あと第849話『オペレーションD8再び』の、かおりと理央のセリフを少し修正しました!理央がオペレーションD8の存在を知っている事を失念していたので!
一方のユウキは、ランが再接続しない事にやきもきしていた。
「うぅ………ランが戻ってこない………」
「兄貴から、レコンさん経由で今はそれなりに元気らしいって連絡が来たのにね」
「メディキュボイドはもう使えると思うんだけどなぁ……」
「とりあえずこっちからアクセスしてみようぜ、眠らない森からなら可能だろうし」
「あっ、そうだね、それじゃあ一度あっちに行ってみようか」
実際経子は、ある程度四人の会話が落ち着いたら、
藍子をメディキュボイドに入れるつもりであったが、
四人が本当に楽しそうに会話を続けていた為に、今は様子見しているというのが現状である。
それでもさすがに時間的限界は存在する。
「藍子ちゃん、そろそろ……」
「わっ、もうこんな時間!もっとお話していたいけど、
さすがにそろそろメディキュボイドに入らないと」
「それならメディキュボイドに接続した後に、中のモニターを使って話せばいいじゃない」
「その手があった!みんな、ちょっと待っててね!」
藍子はそう断ると、いそいそとベッドに横たわった。
その直後にわらわらとスタッフが現れ、明日奈達三人が恐縮する中、
テキパキと準備は進んでいき、藍子はそのままメディキュボイドにログインした。
そしてメディキュボイドにログインしてランとなった藍子はきょろきょろと辺りを見回し、
そこが三十四層のボス部屋だと確認した。
ログイン前と一つ違うのは、上の階に向かう為の階段が現れている事であった。
「このまま三十五層に出てからスリーピング・ガーデンに戻ろっと」
ランはそのまま三十五層を目指して階段を上っていった。
「藍子ちゃん、遅いね」
「あ、多分スタート地点はボス部屋だと思うから、上の階に歩いてるんじゃないかな」
明日奈は正確にランの今の状況を分析し、
三人はランがモニターに顔を出すのをのんびりと待つ事にした。
「経子さん、藍子は随分元気に見えましたけど、この分ならしばらく問題無しですか?」
「それなら良かったんだけど、ね」
経子はその明日奈の問いに難しい顔をした。
「この際だから、藍子ちゃんと木綿季ちゃんの病気について少し話しておくわね。
二人の病気は一度発作が起きるともう後が無いの。
確かに今は、状態はかなり安定しているけれど、数日後には必ず次の発作がくる、
そうなったらもう二度と集中治療室から出られないわ。
そしてそのまま緩やかな死を迎える事になる」
その死という言葉は三人の心にずしりと圧し掛かってきた。
「そんな、それじゃあ今私達がここにいる事は無意味なんですか?」
「そんな事はないわ、あそこまでいい数値が出たという事は、
次の発作が起きるのが数日遅くなったはずよ」
その言葉は希望があるようで実は無い。
要するに発作が来る事自体はどうしても止められないという事を示唆しているからだ。
「まあ藍子ちゃんについてはそんな感じね、でも実は木綿季ちゃんももう後が無いの」
「えっ?」
「そうなんですか?」
「でも木綿季はまだ発作は一度も……」
明日奈は何かにすがる様にそう言ったが、経子はその言葉に首を振った。
「私達も最初はそう思っていたわ。他ならぬ藍子ちゃん自身も、
自分の方が木綿季ちゃんよりも症状が重いと思っているはずよ」
「違うんですか?」
「最近分かったのだけれど、生まれた時の木綿季ちゃんは未熟児でね、
実は藍子ちゃんよりも免疫系の発達が遅れているの。
だから木綿季ちゃんの場合は、次の発作が最初で最後になるわ」
「で、でもその発生時期は当分先なんですよね?」
その理央の問いも、即座に経子に否定された。
「実はこの前藍子ちゃんが発作を起こしたその直後に、
木綿季ちゃんの状態も、いつ発作が起こってもおかしくないくらい悪くなったの。
それは今もほとんど改善されていないのよ」
「じゃ、じゃあ……」
その説明に三人はやや顔を青くした。
「これも双子の因果なのかしらね、なので私達は、二人を同時に守らないといけないのよ。
だからみんなには、藍子ちゃんだけじゃなく木綿季ちゃんとも仲良くしてあげてほしいの」
その経子の言葉に三人は仲良くこう答えた。
「「「もちろん!」」」
そんな三人の声に呼応したかのように、部屋に設置されたモニターから電子音が聞こえた。
「あら、藍子ちゃんかしら」
経子はそう言いながらモニターのスイッチを入れた。
そこに映し出されたのは、木綿季が画面を覗きこむ姿であった。
その姿はALOでの姿でなく現実世界の姿となっており、
木綿季が今VRスペース内の自宅に戻っている事が分かる。
「あっ、経子さん、アイは今どこ?もう回復したって聞いたんだけど」
「えっ?もうメディキュボイドに接続してるわよ」
「あれぇ?みんな、もうログインしてるって!」
「えっ、マジか、まさかの入れ違い?」
「これは失敗しちゃったね」
「まあでもこっちに向かってるんじゃないかな、このまま待ってようよ」
「それがいいかもですね」
明日奈は目の前でそんな会話を繰り広げる者達に見覚えはなかったが、
その喋り方から相手がスリーピング・ナイツだという事は理解した。
「もしかして………」
ユウキ、だよね?明日奈がそう声を掛けようとした瞬間に、
画面の中の木綿季らしき人物が、明日奈の後方を見ながら驚いた声を上げた。
「あ、あれ?もしかして理央?」
「えっ、エロ仙女様?」
「本当だ、エロの宣教師の理央だ!」
「あれ?でも他にもっと格好いい呼び方が無かったっけ?」
「そういえば………」
画面の中の六人は、うんうんと唸りながら、何かを思い出したようにハッとした顔をした。
「「「「「「相対性妄想眼鏡っ子さんだ!」」」」」」
「うわあああああ!」
そう呼ばれた理央は絶叫し、その場で頭を抱えた。
「………理央、前ここに来た時に何があったの?」
「ち、違うの、全部八幡がいけないの!」
「えっと、さっきのぱんつ云々の話も?」
「不幸な事故だったんだってば!」
理央は羞恥で顔を真っ赤にしており、明日奈とかおりは顔を見合わせると、
慰めるように理央の肩をポンと叩いた。
「「ドンマイ、相対性妄想眼鏡っ子」」
「その呼び方はやめてえええええ!」
理央はそう言って手で顔を覆い、さすがにやりすぎたかと思った二人は、
とりあえず理央をそっとしておく事にし、モニターに向き直った。
「もしかして、ユウキなのかな?」
「そう言うお姉さんは………誰?」
「私は通りすがりの美少女だよ」
「それ自分で言う!?超ウケるんだけど」
「あっ、そっちはもしかしてソレイアルさん?」
その一言でかおりの正体が即バレした。
「ありゃ、またやっちゃった……」
「もう、かおりは相変わらずのドジっ子だよね」
「てへっ、それじゃあ改めて、私はソレイアルこと折本かおりよ、
こうして顔を合わせるのは超久しぶりだね、みんな、元気だった?」
「おお、ソレイアルさんだ!」
「リアルトーキョーオンライン以来かな?」
「うん、元気元気!」
「それじゃあそっちの自称美少女さんは……」
そのジュンの呼び方に、全員から突っ込みが入った。
「いや、他称でも美少女でしょ」
「うんうん、私じゃちょっと敵わないような美少女だね」
「どこからどう見ても美少女じゃない」
そう連呼された明日奈は、もじもじと頬を染めながらスリーピング・ナイツにこう言った。
「ご、ごめん、やっぱり恥ずかしいからさっきのは無しで……」
「「「「「「「かわいい」」」」」」」
スリーピング・ナイツの六人だけではなくかおりまでそう言い、
明日奈は益々顔を赤くする事となった。
そのせいでシャッター音がした事に、明日奈は気付かなかった。
「もう、かおりまでやめてよね!さっきのはほんの冗談だったんだから!」
「今の明日奈の顔、写真にとっておいたから後で八幡に送っとくね」
「えっ、いつの間に!?」
「「「「「「アスナ!?」」」」」」
「あっ………」
そのかおりの言葉で明日奈の正体もバレ、
明日奈は苦笑しながらスリーピング・ナイツに自己紹介をした。
「えへっ、バレちゃった、私は結城明日奈です、みんな、会いに来たよ」
「おお………」
「ワ、ワタクシもお会い出来て光栄です!」
「またタルのそれが始まった……」
「アスナ、アスナだ!」
「ボクも会いたかったよアスナ!」
スリーピング・ナイツは全員大喜びであり、それを見た経子は明日奈達にこう提案した。
「そうだ、もし良かったら予備のアミュスフィアでそこにログインすればいいんじゃない?
八幡君もいつもそうしているんだしね」
「そうなんですか?それじゃあユウキ、そっちにお邪魔していい?」
「えっ、ここに来てくれるの?やった!」
「うん、それじゃあちょっと待ってて!」
そして三人は経子の案内でアミュスフィアのある部屋に移動し、
ユウキ達が待つ『眠らない森』へとログインする事となった。
それを見ながら経子は一人呟いた。
「八幡君、こっちはあと少しは大丈夫よ、二人を、ううん、みんなを助けてあげて………」
その八幡は、今まさに宗盛と話をしている最中であった。