~い先生!」」」」」」」
こうしてアスナも上手く乗せられてノリノリとなった。
「それでは授業を開始します、先ずは公開されている情報をこのモニターに映します」
そう言ってアスナはヴァルハラの公式ページにアクセスし、
メンバー専用ページにログインしてその映像をモニターに映した。
お風呂でランとユウキから、二人がメンバー専用ページを閲覧出来るという話を聞き、
どこまで話していいかの参考にする為にそうする事にしたのである。
「最初はもちろんリーダーのハチマン君、私の愛しい旦那様です」
調子に乗ったアスナは得意げな顔で、普段なら絶対に言わないようなセリフを言ったが、
ログアウトした後にこの時の事を思い出し、ベッドの中で一人悶絶する事となる。
「ハチマン君については特に説明はいらないよね?みんなよく知ってるだろうし」
「まあ大丈夫………かな?」
「下手に知りすぎちゃうのもこれからの生活がつまらなくなるしね」
「兄貴はやっぱり謎めいてないとな!」
その後も延々と繰り広げられたハチマントークを聞いて、
アスナは複雑な顔をしながら一同にこう言った。
「みんな、ハチマン君の事が好きすぎでしょ……」
そして続けてアスナは幹部四人の説明に移った。
「えっと、ランはよく知ってると思うけど、こちらがソレイユ姉さん、
滅多にログインしてこないけど、うちの影の支配者、筆頭幹部だよ」
「影の………支配者?」
「何でランはこの人の事を知ってるんだ?」
ランはそう問われ、一瞬返事に詰まった。
ゾンビ・エスケープでの修行の事は内緒だったからだ。
「け、検査の時にちょっとね」
「あ、そういう事か」
「ん、って事はもしかして、ソレイユさんってあの超絶グラマー美人社長の陽乃さんなの?」
ここでジュンが鋭いところをみせた。
ソレイユの名は知らなかったが、陽乃は何度か眠りの森に足を運んでおり、
当然一同とも顔見知りだった為、社名とキャラ名が一致している所から類推したらしい。
「うん、その超絶グラマー美人社長の陽乃姉さんだよ」
「あ、やっぱりそうなんだ!」
「というか、みんなは姉さんと顔見知りなんだね」
「眠りの森にたまに来てくれてたよ」
「うん、とっても良くしてもらったよね」
「凄く優しいよね、陽乃さん」
「ええ、尊敬に値する人物だと思うわ」
「へぇ……」
(さすがは姉さん、やるべき事はしっかりとやってるんだなぁ)
アスナは普段の印象とはかけ離れたその陽乃に対する一同の感想を聞き、
陽乃への尊敬を一層深める事となった。
「それじゃあ次はキリト君だね」
「ヴァルハラ最強のプレイヤーなんですよね?」
「うん、それで間違いないかな、多分ハチマン君も私も、
たまに勝つ事はあってもキリト君に勝ち越すのは無理だと思う。
あ、姉さんは特別だから除外ね」
「キリトって人、そんなに強いんだ……」
「アスナの強さも普通じゃないって思ったんだけどなぁ」
アスナの説明に実感が沸かないらしい一同を見て、
アスナは自分なりの分析を披露する事にした。
「キリト君って、私達と違ってステータスがパワー寄りなんだよね。
それなのに動きがスピードタイプの私達とほとんど変わらないから、
まあ勝てなくて当然だよね」
「えっ、それってどんなチート?」
「別にそういうんじゃないよ、ただ思考の瞬発力が他の人と比べて桁違いに早いみたい。
だからGGOでも銃弾を斬ったり出来るんだろうね」
その言葉で一同は、ALOのキリトがGGOのキリトと同一人物である事に気が付いた。
「あ、ああ~!第三回BoBで優勝したのってもしかして……」
「うん、あれはキリト君本人だね」
「そういう事か!」
「ユウ、相手はどうやら本物の化け物みたいよ、今度戦う時がとても楽しみだわ」
「いいないいな、ボクも戦う!」
どうやらユウキも闘争心を刺激されたらしい。
「そうね、挑戦者のつもりでそのうち二人で相手をしてもらいましょう」
「うん!」
続けてアスナの説明は、ユキノの番となった。
「そして次は絶対零度ことユキノだね、もう知っていると思うけど、
ユキノは大規模攻撃魔法も使いこなす、ALO最高のヒーラーだね」
「ユキノさんってやっぱ凄え……」
「でも何で大規模攻撃魔法メインなの?」
「う~ん、それはまあ役割分担かなぁ、
少数が相手なら普通の攻撃魔法は仲間に任せておけばいいし、
ユキノが攻撃しないといけないような場面って、これはまあよくある事なんだけど、
相手がうちの何倍もいる時とかにほぼ限られるからね」
「「「「「「「よくある事なんだ……」」」」」」」
一同は、さすがはヴァルハラだと感心した。
「有名になると、敵も味方もその規模が大きくなるという事かしらね」
「まあうちの場合は敵の規模ばっかり大きくなっちゃってるけどね、
相手は主に連合なんだけど、最近は同盟との関係も怪しいからなぁ」
そう言いつつもアスナの表情は余裕であり、それを見た一同は、
いずれはスリーピング・ナイツもそういった大規模戦闘に巻き込まれるかもしれないが、
その時が来る前にアスナにレクチャーを受けておこうと、
ひそひそと言葉を交わして頷き合ったのであった。
「最後は私だけど別に説明はいらないよね?」
「アスナについてまだ知らない事は沢山あると思うけど、
そういった事に関しては徐々に知っていけばいいと思うわ。今の私達は仲間なんだしね」
一同はその言葉に微笑みあった。そして次にアスナは通常メンバーの説明に入ったのだが、
さすがはヴァルハラ、二つ名持ちの数が異常に多い。
「メンバー全体の半分が二つ名持ちなんだ……」
「いずれ全員になりそうね」
「くそっ、俺もいつか格好いい二つ名を!」
「エターナルシングルのジュンとか?」
「確かに格好いいけどやめてくれよ!フラグになったらどうするんだよ!」
「「「「「「「あはははははははは」」」」」」」
こうしてレクチャーが終わり、一同は寝る前の雑談に入ったのだが、
そこでは主に、デュエル・ステージでのチルドレン・オブ・グリークスの話が中心となった。
「そういえばさっきのあいつら、どこかでうちに仕掛けてくるかな?」
「どうだろう、後ろにヴァルハラがいるって思っただろうから、仕掛けてはこないかも?」
「アスナはどう思う?」
「う~ん、どうだろうね、
うちは今までそういった他のギルド同士の争いに介入した事は無いから、
あるいは仕掛けてくるかもしれないけど……」
「それならうちから仕掛けましょう」
その時ランが突然そんな事を言った。
「えっ、ラン、本気?」
「もちろんよ、でも勘違いしないで、直接喧嘩を売るような事はしないわ。
何故なら私は平和主義者だもの」
「「「「「「「ないない」」」」」」」
一同は即座にその言葉を否定し、アスナもそれに乗った。
アスナも順調にスリーピング・ナイツに馴染みつつあるようだ。
「という訳で、私から提案があるわ」
「ランはめげないよな……」
「相変わらずランは兄貴が絡まない時は鋼のメンタルだな……」
「兄貴がからむとへっぽこなのにね」
「そこ、静かにしなさい!私が提案したいのは……」
ランはそこでひと呼吸置いた後、一同の顔を見回しながらこう言った。
「ここにいる八人だけでの三十五層のフロアボスの攻略よ。
三十四層はもうかなり攻略が進んでいるはずだから、この次のフロアという事になるわね」
その言葉はまったくの予想外であり、一同の脳はしばらく動きを止めていた。
だが徐々にその言葉が脳に染み渡るに連れ、一同の顔は驚愕に染まっていった。
「えっ、それってマジで言ってる?」
「愚問ね、本気と書いてマジのマジ、大マジよ。
アスナ、さすがのヴァルハラでも、
まだ剣士の碑文に名前が載る最小人数でのフロアボスの攻略経験は無いわよね?」
「う、うん、それはそうだね」
「つまりこれは、ヴァルハラに何かで勝利するという事と、
あの気持ち悪い同盟の連中に一泡吹かせるという、一石二鳥な計画なのよ!」
「た、確かに……」
「というか可能なのか?」
「アスナ、どうなの?」
「その前に、私は三十五層のボスの事を完璧にじゃないけどそれなりに知ってるけど、
その事は気にしたりしない?」
アスナのその言葉に一同は顔を見合わせた。
「まあいいんじゃないかな、そもそも最初から八人でってのが無茶なんだし」
「多少は知ってるくらいじゃないと、ハンデがありすぎるかもね」
「という訳でアスナ、アスナの知ってる知識があるという前提で考えてもらっていい?」
「うん、分かった」
そう問われたアスナは考え込み、やがて一つの結論にたどり着いた。
「私が加わってヒーラーが二枚になったし、もしかしたらいけるかもしれない。
ちなみにヴァルハラのベストメンバーでなら問題なく可能な気がするよ、
ハチマン君、キリト君、姉さん、私、ユキノ、セラフィム、シノノン、クリシュナかな。
でもアタッカーが多少減ってもいける気もするし、
ハチマン君がこの事を知ったら、もしかしたら先に動き出すかもしれないから、
実行するかはともかく決断は早い方がいいかもしれない」
「まあ確かにうちに可能ならヴァルハラにも可能なのが理屈よね」
ランは悔しがる事もなく、淡々とそう言った。
こういった戦力分析で私情を挟まないのはさすがである。
「でもアスナはそれでいいの?形としてはヴァルハラを裏切る事にならない?」
「今の私はスリーピング・ナイツだからね」
アスナはきっぱりとした口調でそう言い、ランはアスナに頷いた。
「そういう事なのだけれど、みんな、どうする?」
「ボクは賛成!」
ユウキが真っ先に手を上げてそう言った。
「僕も賛成かな」
「私もです」
「俺も俺も!」
仲間達が次々にそう声を上げ、ランは満足そうに頷いた。
「これで次の目標が決まったわね」
その言葉に一同は、アスナも含めて全員が力強く頷いた。
こうしてスリーピング・ナイツは、フロアボスの単独攻略を目指して動き出した。