ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第833話 ボス部屋へ

 スリーピング・ナイツが三十四層の迷宮区に出撃したその日の朝、

明日奈が起きて直ぐに携帯をチェックすると、

そこには八幡からの着信履歴とメールが残されていた。

どうやら昨日は熟睡してしまっていたのか、着信に気が付かなかったらしい。

 

『マジか、面白そうだから俺も後でALOに顔を出すわ、

レクチャーもひと段落したし、それくらいの時間は作れると思う』

 

 明日奈はその文章を見て、本当に忙しそうだなぁ、頑張ってね八幡君、

などと考えた後、少し寂しさを感じ、その事を理解した瞬間に顔を赤らめた。

 

『そんなに?そう、それは夜が寂しいわね、アスナ』

 

 という、昨日のランの言葉がフラッシュバックしたせいだ。

 

「ち、違うの、これはそういう意味の寂しさじゃないの」

 

 明日奈は誰に聞かせるでもなくそう呟くと、火照った顔をパンと叩いて気合いを入れ、

三十四層のボス攻略をまとめる為にノートとペンを取り出した。

 

「双頭の巨人ヨツン……双頭の巨人ヨツン……確かあの時は………」

 

 明日奈は思い出せる限りの敵の行動をメモしていき、それを順番に並べていった。

 

「これは確か序盤の攻撃、これは中盤………?

あれ、発狂モードってどんな攻撃だっけかな、ちょっと和人君に聞いてみようかな」

 

 今の時間は朝八時を少し回ったくらいであり、和人が起きているか微妙な時間だった。

なので明日奈は先に直葉に連絡を入れる事にした。

直葉が朝練を欠かす事は無いと聞いているので、もう起きていると確信していたからだ。

 

「あ、もしもし、おはよう直葉ちゃん」

『おはようございます!こんな時間にどうしたんですか?』

「朝早くにごめんね、えっと、ちょっと聞きたい事があるんだけど、

和人君ってもう起きてるかな?いきなりかけて寝てたら悪いと思ったんだよね」

『あ、今日は朝練に無理やり付き合わせたので、もう起きてますよ、今代わりますね』

 

 どうやらそういう事らしく、和人は直ぐに電話に出てくれた。

 

「和人君、朝練してたんだ」

『おう、たまには付き合えって昨日からスグがうるさくてさ……で、用件は?』

「実はちょっと聞きたい事があってさ、

SAOの三十四層の双頭の巨人のフロアボスの事、覚えてたりする?」

 

 その問いに一瞬沈黙した後、和人は直ぐにこう答えた。

 

『……ああ、ヨツンの事か!それならそこそこ覚えてるけど、

あれ、でも三十四層って今の最前線だよな?もしかして攻略に参加するのか?』

「いやぁ、参加するというか、むしろ私達だけで攻略する事になったというか……」

「えっ?確かに攻略が停滞しているなとは思ってたけど、

もしかしてうちでやる事になったのか?八幡もいないのに?」

 

 それは当然の疑問であった。明日奈が私達と言えば、それはヴァルハラを意味するのだ。

……………通常であれば。

 

「あっ、ほら、今の私はその………ね?」

「今の私?って事はまさか、スリーピング・ナイツ単独で攻略を目指すのか?」

「うん、昨日そういう事になっちゃってさ」

「マジか」

「マジで」

 

 明日奈がこういう物言いをする事は珍しいが、

それ故にその言葉には真実の響きがあった。

もっとも明日奈が和人相手に嘘をつく事はありえない。

和人は何故か無言だったが、しばらくしてこう言った。

 

「あ~、スレに載ってたわ、なるほど、こういう事だったのか」

 

 どうやら和人は自分のスマホをいじって調べ物をしていたようだ。

 

「あ、話題になってた?」

「なってるなってる、『スリーピング・ナイツを見送る会』まで企画されてるぞ」

「マジで?」

「マジで」

 

 明日奈は噂が広がるのが早いなと妙に感心した。

その後、明日奈は和人に思いつく限りの情報を教えてもらい、

これなら何とかなりそうだと安堵した。

 

「ありがとう、これで大体の情報は確保出来そう」

「というか、俺よりも八幡の方が詳しいと思うぞ、八幡には聞かないのか?」

「それがね、八幡君はちょっと忙しいみたいで、

昨日の夜に連絡を入れたんだけど、返事があったのが夜中でさ、

私も着信に気付かなくって、直接は話せなかったんだよね」

「明日奈、忙しいってのは確かにそうだろうが、それ以前に時差の事も考えような」

「あっ」

 

 明日奈はその事は忘れていたらしく、コツンと自分の頭を叩いた。

 

「そっか、そういえばそうだった!」

「まあ今度はその事も考えて連絡してみろよ、八幡もきっと寂しがってると思うぞ」

「っ………」

 

 明日奈はそう言われ、再び昨日の事を思い出して赤面したのだが、

幸い和人がその事に気付く事はない。

 

「まあ初回なんだし、思わぬ事故もあるだろうけど、何があっても諦めずに頑張ってな」

「うん、ベストを尽くすよ」

「俺も後で見物に行くわ」

「あ、八幡君も後で見物に来るって言ってたよ」

「へぇ、じゃあ後で連絡してみるかな」

「これは負けられなくなっちゃったね」

「だな」

 

 二人はそう言って笑い合うと、そのまま通話を終えた。

そして明日奈はコンディションを整え、ログイン前に母である京子の所に行った。

 

「お母さん、今日は大事な戦いがあるから、うっかり接続を切らないようにしてね」

「あら、明日奈がわざわざそんな事を言うなんて珍しいわね、

分かったわ、こっそりと明日奈の寝てる姿を写真にとって、

八幡君にプレゼントするくらいにしておくわ」

「ちょっ、お母さん、やめてよ!」

「え~?八幡君は喜ぶと思うけどなぁ、明日奈の油断したパジャマ姿」

「駄目なものは駄目!とにかく接続の件、お願いね!」

 

 明日奈はそう念を押して自室に戻り、

そのままベッドに横たわろうとして、はたと止まった。

 

「う~ん、まさかとは思うけどまあ一応備えておいた方がいいのかな……」

 

 明日奈はそう呟くと、里香や珪子と一緒にお泊りする時用のかわいいパジャマに着替え、

ついでにベッドの周りを綺麗に整頓してからベッドに横たわった。

 

「これでよしっと、リンク・スタート!」

 

 アスナは仮に写真を撮られても問題ないように準備し、ALOへとログインした。

 

 

 

「みんな、お待たせ!」

「おはようアスナ」

「こっちの準備はバッチリよ」

「それじゃあ早速ボス攻略をレクチャーするね

 

 アスナは自分では中々いい出来だと自負している攻略法を一同に伝え、

十分だと思うまで繰り返し繰り返しレクチャーを続けた。

 

「うん、バッチリ!」

「言われただけじゃイメージし辛いところもあるけど、まあ大体把握は出来たかな」

「それじゃあそろそろ行きましょうか」

「オッケー、スリーピング・ナイツ、出撃!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」

 

 アスナは出発直前にレコンから連絡が入っていないか確認したが、

特に何も連絡は来ていなかった。

 

(まあ一日しかなかったし、無理は言えないよね)

 

 アスナはそう考え、ランとユウキの後に続いて歩き出した。

そして三十四層に着いた瞬間に、スリーピング・ナイツは一般プレイヤーの歓声に包まれた。

 

「うおっ」

「何これ……」

「あ、何かスリーピング・ナイツを見送る会ってのが企画されてたみたい」

「マジか」

「俺達も有名人の仲間入りか……」

 

 その言葉通りに今ここにいるのは、

そのほとんどがスリーピング・ナイツを見送る会の参加者であり、

辺りには声援が飛び交っていた。

 

「ありがとう!頑張るね!」

「精一杯やってみるから!」

「期待しないで待ってて!でも期待してて!」

 

 一同がそう返事を返す横で、アスナはきょろきょろと辺りを見回していた。

それは見知った同盟のプレイヤーがいないか確認する為であったがそこには同盟の姿は無く、

アスナはやはり同盟はこの層の攻略に出る気は無いのかもしれないと考えた。

代わりにその場にいたのはスピネルである。

 

「あっ、スピネルさん!」

「よぉ、俺の仲間を先行させて、道中の露払いをさせてあるから、

一気にボス部屋まで突っ走ってくれていいぞ、応援してるからな、頑張ってくれ!」

「ありがとう!凄く助かるよ!」

「あ~、ついでに俺も仲間と合流しておきたいから一緒に行ってもいいか?」

「うん、もちろん!」

 

 こうして一同は、スピネルと共にボス部屋へと走ったが、

道中にはモブはまったくいなかった。

ジュエリーズがしっかりと与えられた役割を果たしてくれているのだろう。

 

「凄く楽だね」

「力を温存出来るのは助かるなぁ」

「本当にありがとう、スピネル」

「いやいや、俺達も同盟に一泡吹かせたいからな、気にしないでくれ」

 

 そしてボス部屋前の通路に到達した一同は、

通路の入り口で無事にジュエリーズの残りのメンバーと合流する事が出来た。

 

「お前ら、よくやってくれたな」

「ふふん、当然!」

「同盟をへこます為に頑張ったぜ!」

 

 スピネルの説明だと、

ジュエリーズはスリーピング・ナイツが勝利して外に出てくるのをこの場で待つらしく、

ボス部屋前でキャンプを張るようだ。

 

「それじゃあ朗報を期待してるぜ」

「本当にありがとう!この借りはいつか返すね!」

「なぁに、勝ってくれればそれでいいさ」

 

 そんな会話を交わしながら、

スリーピング・ナイツとジュエリーズはボス部屋の前に向かって歩いていった。

だが残り十五メートルくらいまで近付いた時、アスナが仲間達を制止した。

 

「ごめん、ちょっとストップ」

「ん、アスナ、一体どうしたの?」

「う~ん、ちょっと違和感がね………」

 

 それはSAOで死線を超えてきたアスナにしか分からない感覚であった。

首筋がチリチリと、危険の存在を伝えてくるのである。

アスナは予備で持ち歩いている魔法銃を取り出し、前方に向けて構えた。

それはGGOでアスナが使っているのと同じP90であり、

その扱いについてアスナは自信を持っていた。

そのせいか、アスナが銃を構える姿は実に堂にいったものであった。

 

「さ~て、誰が隠れているのかな?」

 

 アスナはことさらに大きな声でそう言うと、正面よりやや左辺りに狙いを付けた。

その瞬間に、何もない空間からこんな声が聞こえた。

 

「待ってくれ、こちらに敵対の意思はない、

モブに見つかると面倒だから、姿を隠していただけだ」

 

 その直後に数名の男が姿を現した、同盟のプレイヤーである。

 

「モブに見つかると面倒、ねぇ」

 

 スピネルがそのプレイヤー達に疑いの目を向ける。

 

「そ、そうだ、見ての通り、こっちは少数なんでな」

 

 確かにそこには三人のプレイヤーしかいなかった。

だがその中に、例のフードを被ったプレイヤーが混じっている事をアスナは見逃さなかった。

 

「こいつらからは俺達が話を聞いておく、あんた達はこのままボス部屋に入っちまってくれ」

「そう?それじゃあ任せてもいいかしら」

「おう、任せてくれ、頑張ってな」

「うん、それじゃあ行ってくる!」

 

 こうしてスリーピング・ナイツは同盟のプレイヤーの事をジュエリーズに任せ、

ボス部屋へと突入した。

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