ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第839話 だが断る

 ジョジョが同行してくれたせいか、八幡達はそれはもうあっさりと、

サトライザーことガブリエル・ミラーのいる病室へと案内された。

最初にジョジョが同行している事を伝えたが、

ガブリエルは二つ返事であっさりと同行の許可を出してくれた。

そして今、八幡の前には片目に包帯を巻き、左腕を吊ったガブリエルの姿があり、

さすがの八幡も一瞬絶句した後、慌ててガブリエルに駆け寄った。

 

「おいおい、一体何があったんだ?」

「部下をかばった名誉の負傷って奴さ、まああいつが無事で良かったよ」

「……………お前はそういう事に関しちゃ、もっとドライな奴だと思ってたんだけどな」

「俺自身もそう思っていたさ」

 

 サトライザーは自嘲ぎみにそう答えた。

 

「今は違うってのか?」

「多分そうなんだろう、俺が庇ったのはうちの隊の一番の問題児で、

普段から人殺しをショーとしか思っていないような奴なんだが、

それでも俺はあいつを庇ってしまった、体が勝手に動いたんだ。

そしてその瞬間に、確かに俺は君の顔を思い浮かべたような気がする」

 

 八幡はその変化が悪い事だとはどうしても思えなかったが、

その事を直接口に出す事ははばかられたのか、代わりに憎まれ口を叩いた。

 

「そうか、それはご愁傷様だったな、

まあ俺と知り合ったのが不運だったと思って諦めてくれ」

「まったくだ、おかげで俺は弱くなったかもしれん」

「さて、それはどうだろうな」

 

 二人は顔を見合わせ、ハハッと笑った。

 

「という訳で、君には責任をとってもらいたい」

「うげ、そうくるのかよ、一応聞くが、俺はどう責任をとればいいんだ?」

 

 その言葉を受け、ガブリエルは神妙な顔になると、こう八幡に切り出した。

 

「妹の事だ」

「ん?レヴィの?」

「ああ、実は俺のこの目なんだが、もう見えるようになる事はない」

「そ、それは……」

 

 八幡はその重い現実に打ちのめされた。

 

「ついでにこの左腕は、元通りになる可能性はかなり低く、

もし治っても、リハビリに途方も無い時間がかかるらしい」

「それはつまり………」

「………ああ、傭兵はもう引退だ、退院したら就職活動をしないとだね」

 

 ガブリエルは冗談めかしてそう言うと、八幡に頭を下げた。

 

「お、おい、頭なんか下げるなって」

「そんな訳で、すまないがレヴィの事だけは宜しく頼みたい。

どうやらあいつは日本を、そして君を気に入っているようだ。

俺が傭兵をやめる以上、あいつがこっちに戻ってくる意味はもうあまりない。

だから可能なら、このままあいつを君のところで働かせてやってくれないか?」

 

 落胆しているであろうガブリエルには悪いが、

その言葉は八幡にとっては運命を感じさせるものだった。

なので八幡は、その言葉を即座に否定した。

 

「だが断る」

 

 八幡はジョジョの目を意識しつつそう言い、ジョジョは思わずニヤリとした。

 

「………駄目かい?」

 

 さすがのガブリエルも、この時ばかりはとても悲しそうな顔でそう尋ねてきた。

 

「今のままじゃ駄目だな、でもまあ保護者同伴って事なら認めなくもない」

「保護者?だが困った事に、俺達の両親は既に他界していてね」

「それがどうした?」

 

 八幡はそう言って、ガブリエルをじっと見つめた。

 

「いや、でも……」

「それがどうした?」

「俺が何かの役にたつとは……」

「それがどうした?」

「……………」

 

 ガブリエルは取り付く島が無い八幡の態度に困り果てたが、決して悪い気分ではなかった。

だがこのまま素直にお願いしますと言うのは何かしゃくであったガブリエルは、

どう答えればいいのかと考え込み、しばらく無言になった。

その時横からクルスが八幡にこう言った。

 

「八幡様、相手は怪我人ですし、その……」

 

 ここでクルスの日本人的気質が発揮された。

おそらくクルスは、ガブリエルが怪我人であるが故に、

遠慮してしまっているのだろうと考えたようだ。

それは八幡も同様であり、八幡は考えを改め、言葉遊びをやめる事にした、

 

「なぁ、お前さえ良かったら、残りの人生を日本で過ごしてみないか?

さっきも言ってたが、レヴィも日本を気に入ってるみたいだし、

自分で言うのは少し恥ずかしいが、うちに就職ってのは決して悪い話じゃないと思うんだが」

「日本か……」

 

 どうやらその八幡の真摯な態度を受け、ガブリエルも素直になったようだ。

ガブリエルは遠い目をしながら、今後の事に思いを馳せた。

 

(確かに俺は日本の文化が好きだし、何より八幡と一緒に何かをするのは楽しそうだ。

ソレイユは給料もいいと聞いているし、老後も安泰だろう)

 

 ガブリエルはそう考え、八幡に右手を差し出した。

 

「分かった、怪我がある程度治ったら、妹共々世話になる」

「よっし、決まりだ。マックス、姉さんに連絡を頼む」

「分かりました」

 

 八幡とガブリエルは固い握手を交わし、しばらくお互いにその手を離さなかった。

そのせいだろうか、そんな二人の間にクルスが割って入り、

クルスはガブリエルをビシッと指差しながらこう宣言した。

 

「あなたに八幡様は渡しませんからね!」

 

 その言葉にガブリエルはキョトンとし、八幡はこめかみに手を当てながらクルスに言った。

 

「マックス、いいからさっさと連絡だ」

「す、すみません、つい!」

 

 クルスは慌ててどこかに電話をかけ始め、八幡はガブリエルに謝った。

 

「悪い、今のは気にしないでくれ」

「大丈夫だ、日本には『フジョシ』という文化があると聞いている」

「おい馬鹿やめろ、その言葉を出すと海老名さんっていう怖い人が登場する気がするから、

絶対に人前でその単語を口に出すんじゃねえ」

 

 八幡はそのガブリエルの言葉を即座にそう斬って捨てた。

 

「わ、分かった。ところでそろそろそちらの彼を紹介してもらってもいいかな?」

 

 ガブリエルは八幡の剣幕に驚いてそう頷くと、

別の話題を探すかのように、ジョジョの方を見ながらそう言った。

 

「そうだったそうだった、すまんジョジョ、あんたの事を忘れてた」

「いやぁ、別に構わないよ、無理を言って付いてきたのはこっちだしね」

 

 ジョジョはそう言うと、ガブリエルに右手を差し出しながら言った。

 

「僕はジョン・ジョーンズ、初期の頃のGGOで、

同じ名前でプレイしていたんだけど覚えているかな?サトライザー」

「ああ、やっぱりジョンだったのか、久しぶり、それとも初めましてかな」

 

 どうやら先だってジョジョが言った、

面識は無いけど話した事はあるというのはそういう意味だったらしい。

二人もまた固く握手を交わし、それからは和やかな会話が繰り広げられる事となった。

 

「八幡様、社長の許可がとれました、というか、是非お願いとの事です」

「おおそうか、そんな訳でガブリエル、さっきの話、決定な」

「分かった、こちらも準備を進めておく」

「ところでサトライザー、その体でも、GGOをプレイするのに支障は無いんだろう?

まさか引退するとは言わないよね?」

「それは新しい仕事の内容次第なんだが……」

 

 そう言ってガブリエルは八幡の方を見たが、八幡は問題ないという風に頷いた。

 

「大丈夫らしい、そっちは現役続行だな」

「でも所属は日本サーバーになるよね?」

「まあそうなるだろうね」

「なるほどなるほど、まあGGOを続けてくれるなら問題ないか」

 

 ジョジョはそう呟くと、二人に向かって笑顔でこう言った。

 

「それじゃあ僕も日本で働くよ、その方が楽しそうだ」

「は?いきなり何を言ってるんだよジョジョ」

「いやね、僕ってば仕事が出来る男だからさ、昇進の話が来てるんだけど、

本社の役員か日本支社長、どちらかを選んでいいって言われてるんだよね。

だから日本支社長になる事にするよ」

「ああ、そういう事か」

「そんな訳で、今後とも宜しくね」

「分かった、そういう事なら宜しくだな」

 

 ジョジョはそう言うと、準備があるからと東京での再会を約して去っていった。

 

「なぁ、ところでガブリエル、ALOのアカウントなんて持ってないよな?」

「ああ、さすがにそれは持ってないが……」

「それじゃあ作ってくれ、もしくはコンバートな」

 

 その八幡のいきなりの申し出に、ガブリエルは狼狽した。

 

「いや、しかし新しい環境に早く慣れないとだし、新規でゲームを始めるのは……」

「いいんだよ、ALOはうちの製品だぞ、つまり遊ぶのも仕事の内って事だ」

「そ、そうなのかい?」

「ああ、そうだ」

 

 八幡は自信たっぷりにそう言い、ガブリエルは二つ返事で了承した。

 

「分かった、とりあえずサトライザーをコンバートさせておく」

「よしマックス、大至急駒央と沙希に連絡を入れて、

ガブリエル用の装備を揃えてもらってくれ。

オートマチック・フラワーズだぞ、間違えるなよ」

「わ、分かりました、オートマチック・フラワーズですね」

 

 クルスは目を見張りつつ、念を押すようにそう復唱した。

 

「そうだ、それと武器は、ギルドの在庫を使って雷丸クラスの武器を作るように伝えてくれ。

やや大きめの短剣がいいな、名前は………なぁガブリエル、好きな日本語って何かあるか?」

「それなら『星』という漢字が個人的にはお気に入りかな」

 

 目の前で今起こっている事が一体どういう意味を持つのか分からないまま、

ガブリエルは無邪気にそう答えた。

 

「星か……星、星、ああそうか、あれにしよう」

 

 八幡はそう呟くと、携帯に『焔星』の文字を表示させ、ガブリエルに見せた。

 

「何だいこの格好いい文字は」

「まあ火、ファイアって意味の別の漢字だな」

「なるほど、日本語は奥が深いな」

「ガブリエルの武器の名前はこれでいいか?」

「ああ、とても気に入った、是非それで頼む」

「了解だ、マックス、手配してくれ」

「分かりました」

 

 こうして本人も知らぬまま、ガブリエルはヴァルハラのメンバーとなり、

特別枠のソレイユを除くと、キリト、アスナ、ユキノに次ぐ、四人目の副長となった。




こうしてヴァルハラは、黄金時代を迎える事となりました。
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