ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、人物紹介をいくつか削除したせいで、しおりがエラーになってしまうそうです、本当に申し訳ありませんorz


第880話 エピローグ~朝の学校にて

「おいじじい、用事があるって言うから来てやったぞ、有り難く思うならさっさと成仏しろ」

「いきなり何じゃお主は!

ガブリエルの経過が見たいと言って勝手に来たのはお主じゃろうが!」

 

 それから二週間後、八幡は眠りの森を訪れていた。

何故通常の病院ではなく、ガブリエルが眠りの森に入院する事になったかというと、

これは単純に、ガブリエルに藍子と木綿季の相手をしてもらう為であった。

リハビリを一緒に行ったりネイティブの英語に触れさせてもらったり、

戦闘技術を教えてもらったりと、二人のみならず、スリーピング・ナイツの者達にとっても、

ガブリエルとの交流はとても貴重な体験になったはずである。

 

「で、ガブリエル達はどこだ?」

「ふん、こっちじゃこっち」

 

 清盛はぶつくさ言いながらも八幡を案内する為に歩き出した。

だがその顔はとても嬉しそうであり、遠くでそれを見ていた経子は苦笑した。

 

「まったくお父さんったら、絶対に私達よりも八幡君の方が好きよね、

まあ仕方ないか、結城病院のトップとして基本ずっと孤独だったお父さんにとって、

年は凄く離れてるけど、初めて出来た対等の友人みたいなものだものね」

 

 経子はそう言いながら、隣にいた知盛の方を見た。

今日は知盛も、ガブリエルの手術を担当した者として眠りの森に顔を出していたのだった。

 

「まあいいじゃないか、八幡君と知り合って以来、

親父が俺達に何も言ってこなくなったんだからさ」

「それは助かるけど、まったく変われば変わるものよねぇ、

あのお父さんが弟子まで持ってゲームに興じてるんだから」

「老い先短い身なんだから好きにさせてあげようよ」

 

 経子は知盛のその言葉に微妙そうな顔をした。

 

「………本当に老い先短いのかしらね」

「………どうだろう、絶対に百以上まで生きそうだ」

 

 二人はそう言いながら、再び作業へと戻った。

その頃八幡と清盛はガブリエルの病室に到着しており、八幡はその扉をノックした。

 

「お~いガブリエル、俺だ、入っていいか?」

「八幡かい?どうぞ、入ってくれ」

「おう、それじゃ遠慮なく」

 

 そして八幡は扉を開け、部屋の中に一歩を踏み入れた瞬間に手を広げ、

左右から突進してきた藍子と木綿季を受け止めた。

 

「おっとお前ら、気配でバレバレだったぞ」

「うわっ、バレてた!」

「もう、ちょっとは驚いてよ!」

「修行が足りんな、ガブリエルに勉強を見てもらってたのか?」

 

 八幡は、ガブリエルのベッドの横に置かれたテーブルに、

英語が書かれたノートが二冊置いてあるのを見ながら言った。

 

「うん!勉強は大事だからね!」

「そうかそうか、えらいぞユウ」

「他のみんなも一緒よ」

『兄貴だ!』

『兄貴、こっちこっち!』

 

 見ると横にあるモニターに、スリーピング・ナイツの面々の顔が映し出されていた。

おそらく全員で、ガブリエル先生の講義を受けていたのだろう。

 

「悪いなガブリエル、腕の調子はもういいのか?」

「ああ、リハビリは順調さ。もう痛みはまったく無いし、今週中には退院出来るだろうね」

「そうか、それは良かった」

「八幡、私達も、もうこんなに歩けるようになったのよ!」

「リハビリ頑張ったの!」

 

 二人はそう言いながら、八幡の周りを走り回った。

二年以上寝たきりだった八幡とは違い、メディキュボイドに入っていたのは数ヶ月だった為、

そこまで筋力が落ちていなかったのが幸いしたのだろう。

二人の回復は早く、あれだけ痩せていた体も今はふっくらとしてきており、

町中に普通にいるような、少し痩せ気味な女子高生達と変わらない程度の体型となっていた。

先日は似合わなかった例の服も、それに伴ってとても似合うようになっている。

 

「そうかそうか、でもまあまだ無茶な走り方とかはするなよ、危ないからな」

 

 八幡はそう言いながら二人の頭を撫でた。

 

「それじゃあガブリエル、こっちで仕事を始める日程を組んでおくから、

また今度迎えに来るわ。寮にはいつでも入れるようにしておいたからな」

「すまないね、恩に着るよ」

「仕事が始まる前の週末の日曜は空けておくから、そこでどこかに観光にでも行こうぜ」

「あっ、ずるい八幡、私達は?」

「ボク達も連れてってよ!」

「う~ん、まあいいか、ただしお前達も週明けから忙しくなるのは分かってるんだろうな?」

「うん、もちろんだよ!」

「ちゃんと準備はしておくから!」

「ならいいか、それじゃあ日曜の朝に迎えに来るわ」

「やった~!」

「楽しみだね、先生」

「ああ、そうだね」

 

 その週末の日曜日、八幡は三人にあちこちへと連れ回される事となった。

ちなみに何故か明日奈も一緒だったようである。

 

 

 

 そして迎えた週明けの月曜日、八幡は学校に行く前にソレイユに寄った。

 

「ほいハー坊、それじゃあこれナ」

「こんな短い期間でよく完成したな」

「なぁに、うちの天才様が頑張ってくれたからナ」

「悪いな紅莉栖、いつもありがとうな」

「………何かその素直さが気持ち悪いんだけど」

「お前は俺を何だと思ってるんだ、ここで何かおかしな事を言うなんて、

そんなのただの頭のおかしい人じゃないかよ」

「まあいいわ、それじゃあ起動の仕方を教えるわね」

「悪い、頼むわ」

 

 

 

 その一時間後、帰還者用学校の教室で、

和人と珪子はのんびりと雑談をしながら他の三人を待っていた。

 

「それじゃあ明日奈はもうすっかり元通りなのか?」

「はい、もう大丈夫みたいです」

「そうか、先週くらいまでは、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいだったからな」

 

 どうやら明日奈のもじもじは、あれから二週間続いたようだ。

八幡も明日奈に気を遣っていつも以上に優しく接していたのが逆効果だったのかもしれない。 

だが日曜に明日奈と里香と三人で遊びに行った時には普通だった為、

それで珪子はもう大丈夫だと判断したようだ。

 

「土曜の夜に、八幡さんと一緒にお出かけしたのが大きかったみたいですね」

「そっか、まあそれなら良かったよ」

「ちなみにお泊りだったらしいですけど、突っ込んじゃ駄目ですよ?」

「え………マジで?」

「はい、マジです」

 

 その瞬間に和人の顔が真っ赤になり、珪子は思わず和人に突っ込んだ。

 

「和人さんももういい年なんですから、いい加減そのくらいは平気になって下さいよ……」

「わ、分かってるよ!」

「はぁ、里香さんの苦労が思いやられますね………」

 

 そこに当の明日奈と里香が教室に入ってきた。

 

「和人、珪子、おはよう!」

「あ、おはようございます!」

「あれ、八幡は一緒じゃないのか?」

「うん、何かソレイユに寄ってから来るって言ってたよ、

この時間にいないって事は、少し遅れるのかもね」

「あれ、でも駐車場にキットが停まってるぞ」

「え?」

 

 その和人の言葉に明日奈達三人は、慌てて窓の外を覗きこんだ。

確かに遠くにキットが停まっているのが見え、三人は思わずそちらに手を振った。

 

「いやいや、何でキットに手を振ってるんだよ」

「あ、いや、何となく?」

「あ、見て、あれ!」

 

 その時里香が驚いたような声を上げた。キットがそのガルウィングを上下させていたのだ。

 

「あ、気付いてくれたみたい」

「マジかよ!凄えなキット!」

「和人も手を振ってみなよ」

「おお、お~いキット!」

 

 和人は窓から身を乗り出しながらキットに手を振り、

キットもそれに答えてぶんぶんとガルウィングを振った。

 

「ノリノリね、キット」

「いやぁ、何か嬉しいよな!」

「うん!それにしても八幡君、どこに行っちゃったんだろ?」

「また理事長室とかで捕まってるんじゃないか?」

「あ、そうかも」

 

 だが八幡が不在のまま担任が来てしまい、四人は大人しく自分の机に戻った。

 

「皆さん、それじゃあ今日は、初めに転校生を紹介します」

「「「「「「「「「「ええっ?」」」」」」」」」」

 

 その言葉に教室にいた全員が驚きの声を上げた。

そもそもここは帰還者用学校である、普通に考えて、転校生がいるはずがないのだ。

 

「ど、どういう事?」

「あっ、もしかしてアイとユウかも?」

「ああ~、その可能性は高いな、あの理事長なら特例とかで認めそうだし」

「確かに今から普通の学校に通うよりも、

ここに来た方が八幡さんや私達もいるし、いいかもですね」

 

 そして前の入り口から一人の人物が中に入ってきた。それは………八幡であった。

 

「あ、あれ?」

「八幡君!?」

「て、転校生は!?」

 

 そんな一同の疑問を目で制し、八幡は教卓の上に、二体の人形を置いた。

 

「え?」

「あ、あれは?」

 

 その瞬間に、その二体の人形が立ち上がり、ぴょこぴょこと手を振った。

 

「あっ、明日奈!」

「和人君に里香に珪子も!」

「「「「ええええええええ?」」」」

 

 四人は自分達の名前が呼ばれたせいで驚いた声を上げた。

だがその声はとても聞き覚えがある声であった。

 

「アイ?ユウ?」

 

 その問いかけに答えたのは八幡であった。

 

「あ~、みんな、転校生を紹介する。こちらが紺野藍子」

「紺野藍子です、こんな姿でごめんなさい、宜しくね」

「そしてこちらが紺野木綿季だ」

「よ、よろしくお願いします、ボクは紺野木綿季です!」

 

 その二体の人形は自力で立ち上がり、そう挨拶をした。

 

「ちなみにこれが二人の顔な」

 

 そう言って八幡は、二人の顔写真を取り出して見せてきた。

 

「本当はこの二人が転校してくるのは二週間後の予定だったんだが、

思ったより早くにこの人形が完成したんでな、予定を早めて今日から編入させる事にした。

この二人は少し前までずっと入院していたんだが、

先日やっと病気が治って今リハビリ中なんだ。

だからこういった形での参加になるが、その辺りは受け入れてもらえると助かる。

ちなみにこの二人は天涯孤独の身の上だから、保護者は俺だ。

みんな、くれぐれも宜しく頼む」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

  

 その瞬間に、明日奈達以外の全員が、同時にそう唱和した。

さすがは八幡のお膝下である、その行動にはまったく乱れが無い。

 

「それじゃあ先生、こいつらの面倒は俺と明日奈がみますので、宜しくお願いします」

「二人とも、これから宜しくね。二人が自分の体で学校に来れる日を楽しみにしているよ」

「ありがとうございます先生、宜しくお願いします!」

「ご迷惑をおかけします、今後とも宜しくお願いします!」

 

 こうしてはちまんくん二号機『あいこちゃん』と、三号機『ゆうきちゃん』が、

八幡のクラスメートに加わる事になった。

二人はアミュスフィアを使ってこの二体を操作しており、ノートの代わりに電子媒体を使い、

その内容は眠りの森に直接送られる仕様となっている。

食事中はモニター使用に切り替え、それを見ながら眠りの森で食事をしつつ、

みんなとお喋りも出来るようになっていた。

二人の机は無いが、八幡と明日奈の机の上が定位置とされ、

午後にはリハビリもある為に、当面は午前中からお昼までの参加となるが、

こうして二人はかつてからの望みを叶え、無事に学校へと通えるようになったのである。

これから二人の人生は、希望に溢れた物になるのであろう。

その二人の隣には、これからもずっと、八幡とその仲間達が寄り添っていく事になる。

 

                    

                            マザーズ・ロザリオ編 了




これでマザーズ・ロザリオ編は終了となります、次の章は、数日後の再開となります。
ここまで880話、残りを考えても絶対に1000話を超えてしまいそうな勢いですが、
もうしばらくお付き合い頂けたらと思います。

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