ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第842話 走れ、スリーピング・ナイツ

 そして始まったボス戦の序盤で、いきなりアスナの不安の理由が判明した。

 

(しまった、ジュンとテッチの被ダメが予想以上に多い)

 

 SAO時代から、アスナが指揮をする相手は当代最強のタンクであった。

ヒースクリフから始まり、ユイユイ、セラフィムと続く流れである。

ユイユイが最強というのはイメージしにくいかもしれないが、

ALOの初期段階ではタンクを選ぶ者があまりいなかったせいもあり、

今のALOにはその二人以上のタンクは存在しない。

だが問題がそれだけならアスナは何とかしたであろう。

 

(それにシウネーの詠唱が時々遅れる、参ったな、

仲間がついてこれない作戦を考えるなんて、私、最悪だ……)

 

 アスナの知るヒーラーといえば、SAO時代にはヒーラーという職は無かった為、

ユキノとメビウス、それにリーファである。

その中でシウネーに近い立ち回りをするのはユキノだけであり、

アスナは知らず知らずのうちに、ユキノをイメージしながら作戦を立ててしまっていた。

アスナがもっと数多くスリーピング・ナイツと行動を共に出来ていれば、

今回のようなミスは無かった事であろう。

だがアスナはユウキとランの強さを見せつけられたが故に、

スリーピング・ナイツ全体をある意味過大評価してしまっていた。

 

(でもやるしかない)

 

 アスナはそう覚悟を決め、各方面のフォローをしつつ、

ユウキとランに一時的に避けタンクをさせる等の戦法をとり、何とか戦線を維持していた。

だが奇策はやはり奇策であり、仲間達も敵の動きに少しずつ慣れてきてはいたが、

今の劣勢を劇的にひっくり返すような事は出来ない。

それでも戦闘は進み、遂にアスナの体感ではあるが、全滅確定へのリミットラインを超えた。

そして今、アスナはとても迷っていた。

 

(どうしよう、再挑戦するなら出来るだけ早い方がいい、

でも戦闘を途中で投げ出すような真似を、みんなに強制してもいいのかどうか……

でももし同盟が既に戦力を集め始めていたら……)

 

 そんなアスナの迷いを感じ取ったのか、仲間達が次々とアスナに声をかけてきた。

 

「アスナ、私達に気を遣うのはやめなさい」

「作戦通りに動けなくてごめんな!」

「作戦はアスナに全て任せたんだ、どんな無茶な指示にでも僕達は従うよ!」

「そうそう、何か考えがあるなら教えてくれよ!」

「この戦いはボク達みんなのものだけど、アスナが決断したらそれはみんなの決断だよ!」

 

 短い付き合いではあるが、仲間達はアスナの事を心から信頼しているようだ。

その言葉でアスナの覚悟は決まり、全員に聞こえるような大声でこう言った。

 

「ラン、ユウキ、最後に持てる最大威力のソードスキルを敵に向けて撃って!

そしたらみんなで素直に全滅しよう、この戦闘はここまでだよ!」

 

 その言葉は一見敗北主義のように聞こえたが、

スリーピング・ナイツは誰も文句を言わなかった。

それはおそらくアスナの言葉の前半のせいであろう。

全滅するのにソードスキルを放つ必要はないのだ。

 

「オーケー、派手にぶちかますわよ」

「うん、最後に思いっきりやってやるよ!」

「ごめんね、お願い!」

 

 そしてアスナはテッチとランとユウキに戦闘を任せ、残りの全員を呼び集めた。

 

「みんな、お願いがあるの。ランとユウキ、それに私のソードスキルで、

敵のHPがどのくらい減るのか見極めて!」

「オーケーオーケー、それが先に繋がるんだよな?」

「任せて、ミリ単位まで見極めてやるわ!」

「データ収集は得意です、任せて下さい」

「私、HPゲージから絶対に目を離しません!」

 

 そしてアスナはテッチをも下がらせ、代わりに自身が前に出た。

 

「二人とも、いくよ!」

 

 その言葉を受け、ランは既存のソードスキルの中で最強のものを、

そしてユウキは当然マザーズ・ロザリオを放った。

 

「任せて!くらえ、花鳥風月!」

「マザーズ・ロザリオ!」

「スターリィ・ティアー!」

 

 その三人の同時攻撃によって、敵のHPが一気に減った。

だが当然ボスは倒れず、硬直中の三人に順番に痛打を浴びせていき、

三人は順番に死亡していった。

 

「おらおら、ひと思いにさっさと殺しやがれ!」

「あははは、あはははははは!」

「待ってろよ、俺達は必ず帰ってくるからな!」

 

 他の五人も思い思いに叫びながらボスに殺されていく。

そしてボス部屋に八つのリメインライトが並んだ瞬間に、全員は街へと転送された。

 

 

 

「ぷはっ、あはははは、やられたやられた」

「やっぱり手ごわいですね」

「さすがに八人だとねぇ」

「でも次はきっと上手くやれるはず」

「うん、その通り、それじゃあみんな、またボス部屋まで走るよ!」

 

 アスナは有無を言わさずランとユウキの手を引き、走り始めた。

それに釣られて他の者達もその後に続く。

 

「ま、当然こうなるよな」

「当たり前でしょ、何の為にアスナが全滅を指示したと思ってるの!」

「アスナ、間に合うかな?」

「間に合わなかったら仕方ないけど、同盟は私達がもっと粘るだろうと思っていたはず、

いきなり途中で戦闘を切り上げたから、間に合う可能性は十分にあると思う」

「なるほど!」

「よし、全力で走るわよ!」

「その間に私は作戦に修正を加えるね」

「それじゃあボクがアスナを誘導してあげるよ、転ぶといけないからね!」

 

 ユウキはそう言ってアスナの手を引き、アスナは思考に集中する事が可能になった。

そのままスリーピング・ナイツはフィールドを超え、再び迷宮区へと突入した。

 

 

 

 一方ハチマンはALOにログインし、

ヴァルハラ・ガーデンでキリトとユキノの到着を待っていた。

横ではサトライザーとシノン、それにセラフィムも待機しており、

ハチマンから話を聞いて、大人数を相手に戦闘をする準備を着々と進めていた。

 

『ハチマンさん、同盟はやはり戦力を集め始めました』

 

 そこにレコンからそう報告が入った、やはり同盟は動く事を選択したらしい。

 

「分かった、レコンはそのまま奴らを見張って、

敵の主力が出発したらその後をついていき、迷宮区の入り口で待機して、

更なる敵の後続が来るかどうか、そこで監視を続けてくれ」

『了解しました、任せて下さい』

 

 待っている間にハチマンはコンソールからフレンドリストを呼び出し、

アスナの居場所に変化が無いか、じっとそのリストを見つめ続けていた。

 

「どう?アスナにまだ動きは無い?」

「まだみたいだな、まあ突入時間から考えると、

今はおそらく敵のHPを半分削ったくらいなんじゃないかと思う」

「それはちょっとペースが遅いわね」

「そりゃそうだ、あいつらは八人でボスに挑んでいるんだからな」

「あ、そういえばそうだったわね」

 

 シノンとそんな会話を交わしながら待機していると、

ヴァルハラ・ガーデンに誰かが入ってきた気配がし、すぐにキリトとユキノが姿を現した。

 

「お、やっと来てくれたか、悪いな、急に呼び出したりして」

「こっちこそ遅れてすまん、で、何があった?」

「キリト君、その前にこちらの方を紹介してもらいましょう」

 

 ユキノは目ざとくサトライザーの姿を見付け、キリトにそう言った。

 

「ん?新人?って、その装備は………え、いきなり副長?

もしかして俺が知ってるSAOサバイバーの誰かか?

まさかゴドフリーのおっさんじゃないよな?」

「キリト君、驚くのは分かるけど落ち着いて」

「キリト、ナイスな反応だ、期待通りだ」

 

 ハチマンはキリトに親指を立て、続けてこう言った。

 

「こいつはサトライザー、キリトはともかくユキノは知ってるよな?」

「サトライザーだ、傭兵をしていたが、先日怪我をして引退する事になってね、

ハチマンの誘いに乗って、残りの人生を日本で送る事にした、宜しく」

 

 サトライザーはそう言って右手を差し出してきた。

その手を先に掴んだのはユキノである。

 

「これは驚いたわね、お久しぶり、サトライザーさん」

「久しぶりだねユキノ、そういえば君もハチマンの事が好きなんだよね?」

 

 そのいきなりの問いにユキノはぽかんとし、ハチマンは慌てた。

 

「おいサトライザー、いきなり何を……」

「ハチマン、サトライザーはさっきからずっと、会うメンバー全員にそう尋ねていたわよ」

「え、何それ、何のつもりで?」

 

 ハチマンは訳が分からないという表情でそう尋ねた。

 

「君がどのくらいみんなに愛されているのか興味があってね」

「何でお前がそんな事に興味を持つんだよ!」

「だって上司がどのくらい人気者なのか興味があるじゃないか、ね?」

 

 サトライザーはそう言ってユキノの方を見た。その視線を受け、ユキノはこう答えた。

 

「そうね、私は彼の事を愛しているのだけれど、今のままじゃジリ貧だから、

頑張って外堀を埋めようとしているところかしらね」

「なるほど、やはり彼には苦労させられるという事だね」

「ええ、まあそういう事」

「お前らな……」

 

 ハチマンが困ったようにそう言うのを、横からキリトが遮った。

 

「あ~!サトライザーって、あのサトライザーか!」

 

 どうやらキリトは今までサトライザーという名前について、必死で考えていたらしい。

 

「確かBoBでハチマンをフルボッコにして、アメリカでも一緒に戦ったんだよな?」

「ちょっと待てキリト、俺はフルボッコになんかなってねえ」

「でも負けたんだろ?」

「確かに負けたが、フルボッコにはなってねえ!」

 

 そんな二人を一同は苦笑しながら眺めていたが、途中でユキノが二人の仲裁に入った。

 

「まあまあ、で、ハチマン君、これからどうするの?」

「あっと悪い、これからこのメンバーで、同盟に喧嘩を売る」

 

 その言葉に先ほどまでハチマンと言い合っていたキリトは思わずニヤリとした。

 

「ほう?事情を聞かせてくれ」

「おう、実はな……」

 

 そしてハチマンは、キリトとユキノに同盟がやっていた事を説明した。

 

「はぁ?何だよそれ?よくもまあそんな事を思いつくよな」

「もしかしたら、闇魔法のピーピングでも同じ事が出来たかもしれないが、

あの魔法は削除されたからな」

「ああ、あの覗き魔法ね、あれを悪用したハラスメント報告が続出したからまあ当然よ」

 

 どうやら過去に、そういった類の魔法があったらしい。

 

「よし、久々に暴れられるな」

「それじゃあ早速ボス部屋の前に向かうか」

 

 そう言いながらハチマンは、コンソールを開いてアスナの居場所を確認しようとした。

そのハチマンの目の前で、アスナの居場所が三十四層のフィールドから迷宮区へと変化した。

 

「うわ、やべ、話をしている間にアスナの奴、ボス部屋から離脱して、

再挑戦の為にたった今迷宮区へと突入したみたいだ」

「えっ、嘘!?行動早っ!」

「なぁ、実はボスを倒しましたとかは無いのか?アスナならやりそうじゃないか?」

「いや、一瞬フィールドにいたのが見えたし、

ここまでの時間で削りきるのは物理的に不可能だから、

おそらく早めに決断してわざと負けて外に出てきたんだと思う」

「おおう、さすがの決断の早さだなおい」

 

 丁度その時レコンからハチマンに連絡が入った。

 

『ハチマンさん、同盟が動き出しました、

ほぼ集合を終えた後、凄い勢いで迷宮区に向かってます!』

「マジか、分かった、レコンは指示通りに頼む、

こっちも人数が集まったから、急いで迷宮区に向かう」

『お願いします!』

 

 そしてハチマンは仲間達に向けて言った。

 

「それじゃあ白馬の騎士ごっこでもするとするか」

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