思うようにタイピング出来ませんでしたorz
「これでまた装備を強化出来るね」
「順調順調!」
「それじゃあとりあえずスリーピング・ガーデンに戻りましょうか」
狩りを終えた一同は、そのまま元来た道を戻り始めた。
必然的に同盟が狩りをしていた部屋の前も通る事になるのだが、
予想に反してその同盟のパーティは、まだ狩りを行っている真っ最中だった。
「あれ、まだやってる」
「案外真面目?」
「これはちょっと予想外だったわね、どうする?」
「揉める可能性が高いんだし、せっかくだからちょっと隠れて見物していかない?」
「敵を知ればなんとかって奴だね」
「それじゃあちょっとお手並み拝見といきましょうか」
スリーピング・ナイツはその場にしばらく留まり、
その同盟のパーティの戦いぶりを見物していた。
だが少し後にその口から出てきたのは、失望の言葉であった。
「何だあれ」
「コンビネーションもなってないし」
「動きが悪い
「ついでに攻撃力も足りないよね」
「それなりにいい装備を持ってるように見えるけどなぁ」
「でも同盟の中核なんでしょ?どういう事?」
「何か理由でもあるのかねぇ……」
一同がそんな感想を述べる中、アスナは一人のプレイヤーに注目していた。
「あの人の肩に何かが乗ってる………小さなトカゲみたいなの」
「えっ、どこどこ?」
「ほら、あそこ」
「あっ、本当だ、もしかしてあれがテイマーって奴?」
「う~ん、でもあんな小さなモンスターなんていたかなぁ?」
「あっ」
一同が見守る中、そのトカゲが突然動いた。
そのプレイヤーの肩から下り、その部屋から奥に続いている通路の方へと走っていったのだ。
「………何あれ」
「何だろうね」
「もしかして敵を釣ってるのかな?」
「う~ん」
「プレイヤーの方は目を瞑って微動だにしないね」
「というかあいつ、そもそも戦闘中にも何もしてないよ」
「謎だ………」
だがそのトカゲは戻って来ず、さすがに飽きてきた一同は、
観察するのをやめ、街へと帰還する事にした。
「それじゃあ帰りましょうか」
「うん」
「戻ったらハチマンに連絡をとって、あのトカゲについて尋ねてみようかしら」
「あっ」
ランがそう言った為、アスナは思わずそんな声を上げた。
「アスナ、どうしたの?」
「あ、うん、えっとね、ハチマン君ってば、
実は昨日から仕事の関係でアメリカに行ってるんだよね」
「えっ、そうなの?」
「兄貴インアメリカ!?」
「いいなぁ、俺もいつか行ってみたいなぁ」
幸いその理由について聞かれる事は無かった為、アスナは内心で安堵した。
ランとユウキの病気を直す可能性のある薬を見に行った事を、
さすがに軽はずみには言えなかったからである。
ハチマンがその事を双子に伝えずに黙って行った以上、
その事を自分が勝手に言うべきではないとアスナは考えていた。
だがその代わりになる言い訳も考えていなかったので、一瞬焦ったという訳であった。
「それでハチマンはどのくらい向こうに行っているの?」
「一週間はかからないとは言ってたけど、正確な日時は分からないみたい」
「そんなに?そう、それは夜が寂しいわね、アスナ」
「うん、そうだね」
アスナはそのラン問いに何気なくそう答えた。
そしてその直後に後方からこんな声が聞こえてきた。
「夜が………寂しい………」
それはすぐ後ろを歩いていたノリの声であった。ノリは赤面しており、
それを見たアスナも自分が何と発言したのか理解し、赤面する事になった。
そんなアスナをランはニヤニヤした目で見詰めていた。
「ラン、今のは……」
アスナがランに何か言い訳をしようとしたその瞬間に、
遠くの方からこんな会話が耳に飛び込んできた。
「このままだと俺達の出番は当分無さそうだな」
「まあどこもボスに挑もうとしないんだから仕方ないさ」
「だよな、まったく中堅どころの攻略ギルド連中、さっさと動けってんだよな」
それで一同は、同盟が積極的にボスを攻略するつもりが無い事を改めて確認した。
同時にやはり他ギルドが攻略を開始するのを待っている事も分かったが、
その理由はやはり不明のままであった。
「一体なんなんだろうね、あいつらは」
「何がしたいのかよく分からない……」
その時テッチが焦ったような口調でこう囁いた。
「まずい、あいつら帰り支度を始めたみたいだ、こっちも早く撤収しよう」
「そうね、それじゃあ行くわよみんな、音を立てないように注意してね」
スリーピング・ナイツは慌てて移動を開始し、一行は何とか見つからずに済んだ。
そしてアスナはナタクに連絡をとり、スリーピング・ガーデンに来てもらう事にした。
「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって」
「いえいえ、こういうのもまた楽しみですから」
ナタクは笑顔でそう言い、素材の確認を始めた。
「ひぃ、ふぅ……うん、ちゃんと人数分ありますね、
それじゃあ順番にやってっちゃいましょうか」
ナタクは一人ずつ順番に装備を見ていき、細かい要望にも丁寧に応えていった。
その職人的見地から的確な意見を言う姿はいかにも頼り甲斐があり、
仕事が早さが感銘を与えた事もあり、
誰からともなくナタクをハチマンと同じように兄貴と呼び出した。
「あ、兄貴!」
「待ちなさい、その呼び方だとハチマンも反応してしまうわ」
「あっ、そうか、それじゃあナタク兄貴!」
「う~ん、ちょっと長い?ナタニキとかどうかしら」
「ナタニキ?ナタニキナタニキナタニキ!」
「うん、いいんじゃないかしら」
そうしたり顔で突っ込みを入れていたのはランである。
「ナタニキ、これからも私達の事を宜しくね」
「え、あ、うん、も、もちろん」
ネーミングセンスは壊滅的だったが、ランの目には尊敬の念が宿っており、
ナタクは苦笑しながらもその呼び方を受け入れた。
そして全員分の装備のカスタマイズが済み、そのまま雑談タイムとなった時、
アスナは先ほどあった出来事について意見を聞こうとナタクに相談してみた。
「そんな事が……」
「うん、ナタク君はどう思う?」
「普通に考えれば、彼らが人に言えない攻略の仕方をしていて、
それには二番手以降にボスに挑むのが条件って事になりますね」
「だよね、でもそれがどんな内容なのかがまったく分からないんだよね」
「それじゃあ少し探りを入れてみますか?」
「どうやって?」
「レコン君やコマチちゃんに情報収集を頼んでみるというのはどうでしょう」
「ああなるほど、その手があったね、うん、今度ちょっと頼んでみる」
「それで情報が集まれば、色々と見えてくる気がしますね」
その日はコマチは不在だった為、アスナはレコンに連絡を入れた。
「レコン君、ちょっと頼みたい事があるんだけど、直接話せないかな?」
『あ、はい、大丈夫ですよ、今からそちらに向かいます』
「え?そちら?」
アスナはまだ場所を説明してないのにと思ったが、その時にはもう通信は切れていた。
そしてその直後にスリーピング・ガーデンの呼び鈴が鳴った。
「うわ、まさかもう着いたのかな」
そう思いつつアスナはシウネーに頼んで対応してもらい、
尋ねてきたのがレコンかどうか、後ろで確認する事にした。
「はい、こちらはスリーピング・ナイツのギルドハウスですが、どちら様ですか?」
『あ、すみません、僕はレコンと申しますが、アスナさんはいらっしゃいますでしょうか』
「やっぱりレコン君だった!」
アスナはそのまま入り口に向かい、レコンを中へと招き入れた。
「レコン君、随分早かったけどどうなってるの?」
「あ、それはですね」
レコンが言うには、ハチマンが不在の間、
可能な時はスリーピング・ナイツの様子を見ていてくれと頼まれたらしい。
さすがに狩りにずっと付きあうのは大変だった為、
今はスリーピング・ガーデン周辺におかしなギルドの拠点がないかチェックしていたようで、
偶々この近くにいたという事のようだ。
「ハチマン君も心配性だね」
「あは、まあそうですね」
そのままレコンはスリーピング・ナイツに紹介され、そこで依頼が成される事となった。
「………という訳なの」
「分かりました、色々な方面から調べてみて報告書を上げますね」
「ごめんね、ありがとう」
「いえいえ、これが僕の仕事ですから」
レコンは快くその依頼を引き受け、早速とばかりにそのまま外へ飛び出していった。
「レコン君も頼れるようになったなぁ」
アスナは微笑みながらその後ろ姿を見送り、そして話題は攻略の話となった。
「ナタニキ、私達、こんな予定でいるんだけど」
まだナタクが残っていたが、ランがそう言った事で、話がそちらに移ったのである。
どうやらランは、この話がヴァルハラに伝わってももう問題ないと判断したようだ。
「八人でのボス攻略ですか?なるほど、それはやってみる価値があるかもしれませんね、
僕も全力でサポートしますよ」
「ありがとうナタニキ!」
「でもそうなると、この層の攻略が進まないってのが困っちゃいますね」
「うん、それなんだよね……」
「まあレコンさんが何か掴んできてくれるかもしれないし、
当面はその情報を待ちながら、何かあった時に即応出来る体勢を整えておくしかないわね」
今出来る事はそれしかなく、一同は改めて攻略作戦の内容を確認する事にした。
その最中に、レコンからアスナに連絡が入った。
『アスナさん、今丁度同盟と中堅攻略ギルドが剣士の碑の前で揉めているみたいです』
その連絡を受け、スリーピング・ナイツとナタクは剣士の碑へと走った。