シャナが不在の中、何とか世界樹要塞の防衛に成功した一同は、
とりあえず話をする為に鞍馬山へと移動する事にした。
当然その移動の手段はブラックとバスに別れて乗る事になるのだが、
来た時と同じ組み合わせで移動する事にはならなかった。
シノンが余計な事を言い出したからである。
「それじゃあ帰りは私がブラックを運転するわね」
「あっ、それじゃあ私はバスを運転するね」
シノンがそう言った瞬間に、ベンケイは光の早さでそう言い、
誰かが何か言う前に、素早くバスの方へと移動していった。身の安全の確保、成功である。
「え~っと………」
「ケイそっちはお願いね!
そうだ、せっかくだし帰りはブラックに、BoB優勝経験者で乗り合わせていかない?」
「ん、まあいいんじゃないか、それじゃあゼクシード、お前はこっちだな」
「オーケーオーケー、そういう事だから闇風君、僕はこっち、君はそっちね」
「てめえ、喧嘩売ってんのか!」
「ははははは、君もいつかこっちに乗れるように頑張ってくれよ」
「くそっ、悔しいが、さすがにここで何か言い返すのは格好悪すぎだな……」
だが闇風は知っていた、シノンの運転する車に乗るのは地獄だという事を。
同じく源氏軍だった薄塩たらこもその事を理解しており、
二人はブラックに乗らなくて済んだ幸運を噛み締めながらも、
小芝居をしつつバスの方へと向かった。
「ちっ、覚えてろよ、いつか吠え面かかせてやるぜ!」
「まあまあ闇風、事実なんだから仕方ないさ、さあ行こうぜ」
そう言いながら二人が、心の中で舌を出していたのは間違いない。
「それじゃあフローリア、またな」
「はい、あ、あの、キリトさん………は、マスターとは親友なんですよね?
マスターは最近どうされてますか?」
フローリアは誰かに聞いたのだろう、キリトにおずおずとそう尋ねてきた。
「ああ、シャナなら今アメリカに行ってるよ、
俺からも、フローリアが寂しがっていたって伝えておくわ」
「ありがとうございます、出来ればとてもとても寂しがっていたとお伝え下さい」
「ははっ、分かった、必ず伝えておくよ、ってか今伝えるかな」
キリトはそう言いながらメッセージを送り、例によって一瞬でその返事がきた。
「うわ、気持ち悪いくらい返事が早いな」
「えっ?もう返信が来たの?さすがに早すぎない?」
「でも確かに来てるぞ、ほら」
キリトがシノンに見せたメールにはこう書かれていた。
『フローリア、寂しがらせて本当にすまん、
そっちに戻ったら防衛戦が無くてもすぐに顔を出すから、
それまでキリトでもいじって遊んでてくれ』
「そんな訳で、俺がたまに顔を出すからあいつが戻ってくるまでは俺で我慢してくれ」
キリトは八幡にいじられたにも関わらず、それに反抗はせず、
むしろ自分からそう言い出した。
本当に寂しそうなフローリアの表情を見て心が動かされたのだろう。
「我慢だなんて失礼な事は言いません!
私はいつでも大歓迎です、お暇な時は是非いらして下さいね」
フローリアはニコニコとそう言ったが、ここでフカ次郎が横から余計な口を挟んできた。
「なるほど、それじゃあフカちゃんも、副長をいじって遊んでればいいんだ!」
「シャナに同じようなメッセージを送っても、絶対にこういう返事は返ってこないと思うぞ」
「いやいやはっはっは、そんな事あるわけないですし?
リーダーはフカちゃんの事が大好きですし?」
「それじゃあ試してやる」
そしてキリトは八幡に、『フカも凄く寂しいってよ』とメッセージを送った。
当然その返事には一秒もかからない。
「あ~………」
「副長、どうしたの?」
「いや、お前はこれ、見ない方がいいんじゃないか?レンもそう思うだろ?」
キリトはそう言ってレンにその返事を見せた。
レンはその文面を見た瞬間に、フカ次郎の手をとってバスの方へと引っ張っていった。
「さあフカ、元気を出してバスにレッツゴー!」
「ま、待てってレン、まだ返事を聞いてな………」
「シャーリーさん、フカの空いてる方の手を引っ張ってあげて!」
「オーケーオーケー、何となく分かったわ」
空気の読めるシャーリーはその頼みを快諾し、
フカ次郎はそのまま二人に引っ張られていった。
「で、結局何て書いてあったの?」
「『うぜえ』」
「……………なるほど、フカは八幡に愛玩動物的な意味で愛されてるのね」
「まあそうだろうな」
要するにそれは、ロザリア的な立ち位置であろう。
「まあいいわ、それじゃあ帰りましょっか」
「だな」
一同はブラックとバスに分乗し、フローリアに手を振りながら街へと戻っていった。
「しかしこうしてBoB優勝者が全員揃う事になるなんて、夢にも思わなかったわ」
「まあサトライザーが来たってだけで、他の三人はよく揃ってたけどな」
「次のBoBはいつ頃になるのかしらね」
「あと数ヶ月後らしいよ」
「まだ公式発表は無いわよね、それってどこ情報なの?」
「八幡と僕が日本支社長から聞いたから、間違いないと思うよ」
「それじゃあガチね、腕がなるわ、キャッホ~イ!」
シノンはそう言ってブラックの速度を上げ、一同は必死に体を支えた。
「お、おいシノン、飛ばしすぎだって!」
「え~?このくらいはまだ序の口じゃない?」
「………ケイの様子がおかしかったのはこういう事か……」
遅ればせながらその事に気付いた三人は、どうすればいいかヒソヒソと相談を始めた。
「このまま街まで行くのは少しきついね」
「確かにきつい……」
「幸いここって何もない場所だよね」
「多少スピンとかしても問題はないよな」
「バスからも離れたしね」
「やるか?」
「ああ、やろう」
「オーケー、先ずは僕がシートを倒す、そうしたら……」
三人は簡単に相談を済ませた後、強硬手段に出た。
ゼクシードがいきなりシートを倒し、シノンを無理やり後部座席へと引っ張り込む。
「きゃっ、ちょ、ちょっと、いきなり何するのよ、危ないじゃない!」
「危ないのはシノンの運転だっての!」
その瞬間に助手席にいたサトライザーが素早く運転席に移動し、車の制御を始めた。
さすがにサトライザーの運転技術は凄まじく、
ブラックは一瞬で快適な走行状態へと復帰する事となった。
「もう、一体何なのよ!」
「お前の運転は怖いんだよ!」
「私は別に怖くなんかなかったわよ!」
「とにかくシノンは教習所に通うようになるまで車の運転はするな、絶対にだ」
そのキリトの強い調子にさすがのシノンも黙った。
多少やりすぎな自覚はあったのだろうかもしれない。
「まあいいわ、それじゃあ優勝者の交流会を続けましょうか」
「お前、やっぱりタフだよなぁ……」
「うん、本当にね……」
「こういう性格だからこそ、BoBに優勝出来たってのもあるかもしれないね」
三人はシノンに苦笑しつつも、雑談を続ける事にした。
この間にキリトが助手席へと移動している。
「そういえば言えないならいいんだけど、
今回八幡は何でアメリカに行く事になったんだい?」
「ああ、薬関係の説明を受ける為らしいぞ」
「薬?へぇ、ソレイユはそんな事もやってるんだ」
「ああ、あいつの知り合いが………っと、これは個人情報になっちまうからまずいな、
まあその病気が結構難しい病気で、それをどうしても何とかしたいってのが発端らしい」
「へぇ、それは彼らしいね」
「だな」
その時シノンが突然驚いたような声を上げた。
シノンは何かメッセージでも届いたのか、コンソールを開いてテキストに目を走らせている。
「ん?どうかしたのか?」
「あ、うん、丁度今八幡からメッセージが……
えっと、『ゼクシードは防衛戦に参加したか?』だって」
「へっ?」
「………何故僕の事を気にするんだろうね」
「と、とりあえず返信しておくわね」
「ああ、『参加したけど何で?』とでも言っておいてくれよ」
「う、うん」
シノンは戸惑いつつもそう応じ、八幡にその通りに返信した。
今回は返信は遅く、数分後に八幡から返事が返ってきた。
「えっ?えっと、ゼクシード、八幡がシャナでログインして、鞍馬山で待ってるって……」
「彼が僕を?ふ~ん、何の用事か分からないが、多分何か大事な用事なんだろうな……」
ゼクシードは考え込み、一同は戸惑いのせいか、街に付くまで会話らしい会話もせず、
到着した瞬間にそのまま鞍馬山へと走った。
ほぼ同時に到着したバスのメンバー達は、その光景に目を丸くしていた。
「シノン、何かあったのか?」
「鞍馬山にシャナが来てるらしいの!」
「ほえ?お兄ちゃんが今の状況でわざわざ?」
「えっ、マジかよ、俺達も行くぞ!」
一同はそのまま鞍馬山に走り、
中に入った瞬間に、シャナが少し疲れたような顔で一同を出迎えた。
驚いた事に、隣にはニャンゴローの姿もある。
「よぉ、お疲れさん」
「シャナ!」
「ニャンゴローまで?」
「お兄ちゃん、一体どうしたの?」
「ああ、ちょっとゼクシードに用事があってな」
「何故わざわざ僕に?」
ゼクシードにそう問われたシャナは、最初にこう切り出した。
「ゼクシード、お前が入院してた時の事を覚えているか?」
「入院?ああ、何か長い夢を見ていた気がするが、覚えているよ」
「そうか」
そして一同が固唾を呑んで見守る中、シャナはボソリと呟いた。
「アイとユウ………」
その瞬間にゼクシードの顔色が変わった。
「アイとユウだって?そうだ、俺は入院していたはずなのに、確かにあの時………」
そしてゼクシードはシャナに詰め寄った。
「おいシャナ、アイとユウは実在する人物なのか?
なぁ、教えてくれよ、あれは本当に夢だったのか?」
そのゼクシードの豹変ぶりに、事情を知らない者達は驚いた。
「お、おいゼクシード、落ち着けって」
「先ずはシャナの話を聞こう、な?」
「そ、そうだね、済まない、取り乱してしまって」
ゼクシードはそれで多少落ち着いたのか、じっとシャナの顔を見た。
「ゼクシード、今どこにいる?」
「え?ああ、自宅だけど……」
「そうか、そこにニャンゴローが迎えに行く、
お前はそのままニャンゴローと一緒に眠りの森という施設へと向かってくれ」
「眠りの森………?」
「それじゃあゼクシードさん、
今直ぐ落ちて準備をして待っていて頂戴、私も直ぐにそちらに行くわ」
「………分かった」
ゼクシードは戸惑いつつもそのシャナの強い調子に押され、
そのまま素直にログアウトし、ニャンゴローも消えていった。
残された者達は、当然シャナに詰め寄る事になる。
「おいシャナ、今のは一体どういう事だ?」
「そうだな、GGO組は事情を知らない奴が多いよな、さて、何から説明したもんか……」
そしてシャナは、大切な仲間達に向け、今自分が何をしているのかの説明を始めた。
「そもそも俺がソレイユに製薬部門を作ったのは、難病指定された知り合いの子供達……
まあ中学から高校程度の年齢の奴らを子供達って表現するのもどうかと思うが、
まあその子供達の命を何とか助けたいと思ったからだ。
その中で二人、特に差し迫った状態にいる双子がいる。
もしかしたら動画で見たかもしれないが、絶刀と絶剣だ」
「ああ、見た見た、凄いよなあの二人」
「やっぱりリアル知り合いだったのか」
シャナはその言葉に頷きつつ、ユッコとハルカに向けてこう言った。
「ちなみにユッコとハルカはアイとユウと面識があるよな」
「うん」
「さすがにさっきその事で口を挟むのはどうかと思ったから黙ってたけどね」
「そうだったのか?」
「いつ知り合ったんだ?」
「みんな覚えてる?ゼクシードさんが闇風さんと対談していた時に落ちた時の事」
「ああ、あの時な!」
「事情を知っている人も多いと思うけど、あの時のゼクシードさんは本当に命の危機でね」
その後の言葉はシャナが引き継いだ。
「その時俺は、あいつをメディキュボイドに叩きこんで、
同じような境遇だったその双子と交流させたんだ。
それがアイとユウ、さっき名前を出したその二人だ。
まあゼクシードはあの時の事を、夢か何かだと思わさせられているんだけどな」
「えっ、何で?」
「再会を感動的なものにする為にそうしてくれってアイとユウに頼まれたんだよ」
「そんな事が……」
事情を知らなかった者達は、その言葉に驚いた。
「でもどうして今なの?」
「ああ、あの二人の病状がちょっとやばくてな、
俺としてはあの二人を元気付ける事は何でもやるつもりだ。
だから今、ゼクシードに事実を話し、あいつらの元気の源になってもらう事にした。
今の俺は正直余裕がなくてな、やれる事があったら全て手を回している、そんな状態なんだ」
そのシャナの余裕の無い様子を見て、他の者達は絶句した。
こんなに弱々しいシャナの姿を見るのは初めてだったからだ。
だがここでシャナは、精一杯の笑顔を見せた。
「いずれみんなにも何か協力を頼む事があるかもしれないが、その時は頼むな」
「お、おう、任せろ!」
「何が出来るかは分からないが、何かあったらすぐに声を掛けてくれよな」
「すまん、恩に着る」
シャナはそう言って微笑むと、続けてこう言った。
「それじゃあ湿っぽい話はここで終わりにして、防衛戦の話でも聞かせてくれよ」
「お、おう!」
そのシャナの言葉に応じて、一同はそれぞれの防衛戦の話を始め、
シャナはそれを聞きながら、今まさに眠りの森へと向かっているであろう、
ゼクシードの顔に思いを馳せた。
(頼むぞゼクシード、あの二人を元気付けてやってくれ)
GGOの終盤から400話以上かけて、遂にこの伏線を回収する時がやってきました!