ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第856話 キリトチーム、GGOへ

 一方別行動をとったキリト達は無事にウルヴズヘヴンへと到着し、

留守番役のキズメルが四人を出迎えていた。

 

「やぁキリト、久しぶりじゃないか」

「よぉキズメル、早速で悪いんだが紹介しとく、

今度ヴァルハラに入る事になったサトライザーだ、待遇は副長って事で一つ宜しく頼む」

「副長?そうか、了解した」

「驚かないんだな」

「まあ実力は見れば分かるし、ハチマンが決めたというなら否やはない」

 

 キズメルは驚異的な順応性を発揮し、サトライザーの事を素直に受け入れた。

もっともハチマンが決めたというのがキズメルの中では大きいのだろう。

 

「ねぇキズメル、他のみんなは?」

 

 いつもなら何人かがたむろしているのに、今日は誰もいなかった為、

シノンが首を傾げながらキズメルにそう尋ねた。

 

「コマチならフェンリル・カフェにいるぞ、

ハチマンがしばらく顔を出せないと言っていたと、他のみんなに伝えに来てくれて、

そのまま休憩がてら、色々な飲み物にチャレンジしているようだ」

「そうなのか、でもそれにしては他の奴らは誰もいないんだな?」

「ああ、実はGGOの方で、要塞防衛イベント?というのがあるらしくて、

皆そっちに向かったようだ」

 

 シノンはそれで納得したが、キリトやレコンには何の事か分からない。

 

「要塞防衛イベント?何だそれ?」

 

 その質問にサトライザーが横から口を挟んだ。

 

「ああ、それなら知っているよ、世界樹?竜谷門?それとも光の空中都市かい?」

「確か世界樹………と言っていたな」

「ねぇ、サトライザーは、竜谷門とか光の空中都市の場所を知ってるの?」

「その質問に対する答えはイエスでありノーだね、

どうやらサーバーごとに場所が違うらしくてね、

日本サーバーにおける正確な位置は知らないんだ」

「そう、ハチマンからそういうのもあるらしいって聞いてたから、

可能なら一度くらいは見てみたかったのに残念」

 

 シノンは本当に残念そうにそう言い、

サトライザーはキリトに要塞の仕様と防衛戦の事を説明した。

 

「なるほど、第一発見者になれれば笑いが止まらないような仕様なんだな」

「キリト、ちなみに世界樹要塞を今支配しているのはハチマンよ」

「えっ、マジかよ、まったくさすがというか何というか……」

「ハチマンって冒険大好きだものね」

「ん、そうか?」

 

 キリトの知るSAO時代のハチマンは、どちらかというと効率重視な所があった為、

その言葉とイメージが合わず、キリトは首を傾げた。

 

「『この世界はお前が考えているよりもずっとずっと広い、

お前が見たのは世界全体のほんの一部だ。

それはSAOで未知の世界を冒険するようなもので、お前の知らない物もまだ沢山ある。

さあ、この広い世界を一緒に冒険しよう』

みたいな事を、昔ピトがハチマンに言われたらしいわよ。

GGOの鼻つまみ者だったピトが変わったのはその頃からね」

「なるほど、ハチマンは本来はそういうのが好きだったんだな」

「実に冒険心をくすぐるセリフだね」

「私もそれでやられた口だけどね」

「いやいや、シノンは単純にハチマンの事が好………」

「そ、それじゃあせっかくだし、私達も要塞防衛戦に参加しましょうか!」

 

 シノンはその先を言わせまいとそう言い、

他の者達もせっかくだからとその言葉に賛同した。

 

「それじゃあコマチも誘いましょうか」

「そうだな、そうするか」

「留守は私に任せてくれ」

「悪いなキズメル、ここを頼むな」

 

 そして四人はフェンリル・カフェに移動し、コマチをGGOへと誘った。

 

「う~ん、もう伝えるべき事は大体の人に伝えたし、ここで待ってる必要はないかな、

それじゃあ久々に参加しに行きますか!」

「そうこなくっちゃ!」

 

 コマチはその頼みを快諾した。久しぶりのGGOが楽しみなのもあるだろう。

 

「多分敵は千体だと思うんで、一度うちの拠点に寄っていきましょう」

「十狼………だっけか、せっかくだし俺も入れてもらおうかなぁ……」

「お、いいんじゃないですか?ちょっとお兄ちゃんに聞いてみますね」

 

 コマチはそう言ってハチマンにメールを送ったが、その返事は一瞬で来た。

 

「返信早っ!構わないそうです」

「ハチマンってそんなにメールが得意だったっけか?」

「むしろ遅い方のはずなんだけどなぁ……」

 

 これはハチマンがVRラボにいるせいであり、今でもハチマンはメールを打つのが遅い。

 

「そうか、君はハチマンの妹さんなんだね、うちの妹と違ってお淑やかそうで羨ましいよ」

「コマチ的にはレヴィのあの胸が羨ましいですけどね」

「ん、そうかい?あんなのただの脂肪だろ?」

 

 そういかにもモテ男的なセリフを言うサトライザーに、コマチは諭すようにこう言った。

 

「その脂肪の一グラムが女にとっては重要なのです」

 

 コマチはチラリと自分の胸に目を走らせながらそう言った。

 

「そうだ、せっかくだしサトライザーさんもうちのスコードロンに入りますか?」

「十狼の活躍は動画で見たからよく知ってるよ、せっかくだしそうさせてもらおうかな。

実はスコードロンに所属するのは初めてなんだ」

「ほうほう、それじゃあ初体験という訳ですね、イヤッホー!」

 

 コマチはテンション高くそう言い、レコンにも参加の可否を尋ねたが、

レコンはALOでの情報収集を一手に担っている為難しいという話になり、

結局十狼は十二狼で落ち着く事となった。

 

「それじゃあまたお兄ちゃんの許可をとってっと……うわ、返信早っ!しかも二通?

物理的にありえないんだけど」

「確かに早いわね……」

「むしろ送った瞬間に返事が返ってきたように見えたな」

「謎ですね………」

 

 ハチマンからの最初のメールには、『サトライザーの加入の件はもちろんオーケーだ』

と書かれており、二通目には『十狼は本日を持って、ゾディアック・ウルヴズと改名する、

手続きはロザリアあたりをこき使ってやらせておいてくれ』と書かれていた。

確かにこれが一秒以内に連続で返ってきたら驚くだろう。

 

「ゾディアック・ウルヴズか、中々いいセンスじゃないか」

「お兄ちゃんにしてはそうかも」

「それじゃあ早速コンバートするか」

「そうしましょう!いやぁ、ベンケイになるのは久しぶりだなぁ」

 

 五人はキズメルに別れを告げ、GGOへとコンバートした。

当然装備は全てウルヴズヘヴンに預けてある。

 

「うわ、久しぶりのキリ子ちゃん」

「キリ子言うなっての」

「そのアバター、リアルマネーで五万くらいで売れるらしいわよ」

「マジかよ!?くっ、コンバートじゃなく新規キャラにしておけば……」

「ふうむ、どこからどう見ても女性にしか見えないね」

「そうなのよ、こいつは昔、それを利用して私の裸を見ようと企んでいたからね」

「話を盛るな!冤罪だ!」

 

 シノンは早速キリトをいじり、サトライザーは楽しそうにそれを見ていた。

 

「レコン君は大人っぽいキャラになったね」

「どれどれ……」

 

 コマチことベンケイにそう言われたレコンは、ビルの窓に自分の姿を映してみた。

 

「ああ、でも今はリアルでこれくらいの身長にはなってるから違和感無いかも」

「えっ、そうなの?」

「高校に入ってから一気に伸びたんだよね」

「今どれくらい?」

「百七十六くらいかな」

「うわぁ、ALOのキャラが小さめだから、違和感ありまくる」

「あはははは、多分そういう人、結構いると思うよ」

「ああ、そういえばリーファはALOじゃ大きいのにリアルだと小さいよね」

「うん、確かにそうだね」

「仲は少しは進展したの?」

「いやぁ、まあそれなりかなぁ」

「そっか、頑張ってね」

「うん、ありがとう」

 

 そんなのんびりした会話をしつつ、一同は鞍馬山へと足を踏み入れた。

 

「へぇ、ここが十狼の拠点なのか」

「キリトもまあ、ここは初めてみたいなものよね」

「前来た時は慌しかったからなぁ……」

「まあとりあえず武器と足を調達して直ぐに現地に向かいましょう」

 

 シノンとベンケイは、そう言って武器庫へと向かい、色々と持ち出してきた。

 

「キリトはエリュシデータは持ってるわよね?」

「おう、銃もあるからいらないぞ、どうせ撃っても当たらないしな」

「サトライザーにはこれ、シャナのアハトXを借りちゃいましょう」

「ありがとう、そういえばUSサーバーからこっちに移動してきた時に、

武器も装備もお金も全部あっちに置いてきてしまったから助かるよ」

「あっちに遊びにいく可能性もあるんだからそれでいいんじゃない?

とりあえずこれ、使い方は分かる?」

「確か二本に分かれるんだったね」

「そうそう、それでね……」

 

 シノンにアハトXの様々な機能を説明してもらったサトライザーは、

まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉しそうな顔をした。

 

「ここなら視界もちゃんと確保されているし、これなら暴れられそうだ」

「視界がどうかしたのか?」

「僕が日本に行く事になったのは片目を失ったからなんだ。

でもここならちゃんと両目での視界が確保されている、実にありがたいね」

「そういう事だったのか………」

 

 サトライザーは軽い調子で言っが、それはとても重い発言であった。

 

「それじゃあ傭兵は廃業か?」

「まあそんな感じかな、これからは日本に骨を埋めるつもりで楽しく暮らすさ」

「歓迎するぜ、今度どこかに一緒に遊びに行こうぜ」

「それは楽しみだね」

 

 そしてレコンにはシズカの夜桜とP90が貸し出される事となった。

というかベンケイが勝手に持ち出せるのはその二人の装備だけなのである。

 

「レコン君、銃の撃ち方は分かる?」

「う~ん、弾込めのやり方と、安全装置の外し方だけ教えてもらえば大丈夫だと思う」

「オーケー、それじゃあ説明するね」

 

 ベンケイは慣れた手付きでレコンにレクチャーをし、そして五人はガレージへと向かった。

 

「ほう?これは立派なハンヴィーだね」

「それじゃあブラックで行きましょうか、運転は当然私………」

「それじゃあ私が運転するね!」

 

 シノンがブラックを運転しようとしたが、それをベンケイが必死に遮ってそう言った。

初めて世界樹要塞に訪れた時に発覚したのだが、シノンはスピード狂であり、

例え後部座席に乗ったとしても、とても怖いからである。

 

「いや、でも私が……」

「シノンはほら、車の上で狙撃をする可能性もあるじゃない?」

「た、確かにそうかもだけど……」

「それじゃあみんな、乗って乗って!さあ、レッツゴー!」

 

 ベンケイがみんなの背中を押しながらそう言い、五人は世界樹要塞へと向かった。

勝手知ったる何とやら、何度も通った道だという事もあり、

ベンケイの運転は実にスムーズであり、三十分もすると、遠くに巨大な木が見えてきた。

 

「ちょっと様子を見てみますね」

 

 ここで斥候根性を発揮したレコンがそう言い、ルーフを開けて上に登り、

単眼鏡を覗いたかと思うと、すぐに下に顔を出した。

 

「ごめんシノン、ちょっと上に来てもらっていい?」

「何かあったの?」

「僕はGGOは初めてだから判断しづらいんだけど、何かピンチに見えるんだよね」

「っ!?待って、今行くわ」

 

 シノンは素早く上に移動し、レコンから渡された単眼鏡を覗きこんだ。

 

「あっ、本当だ、まずいわね、もう陥落寸前って感じかも」

 

 そのシノンの言葉を聞いた瞬間に、ベンケイはアクセルを思いっきり踏み、

ハンヴィー・ブラックは凄まじい速度で世界樹要塞へと近付いていった。




シノンがスピード狂だと発覚したのは第320話でしたね!

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