ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第858話 ヴァルハラ・ウルヴズ総突撃

 

「おいあれ、サトライザーが持ってるあの漆黒の剣、

あれはシャナのアハトXじゃないのか?」

 

 誰かがそう言い出し、そのせいで周囲にどよめきが広がっていった。

 

「えっ?シャナとサトライザーって敵同士じゃないのか?」

「馬鹿野郎、強敵と書いて友と読むって奴に決まってるだろ」

「もう一人が持ってるのはシズカの夜桜だぜ」

「あいつさっき、レコンって呼ばれてたよな」

「レコンにシノンにキリト………俺、そのメンバーに凄く聞き覚えがあるんだが」

「奇遇だな、俺もだ」

「まあみんな薄々分かってたけどな!」

「十狼が実はヴァルハラだってか?」

「やっぱりそういう事なんだな!」

 

 今や要塞防衛戦に参加しているプレイヤー達の士気は最高に高まっていた。

その会話を聞きながらも、遂にキリト達が動き出した。

 

「まあ普通バレるよな、こうなったらヴァルハラの名前も存分に活用するとするか」

「そうしよう、士気が高ければ大抵の事は何とかなるからね」

「そうですね、いいと思います」

 

 そしてキリトは辺り一帯に轟く大音声を発した。

 

「ヴァルハラ・リゾート副長、剣王キリト、参る!」

「「「「「「「「おおおおお!」」」」」」」」

 

 キリトがそう名乗った瞬間に大歓声が上がった。

 

「剣王、やっぱり剣王だ!」

「そりゃ弾も全部斬っちまう訳だよ」

 

 続いてサトライザーとレコンもそれに習った。

 

「ヴァルハラ・リゾート副長、サトライザーだ、今後とも宜しく」

「ヴァルハラ・リゾート隊士、レコン、行きます!」

「「「「「「「「えええええええええ?」」」」」」」」

 

 この驚きは、サトライザーの名乗りに対するものであった。

 

「おい、聞いたか?」

「ヴァルハラの副長って言ってたよな!?」

「マジかよ、あいつらどんだけ強くなるんだ……」

 

 そう囁き合うプレイヤー達に、シノンが得意げな表情で言った。

 

「あんた達は運がいいわね、うちに新しい副長が加わった事は一部の人に知られているけど、

それがサトライザーだって事は、まだ誰も知らないトップシークレットよ!

せっかく歴史の生き証人になれたんだから、この事を頑張って拡散しなさい!」

 

 そのシノンの言葉にキリトは肩を竦めた。

 

「やれやれ、あいつは意外と宣伝上手だな」

「まあいいじゃないか、盛り上がってるみたいだし」

「そうだな、それじゃあ行くか」

「了解!」

 

 そして三人は敵に突撃を開始した。

三人が三人とも剣を振るっているのが実にGGOらしくないが、

その三人の剣技の冴えは凄まじく、またたく間に正門近くの敵が一掃された。

 

「くぅ、さすがに剣の扱いに慣れてやがる、にわかの俺とは違うな」

「師匠、あのサトライザーって人、わざと剣を短く調整してますね」

「サトライザーは元々短剣使いだからな、どうだレン、本物の短剣術を見た感想は」

「凄いです」

 

 レンはそう言ってぶるりと体を震わせた。

 

「レンはもう俺と同じくらいのレベルでラン&ガンを使えるからな、

後は色々な奴の動きを見て、自分に必要だと思ったものは貪欲に取り入れていくんだぞ」

「うん!」

「それじゃあそろそろ俺達も行くぞ、基本は釣り感覚だ」

「あの三人の方に敵を連れていけばいいんだね!」

「そういう事だな」

 

 そして闇風とレンは凄まじい速度で走り出した。

今の待機時間に回復アイテムも使った為、HPも満タンである。

 

「キリト君、敵を運んでくるね!」

「おう、頼むぞレン」

 

 レンはキリトを追い抜きざまにそう言い、砂煙を上げながら敵の中へと突っ込んでいった。

やっている事は先ほどのかく乱と一緒だが、今回は囲まれるまで粘る必要もない為、

レンはリラックスした表情でとにかく走って走って走り回った。

闇風も同様に敵を釣りまくったが、三人の殲滅力が凄まじい為、まったく問題はなかった。

二人が取りこぼした敵は、シノンとシャーリーが狙撃で倒していく。

これを見て黙っていられなかったのがフカ次郎だ。

 

「うぅ、私の存在価値がない!」

 

 フカ次郎は得意のグレネードランチャーを使う事も出来ず、

かなりストレスを溜めているようであった。

そしてそろそろ行くかといった感じでベンケイがブラックを動かしたのを見て、

思い切り良くロープを使って下に飛び降りた。

 

「ケイ、私も行くよ!」

「あ、そう?それじゃあ私の白銀を貸してあげようか?」

 

 どうやらベンケイは、フカ次郎が何も出来ておらず、

イライラしていたのを見ていたようで、気を遣ってそう言ったのであった。

 

「いいの?やった、貸して貸して!」

「オッケー!」

 

 フカ次郎はブラックの上で嬉しそうに白銀をブンブン振り回しながら言った。

と、その横に四人のプレイヤーがフカ次郎の後を追って飛び下りてきた。

ゼクシード、ユッコ、ハルカ、薄塩たらこである。

 

「僕達もご一緒させてもらえるかな」

「ALO組にばかり目立たれるのはちょっと悔しいからな」

「ヴァルハラ・ウルヴズ総突撃といこうぜ」

「オーケーです、それじゃあ行きますよ!」

 

 ブラックの屋根に設置されているミニガンには薄塩たらこが付く事になり、

フカ次郎はキリト達の所で下車する事となった。

そしてブラックが出撃し、残る敵の集団に向けて突撃していった。

 

「ヴァルハラ・リゾート隊士、フカ次郎、推参!」

 

 どうやらフカ次郎は、先ほどの他の者達の名乗りがとても羨ましかったようで、

要塞にいる者達にアピールするようにそう叫んだ。

 

「お、フカ、来たのか」

 

 そんなフカ次郎にキリトが声を掛けた。

 

「私だけ除け者にするなんてひどい!」

「普通に飛び降りて付いてくれば良かったんだよ」

「だって私、輝光剣とか持ってないもん!これは借り物だし!」

「そこは普通の短剣とかで我慢しとけって」

「それじゃあ全然目立てないじゃない!」

「相変わらずだなお前は」

 

 そう言いながらも戦列に加わったフカ次郎は、今までの鬱憤を晴らすかのように、

ばったばったと敵をなぎ倒していく。

GGOでのフカ次郎は、グレネーダーのイメージが強かった為、

フカ次郎が見せた剣技の冴えに、要塞に残っていた者達はとても驚かされた。

そしてブラックが外周を走り回って弾丸を撒き散らしつつ敵を殲滅し、

遂に要塞に攻め寄った敵は全滅する事となった。

 

「いやぁ、久々に斬りまくったな」

「USサーバーだと、何台もの車が走り回ってるんだけど、こういうのも新鮮で凄くいいね」

「へぇ、そうなのか、まあ輝光剣が無いとそんな感じになるよな」

 

 そう言いながらキリトは、後方から自身の頭に向けて伸びてきた赤い光を見て、

即座に体を捻りながら飛び、直後に飛んできたヘカートIIの弾丸を斬り飛ばした。

 

「あ、あの野郎、何て事をしやがる」

 

 そんなキリトの姿を見て、サトライザーが目付きを鋭くした。

 

「へぇ、キリトはそんな風に弾を斬れるのか」

「ん?まあ正確には弾を斬ってるというより、弾道予測線に剣筋を合わせてるんだけどな」

「いやいや見事なもんだ、当然次のBoBには出るんだろう?」

「ああ、まあそのつもりだけど」

「それはとても楽しみだ」

 

 サトライザーは一瞬獰猛そうな表情を浮かべてそう言った。

 

「まあお手柔らかにな」

「それはこっちのセリフだよ」

 

 二人はそう言いながら要塞へ向けて歩き出した。

その道中で更に二発の銃弾が飛んできた事を追記しておく。

 

 

 

 そして要塞に到着し、キリトは正門前に佇むシノンに向け、いきなり抗議した。

 

「おいシノン、何で三回も俺を狙撃してきたんだよ!」

「あれは早く戻ってこいって合図よ、それくらい分かりなさい」

「ふざけんな、危ないだろ!」

「あんたならあっさりと弾を斬るから平気でしょ、実際平気だったじゃない」

「ぐぬぬ、ああ言えばこう言う……」

 

 キリトはシノンが相手だと、どうしても相手のペースに乗せられてしまうようだ。

その直後に大歓声が上がり、中から他のプレイヤー達が続々と飛び出してきた。

 

「さすがはヴァルハラだぜ!」

「凄いなあんたら!」

「ああ、いや、確かにさっきはああ名乗っちゃったけど、

俺とサトライザーは十狼に入る事になったから、

GGOだとそっち扱いをしてもらえると嬉しいかな」

「十狼に?それはちょっと凄まじいな、歴代BoB優勝者が三人かよ!

あ、でもそれじゃあ十二人になっちまうな!」

「ああ、その事で発表があったんだったわね、

今度十狼は、二人の加入を受けてゾディアック・ウルヴズって名前を変える事になったから、

その事も一緒に拡散しておいてね」

 

 そこでシノンが横からそう言い、一同はどよめいた。

 

「ゾディアック・ウルヴズ?メンバー間で星座の取り合いになるのか……」

「それじゃあシノンは絶対にサソリ座だな!よっ、サソリ座の女!」

「意味は分からないけど何か嫌な響きね」

 

 どうやらシノンはランとは違い、昭和ではないらしい。

こうしてサトライザーがヴァルハラ・リゾートと十狼に加入した事と、

キリトが十狼に加入した事、そして十狼がゾディアック・ウルヴズと改名した事が、

この場に参加したプレイヤー達によって、拡散していく事となった。


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