ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、明日の投稿は所用によりお休みさせて頂きます!


第836話 イベント参加~団体戦

 どうやら最初は団体戦らしく、八幡達は鍵のかかる個室に案内された。

 

「一応セキュリティが不安だろうから、

この扉が開くのと同時に接続が切れるように設定しておいたので確認してくれ」

 

 その言葉通り、ドアの開閉と連動し、

アミュスフィアのスイッチが切れるようになっている事を確認した三人は、

簡単な説明を聞いた後、簡易ベッドに横たわって戦場へとログインした。

今回のイベントでは自分のキャラを使う事は出来ず、

キャラ性能は全員が同一の物となっていた。選べるのは銃だけである。

そして各自のアイテムストレージに予備の上着、単眼鏡、ナイフが入っており、

それとは別に各チームに一つドローンが支給されていた。

 

「そういえばGGOにもドローンが導入されたんだったか、すっかり忘れてたな」

「最近行ってませんでしたからね」

「フローリアも寂しがっているだろうし、今度顔を出してみるか」

「はい!」

 

 ちなみに対物ライフルのみ弾数制限があり、使える弾は十発のみであるが、

他の銃に関しては弾は無限設定になっているようだ。

説明書きによると、最初のスキャンはフィールドが狭いせいか、十分後に設定されている。

プレイヤーの名前はアルファ、ブラボー、チャーリーで統一されており、

その後ろに1~9までの数字が付く。

 

「これならまあ公平だな、対物ライフルを選ぶ奴は少ないだろうが、な」

 

 何の躊躇もなく対物ライフルを選んだアルファこと八幡は、

銃の調子を確かめながらそう言った。

 

「八幡様、作戦はどうします?」

 

 そんな八幡に、ブラボーことクルスがそう尋ねてきた。

 

「配置にもよるが、最初は囲まれないようにフィールドの端を目指そう、

マックスと萌郁も、開始後はとにかく地形の把握に努めてくれ」

「「了解」」

 

 今回の参加チームは全部で九チーム、これが三×三のフィールドに配置される。

マップは二キロ四方であり、正直かなり狭い。

 

「とりあえず中央だけは絶対に避けたいところなんだが……」

 

 ドローンを飛ばしながら八幡がそう言い、

萌郁は周囲を見渡しながら、じとっとした視線を八幡に向け、こう呟いた。

 

「フラグ……」

「ああ、もう分かってるって、俺が悪かったよ、どう見てもここは中央だ」

 

 八幡は上空でドローンを回転させ、自分達の位置を確認し、

その一瞬で自分達がとるべき行動を決定してドローンを戻した。

 

「よし、北東に向かおう」

「今の一瞬で何か見えましたか?」

「ああ、どうやら北東が穴だ、

あいつらはまだ索敵すらしていなかったし戦闘準備もまともに出来てなかったからな」

「八幡様、さすがです!」

 

 クルスは目を輝かせながらそう言った。もしかしたら中央に配置された事すら、

予言通りに中央を引くなんてさすがです!とか思っていそうな勢いである。

 

「とりあえず囲まれる前に向こうに抜けるぞ、

俺はここから一人減らすから、二人はその混乱に乗じて敵に襲いかかってくれ」

「それでは万が一八幡様が囲まれた時に……」

 

 クルスが心配そうにそう言ったが、八幡はその言葉に首を振った。

 

「大丈夫だ、それは何とかする。今は時間が惜しいから、とにかく急いでくれ」

「わ、分かりました!」

「気を付けて」

 

 クルスと萌郁は即座に行動を開始し、八幡は地面に寝そべって対物ライフルを構えた。

 

「さて、久々にやるか」

 

 八幡は久々の狙撃に心を躍らせながら、じっとスコープを覗いた。

どうやら敵はまだ二人の接近に気付いていなかったらしく、

銃撃を受けた瞬間に慌てて物蔭から飛び出してきた。

 

「素人か?悪いな」

 

 八幡はそう呟くと、一人のプレイヤーの頭をふっ飛ばし、即座に銃を担いで走り始めた。

囮のつもりなのか予備の上着を枝にかけ、その場に残す事も忘れない。

そして前方から銃声が聞こえ、直ぐに静かになった。

どうやら二人は無事に敵の殲滅に成功したようだ。

 

「八幡様、こっちです」

「おう、首尾良くいったみたいだな」

「敵は八幡様の狙撃で大混乱でしたからね」

「それは良かった、さて、俺の方も囮を残してきたんだが……」

 

 八幡はそう言って振り返り、単眼鏡を覗いた。

その視界に映ったのは、三方から攻撃を受ける自分の予備の上着の姿であった。

 

「よし、ラッキーだな、多分西よりの三チームが中央でカチ合いやがった」

 

 八幡は弾の飛んできた方向から推測してそう言った。

 

「それに比べて南と東は妙に静かですね」

「ああ、だがあの銃声を聞いたら、さすがに介入しに向かうだろうさ」

「ですね」

「とりあえず俺達は、出来るだけマップの東寄りから南に向かおう」

「了解しました」

 

 三人はそのまま慎重に南へと向かい、

上手く敵をやりすごしてマップ南東まで移動する事に成功した。

 

「さて、そろそろスキャンの時間だな、どんな状況になっている事やら」

 

 そしてスキャンが始まり、各チームの位置がマップに表示された。

残っている光点の数は五つまで減っており、

八幡達以外には、中央に三つ、そして真南に一つの光点が残っているようだ。

 

「ほう?たった十分の間に結構減ったな」

「中央はかなりの乱戦だったみたいですね」

「この位置からすると、北と東、それに南東にいたチームが残ってるみたいだな」

「西の三チームは功を焦って早くに動きすぎた」

「だな、さて、それを踏まえて俺達はどうするかな」

「この状況だと、南東にいたチームを私達と南のチームで挟撃するのがセオリー?」

「まあそうだな、だがここは少し変化を加えよう」

 

 八幡はそう言って対物ライフルを肩に担いだ。

 

「どうするの?」

「二人は南のチームと一緒に南東のチームを攻撃してくれ。

俺は単独で移動して、南のチームを背後から狙撃して全滅させる」

 

 クルスと萌郁はその八幡の提案に拍手を送った。

 

「さすがは八幡様、悪辣ですね!」

「さすがは八幡君、やる事がえげつない」

「お前ら拍手をしてるって事は、褒めてくれてるって事でいいんだよな………?」

「当然です!」

「もちろん」

「とてもそうは思えないんだが、まあいい、それじゃあ行くぞ」

「はい!」

「うん」

 

 三人はそれぞれの持ち場に向かい、作戦通りに行動を始めた。

南東にいたチームが残り一人となったところで八幡が南チームの背後から狙撃を開始する。

その狙撃は正確無比であり、南チームのプレイヤーが一人、また一人と倒れていく。

そしてあっさりと南チームを全滅させた瞬間にそれは起こった。

 

「むっ」

 

 八幡は殺気を感じ、対物ライフルを放り出してそのまま横に飛んだ。

八幡が直前までいた位置を銃弾が通過していく。

 

(中央にいた二つのチームのうちのどっちかか……?)

 

 敵も案外やる、八幡はそう思いつつ、そのまま全力で逃走に移った。

敵の数が分からない以上、ナイフ一本しかない状態で相手をするのは危険だからだ。

そしてその銃声は、クルスと萌郁の所にも届いていた。

 

「今のは……?」

「八幡様のいる方から!」

 

 二人は単眼鏡を覗き、必死に八幡の姿を探した。

 

「いた、こっちに向かってる!」

「その後ろから二人来てる」

「これは………待ち伏せる?」

「了解」

 

 二人はそう言うと、お互いの予備の上着を木にぶら下げ、

左右に分かれてその近くに伏せた。

その前を八幡が通過し、上着がぶら下がった木まで到着する。

 

「これは、ここにいろという事か」

 

 八幡はクルスと萌郁がおそらく近くに隠れているのだろうと判断し、

二人の上着を手に持ってその木の陰に隠れ、複数のプレイヤーがいるかのように、

左右からちょこちょことその上着を追跡者達から見えるように動かした。

 

「SHIT!」

 

 その事に気付いた追跡者達が、そう叫びながら警戒するように足を止める。

その瞬間に左右から、クルスと萌郁が敵に銃弾を雨あられと浴びせかけ、

二人いた追跡者はどっとその場に倒れ伏した。

 

「ふう、サンキューな、二人とも」

「危なかったですね、八幡様」

「おう、ちょっと調子に乗り過ぎたわ、まさか敵も迂回してきてるとはな」

「これで残りは……」

「中央にいるチームのみ」

「よし、とりあえず中央に向かうか」

 

 三人は頷き合うと、慎重に移動を開始した。

遠くから銃声が聞こえ、何故か中央で戦いが続いている事が分かる。

 

「ん、どうなってる?」

「さっき倒したのは二人だったので、その残党ですかね、

そのプレイヤーと中央に残っていたチームのプレイヤーが一対一で戦ってますね、

あっ、今接近戦に突入しました」

 

 その言葉通り、銃声が止んだ。

銃を叩き落とされた片方のプレイヤーがナイフを抜いて上手く接近戦に持ち込み、

それをもう一人が迎撃しようとしてそうなったらしい。

 

「八幡様、どうしますか?あの戦いに参加しますか?」

「撃て」

 

 八幡は即座にそう答え、クルスと萌郁はそんな八幡を再び褒め讃えた。

 

「さすがは八幡様、見事な見事な鬼畜っぷりです!」

「さすがは八幡君、男相手には容赦ない」

「お前らそれ、本当に褒めてるんだよね!?」

「もちろんです!」

「当然」

 

 そしてクルスと萌郁は戦っている二人に向けて弾丸をぶち込み、

こうして団体戦は、あっさりと八幡達の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

「ワ~オ、さすがは強いね、シャナ」

「いや、今のは敵が弱かったような……」

「まあ会場から抽選で集めた連中だからね、次の個人戦は強い連中が集まってるから、

期待してくれていいと思うよ」

「へぇ……」

 

 そして会場では表彰式が行われたが、あくまで結果と順位が表示されるだけで、

誰も壇上に上る事は無かった。

これはゲームの性質上、リアルでの報復の危険性について配慮された結果であり、

後で賞品だけが贈られる事になっているようだ。

それでも観客達は盛り上がり、口々に八幡達の事を褒めていた。

 

「あれで褒められるのか」

「結果が全てって感じですね」

「どうだ萌郁、楽しかったか?」

「うん、ゾンビ・エスケープとはまた違った楽しさがあった」

「それは良かった」

 

 そして次は個人戦という事になり、八幡はルールの説明を受け、

クルスと萌郁に見守られながら、ベッドに横たわった。

 

「八幡様、頑張って下さいね!」

「おう、今度はシャナでログイン出来るから、思いっきりやってくるわ」

「もし負けたら私がこの胸で慰めて差し上げます!」

「いや、そういうのはいいから」

「そんな塩対応も素敵です!」

「お前は俺を褒めすぎだ」

 

 八幡は苦笑しながらそう言うと、大会用のステージへとログインしていった。


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