ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第857話 集結、歴代BoB優勝者

 ここで時間は少し遡る。まあいつもの事なのだが、

今日もヴァルハラ・ウルヴズのメンバー達は、

特に理由はなくともウルヴズヘヴンにだらだらと集まっていた。

ちなみに今日この場にいるのは、たまたまではあるが、レン、フカ次郎、闇風、薄塩たらこ、

ゼクシード、ユッコ、ハルカのGGO組のみであった。

 

「そしてコマチ参上!」

 

 コマチがそう言いながら、ウルヴズヘヴンのドアを開けた。

 

「そしての意味が分からないけど、コマチ、うぃ~っす!」

 

 そう返事をしたのは闇風である。

 

「コマチさん、こんにちは!」

 

 そしてレンがコマチに元気一杯な挨拶をしてきた。

 

「レンちゃんイェ~イ!」

「イェ~イ!」

 

 コマチはそんなレンに手をかざし、二人は拳と拳を合わせた。

さすがはコマチというべきか、その社交力は半端ない。

 

「やぁコマチ、ハチマンは元気かい?」

 

 そしてゼクシードがコマチにそう尋ねてきた。夢の中の出来事だと思わされてはいるが、

何となくハチマンに助けられたような気がしてならないゼクシードは、

あの一件以来、すっかりハチマン………まあ正確にはシャナだが、

シャナのシンパになっている。昔は揉めていた事を思えば何とも変わったものである。

 

「あ、それなんですけど、今日コマチは、

お兄ちゃんとクリシュナさんとセラフィムさんがお仕事でアメリカに行ってるので、

しばらくこっちには来れませんって伝えに来ました!」

「えっ、またアメリカに行ってるの?」

「おいおい、また飛行機が落ちたりしないだろうな」

「あ、それは大丈夫みたいです、敵対していた組織は潰したらしいんで」

 

 コマチのその言葉に一同はポカンとなった。

 

「いや、さすがというか何というか……」

「そのうち世界の支配者になっちゃうんじゃない?」

「いやぁ、それはさすがに……」

 

 そう言いつつも、コマチはその言葉がフラグにならない事を切に祈った。

世界の支配者の妹になんかなった日には、命がいくつあっても足りない気がしたからだ。

 

「でもまあ今もまだトラフィックスの新しい寄港先が導入されてない訳だし、

しばらくだらだらと交流を深めますかね」

 

 その時ウルヴズヘヴンに、シャーリーが駆け込んできた。

 

「おっ、シャーリーじゃねえか、慌ててどうした?」

「みんな聞いて、もうすぐGGOで要塞防衛戦が始まりそうだって、

フローリアさんから連絡があったわ!」

 

 シャーリーは挨拶もそこそこにそう大声で言い、一同は色めきたった。

 

「おっ、マジか!これは行かないとだな!」

「だらだらしている暇が無くなっちゃったね」

「キズメルさん、そういう訳なんでちょっと行ってきますね」

「ああ、活躍出来るように祈っているよ、レン」

「コマチはどうする?」

「う~ん、一応他の人にも色々と事情を説明したいんで、コマチはもう少しここにいるかな」

「オッケー、気が向いたら来てね!」

「うん!」

 

 こうしてGGO組は要塞防衛戦に出撃していった。

それから何人かがウルヴズヘヴンを訪れ、

コマチはその度にハチマンからの伝言を伝えていき、

人の足が絶えたところでコマチはフェンリル・カフェに移動し、

のんびりと休憩する事にした。そしてGGO組は、戦力集めに奔走していた。

 

「今集められる戦力は大体集まったな」

「闇風よぉ、誘ってくれてありがとな!」

「いや、こっちも人手がいるから逆に助かったぜダイン」

 

「今日はシャナさんはいないんだ、残念だなぁ」

「あんた達、そういう時に頑張ってこそ女は輝くんだよ!」

「おっかさん、分かってますって」

 

「あんた達、今日はモブが相手なんだから本領が発揮出来るわよ、

KKHCここにありって所を見せてやりましょう!」

 

「ボス、大会が終わって久々にログイン出来たと思ったら要塞防衛戦とかラッキーだね」

「ああ、SHINCの活動再開一発目は派手にやってやろう!」

 

 ヴァルハラ・ウルヴズの八人が集められた戦力は、

ダイン達が十名、G女連が十名、KKHCが四名の、SHINCが六名であった。

総勢三十八名であり、戦力としてはそれなりの規模に及ぶ。

 

「まあ向こうにも結構人がいるだろうし大丈夫かね」

「合計七~八十人くらいになればまあいけるだろうね」

 

 そして一同はバスをチャーターし、世界樹要塞へと向かった。

だが到着直後に計算違いが発覚した。

 

「マジか、フローリア、こっちの戦力はたったこれだけか?」

「今ここにいるプレイヤーは、全部で十人程になります」

「って事は敵は千体弱になるのか……」

「もう少し前でしたら三十人規模のスコードロンが滞在していたのですが、

一時間くらい前に狩り場に向かってしまわれました」

「まあ無いもの強請りをしても仕方がない、この人数で何とか頑張ろうぜ」

 

 そして防衛戦が開始され、一同は本気で頑張ったが、

戦力が足りない上に十狼が誰もいない為、戦況は徐々に悪くなっていった。

 

「まずいな、どうする?」

「とりあえず正門前に戦力を集中させよう、他の場所は要塞の防御力に任せるしかないが、

まあそう簡単に破られはしないと思うからね。それよりも正門が破られる事の方が怖いかな」

「確かにな、みんな、とりあえず正門前の敵を何とか減らすぞ!」」

 

 その時レンが、決死の覚悟で闇風にこう言ってきた。

 

「師匠、私、かく乱の為に下に行くよ」

「かく乱か……」

 

 闇風はそう言ってゼクシードをチラ見し、ゼクシードが頷いた為、レンにこう言った。

 

「よし、俺も一緒に行くぞ、ゼクシード、指揮はお前に任せるぜ」

「俺も行こうか?」

 

 横からそう言ってきたのは薄塩たらこである。

 

「いや、お前は俺達ほど足が早くないから上で援護してくれ」

「分かった」

 

 そしてゼクシードは申し訳なさそうに闇風とレンに言った。

 

「危険な役目を押し付けてしまってすまない、

出来るだけ敵の注意を要塞から逸らしてくれると助かる」

「オーケーオーケー、こういう危機的状況で死地に向かうのは嫌いじゃないぜ!」

「よし、行こう師匠!フカ、援護して!」

「オーケー、俺の右太と左子に任せな!

と言いたいところだけど、グレネードの使用は禁止だから豆鉄砲で援護するぜ!」

「ごめん、やっぱりいいや」

「えええええ?そりゃ無いぜ親友!」

 

 フカ次郎は通常の銃での射撃の命中率が恐ろしく低い為、

レンは自らの身を守る為にそう言った。

そして二人はロープを伝って下に下り、銃を乱射しながら敵の中を駆け回った。

それは一定の効果を上げたが、やはり多勢に無勢であり、

レンと闇風は徐々に追い詰められ、今まさに敵の包囲下に置かれようとしていた。

 

「ああ、囲まれちゃった……師匠、どこかに攻撃を集中させて一点突破しよう」

「ああ、それしかないな、最悪敵の攻撃を避けながら、強引に敵の真っ只中を擦り抜けよう」

「そうすると一番敵の包囲が薄そうなのは……」

「あっ、レン、危ない!」

 

 突然上からフカ次郎のそんな声が聞こえてきた。

二人が会話をしていた隙を突いて、一体のゴリラタイプのモブが、

レン目掛けてその太い腕を振り下ろそうとしていたのである。

だがレンはその攻撃を、速度任せで強引に回避した。

 

「危なっ!」

「援護射撃だ、急げ!」

 

 ゼクシードの指示によって、今まさにレンを囲もうとしていたモブは駆逐された。

だが敵はどんどんこちらに殺到しており、

レンと闇風が走れるようなスペースも無くなりつつあった。

 

「くそっ、レン、一度上に撤退だ」

「分かった、弾幕を張って敵がある程度減ったら再突撃だね」

「よく分かってるじゃねえか、とりあえずロープを上るぞ」

「了解!」

 

 だがその時レンは不幸に見舞われた。滅多に使ってはこないが、

敵の遠距離攻撃がロープを上っている最中のレンの背中にヒットしたのである。

それは太古から戦争において多用されてきた攻撃………投石である。

 

「うぐっ………」

「レン、レン!」

 

 そして地面に落下したレンに二体のゴリラモブが殺到し、

レンを叩き潰そうとその腕を振り上げた。

闇風はレンを助けようと下に飛び降りようとしたが、とてもではないが間に合わない。

 

「くそお、みんな、ごめん………」

 

 レンは死を覚悟してそう呟いたが、そんなレンの目の前で、

その二体のゴリラモブの頭が大口径の銃弾によって、まとめて破裂した。

 

「うわあ、びっくりした!」

 

 そのおかげで闇風のフォローが何とか間に合った。

闇風は敵の後続とレンとの間に入り、カゲミツG8『電光石火』を抜き、

片っ端から敵を斬りまくった。その直後に再びモブの頭が吹っ飛び、

レンは遠くから近付いてくる土煙を見て歓声を上げた。

 

「今のはシャナ?ううん、シャナは今アメリカだから、シノンだ!

みんな、援軍が来てくれたよ!」

「おお」

「あの黒い車体はブラックか!」

 

 そして土煙の中から漆黒の車体が顔を覗かせ、

そのまま凄まじい勢いでこちらに近付いてきたかと思うと、

ブラックはレンと闇風を避ける軌道でぐるりと回りつつ、門の前で急停止した。

 

「シノン!ありがとう!」

「レン、危なかったわね」

 

 シノンはレンに向けてニヤリとすると、上にいるゼクシードにこう叫んだ。

 

「ゼクシード、重い………あっと、銃が重いから上るのが大変、上から私を引き上げて!」

「敢えて銃が、と付けなくても、体重の事だなんて思わないよ」

「むぅ……」

 

 そんな冗談を言いながらゼクシードは、ユッコとハルカと共にロープを引っ張り、

ヘカートIIごとシノンを上に引っ張り上げた。

 

「今の働きに免じて、さっきの言葉は不問にしておいてあげるわ」

「へいへい、そりゃどうも」

「さあ、ここからが反撃よ!」

「シノン、正直助かったよ、ここで負けてたらシャナに申し訳ないからね。

さて、まだまだ不利なのに変わりはないが、もうひと頑張りするとしようか」

「あら、もう何も心配はいらないわよ、今日は驚きの援軍が来てるからね」

「驚きの?一体誰が……………えっ?」

 

 そう言いながら下を見たゼクシードは、思わず息を呑んだ。

下ではいつの間にか、レンを守るように三人のプレイヤーが剣を抜いており、

その中の一人の姿にゼクシードの瞳は釘付けになったのである。

 

「あ、あれはまさか………」

「キリト君以外の二人は知らない人だけど、ゼクシードさん、知り合い?」

 

 そんなゼクシードにユッコがそう問いかけてきた。

 

「あ、黒い髪の方はレコン君よ」

「ああ、レコン君だったんだ!やっほー!」

「キリト君も助けに来てくれてありがとう!」

 

 そのシノンの説明を受け、ユッコとハルカは二人に手を振り、

キリトとレコンは軽く剣を振ってそれに答えた。

 

「そしてあの金髪のプレイヤーの事は、ゼクシードならよく知ってるわよね」

「ああ、忘れるものか、どうして彼がここに?」

「今度日本に引っ越してくる事になったのよ、シャナの関係でね」

「本当かい!?いや、シャナなら有り得るのか………」

 

 そんなよく分からない会話をしている二人に、ハルカが首を傾げながら再び質問した。

 

「あの、ゼクシードさん、あの方は………」

 

 ハルカが思わずあの方と表現してしまったのは、

ゼクシードの口調から、何となく敬意の篭った響きを感じたからである。

 

「ああ、ユッコとハルカは知らないよね、あれは第一回BoBで無敵の強さを誇り、

シャナ以外を相手する時には銃すら使わなかった、歴代最強と名高い優勝者、

その名もサトライザーさ!」

「ああ~!前に動画で見たかも!」

「確かゼクシードさんもあの人と戦って………」

「動画で見たのかい?なら知ってるよね。

あの大会であいつに倒されなかったのは僕だけなんだけど、

それは僕がシャナに倒されたからなんだよね、あははははは!」

 

 ゼクシードは愉快そうにそう笑い、全軍に向けてこう言った。

 

「さあみんな、ここに歴代のBoBの優勝者が全員揃った、ここから反撃開始だよ!」

「お、おい、今全員って言ったよな」

「って事はあの援軍……キリトにシノン、そして………」

「まさかサトライザー!?」

「サトライザーだ!」

「おおおおお、まさかサトライザーが味方してくれるなんて!」

 

 その声を下で聞いたキリトは、からかうような口調でこう言った。

 

「サトライザーは凄い人気なんだな」

「なぁに、物珍しさって奴だろうさ」

「謙遜するなって、さて、それじゃあ一丁やってやるとしようか」

「ああ、全ては仲間の為に」

「レンちゃん、闇風さん、僕達が敵に斬りこむから、落ち着いたら援護して下さい」

「お、おう、分かった、なぁレコン、あいつはマジであのサトライザーなんだよな?」

「はい、そのサトライザーさんです」

「そうか………よしレン、今のうちに弾をリロードして俺達も突撃だ、

あいつらの戦いぶりを絶対に見逃すなよ!」

「う、うん、分かったよ師匠!」

 

 こうして心強い援軍を得て、守備隊の反撃が開始される事となった。


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