八幡達が渡米の準備に追われる中、ユウキ達もまた着々と準備を進めていた。
「それじゃあ今日は予定通りヨツンヘイムに行くわよ」
「素材狩りね、楽勝楽勝!」
「敵はそんなに強くないけどドロップ率が最悪だから、長丁場になると思うよ」
「えっ、そうなのか、持ってく食料はこれだけで足りるかなぁ?」
「まあ長丁場って言ってもいいところ十時間くらいだと思うから、
二食分もあればいいんじゃないかな?」
「オーケーオーケー、それくらいなら大丈夫」
「ちなみにおやつは各自で用意だからね」
「私、むしろおやつだけでもいいかも」
「まあそれもありじゃないですかね」
「とりあえず一時間後に出発するから、それまでに個人の準備は済ませるようにね」
「「「「「「「は~い」」」」」」」
相変わらず騒がしい事この上無いが、彼らにとってはこれが日常である。
堅苦しさなんか必要ない、とにかくみんなで楽しもう、これが彼らのモットーなのだ。
「アスナ、いいおやつを売ってる店ってどこか知らない?」
「あ、ボクも教えて欲しいなぁ」
「出来ればその、私も……」
「それは興味があるわね」
女性陣が一斉にアスナにそう話しかけてきた。
「あ、うん、それじゃあ私が知ってるお店をいくつか回ってみようか」
アスナは快くその頼みを引き受け、女性陣は連れ立って買い物に行く事になった。
「それじゃあ最初はここ、『ALOの駄菓子屋さん』」
「「「「おお」」」」
アスナが最初にみんなを案内したのは、まさかの駄菓子屋であった。
「こんなお店があったんだ」
「うわ、安っ!」
「まあ駄菓子だしね」
狩りに持っていくおやつを買いに来たにも関わらず、一同は買い食いに熱中してしまい、
いくつかストックは手に入れたが、とても満足出来る量にはならなかった。
時刻を見ると、もう四十分が過ぎようとしている。
「わっ、もうこんな時間?」
「アスナ、次はとっておきのお店をお願い!」
「とっておきね、分かった、それじゃあこっち」
アスナは転移門に向かい、そのまま二十二層へと転移した。
アスナはそのままヴァルハラ・ガーデンの方へと向かっていく。
「えっ、そっち?」
「うん、本当はここに来るつもりはなかったんだけど、時間が無いからね」
そしてヴァルハラ・ガーデンの前にたどり着いた一同は、
そこに小さな屋台のような物がある事に気が付いた。
何人かの客が並んでおり、その相手をしているのはまさかのユキノであった。
「ユキノさん!?」
「な、何あれ?」
「えっと、たまにユキノがやってる趣味の屋台?
不定期営業なんだけど、今日やってる事は知ってたからね」
アスナはそう言って、遠くからユキノに手を振り、
こちらに気付いていたのだろう、ユキノもこちらに手を振り返した。
「おおう、まさかの展開……」
「とりあえず商品を見せてもらいましょう」
一同はそう言って、丁度客がいなくなった屋台へと足を運んだ。
「ユキノ!」
「アスナ、それにみんな、買いに来てくれたの?」
「うん、実はこれから狩りなんだけど、ちょっと食べ物を仕入れていこうと思って」
「そう、それじゃあこれがメニューになるわ、はい、どうぞ」
何故ユキノがこんな事をしているのかというと、
これは実はハチマンの提案によるものだった。
とはいえ相談を持ちかけたのはユキノの方である。
どちらかというと人付き合いが苦手なユキノが、
就職に際して少しでもそれを克服したいがどうすればいいかとハチマンに相談し、
それに対してハチマンがアドバイスしたのがこの屋台をやる事であった。
ヴァルハラの資金源にもなり、一石二鳥という訳である。
「うわ、種類が結構あるね」
「どれも美味しそう……」
「ユキノさん、これは?」
「ああ、それはね……」
ユキノは尋ねられた事に淀みなく答えていく。
一同は時間を気にしながらも、時間いっぱい迷いに迷い、
それぞれいくつか気になる商品を購入した。
「それじゃあみんな、狩り、頑張ってね」
「うん、頑張ってくるね!」
「ユキノさん、どうもありがとう!」
「ユキノ、またね」
ニコニコ笑顔のユキノにそう見送られ、
一同はユキノに別れを告げ、スリーピング・ガーデンへと帰還した。
「ふう、間に合ったね」
「良かった良かった」
「ジュン達は戻ってきてるかしら?」
「お、お帰り~、それじゃあ早速行こうぜ」
どうやら男子連中は待機中だったようで、ジュンが待ちきれないという風にそう言った。
「そうね、それじゃあみんな、出発よ!」
こうしてスリーピング・ナイツは出撃し、アルンに向かった一同は、
そこから大空へと飛び上がった。
「みんな、飛ぶのが上手いね」
「うん、かなり練習したからね」
「もう全員コントローラーが無くても大丈夫」
「空中戦もまあこなせるかな」
そして一同はそのままヨツンヘイムへと突入し、アスナの案内で歩き始めた。
「アスナはヨツンヘイムには詳しいの?」
「う~ん、まあ普通かな。狩り場への道をいくつか知ってるくらいだね」
「今から行く所は遠いの?」
「そうだねぇ、三十分くらいで着くからまあ、近い方かな」
「先客とかいたらどうしよう」
「それなら大丈夫、その付近に何ヶ所か同じ敵が沢山わく場所があるからね」
「そうなんだ、それなら大丈夫そうだね」
一同は雑談をしながらどんどん奥へと進んでいく。
そして目指す狩り場にあと数分で着く位置まで近付いた時、
遠くから戦闘音が聞こえ、一同は足を止めた。
「あっ、ここは先客がいるね」
「音からするとそれなりに人数がいそうだけど、どこのギルドだろ」
「えっと………あ、まずい、みんな、出来るだけ音を立てないようにしてね」
物蔭からそっと戦闘中のプレイヤー達の方を覗きこんだアスナからそんな指示が出た。
「って事は、敵?」
「うん、同盟の人達だったよ。この前のなんとかさん達はいないみたいだけど、
私の記憶だと、あれは結構古参のギルドだね」
「へぇ、なんとかさんはいないのか」
「もしいたら全滅させてやったのにね、なんとかさん」
「ところでなんとかさんの名前って何だっけ」
「というかギルド名も忘れた……確か神の子供云々って」
「ああ、サンオブゴッドとかだっけ?」
「そんな感じだね、でも個人名は忘れた」
正解は『チルドレン・オブ・グリークス』なのだが、困った事にオブしか合っていない、
「あれアスナ、戦場を何かがちょろちょろと駆け回ってない?」
「えっ、どれ?」
「ほら、あそこ」
ユウキが指差した先には、確かに小さなモンスターのような生き物がいて、
驚く事に、敵に攻撃を仕掛けているように見えた。
「何だろあれ……何かの装備かな?」
「でも生き物に見えるよね」
「う~ん、分からないなぁ、今度ハチマン君にでも聞いてみるよ」
「そうだね、きっと兄貴なら知ってるよね!」
一同はそのままその戦場の横をすり抜け、少し先にある狩り場へと向かった。
そこには他のプレイヤーは誰もおらず、
スリーピング・ナイツはそこを今日の狩り場と決めた。
「さて、おっぱじめますか」
「ジュン、それはセクハラよ、いやらしい」
「へっ?」
きょとんとするジュンに、ランはドヤ顔で言った。
「おっぱい始めますかとか、どれだけ女の子のおっぱいが好きなの?」
「言ってないよ!いいからさっさと狩りを始めろよ!」
「ほらジュン、もう敵が来るわよ、さっさと敵に備えなさい」
「えっ?」
見ると確かにアスナが敵を釣ってきており、ジュンはその素早さに驚愕した。
「行動早っ!」
「みんな、それじゃあ狩りまくるわよ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
それから三時間後、一同はとりあえず休憩する事にした。
「おやつ~、おやつ~!」
「三時のおやつは?」
「ユキノ堂!」
「えっ、何それ」
きょとんとする男性陣に、アスナが事情を説明した。
「マジか!今度買いに行ってみよ!」
「でもあのお店、いつやってるか分からないよ?」
「くぅ、そうなのか」
ジュンはそう言いながら、横目で女性陣が食べているおやつをチラッと見た。
「う、美味そう……」
「あらジュン、食べてみたいの?それなら分け………」
「いいの?」
ジュンは食い気味にそう言ったが、ランがそんなに優しいはずがない。
「分けてあげるつもりはないから、指をくわえてそこで見ていなさい」
「そ、そんなぁ………」
そんなジュンを横目に、女性陣はユキノが作ったおやつを存分に堪能した。
「さて、それじゃあ狩りを再開するわよ!」
それから実に六時間かけ、スリーピング・ナイツは、
やっと目的の素材を必要な数だけ集める事に成功した。