「ねぇ、今の八幡って、この中だと誰が一番好みなの?」
そのエルザの問いはこの場にいる者達の誰もが聞きたかった事であり、
明日奈に遠慮して聞けなかった事でもあった。
明日奈はスッと目を細めてエルザを睨んだが、
エルザはそんな明日奈にあっけらかんとこう話しかけた。
「だって明日奈も興味あるでしょ?」
「それは確かに無いと言えば嘘になるけど……」
「ならこの機会に聞いておくべきなんじゃないかな?
だって八幡の記憶が戻っちゃったら、多分絶対に答えてくれない類の質問だと思うよ?」
「た、確かにそうかもだけど、でも、でも!」
「別にこの答え次第でその人と八幡が付き合う事になるとかはありえないんだし、
ここは一つ後学の為にって事で答えてもらってもいいんじゃないかな?」
「後学の為……確かにその答え次第でより八幡君好みの女に近付ける可能性が……
そ、そっか、仕方ないなぁ、その代わり八幡君は、
何故その人が一番好みなのか、ちゃんと理由まで説明するんだよ?」
その明日奈の言葉を受け、その場にいた女性陣は、期待のこもった目で八幡を見つめた。
「いやいや、多少なりとも俺の事を知ってるって言うなら、
俺がそんな質問に答えるはずがないって分かってるんじゃないか?」
「た、確かに……」
「完全な記憶喪失って訳じゃないんだし、確かに基本的な性格は変わってないよね……」
「ど、どうする?」
「さすがに無理強いする訳にも……」
「この時の八幡に、何か弱点って無いの?」
「それを一番知ってそうなのは………」
「小町じゃないのか?」
ここまでずっと女性陣のやり取りを傍観していた和人がそう言い、
その瞬間に八幡の目の色が変わった。
「おいこら親友、何故うちの小町を呼び捨てにしてやがる!
まさか小町と付き合ってるんじゃないだろうな?」
「いやいや、ただの友達だから」
「うちの小町の何が不満だって言うんだ!」
「俺にどうしろと………」
和人は途方にくれ、コンソールを呼び出してこっそりと何か操作を始めた。
「シスコン……」
「シスコンだ……」
「今はそうでもないのに、この頃はここまでシスコンだったんだ……」
「いやいや、俺は全然シスコンとかじゃないからな」
『ゴミいちゃん、本当にそういうの、やめてくれるかな?』
その時どこからか小町の声がした。和人が連絡を取り、事情を話したのである。
「こ、小町?」
『せっかくみんなが話してくれてるんだから、
聞かれた事にはちゃんと答えないと駄目だよ?』
「い、いや、しかしその内容がだな……」
『何がキッカケになるか分からないんだから、いいから質問には全部正直に答えなさい』
「お、おう、分かった………」
和人の機転は大成功のようで、八幡はエルザの質問に答える為に女性陣の顔を見回した。
女性陣の間に緊張が走る。
「えっと、じゃあ………」
そして八幡は、しばらく悩んだ後にクルスを指差した。
「マックスさんで」
「よっしゃあああああああああ!」
その瞬間に、クルスが普段は決して見せない興奮した様子で雄叫びを上げた。
「う、嘘………」
「八幡ってそうなんだ……」
「やっぱり胸?胸なの!?」
「それなら私でもいいじゃないですか!」
「あ、優里奈、やっぱりそこには自信があるんだ」
やはりというか明日奈は選ばれず、一同は八幡がクルスを選んだ理由を知りたがった。
「なぁ八幡、何を基準に選んだんだ?」
「そんなの簡単だ、俺を養ってくれて、専業主夫にさせてくれそうな人を選んだ」
「「「「「「「あ~!」」」」」」」
一同がそういう事かと声を上げる中、クルスは興奮した様子で八幡にこうまくし立てた。
「任せて下さい八幡様、私、八幡様を超養いますよ!
そのかわり家に帰った時は、私を超甘やかして下さい!
そして夜は超激しく愛し合いましょう!」
「よ、夜?」
八幡はここまで正面きって好意を示されたのは生まれて初めての経験だった為、
どう反応していいのか分からず、思わずこう答えていた。
「ふ、ふつつか者ですが宜しくお願いします」
「「「ちょっと待ったあ!」」」
そこに突っ込みを入れた者が三人いた、詩乃、藍子、エルザである。
明日奈は口をあんぐりと開けたまま固まっている。
「それだけで相手を判断するのはどうかと思うわ」
「他にも色々な要素があるでしょう?」
「それにほら、私、私も八幡を超養えるよ!」
「た、確かにそう言われると……」
八幡はエルザのその言葉に考え込んだ。
「それにほら、多分この中で私が一番エロいよ!
八幡のアブノーマルな要求に、全部応えられるからね!」
「………いや、それは別に大事な要素じゃないからね」
「今答えるまでに間があった!」
「う………」
八幡は、エルザ相手に一瞬色々と妄想してしまったのは確かだった為、言葉に詰まった。
「八幡様、私の方が、エルザよりも全然脱いだら凄いですよ!」
「い、いや、それはまあ……」
「それなら私だって負けてません!
むしろ私の方が全体的にふっくらしているから抱き心地がいいと思います!」
「私も私も!」
クルスに続き、負けじと優里奈と藍子もそうアピールし、
八幡は三人をじっと見つめ、顔を赤くした。
「待ちなさい、自分で自分のいい部分をアピールするんじゃ意味がないわ、
ここは第三者に色々な項目を提示してもらって、それに合う人を選んでもらわないと」
そこで詩乃がそう介入してきた、肉体的な不利を悟ったのだろう。
「それなら和人さんにお願いしましょう!」
「え、お、俺?」
女性陣の剣幕に恐れをなし、少し離れた場所に移動していた和人は、
仕方ないといった感じで色々な項目を八幡に提示する事にした。
「え~とそれじゃあ、一番家事が上手そうな人は?」
「………櫛稲田さんかマックスさん」
「一番気が合って、一緒にいても飽きなさそうな人は?」
「う~ん………朝田さんか、まあ神崎さんと紺野………じゃあ分からないか、藍子さん」
「一番母性本能を刺激してくる人は?」
「いや、俺男なんだけど………えっと、木綿季さんか櫛稲田さん」
「一緒にいて一番安心出来そうな人は?」
「雰囲気的には櫛稲田さんかな………あ、あれ、他にも何か、
凄く背の高い子が一瞬頭の中に浮かんだんだが……」
「まさかの香蓮!?」
「絶対そうだ」
「香蓮、恐ろしい子………」
ここでまさかの香蓮指名である。
「一番ツンデレだと思う人」
「何だそれ、そんなの朝田さんしかいないだろ、ああ、でも藍子さんもそんな感じに見える。
あ、いや、待て待て、また一瞬誰か知らない人の顔が浮かんだ気がする、
ええと、眼鏡をかけて長髪で、その、胸が大きい感じの理系っぽい子」
「理央だ………」
「理央ね………」
「理央、恐ろしい子………」
そしてまさかの理央指名であった。
ここまで明日奈の指名はまったく無く、質問の度に、明日奈の額に青筋が浮かんでいった。
「それじゃあ………」
「もういいよ和人君」
「ヒッ………」
そこでようやく明日奈が動き出した。和人がその様子を見て悲鳴を上げる。
他の者達も少しやりすぎたと思ったのか、ビクッとして一歩後ろに下がった。
そして明日奈は八幡の方に歩き出し、八幡の手をガッと掴んだ。
「八幡君?」
「な、ななな何かすみません、別にわざと結城さんを避けてたとかじゃないんですが、
結果的にそうなってしまったというか何というか………」
「ふふっ、ふふふふふ、もういいの。頭で考えるからこうなったんだろうしね」
「あ、頭で?」
「うん、やっぱりこういうのは体全体で思い出してもらわないと駄目だよね」
明日奈はクスクスと笑いながら、妖しい目付きで八幡をじっと見つめた。
「そ、それは一体どういう……」
八幡は逃げ出す事も出来ずにドギマギしていたが、
そんな八幡を明日奈はぐいっと引き寄せ、掴んでいた八幡の手を自分の胸に押し当て、
ズキュウウウウウン、という効果音が聞こえるような勢いで、いきなり八幡の唇を奪った。
キスをした、などという生易しいものではなく、文字通り奪ったのである。
「「「「「「「うわぁ………」」」」」」」
「いや、ちょっ………あっ………」
八幡は一瞬明日奈の唇が離れた瞬間にそう戸惑いの声を上げたが、
明日奈は再び八幡の唇を奪い、更に舌を入れてきた。
「「「「「「「うわあぁあぁぁ………」」」」」」」
和人はその光景に手で顔を隠し、優里奈と木綿季は同じように顔を隠しながらも、
指の隙間からこっそりその光景をガン見していた。
藍子とエルザはやや興奮した様子でハァハァしており、
クルスと詩乃は羨ましそうにその光景をじっと見つめていた。
それからしばらく二人の行為は続き、やがて八幡の手がだらりと下がった。
そして全員の顔が真っ赤に染まった頃、明日奈はやっと八幡を解放した。
「八幡君、どう?何か思い出した?」
だが八幡は何も答えない。どうやら完全に脳がオーバーヒートしているらしく、
八幡はぐったりしているように見えたが、その直後に八幡の目がぐるんとし、
いきなり八幡が立ち上がった。
「藍子、木綿季!」
「ぐぬぬ、この期に及んでまだ私以外の名前を……」
だがその後の八幡の行動は迅速だった。
八幡は二人に駆け寄ると、泣きながら二人の手を握ったのであった。
「お前達、無事か?無事だよな?薬は完成したんだろ?もう投与は済んだのか?」
その言葉で一同は、八幡が記憶を取り戻した事を知った。
明日奈の力技が勝利した瞬間であった。