ログアウトした八幡を迎えたのは、真っ赤な顔をした紅莉栖と、
ぷんぷんと怒っているダル、それに笑いながら転げまわっている朱乃と、
無表情で何を考えているか分からない萌郁、何ともいえない微妙な顔をしてる茉莉であった。
そこに同じくログアウトしてきたクルスとエルザが合流する。
「お前ら………さては全部見てたな?」
「ええ、見てましたが何か?」
その言葉に八幡はハッとした顔をした。
「紅莉栖、本当にすまん」
「は?いきなり何?」
「俺がツンデレの名前を挙げた時、お前の名前を出さなかった事、深く反省している」
「そ、そんな謝罪を受ける謂れは無いわ、この馬鹿者!」
八幡はどうやら完全復活したようで、その態度はいつも以上に、
憎らしい程余裕たっぷりである。
おそらく藍子と木綿季を救ったという高揚感も、その余裕の一因であるのだろう。
「あと理事長、笑いすぎです」
「あはははは、だってまさかああくるなんて、予想もしてなかったんだもの!」
その二人の会話にクルスとエルザが横から加わった。
「本当ですよ八幡様、やりすぎです!」
「明日奈が完全に堕天してたよね」
「何だその中二病テイスト溢れる表現は、あっ、てかエルザ、てめえ、今度覚えてろよ」
「えっ、やだ、そんないきなりなんて、らめぇ!」
「らめぇ、じゃねえよ!くそっ、どうすればこいつにお仕置き出来るんだ」
「八幡様、考えるだけ無駄です」
「確かにそうだな、よし、放置だ放置」
「放置プレイね!」
エルザはそう言ってビクンビクンし始めたが、八幡はそのまま放置する事にした。
「八幡君って本当に変態よね」
「その評価には断固として抗議しますよ茉莉さん、
俺はあくまで被害者に過ぎません、変態はこいつだけです。
あ、いや、もう一人いました、先生こいつです」
八幡はそう言ってダルを指差した。
「変態じゃない、変態紳士だお!そしてリア充爆発しろ!」
その言葉で八幡は、ダルの不機嫌の理由を察した。
「何だダル、そんな事で怒ってたのか?」
「当たり前だお!激おこぷんぷん丸だお!」
「また懐かしい表現を……だがな、ダル」
「フン、何?」
八幡はそのままダルに顔を近付け、その耳元でそっと囁いた。
「阿万音由季さんとの交際がどの程度進展してるか、俺が知らないとでも思ったのか?」
その瞬間にダルの顔から汗が滝のように流れ出した。
「八幡ごめん、よく考えたら別に怒るような事じゃないよね、うんうん」
「分かってくれればそれでいい」
八幡はニコニコしながらダルの肩をぽんぽんと叩いた。
どうやら八幡の持つ諜報網は、中々優秀なようだ。
とはいえその諜報網を一人でかなり担っているその当人は、
何も言わずに無表情のままじっと八幡を見つめ続けていた。
そして八幡は、まだ一言も喋っていない萌郁の方に目を向け、首を傾げた。
「おい萌郁、何でそんなに拗ねてるんだ?」
「えっ?」
「桐生氏、今拗ねてるん?」
「ぜ、全然わかりませんでした、八幡様」
「ん、そうか?ほら、この辺りとか、いかにも私拗ねてますって感じじゃないかよ」
八幡はそう言って、萌郁のほっぺたをツンツンした。
だがそれで萌郁の表情が変わる事は無かった………ように見える。
「ぜ、全然分からないわよ……」
「むしろ何で分かるん?」
「謎ね………」
そう悩む一同の前で、八幡は萌郁に笑顔で話しかけた。
「ん、俺に何か頼みがあるのか?何だ?」
どうやら全く変わったように見えなかった萌郁の表情に、実は変化があったらしい。
「だから何で分かるの!?」
「ずっと見てたけど、どこも変わったように見えなかったお!」
「本当に謎だわ………」
だがその八幡の言葉を証明するかのように、萌郁が小さくうんうんと頷き、
それで一同は、八幡の言葉が正しかった事を理解した。
「……………今回も含めて私は護衛を頑張った、あと諜報も」
「おう、お前にはいつも助けられてるぞ、もうお前無しの生活は考えられないな」
これは八幡の珍しいリップサービスである、余程機嫌がいいのであろう。
「………まだ」
「ん?」
「………まだ私はマンションに自分の場所を確保していない、そろそろいいと思う」
「ん~?」
八幡はその言葉に首を傾げ、やがて何の事か思い付いたのか、ガシガシと頭をかいた。
「………ああ、そういえばそうだったか」
「あっ、そう言われてみると………」
「確かにまだだった気がするね」
「私ですら何回かお泊りしてるのに」
クルス、エルザ、そして茉莉がそう言い、萌郁は再びうんうんと頷いた。
そして萌郁がポケットに手を突っ込んだのを見て、嫌な予感がした八幡は、
慌てて萌郁の腕をガシッと掴んで止めた。
「ま、待て、何をする気だ?」
「………聖布の奉納」
「ちょっ、萌郁さん、ここで!?」
その言葉に慌てたのは八幡よりもむしろ紅莉栖であった。その顔は真っ赤に染まっており、
相変わらず紅莉栖がそういった事に免疫が無いのがよく分かる。
これでよくキョーマと付き合っているなと八幡はある意味感心した。
「落ち着け紅莉栖、いいか萌郁、そういうのは俺じゃなく明日奈に話すといい、
それにここにいる紅莉栖も茉莉さんもそういう事はしていない、
だからお前も無理にその、奉納をする必要はないんだ」
「………私とこの二人は違う」
「な、何が違うんだ?」
「私は奉納を望んでいる、だから問題ない」
「い、いや、しかしだな」
「いいじゃないですか八幡様」
「そうだよ、本人の意思は尊重しなきゃ!」
その時クルスとエルザが萌郁のフォローに入った。
二人は萌郁のもう片方の手を握り、仲間だ仲間だととても嬉しそうにはしゃぎ始めた。
萌郁はそんな二人の行動に最初はきょとんとしていたが、
やがて彼女にしては珍しく、一同に分かるように微笑んだ。
「ほら、凄く嬉しそうだよ、八幡!」
「ああもう、分かった分かった、日本に帰ったら好きにすればいい」
「うん、好きにする」
萌郁は珍しくハッキリした声で即答し、八幡は深いため息をついた。
「はぁ………まったく物好きな」
そして八幡は大きなアクビをした。
数時間前まで寝ていたはずなのだが、やはり疲れがたまっているのだろう。
「よし、それじゃあ俺はちょっと寝させてもらうわ、
まだちょっと頭がぼ~っとしてる気がするんでな」
「そうね、そうした方がいいと思う。その間に私達は、日本に帰る準備を進めておくわ」
「悪いな、それじゃあ頼むわ」
「うん、任せて頂戴」
そして八幡は自分の部屋に戻り、一同は帰国の為の準備を始めた。
一方明日奈、藍子、木綿季、優里奈、詩乃、和人の六人は、
明日奈を除いた五人による話し合いの結果、
藍子と木綿季はまだ病み上がり……というか、その段階にも全然達していない為、
大人しく体を休める事となり、この場所からはログアウトした。
今頃は自宅(といってもVR空間のだが)で寝ている事であろう。
和人はヴァルハラのみんなに今回の事を報告するといって、ALOへと向かった。
詩乃はこの後ソレイユにバイトに行くらしい。
ついでにみんなに八幡の記憶が戻った事を報告するつもりのようだ。
そしてこの場には、優里奈だけが残る事となった。
「明日奈さん、今日は頑張りましたね」
そんな優里奈は今、明日奈に膝枕をしながら、優しくその頭を撫でているところであった。
これではどちらが親的立場なのか分からない。
「う、う~ん………八幡君、もう朝?」
その時明日奈がだらしなく緩んだ顔でそう呟き、優里奈は思わずクスッと笑った。
「心配しなくても、誰も明日奈さんから八幡さんを取ったりしませんよ」
「う、うん、それはそう思う………」
明日奈から突然ハッキリとした返事が聞こえてきた為、
優里奈は驚いて明日奈の顔を覗きこんだ。
、
「明日奈さん、戻ってきましたか?」
「うん、何かね、八幡君が夢の中に出てきて、
『朝だぞ、起きろ』って私のほっぺたをペチペチ叩いてくれたの。
もっともその後に、俺は今から寝るけどなって言ってたけど」
「ふふっ、まあこっちは今は夕方ですけど、あっちは明け方ですもんね」
「ふふっ、そうだね」
そして明日奈は体を起こし、最初に優里奈に謝った。
「ごめんね優里奈ちゃん、迷惑をかけちゃったね」
「いいえそんな、迷惑だなんて思ってませんから!」
「それに色々と恥ずかしい姿を見せちゃったし……」
明日奈はそう言って顔を赤くし、優里奈も明日奈がした事を思い出したのか、
明日奈と同じように赤面した。
「ま、まあ結果オーライですよ、とにかく八幡さんの記憶が戻って良かったです!」
「それはうん、本当に良かったね」
「です!」
「他の人達は?」
「先に落ちました」
「そっか、それじゃあ私達もログアウトしよっか」
「ですね!」
そして二人はログアウトし、一瞬後に、八幡のマンションのベッドで目を覚ました。
どうやら二人は一緒にログインしたらしく、二人の手は固く握られた状態であった。
その理由は簡単である、二人は八幡の記憶が本当に戻るのか、お互いに不安だったのだ。
「ふう、それじゃあ少し休んだ後にご飯にしよっか」
「そうですね、時間的にも丁度いいですしね」
二人はそのまま再びベッドに横たわり、雑談を始めた。
「八幡君って、昔はああだったんだね」
「ちょっとだけ話は聞いてましたけど、本当に今とは別人でしたね」
「優里奈ちゃんの名前が何度も呼ばれてたよね、
昔の八幡君の好みって、優里奈ちゃんみたいな子なのかな?」
「そ、それはそういう項目ばっかりだったからですって!」
「でも分かる気がするんだよね、八幡君、活発そうな子は苦手っぽかったじゃない?
多分私みたいな子は、本来は苦手なんだと思う」
「あれ、でも私、明日奈さんにそこまで活発ってイメージは無いですけど。
どちらかというと落ち着いてるっていうか……」
その言葉に明日奈は首を傾げた。
「………あれ?た、確かに本来の私はそんなに活発じゃないかもだ」
「ですよね、明日奈さんは凄く社交的で、誰とでも仲良くしてくれますけど、
実はそこまで活発って感じではないですよね」
「確かに私、そこはかおりと全然違うかも」
「八幡さんは多分、明日奈さんの社交性の凄さを感じ取って、
活発な人だと勘違いしたんじゃないですかね?」
「ああ、そうかも……昔の八幡君って、女の子に親しげに話しかけられると、
ついまごまごしちゃったって言ってたもん」
二人はそんな八幡の姿をイメージし、微笑ましく感じた。
「でもやっぱり一度くらいは私の名前を呼んで欲しかったなぁ」
「え?でも最初に八幡さん、教えられてないのに明日奈さんの名前を呼んだじゃないですか」
「えっ?あ!た、確かにそうだったかも」
「それって明日奈さんの事をちゃんと覚えてたって事じゃないですか。
それに八幡さんは明言しませんでしたけど、詩乃ちゃんが言ったように、
かおりさんと明日奈さんの姿が重なったってのも大きいと思いますよ」
「確かに声もよく似てるねって言われるけどね、うん、それある!何それウケる!」
「うわ、本当に似てますね」
「でしょ?」
二人は顔を見合わせ、ぷっと噴き出した。
「それにしても八幡君、本当に専業主夫になりたかったんだね……」
「今でもたまに、働きたくないでござるって言ってますからね」
「まあそうなったら私が……ううん、私達が養ってあげればいいだけだけどね」
「そうですね、クルスさんじゃないですけど、八幡様を超養いましょう!
そして家に帰った時は、超甘やかしてもらいましょう!」
「で、夜は二人一緒にかわいがってもらう?」
「そこまで言ってません!」
明日奈は普段は言わないような冗談を、平気で優里奈に言った。
会話内容も三人一緒に暮らしていくのが前提となっているのは間違いなく、
その事から明日奈にとっての優里奈が他の女性陣よりも近しい存在だという事がよく分かる。
ハッキリと同じ括りに入っているのは、陽乃と小町とユイくらいのものであろう。
その他でこの括りに入っている可能性があるのは、
八幡の被保護者的存在の、藍子と木綿季、そして意外だろうが、詩乃とフェイリスである。
その全員が同じ十七歳なのは、実に興味深い。
「八幡君、いつ帰ってくるのかな?」
「近いうちに帰ってきそうですよね」
「それまで私達がちゃんと留守を守らないとね」
「あっ、八幡さんも落ちる時にそう言ってましたよ」
「えっ、そうなの?それじゃあしっかりお留守番しよっか」
「はい!」
そして二人は同じタイミングで立ち上がると、仲良くキッチンへと向かった。
まるで姉妹のように実に仲がいい事である。
こうして八幡の記憶喪失騒動は完全に終結した。後は八幡達の帰国を待つばかりである。
後四話くらいでこの章も終わる予定です、
・世話になった人に挨拶して回る八幡、そして帰国
・日本で挨拶周り、アイ&ユウとの再会
・雪乃、結衣、沙希、優美子、葉山、戸部、姫菜、いろはとの飲み会(記憶喪失に絡んだ話)
・エピローグ(内容は秘密ですが、どこかに伏線はあります)
内容は重なったり分かれたりするかもですが、基本この流れとなります!