シャナに要塞防衛戦について聞かれた一同は、
キリト達が駆けつけてくれるまでどれだけ大変だったか、
そして合流後は特にサトライザーの存在がどれほど味方の士気を上げたかを熱っぽく語った。
「へぇ、さすがはキリト、盛り上げ方をよく分かってるな」
「まあサトライザーに全部持ってかれたけどな」
「いやいや、あのセリフは本当にやばかったって、血が沸騰するかと思ったしな」
「キリト、謙遜するなって」
「ん、まあ勝利の役にたてたなら良かったよ」
シャナにそう言われたキリトは、はにかみながらそう微笑んだ。
「サトライザーはまあ、期待以上だな、
これで俺がいなくてもそうそううちの戦力が落ちる事はないだろ」
「リーダー、それじゃあまるで遺言みたいじゃないですか!そういうのはやめて下さい!」
そのシャナの言葉に食いついたのはフカ次郎であった。
例え雑に扱われても、フカ次郎は常にシャナに対しては真っ直ぐである。
「悪い、そういうつもりじゃないんだが、ちょっと疲れてるのかもな」
「シャナ、大丈夫?」
そう言ってレンがシャナの顔を下から覗きこむ。
シャナの事が心配なのか、今はいつもの元気いっぱいモードではなく、
香蓮の通常モードのようである。
「ははっ」
シャナは笑いながらレンの頭を撫でた。
レンはその事自体は嬉しかったのだが、シャナが何も言わなかった事が気にかかった。
だがこの場でそれを口にするのは躊躇われ、レンは今は何も言う事が出来なかった。
「レコンも慣れないGGOでよく頑張ったな」
「まあ僕は剣を振るってただけですからね」
「今度銃の使い方を教えてやるからな」
「いいんですか?ありがとうございます!」
「シャナ、私には何か言う事はないの?」
シノンがそう言って、シャナに背中をもたれかけさせ、
そのまま振り向いて上目遣いでシャナの顔を見上げた。
いろはにでも習ったのだろうか、実にあざとい仕草であり、
それを見たレンはハッとした顔をし、それを見習おうと、
壁をシャナに見立て、寄りかかる仕草を練習し始めた。実にかわいい。
だが当然そんなシノンの攻撃はシャナには通用しない。
「シノン?ああ、うん、お前は別にいいわ」
「ちょっと、私の扱いひどくない!?
ああ~!もしかしてあれ、好きな人をいじめたくなっちゃう小学生の心境?」
「お前はフカみたいな事を言ってんじゃねえよ」
「こっちに飛び火した!?」
「あ、でもシャナ、今日は私、シノンに助けてもらっちゃった」
レンがニコニコしながらそう言った瞬間、
シャナは手の平を返すようにシノンの手を固く握りしめた。
「よくやったぞシノン、お前は最高だ、えらい!」
「ぐっ………微妙に納得いかないんだけど………」
シノンはぐぬぬ状態でそう言ったが、シャナはまったく取り合わない。
そして一同の顔を見回しながら、思い付いたようにこう言った。
「で、お前らさっきからちっとも話が出ないが、
戦利品はいい物が何もドロップしなかったのか?」
「「「「「「「戦利品!?」」」」」」」
一同は一瞬キョトンとしたかと思うと、一斉にコンソールを開いた。
どうやらその事をすっかり忘れていたらしい。
「おおおおおお!遂にキターーーーーーーー!」
最初に叫んだのは薄塩たらこであった。
薄塩たらこは宝石のはまった機械のような物を天に掲げ、
世紀末覇者のように仁王立ちしている。
「おっ、輝光ユニットか、やったじゃないか」
「それ、僕にもドロップしているみたいだ」
横からそう言ったのはサトライザーであった。まさかの一発ゲットである。
「あっ、宇宙船の装甲板だ」
「私も私も」
「あれ、私もだわ」
「私もです!」
ユッコ、ハルカ、シノン、レンが順番にそう言い、
続けてキリトとレコンが銃を掲げてみせた。
「おっ、レコンも銃か」
「キリトさんもですか」
「でも俺、銃を撃っても当たらないからなぁ、サトライザー、良かったらいるか?」
「いいのかい、それは嬉しいよ」
「いいっていいって、使える奴が持った方がいい」
キリトはそう言ってサトライザーに銃を手渡した。
シャナはそれを横から覗き込み、感心した顔で言った。
「おお、さすが太っ腹だなキリト、これは売って金にかえたら一万円くらいにはなるのにな」
キリトはその言葉に固まった。
「……………い、今『円』って言ったか?」
「おう、円だな」
「これが!?一万円!?」
「おう、それがどうかしたか?」
そう言ったシャナはニヤニヤとしており、
わざとキリトをいじっているのが丸分かりな表情をしていた為、
キリトは引くに引けなくなった。
「いや、どうもしないね!サトライザー、大事にしてくれよ!」
「ああ、もちろんだ、大事にするさ」
「そ、それならいい!」
キリトは内心の動揺を隠しながらそう言い、
シャナは何となくからかったのが申し訳ない気分になり、
今度キリトにいい仕事を回そうと心の中で決意した。
「リ、リーダー!フカちゃんは、フカちゃんは………」
その時フカ次郎が悲しそうな顔でシャナに纏わりついてきた。
「ん、お前は何がドロップしたんだ?ウザ次郎」
「うん、えっと………あ、あれ、何か今違う名前で呼ばれたような……」
「気のせいだフカ、で、どうだったんだ?」
「そ、それが………」
落ち込んだ表情でフカ次郎が差し出してきたのは、『お徳用弾丸詰め合わせ』であった。
その名の通り、数種類の弾の詰め合わせのようである。
「オチ担当乙」
「キーーーーーーーーッ!」
フカ次郎は発狂したようにそう叫び、泣きながらレンの所へと走っていった。
「さて、オチもついたところでそろそろ俺は落ちるとするわ、ゆっくり出来なくて悪いな、
俺は俺で頑張るから、みんなも頑張って………いや、楽しんでくれ。それじゃあまたな」
シャナはそう言ってログアウトしていった。
残された者達は、レベルは違えどやはりシャナの様子に違和感を覚えたのか、
その事について色々と話を始めた。
「ケイ、シャナの奴、大丈夫なのか?」
「う~ん、大丈夫じゃないですかね、疲れてるのは確かだと思いますけど、
中学の時みたいに何もかも諦めたような死んだ目にはなってなかったですし」
「それならいいんだけど………そういえばゼクシードは真相を知って、
今頃どうしてるのかしらね」
「多分あの二人に振り回されてるんじゃないか?」
「確かにそうかもですね」
そんなALO組の会話を聞いて、GGO組も二人に興味津々のようだ。
「なぁ、その二人ってそんなに凄いのか?」
「強さに関しては申し分ないな、特にユウキはアスナに勝ったくらいだしな」
「ええっ?マジかよ……」
「あとアイ………ランは、フカやピトみたいな性格をしているわね」
「うわ、また問題児が増えた………」
「またフカちゃんに流れ弾が来た!?」
フカ次郎は愕然とそう言い、レンはそんなフカ次郎の頭を撫でながらこう言った。
「まあフカの事はどうでもいいとして」
「レンがひどい!?」
「ゼクシード師匠はきっと今頃間接的にシャナの事を助けてるはず、
それが凄く羨ましい………私達にも何か出来る事があればいいのに……」
「それな」
「シャナから何か頼まれるのを待つだけじゃなく、
俺達に出来る事があるかどうか、常に考えていかないとな」
「そうね、もし何か思い付いたらウルヴズヘヴンででも相談しましょう」
「賛成」
「賛成!」
結局彼らに出来る事は何も無かったのだが、
少なくともその気持ちはシャナに伝わり、その力となった。
そしてGGOからログアウトした八幡は、
アミュスフィアを外した瞬間に目の前にクルスの顔があった為、とても驚いた。
「うわっ、マックス、驚かせるなよ」
「すみません八幡様、八幡様の寝顔がかわいかったのでつい……」
「寝顔って、お前からは俺の口元しか見えなかったはずだが……」
「はい、口の角度がとてもかわいいと思ったもので!」
「そ、そうか」
クルスは八幡の世話係を命じられており、
今みたいにいきすぎな部分はあるが、とても甲斐甲斐しく八幡の世話をしていた。
そんなクルスは、八幡の世話をする際は常時ニューロリンカーを装着している。
ちなみに近くには茉莉もいたのだが、茉莉はそんなクルスを見て苦笑するだけであった。
「あっ、うん、分かった、伝えるね。
八幡様、宗盛さんは一旦ログアウトした方がいいみたいです、
研究に集中しているせいか、メッセージを送っても返事が無いみたいなので」
「ん、そうか、ちょっと待ってくれな」
八幡はそう言って、クルス同様にニューロリンカーを装着した。
その瞬間に八幡の目の前に、光り輝く妖精のような姿が映し出された。
「分かったユイ、俺が今からログインしてその事を伝えるわ」
「お願いします、パパ!」
「こんな地球の裏側まで連れてきちまって悪いな、みんなの健康管理、本当に助かるわ」
「体調面は茉莉さん、精神面はユイに任せて下さい!」
ユイがヴァルハラ・ガーデンにいない理由はこれである。
アメリカで八幡、紅莉栖、宗盛の三人の体調管理を担当する為、
全てのリソースをこちらに回している為に、
ヴァルハラ・リゾートに姿を見せる余裕が無いのである。
「パパ、ゼクシードさんの件はどうなりましたか?」
「おう、今頃雪乃と一緒に眠りの森に向かってる最中のはずだ」
「それなら良かったです!」
「ゼクシードの事、アドバイスありがとな。
二人が仕掛けたサプライズを逆手にとって、逆サプライズを仕掛けるなんて、
俺には思いもつかなかったわ」
「あの二人が少しでも元気になる可能性がある事は何でもしないとですしね!」
「だな、出来る事は何でもやる、例え効果があるかどうか怪しい事でもな」
どうやらゼクシードの件を八幡にアドバイスしたのはユイだったようである。
「八幡様、久しぶりのGGOはどうでしたか?」
「ああ、とても楽しかったわ、特にみんなの笑顔が見れたのがな」
「それはとても八幡様らしいですね」
「それじゃあ今度はアイとユウの笑顔を守りに行くか、
茉莉さん、俺もVRラボにログインしますね」
「うん、体の事は私達に任せて無理しないように頑張って」
「ありがとうございます、行ってきます」
そしてVRラボにログインした八幡は、熱心に研究に打ち込んでいた宗盛に声を掛けた。
「宗盛さん、ユイがメッセージを送っても返事が無いって心配してましたよ」
「八幡君お帰り、ごめんごめん、
いいデータがとれたんで、ついログアウトを先延ばしにしちゃってたよ」
「とりあえず一度落ちて休んできて下さい、食事とかもしないとですしね」
「分かった、それじゃあ僕は一度落ちるよ、
後はメリダ君とクロービス君の指示に従ってくれ」
「分かりました」
宗盛はそう言って落ちていき、残された八幡は、二人にこう声を掛けた。
「さて、俺も二人から回ってくるデータのチェックを再開するか、
落ちる前はやっと一万通りのデータのチェックが終わったところだったから、残りは……」
「今の残りはあと五万だよ、兄貴」
そんな八幡に、クロービスがそう声を掛けてきた。
「ふふん、たった五万か、もっとデータを回してくれていいぞ」
そう強がる八幡に、メリダが笑いながら言った。
「あは、後で泣き言を言わないでね兄貴」
「なぁに、泣きたくなったら泣きながら作業を続けるさ」
「もしそうなったら私が兄貴の頭を胸に抱いて慰めてあげるね」
その言い方がランっぽいと感じた八幡は、やれやれという風に肩を竦めた。
「メリダもランとの付き合いが一番長かったせいか、あいつの影響を受けてるよなぁ」
「ランの事は関係ない、私がそうしたいからするの!」
「分かった分かった、その時は頼むわ、まあ俺は泣かないけどな」
それを聞いたメリダはクロービスにこう命令した。
「クロービス、今すぐ兄貴を泣かせなさい」
「いきなり無茶ぶりしないでよ!」
「ははっ、それじゃあ作業を始めよう」
たまにこんな感じで息抜きをしつつも、VRラボにおいて、
八幡と宗盛、そして今仮眠中の紅莉栖のデスマーチは続く。