ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第850話 藍子、初めての女子会

「明日奈、どうする?」

「とりあえず経子さんの所かな、多分八幡君から話がいってると思うんだよね」

 

 明日奈はきょろきょろと辺りを見回したが、

生憎周りにはソレイユの社員しか見当たらない。

だが別の知り合いを見付け、明日奈は少し驚いた顔でその人物に話しかけた。

 

「清盛大おじ様?どうしてここに?」

「お?明日奈の嬢ちゃんかい、儂は八幡に言われてランの治療の手助けに来たんじゃよ」

「あ、そういう事ですか!大おじ様、経子さんがどこにいるか知りませんか?」

「儂も丁度経子の所に行くところじゃ、案内しよう」

「ありがとうございます!」

 

 そして三人は清盛に案内され、眠りの森の病棟の方へと進んでいった。

 

「で、そっちの二人は八幡の愛人か何かかえ?」

「またまたぁ、大おじ様ったら冗談ばっかり」

 

 そう言いながら明日奈は清盛の背中をバシッと叩いたが、

その顔は全く笑ってはいなかった。

 

「げほっげほっ、も、もう少し手加減せんかい、ただのお茶目な冗談じゃろ!」

「冗談でも言っていい事と悪い事がありますよ、大おじ様、

この二人は私の友達です、失礼な事を言わないで下さい、ね?二人とも」

 

 明日奈にそう言われた二人は、顔を見合わせてニヤリとした。

 

「初めまして、私は八幡の二号の折本かおりです!」

「わ、私は三号の双葉理央です」

「なっ………」

「明日奈よ、本人達はそう言っておるようじゃが……」

「ちょ、ちょっと二人とも!」

「冗談、冗談だってば!」

「今のところはね」

「今のところって何!?」

「やれやれ、正妻として愛人はちゃんと管理しないといかんぞ」

「大おじ様まで!」

 

 明日奈は、ムキー!となりながら三人に抗議したが、そんな明日奈に清盛が言った。

 

「ほれ、着いたぞ」

「あら明日奈さん、八幡君から聞いてるわ、理央ちゃんは久しぶりね、

で、そちらのあなたは……」

「私は折本かおりです、藍子さんとは一応知り合いです」

「そうなのね、三人とも来てくれてありがとうね」

「経子さん!ラン………じゃなかった、藍子の具合はどうですか?」

「八幡君と電話で話したからか、少しは元気になったみたいよ」

「そっか、良かった………」

 

 藍子が元気だと聞いて、三人はほっと胸をなでおろした。

 

「藍子ちゃんはこっちよ、三人ともこちらへどうぞ」

 

 そして経子の案内で、三人は藍子の病室の隣の部屋に案内された。

さすがに病室の中に入るのは無理らしく、ガラス越しの対面となるようだ。

 

「藍子ちゃん、お友達が来てくれたわよ」

 

 経子はサプライズのつもりなのだろう、三人の名前をあえて言わなかった。

 

「友達?私の?」

 

 その言葉に藍子はきょとんとした。

何故なら藍子には尋ねてきてくれるようなリアルの知り合いは全くいないからである。

藍子は三人の顔を見て、最初に理央の名前を呼んだ。

 

「あっ!八幡にぱんつを見せつけていた、エロ仙女の理央じゃない!

あれ?エロの伝道師?閃光のエロティシズムだっけ?

まあ何でもいいや、その胸の形と大きさには見覚えがあるわ!

「覚えてるのそこ!?」

 

 理央はその藍子の言葉にたまらず絶叫した。そんな理央の肩を、明日奈がポンと叩いた。

 

「理央、後で色々と話を聞かせてくれるかな?」

「ひっ………」

 

 理央は明日奈の迫力にびびりながらも、こくこくと頷く事しか出来なかった。

 

「そしてそちらの二つのおっぱいは……見覚えがないわね、

それじゃあ初めまして、私は紺野藍子よ、

ちょっと体を悪くしてて今は肉付きも悪いけど、

真の私が巨乳だという事を覚えておいてくれると嬉しいわ」

「あ、あは………ランは相変わらずだね」

「まあ元気そうで良かった………のかな」

 

 その二人の反応を見て、藍子がスッと目を細めた。

 

「むむむ、友達って理央だけかなって思ってたけど、

やっぱりあなた達も私の友達の誰かなのね、

自己紹介は待って頂戴、自力で当てるから!」

 

 藍子はそう言うと、両手の人差し指を頭に当て、うんうんと唸り始めた。

その姿はまるで一休さんのようであるが、

この場にいる三人は一休さんを知らない為、藍子の昭和ネタに突っ込む者はいない。

 

「見覚えが無いという事はゲーム内での知り合い、

そしてここにいる時点で八幡絡みの誰かという事は間違いない。

ヴァルハラのメンバーもしくはソレイユの社員なのは確定として、問題は誰かだけど………

ソレイユの社員で私が直接面識が無いのはたった一人、ソレイアルさんしかいない」

 

 藍子はそう呟くと、明日奈とかおりをじっと見比べた。

 

「………ところで、無意識なのかもしれないけど、

八幡ってたまに人の胸をじ~っと見つめた後、

それを誤魔化すかのように、突然饒舌になる事があるわよね」

「それある!」

 

 そのランの言葉に対し、かおりは咄嗟にそう反応してしまった。

まあ何というか、いかにもかおりらしいとしか言いようがない。

 

「初めまして、ソレイアルさん」

「う、バレた………初めまして、私は折本かおりだよ」

「かおり・ソレイアルさんね、了解したわ」

「何その呼び方、ハーフみたいで超ウケるんだけど、ってかちょっと格好よくない?」

「とりあえず胸の形を脳内にインプットしたからもう間違わないわ」

「やっぱり人を覚える基準はそこなんだ……」

 

 明日奈は藍子のブレなさに感心しつつも、他に気になる事があった為、

かおりに向かってこう尋ねた。

 

「ところでかおり、ソレイアルって何の事?」

「あ、うん、実は私、

リアルトーキョーオンラインっていうゲームの中で情報屋をしてるんだよね」

「情報屋?うん、まあ社内バイトって奴?」

「何それ……」

「あれ、知らないの?八幡の提案で、

ほぼ全てのネットゲームをうちの社員がプレイしてるんだよ、まあリサーチの一環って奴?」

「そ、そうだったんだ……で、ソレイアルって名前はかおりの口癖からとったの?」

「あはははは、前に同じ事をラン………藍子から聞かれたけど、

単に八幡がつけてくれた名前をそのまま名乗っただけだってば」

「それって……」

 

 明日奈はそう言って藍子の方をチラっと見た。

 

「ええ、ご想像の通り、八幡はかおりさんの事を、『それあるさん』と呼んでいたわよ」

「嘘っ……本当に!?」

 

 さすがのかおりもその言葉にはかなり驚いたらしい。

だが直後にかおりはさばさばした表情でこう言った。

 

「まあいっか、ウケるし」

「「「いいんだ……」」」

 

 三人は同時にそう言い、そのまま笑い出した。

 

「ちょっと三人とも笑いすぎ!」

「かおりが面白すぎるんだってば」

「いかにも八幡が好きそうな性格よね」

「さすがはそれあるさん」

「理央、ソレイアルだから!」

 

 かおりは拗ねた顔で理央の胸をぽかぽかと叩く。それを見たランの目がキラリと光った。

 

「それあるさん、合法的に理央のおっぱいの感触を楽しむなんて、さすがね………」

「えっ?ち、違……」

「エッチが?そう、自分がエッチだという自覚はあるのね」

「あ、藍子は本当にブレないね」

「本当に揺れない?失礼ね、私の胸はまだまだ揺れるわよ!」

「オヤジだ、オヤジがいるよ……」

「藍子ってゲームの中よりリアルの方が凄いかも……」

「そんなに褒めても何も出ないわよ、え~と………

そういえばあなたの名前をまだ当ててなかったわね」

「話が思いっきり脱線したからね……」

 

 そして藍子は再び明日奈をじっと見つめた。

 

「まあこれは考えるまでもないわね、多分明日奈………よね?」

「う、うん!」

「ふふっ、私の方が先に明日奈に会っちゃって、きっとユウが悔しがるわね」

「あはっ、そうかもね」

「リアルでも宜しくね、明日奈」

「う、うん」

 

 これが藍子と明日奈、初めての邂逅である。

 

「それで今日は三人でお見舞に来てくれたの?」

「あ、うん、私はそうなんだけど、かおりと理央はまあお仕事も関係してるかな」

「お仕事?」

「そうそう、ソレイユの人間が全員でお見舞に来たようなものだしね」

「確かに人が多いなって思ってたけど、どういう事?」

「えっとね」

 

 そしてかおりは藍子にオペレーションD8の事を説明した。

 

「何その頭のおかしい制度」

「みんな喜んで参加してるけどね」

「喜んで!?残業みたいなものなのに?」

「それだけ八幡君がみんなから愛されているって事なんじゃないかな」

 

 明日奈はニコニコしながらそう言い、その余裕な態度に藍子は若干の敗北感を覚えた。

 

(これが八幡の正妻……最初見た時から直感で分かってはいたけれど、

優しそうな笑顔、気品ある物腰、胸も大きいし腰も細い、そしてなにより凄まじい美少女!

更にその上強いとか完璧超人じゃない!

あわよくば愛人じゃなく私が正妻にとか思ってたけど、これは絶対に無理!

今日から作戦変更ね、これからは八幡じゃなく、明日奈の好感度を上げる努力をすべき!)

 

 藍子がそんな事を考えているとは露知らず、

明日奈は笑顔を崩さないまま話題を変えてきた。

 

「それでね、ボス戦の事なんだけど……」

「あ、うん、八幡から聞いたわ!遂にやったわね!」

「うん、やったね!」

 

 二人はとても嬉しそうに、ガラス越しにではあるがハイタッチをした。

 

「何をやったの?」

「スリーピング・ナイツの八人……私も入れてだけど、

その八人だけで三十四層のボスを倒したの」

「えっ、凄いじゃない!」

「ふふん、もっと褒めてくれてもいいのよ」

 

 藍子は鼻高々でそう言った。

 

「まあでもその間に八幡君達は、

同盟の七十人のプレイヤーをたった六人で全滅させてたから、

多分あの六人で挑めば普通にボスも倒せてそうだけどね………」

「えっ?あれを全滅させたの?追い払ったとかじゃなくて?」

「うん、そうみたい、まあでも最初に達成したのはスリーピング・ナイツなんだから、

気にせずその事を誇ろう!」

「え、ええ、それはまあ当然なんだけど、でも、うわ………」

 

 さすがの藍子も絶句し、気の利いたセリフは何も言えなかった。

よく分かっていないかおりはともかく、理央もかなりの衝撃を受けたようだ。

実はヴァルハラではよくある事なのだが、

理央はまだヴァルハラ単体での大きな戦いは未経験だからである。

 

「それって誰が参加してたの?」

「ええと、ハチマン君、キリト君、レコン君、シノノン、ユキノ、あとサトライザーさん」

「サトライザー?誰!?」

 

 驚く理央に、藍子が即座に突っ込んだ。

 

「えっ?理央も知らないの?同じヴァルハラなのに?」

「う………もしかして私、仲間外れ?」

「違う違う、今日加入したばかりの新人だからだよ、でもいきなり幹部扱いなんだけどね」

「そ、そんなに強い人なの?」

「うん、実は大きな声じゃ言えないけど、本職の人だよ」

 

 明日奈は声を潜めながらそう言った。

 

「本職ってゲームの?」

「ううん、戦争の」

 

 三人はその言葉に沈黙した。

 

「………プ、プロの軍人さん?」

「正確には傭兵さんかな」

「えええええ?」

「その人、実はGGOでね………」

 

 少女達の会話は尚も続いた。

経子は藍子の状態をチェックしながらいつ止めようかと悩んでいたが、

予想以上に数値が安定し、逆に上がってすらいた為、

三人の存在が藍子にとっての治療薬のような役割を果たしているのだと考え、

ニコニコした顔でもうしばらくそのままにさせてあげる事にし、

他のスタッフ達も、その四人の仲が良さそうな姿を微笑ましく眺めていたのだった。




理央に変なあだ名がついたのは642話、八幡がソレイアルをそれあるさんと呼んだのは、692話の事ですね!

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