ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第837話 イベント参加~個人戦・まさかの再会

「さて、名前はどうするか……」

 

 個人戦に出場するに当たって、安全対策としての偽名の設定画面を前に八幡は悩んでいた。

 

「う~ん、こういうのはいつも悩むんだよな……何かいいネタはあったっけか」

 

 そして制限時間が迫る中、八幡は先ほどのジョジョの顔を思い浮かべ、

咄嗟にこう入力した、『ディオ』と。

 

「これで良しっと、さて、どのくらいのレベルの敵が出てくるのが楽しみだ」

 

 八幡はわくわくした表情をし、

まるでこれからBoBに臨むかのような気分でフィールドへとログインした。

今回もマップは狭く、三×三のフィールドにプレイヤーが配置される事になっており、

八幡は周囲の様子から、ここがマップ左下だと推測した。

その理由は簡単である、南西方角に高い壁があったからだ。

尚、個人戦は団体戦と違い、最初にスキャンが行われる事になっていた。

 

「さて、とりあえずスキャンを待つか」

 

 どうせ他の奴らも直ぐには動かないだろう、八幡はそう思い、その場に腰を下ろした。

そしてスキャンが始まり、八幡は綺麗に並んだ九つの点を順にタップしていった。

 

「やっぱり俺は南西か、後はっと………ハローワールド?カーネル?コカコーラ?

やっぱりみんな適当なんだな………うげ、ヌルポって何だよ、

どこでこういう言葉を覚えるんだか。

でもまあ名前が分かっても、実際のところ敵の強さは全く分からないんだよな」

 

 全員偽名を使っていると思われる上に、八幡はUSサーバーについては完全に無知である。

当然敵の強さなど分かるはずもない。だがそんな八幡を衝撃が襲った。

光点の中に、実名のままでエントリーしていると思われる、知ってる名前を見つけたからだ。

 

「サトライザーだと………」

 

 八幡はまさかと思いながらも、これが本当にあのサトライザーか確認する為に、

その光点があった、マップ右上、北東方面を目指す事にした。

 

「油断しないように慎重に行くか……」

 

 八幡はゆっくりと周囲を確認しながら目的地へと進んでいったが、

何故か道中では誰にも出会わない、というか戦闘が行われている気配も無い。

 

「おかしいな、そろそろ中央なんだが、定番の中央のプレイヤー狙いも無しか?

もしかしてこっちのプレイヤーは消極的なのか?

いやいや、でもそれだとここに誰もいないのはおかしい、う~ん……」

 

 ここまでゆっくり慎重に進んできたせいか、そろそろ次のスキャンの時間が迫っていた。

 

「まあこれで状況が分かるか」

 

 八幡はそう考え、その場で少し待つ事にした。ここまで八幡はまだ何も出来ていない。

そして二度目のスキャンが始まり、その画面を見て八幡は息を呑んだ。

 

「そういう事かよ……」

 

 その画面には、マップ右上に三つの光点と、

その南、少し離れたところに光点が一つ表示されているのみであった。

もちろん八幡以外のプレイヤーは、である。

ここから既に四人のプレイヤーが屠られた事が分かる。

 

「なるほど、全員一斉にサトライザーの方に向かったって訳か、

日本での俺と同じように、あいつも狙われる立場だって事だな、

そして今も二人のプレイヤーと交戦中と。

これは中継がさぞ盛り上がっているんだろうなぁ………チッ、相変わらずの化け物め」

 

 八幡は自分の事を棚に上げてそう言った。

 

「まあしかし、これでサトライザーが本物である事はほぼ確定か、

偽名を使わないとか自信過剰な奴だ。さて、俺はどうするかな……

出来ればサトライザーとやり合うのは他人に邪魔されたくないんだよなぁ」

 

 八幡はそう考え、とりあえずポツンと一つあった光点の位置へと向かう事にした。

 

「こっちにいるのはヌルポか、まさか日本人じゃないだろうな。

個人戦の参加者は選抜らしいから、当然自宅とかからログインしてるだろうし、

日本人であっても不思議はないんだよなぁ」

 

 八幡はそう考えつつ、ヌルポらしき人物を発見したが、

その位置取りが絶妙なせいで、どうにも狙撃出来そうなポイントが見つからない。

おそらくヌルポというプレイヤーは、名前に似合わず上級者なのであろう。

 

「仕方ない、久々にこれを使うか」

 

 八幡はアハトXを両手に持ちながらそう呟くと、じりじりとヌルポの方に向かっていった。

 

「そろそろか……」

 

 八幡はある程度近付いたところでアハトXの刃を展開する為に一瞬ヌルポから目を切った。

そして八幡はチラッとヌルポの方を見たが、

ヌルポはその一瞬で、先ほどいた場所から姿を消していた。

 

「しまっ……」

 

 その瞬間に八幡目掛けていきなり銃弾が浴びせられ、

八幡は慌ててその場に伏せたのだが、

その過程で偶然何発かの銃弾がアハトXの刃に当たり、

銃弾のいくつから両断される事となった。

それは本当に偶然の出来事だったのだが、そのせいか銃声がいきなり止んだ。

 

「狙ってやったと勘違いしてくれたのかな」

 

 八幡はそう呟き、こっそりと相手の様子を伺った。

そのプレイヤーは驚くべき事に既に銃を持っておらず、

何か武器のような物を両手にだらんとぶら下げたまま、

へらへらと笑いながらその場に突っ立っていた。

 

「何だこいつ、クスリでもやってやがるのか?」

 

 八幡はそのプレイヤーを不気味に思いながらも、

銃を持たない相手に銃を向けるのは何となく躊躇われ、

アハトXを両手に持ったままそのプレイヤーの前に姿を現した。

二人はしばらく無言で向かい合っていたが、やがてヌルポが口を開いた。

 

「まさかとは思ったが、その黒いシャイニング・ライトソード……てめえ、ハチマンか?」

 

 それは八幡にとってもまさかの日本語、そしてまさかの名前バレであった。

 

「お前、何者だ?」

 

 八幡は相手の問いには答えずにそう言った。

もっとも相手は答えなかった事を肯定だと受け取ったのだろう、

突然狂ったように笑い出した。

 

「ククッ、クックック、フッ、フフッ、アハッ、アハハハハ、アハハハハハハハ!」

 

 八幡は相手が落ち着くまで油断しないように様子を見る事にしたが、

ヌルポは突然銃を取り出し、笑ったまま近くに浮いていた中継用のカメラを破壊した。

そして直ぐに銃をしまったヌルポは、ニヤニヤした顔で八幡の顔を覗きこんだ。

 

「俺が誰だか分からないのか?一時は俺に会いたくてSAO中を探し回っていた癖に、

随分と冷たいじゃないかよ、なぁ参謀様?

俺だよ俺、お前が結局最後まで見つけられなかったPoHだよ、

ギャハッ、イッツ、ショータイム!」

 

 その瞬間に八幡は、相手の首目掛けてアハトXを交差させた。

PoHはその攻撃を伏せてかわし、

逆に下から八幡の顎を狙って手に持つ武器を振り上げてきた。

よく見るとその武器は、かつてPoHが所持していた包丁型の剣、

友切包丁、あるいはメイト・チョッパーと呼ばれる醜悪な武器に酷似していた。

 

「てめえか、PoH」

「久しぶりだなハチマン、沢山の屍の上に築いた平和な人生を楽しんでるか?」

 

 その痛烈な皮肉にも八幡は動じない。

 

「ああ、おかげさまでな!」

「おうおう、言うじゃねえか、実は俺もだ、ギャハハハハ!」

 

 PoHはそう言って八幡に連続攻撃を加えてきたが、

その攻撃はいわゆる軍人の動きをしており、

サトライザーやレヴィ辺りの動きをよく知っている八幡はその攻撃を難なく避け、

逆にPoHの左腕をアハトXで斬り飛ばした。

 

「おいおい、やっぱりその剣は反則だろ」

「それでもザザは、今のお前よりは手ごわかったと思うぞ、

もっとも戦ったのは俺じゃなくキリトだがな」

「ああん?やっぱりあのステルベンって野郎はザザだったかよ」

「大会の動画を見たのか」

「ああ、相手が死なないのによくもまあゲームで熱くなれるなって感心したもんさ。

しかも殺しの手段は薬だと?なめてんのかあのクソ野郎、

そんなのはただのごっこ遊びじゃねえか。合法的に直接殺すのが楽しいんだろうが」

 

 PoHは馬鹿にしたような笑いを浮かべつつ、だがその直後に黙って武器を下ろした。

 

「何だ、降参か?」

「とはいえごっこ遊びなのは俺も一緒か、ハァ、やっぱりつまらん」

「俺が相手じゃ不足だったか?」

「いや、お前は強い、確かにお前とやり合うのは闘争本能を刺激される。

だが俺が望んでるのはそういう事じゃねえんだよ、

ここでやり合っても、俺もお前も死んだりはしねえだろ?」

「まあな」

「ああ、つまらんつまらん、今日の目的はサトライザーだったがもういいわ、

俺は下りるぜ、またな」

「俺としてはもう二度とお前には会いたくないんだが」

「そうつれない事を言うなよ兄弟、あばよ」

 

 そう言ってPoHは速攻で姿を消した。

その直後に他の場所から別の中継カメラが飛んできた。

PoHが姿を消したのは、おそらくそのせいもあるだろう。

 

「くそっ、相変わらずふざけた野郎だぜ」

 

 そう言いつつも八幡は、PoHがまだ『現役』だという事を嫌というほど実感させられた。

 

「合法的にとか言ってたから、直接仕掛けてくる可能性は低いと思うが……」

 

 八幡はそう呟きつつ、自分や仲間の身の安全について、

もう少し気を付けた方がいいかもしれないなと改めて考えていた。

レヴィと萌郁は十分な働きをしてくれているが、

レヴィはサトライザーことガブリエル・ミラーから期間限定で預かっているだけであり、

もしレヴィがいなくなったら萌郁の負担はかなり大きくなるはずだ。

 

「ちょっと真面目に考えるか」

 

 丁度その時再びスキャンが始まった。

スキャン画面を見てみると、どうやらサトライザーは最後の敵を倒したらしく、

残っているのは八幡とサトライザーだけとなっていた。

 

「相手が俺だってのは当然知らないだろうが、まあとりあえず行くとするか」

 

 そう思いながら八幡は、サトライザーの下へと向かった。


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