その後、場が落ち着いたのを見計らって、一同は今後の事を相談した。
「俺とシノンとレコンは、もうしばらくサトライザーに付き合って色々と教える事にするよ、
ついでにトラフィックスにも足を伸ばしてみるつもりだ」
「トラフィックスに?」
「それは面白い事になりそうね」
アスナとユキノがそう言い、シノンはその言葉にニヤリとした。
「ゼクシードや闇風やたらこが彼に対してどういう反応を示すか興味があるでしょ?」
「それは見てみたいかも……シノノン、後でハチマン君にも見せたいから、動画宜しく!」
「ええ、任されたわ、それじゃあ行きましょっか」
「シノン、それは一体誰なんだい?」
「ああ、あんたの事をよく知ってる連中よ、ほらサトライザー、行くわよ」
「あ、ああ、分かった」
さすがはシノンである、サトライザー相手でもまったく動じていない。
「まったくシノンはいつも変わらないわね」
「場の雰囲気を読んで、少しでも明るく振舞おうとしてくれてるんじゃないかな」
「ふふっ、かもしれないわね、それじゃあアスナ、私はここで落ちておくわ、
ハチマン君から連絡があった時、日本に動ける人がいないと困ると思うしね」
「うん分かった、私に出来る事があったら何でも言ってね」
「ええ、こき使ってあげるわ」
「うん、そうして!」
そしてヴァルハラ組がいなくなった後、
スリーピング・ナイツはとりあえずスリーピング・ガーデンへと帰還した。
「………今日はとりあえず休もうか」
「うん、祝勝会はランが戻ってきたらって事で」
「だね、やっぱりランがいないとね!」
外では明るく振舞ってはいたが、やはりランの事が心配らしい。
だがそんなみんなをユウキが力強く励ました。
「大丈夫だって、あのランがハチマンに何もエロい事をしないうちに死ぬはずがないから!」
「あ、あは、されないじゃなくしないなんだ……」
「あっ、ごめんアスナ、アスナにしてみれば面白くないよね……」
ユウキはアスナが苦笑するのを見て慌ててそう言った。
「ま、まあ相手はあのランだし、ラッキースケベ程度に収めてくれれば特に何も言わないよ」
ここでアスナは正妻らしい度量の大きさをみせた。
「大丈夫だって、ランにそんな度胸は無いから」
横からそう言ってきたのはノリである。
「そうそう、さっき兄貴も言ってたけど、ランはエセ痴女だしな!」
「ある程度のラインは絶対に超えられないよね」
「それでいて自分のそういうところ、絶対に認めないからなぁ」
「兄貴も大変だよね」
そのメンバー達のラン評に、アスナは再び苦笑する事しか出来なかった。
「で、明日からはどうする?」
「同盟がうちに何かちょっかいを出してくるかな?」
「まあしばらくはデュエルステージとか、人が多いところで遊んでればいいんじゃない?」
「それかヴァルハラ・ガーデンにでも遊びに行けばいいんじゃないかな」
そのアスナの提案に一同は目を輝かせた。
「えっ、マジで?」
「うん、別にいいと思うけど」
「やった!一度あの中を見てみたかったんだ!」
「ランが羨ましがるだろうな!」
ランは既にヴァルハラ・ガーデンに入った事があるのだが、他の者はその事を知らない。
「それじゃあ私もそろそろ落ちるね、ハチマン君から連絡があるかもだし」
「うん、それじゃあアスナ、またね!」
「うん、また!」
アスナはそう言ってログアウトし、
ベッドで目覚めると、最初に自身のスマホをチェックした。
「着信はあったみたいだけど、メールは来てないか」
もしメールが来ていたらゲーム内に転送される設定になっている為、
その事自体に明日奈は驚かなかった。本当に驚いたのは、その直後である。
八幡に電話を掛けなおそうとした矢先、
いきなり明日奈のスマホに着信があり、そこにキットの名前が表示されたからだ。
「うわ、びっくりした、ってキットから?一体何だろう……」
明日奈はどうやらキットから電話が来る事自体には驚いていないらしい。
名前が表示された事から分かるように、八幡に言われて登録はしてあったからである。
「もしもし、キット?どうしたの?」
『明日奈、八幡からの指令で今からそちらに迎えに行きます、外出の準備をお願いします』
「今から?」
(八幡君がこのタイミングで外出を指示するって事は、多分行き先は……)
明日奈はそう考えてチラリと時計を見た。時刻はまもなく夕方六時になろうとしている。
「分かった、準備するね。もしかして泊まりとかもある?」
『状況を考えるとあるかもしれません』
「分かった、行き先は多分眠りの森だよね?」
『はい明日奈、その予定です』
「分かった、それじゃあそんな感じで準備するね」
『お願いします、三十分ほどで着きますので』
明日奈はキットとの通話を終えた後、母である京子の承諾を得る為に階下へと向かった。
(もう夕飯の支度を始めちゃったかな?時間的にギリギリだけど……)
そう考えながら明日奈はリビングをチラリと覗いた。
京子は机に座って何かを呟いており、どうやらまだキッチンには立っていないようだ。
お手伝いさんの姿もキッチンには見当たらなかった為、明日奈はほっとした。
(良かった、食事が無駄にならなくて済んだみたい。
それじゃあ出かける事をお母さんに伝えて……)
明日奈が京子に声を掛けようとしたその時、明日奈の耳に京子の呟きが聞こえてきた。
「我ながらよく撮れてるわね、これもよし、これは………ちょっとやりすぎかしら?
ううん、今更よね、あの子と八幡君は、もう何度も結ばれているはずだし」
その言葉に明日奈は一瞬で赤面した。
(なっ、ななな………)
一体何を言っているの?と言いかけたところで、
明日奈は京子がスマホで写真を見ている事に気が付いた。
(まさか……)
明日奈はそのまま忍び足で京子に近付き、
背後からこっそりと京子が何を見ているのか覗きこんだ。
(や、やっぱり……)
「これも添付、これもこれもっと」
京子が画面に指を走らせる度に、スマホに明日奈のパジャマ姿が次々と表示されていく。
その中には明らかにパジャマをめくりあげて撮ったのであろう、
明日奈のあられもない写真もかなり混じっていた。
わざとズボンを下ろし、明日奈のお尻が半分ほど見えている写真まであり、
明日奈はぷるぷると震えながらも、京子を止めようとその肩をポンと叩こうとした。
その瞬間に京子の姿が明日奈の視界から消えた。
「えっ?」
「甘いわね明日奈、少し前からあなたの姿はスマホに丸映りだったわよ」
「ぐっ………」
そして京子がテーブルを挟んで反対側に姿を現した。
どうやら体を沈め、テーブルの下を通って反対に出たらしい。
「そしてもう手遅れよ、今から八幡君にこの写真を送るわ!」
「そ、それだけは駄目えええええ!」
明日奈はそう言ってテーブルを乗り越えて京子に掴みかかろうとしたが、
京子はその明日奈の突撃を難無くかわした。
「はい、送信っと」
「きゃあああああああ!」
明日奈は思わずそう絶叫したが、そんな明日奈に京子はこう言い放った。
「明日奈、これはあなたの心が望んだ結果なのよ、いい加減にその事を自覚しなさい!」
「わ、私の心が?」
「そうよ、あなたはあんなにかわいいパジャマを着て、
部屋の鍵をかけないまま無防備にベッドに横たわっていたのよ、
それがかわいい写真を撮ってくれという意味じゃなければ一体何だというの?」
「そ、それは……」
明日奈はその言葉に反論出来ず、京子は厳しい視線を明日奈に向けた。
「明日奈は本心では、全身をくまなく八幡君に見られたいと望んでいるの!
だから明日奈、あなたは………」
「わ、私は………?」
そして京子はビシッと明日奈を指差してこう叫んだ。
「もっと八幡君を誘惑して、早めに子供を仕込んでもらって、孫の顔を私に見せなさい!」
「結局お母さんはそれが言いたかっただけじゃない!」
「当たり前よ、それが今の私の一番の望みなのよ!」
京子は完全に居直ってそう言うと、真面目な表情をして明日奈にこう話しかけた。
「それより明日奈、私とここで漫才なんかしてていいの?
出かける準備をしなきゃいけないんじゃないの?」
「えっ?どうしてお母さんがそれを……」
「だってさっき八幡君から連絡があったもの」
「そうなの!?」
「ええ、泊まりになるかもしれないけどごめんなさいって。
事情は聞いたわ、今現地は大変らしいから、雑用がメインになるでしょうけど、
自分の出来る範囲でやれる事は何でもやるのよ、明日奈」
「う、うん、頑張ってくる」
「それじゃあ早く準備をしてきなさい、明日奈」
「うん!」
明日奈は京子に激励され、やる気満々で部屋に戻った。
一方京子は、明日奈が写真の事を忘れてくれた事ににんまりしていた。
「ふう、危ない危ない、今度からもう少し慎重にならないといけないわね」
そう言って京子はスマホの写真を次々とめくっていった。
その中には明らかに今日撮った訳ではない、よだれをたらして居眠りする明日奈や、
Tシャツを前後逆に着たまま家の中をうろうろする明日奈の写真が収めてあった。
「これでまた写真と引き換えに、八幡君にお義母さんって呼んでもらえるわね」
どうやら京子は昔八幡とそういった約束をしたらしく、
事あるごとに八幡に明日奈の写真を送っているようだ。
「まああの子も明らかに元気がないように見えたし、丁度良かったかしらね」
京子はそう呟くと、今日の夕飯は一人だし外食でもしようかしらなどと考え始めた。
そうしてる間に明日奈が二階から下りてきて京子に言った。
「それじゃあお母さん、行ってくるね!」
「はい、行ってらっしゃい」
そんな明日奈の表情からは落ち込んだ様子が減っており、
京子もことさらに笑顔を作りながらこう言った。
「頑張ってね、明日奈」
「うん!」
こうして明日奈はキットに乗り、眠りの森へと向かう事になった。