「ふう、楽しかったわね!」
「絶対にまたやろうね!」
「もう勘弁してくれ……」
一生ものの黒歴史の数々を積み上げた八幡は疲れた顔でそう言ったが、
当然その言葉は誰の耳にも入らない。
(まあいいか……みんな楽しそうだったしな)
八幡はここでランとユウキのテンションの高さに水をさす事もないだろうと考え直し、
いずれ二人が元気になったらリベンジしてやろうなどと思いつつ、
落ちる前に明日奈達が少し話をしていくと言い出したので、それに付き合う事にした。
「で、何の話をするんだ?」
「うん、ボス戦の話かな」
「ああ、なるほどな」
八幡はそれで納得し、興味もあった為、大人しくその話を聞く事にした。
「私が落ちた後、そんな感じだったのね」
「なるほど、上手くやったんだな、明日奈」
「うん、でも実際はかなり綱渡りだったよ」
「実は私のMPも、その頃にはもう尽きちゃってたんですよ」
シウネーも今だから言えると前置きした上でそう言った。
その時シウネーは、仲間達を不安にさせない為に笑顔を崩さなかったらしい。
「そうか、本当に頑張ったんだな、えらいぞ」
「ありがとうございます!」
「そういえばMP自動回復のエンチャントとかって無いの?」
その時かおりが八幡にそう尋ねてきた。あのかおりがである。
かおりがいつの間にかエンチャントというファンタジー特有の用語の意味を知っていた事に、
八幡は賞賛にも似た気持ちを抱いた。
「かおりもいつの間にか立派になったんじゃのう………」
「あんたは私のお爺ちゃんか!」
そのやり取りに一同は思わず顔を綻ばせた。
そして八幡は先ほどのかおりの質問にこう答えた。
「実はあるにはあるんだが、
素材があまりにもレアすぎてうちでもユキノの装備にしか付いてないんだよな」
「あ、ヒーラーはパーティの生命線だもんね!」
「かおり、本当に立派になって………」
明日奈もその言葉に驚いたのか、しわがれた声でそう言った。
「明日奈は私のお婆ちゃんか!」
「実はうちとしても、MP回復のエンチャントの二つ目が欲しいんだよね」
「スルーされた!?」
「タンクに装備させれば、ある意味永久機関の完成だからな」
「ああ~、そう言えば確かにそうだね」
「回復速度にもよるけど、相手の攻撃に耐えられる時間がかなり延びるはずだよね」
「まあそういう事だな」
かおりがゲーム会社の社員として日々ちゃんと勉強している事を確認出来た八幡は、
素直にその事を嬉しく思った。
「しかしユウのマザーズロザリオは本当に凄いよな」
「いやぁ、それほどでもないって」
そう言いながらもユウキは鼻高々であった。
ソードスキルの開発中に、八連の段階でその名前をハチマンのしっぽなどと名付けた事は、
ハチマンには絶対に言えないユウキの秘密である。
「実はこれはまだ発表はされてない情報なんだがな、
次のメンテで複数の人間が一つのソードスキルを放てるようになるらしいぞ」
「えっ、何それ?」
「協力プレイって奴だな、要するにマザーズ・ロザリオで言えば、
最初の四連をランが、次の四連を明日奈が、最後の三連をユウが放つみたいな感じらしいぞ」
「あ、そういう事か!」
「とはいえそれもオリジナル・ソードスキルって扱いになるらしいから、
ランとユウと明日奈で開発してみるのも楽しいんじゃないか」
どうやら八幡は、次の目標を二人に提示し、生きる事に張りを与えるつもりらしい。
「それっていつのメンテで導入?」
「実は明後日だ」
「そんないきなり!?」
「事前に予告して対策をとられないようにするのがうちの流儀でな」
「とか言って八幡がここで言っちゃってるじゃない」
「まあ今回は特別だ特別」
その特別が自分達の為に八幡の主義を曲げて知らされたのではないかと理解した二人は、
その事で奮起し、ソードスキルの開発に意欲を見せた。
「明日奈、せっかくだしやってみない?」
「うん、それも楽しいかもしれないね」
「でも二日後かぁ、それまでどうする?」
「さっきの話じゃないけどエンチャントの素材集めをしたいなぁ、
スリーピング・ナイツの総合力ももっと上げていかないとだしね」
「まあ明日一日潰せればすぐにメンテなんだから、それでいいんじゃないかな?」
「それじゃあそうしましょうか!」
男連中の意見を聞く事なく、こうして明日の予定が決定された。
「それにしてもソードスキルかぁ、それって名前を決めるのが大変そう」
「おいかおり、心配するのそこかよ!」
そう言いつつも八幡は、その素人なりの意見が的を射ている事を理解していた。
何せ八幡は、そういった名前を付けるのが大の苦手なのである。
「だってほら、ソレイアルなんて名前を付けられちゃったら困るじゃない?」
かおりはニコニコしながらそう言った。
そのいきなりの不意打ちを受け、八幡は申し訳なさそうにかおりに謝った。
「あれは確かに適当すぎた、悪かったな」
「別にいいよ、相対性妄想眼鏡っ子よりはましだしね」
「いきなりこっちに飛び火した!?」
「………まあそれも俺のせいなんだがな」
「まあでも個性的でいいじゃない、オンリーワンだよ?」
「まあ確かにシノノンはツンデレ眼鏡っ子、フカは肉食眼鏡っ子だしね」
「それは確かに無個性かもだけど、でもそんなオンリーワンは別に嬉しくない!」
「あはははは、あはははははは」
そんな会話を続けている間に、どうやらユウキに限界が訪れたらしい。
ユウキは明日奈の肩に頭を乗せ、うとうとし始めた。
「そろそろいい時間だな、俺達はここじゃ寝られないし、そろそろ落ちるか」
「え~?もう?」
「別にいいだろ、これから何度でもこういう機会はあるんだ、
それこそ俺達がジジババになるまでな」
「う、うん、そうだね」
ランはとても嬉しそうな顔でその言葉に同意した。
「よし、ユウは俺がベッドまで運んでやるか」
「うん、ありがとう」
「たまには二人一緒に寝るといいさ」
そう言いながら八幡はユウキをベッドに横たえ、
リビングへ戻ってくると、ランもその場で寝てしまっていた。
「明日奈、この短時間にこいつも寝ちまったのか?」
「あっ、うん、そうだね」
「それじゃあ仕方ない、運ぶか……」
これは明日奈の粋なはからいである、
明日奈はランも八幡に運んでもらえるようにと寝たフリをするようにお勧めしたのだ。
ノリとシウネーは、さすがに直接そんなおねだりは出来ないようであったが、
何かを期待するようにもじもじしながら戻ってきた八幡の前に立った。
そんな二人に八幡は軽くハグをした後に頭を撫でてあげ、
それで二人は嬉しそうにおやすみなさいと挨拶をして、自宅へと戻っていった。
「さて、明日奈達はどうするんだ?今日は眠りの森に泊まるのか?」
「うん、しばらくはそうするつもり。
社員さん達はやる事の内容をチェックして交代シフトを組んでたから、
もうほとんどの人が自宅に帰ったと思うんだよね」
「そうか、みんなにも迷惑かけちまうな」
「八幡君も無理しないでね」
「………おう」
そして八幡が落ちた後に明日奈達も落ちたのだが、
その直後から明日奈が何か思い悩んでいるように見えた。
「明日奈、どうかした?」
「う、うん、さっき八幡君が嘘をついたからさ、
まあ私にバレるのが分かった上で吐いた嘘だと思うんだけどね」
「えっ?いつ?」
「私が八幡君に、無理しないでねって言った時かな、
きっと無理をしなくてはいけない時があるって考えてるんだと思う」
「あの時かぁ………」
「でもこの状況じゃさすがに止められないよ」
「だね………」
「せめてこっちの事で心配をかける事が無いように、私達も頑張ろう!」
三人は八幡の事を心配しつつもそう誓った。
その頃アメリカでは、VRラボの稼動の準備が急ピッチで進められていた。
「随分遅かったわね」
「八幡様、一週間ぶりです」
「そりゃまあここと比べるとな」
「ふふっ、冗談よ」
お察しの通り、ここはVRラボの中であり、八幡達はニューロリンカーを使用している。
「こっちはどんな具合だ?」
「環境は整ったわ、あとはひたすらトライ&エラーみたいよ」
「分かった、よし、やるか。メリダ、クロービス、頼むぞ」
「うん、任せて!」
「兄貴、みんなはどんな感じだった?」
「おう、一緒にいたのはラン、ユウ、ノリ、シウネーと他に三人だけなんだが、
ランが訳の分からない遊びをしたいと言い出してな………」
こうして二人にスリーピング・ナイツの事を話してあげたりしつつも、
この日から八幡達は、トイレと食事と仮眠時以外はVRラボにこもる事となった。