ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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タイトルがネタバレ!


第884話 文化祭~フェイリス編

 ここで時間は少し遡る。時期は秋口、八幡達が渡米する一ヶ月前くらいの事である。

八幡は毎日忙しい思いをしていたが、

そんな八幡にとある日の夕方、ソレイユで詩乃が話しかけてきた。

 

「ハイ八幡、随分と忙しそうね」

「おう、詩乃は今日もバイトか?精が出るな」

「うん、もうすぐ忙しくなっちゃうから、今のうちにって思って」

「何かあるのか?」

「学校で文化祭がね」

「ああ、そういえばそんな時期か」

 

 八幡はそう言いながら、自身の高校時代の事を思い出し、胃の辺りを押さえた。

 

「どうしたの?」

「いや、昔の事を思い出して、ちょっと胃が痛くなってな」

「へぇ、苦い思い出って奴?」

「まあそんな感じだ」

 

 八幡は苦笑しながら詩乃にそう答えた。

 

「今日はこの後も仕事?」

「ああ、今日は結構遅くまでかかりそうだ、って言っても九時くらいまでだろうけどな」

「その後はマンションに泊まるの?」

「そうだな、そうなると思う」

「分かった、それじゃあ待ってるわね」

「は?おい、それはどういう………」

 

 だが詩乃は、そんな八幡をスルーして走り去っていった。

 

「あの野郎、マンションに来るつもりか?まあ優里奈もいるだろうし、別に構わないか」

 

 八幡はそう考えつつ仕事に戻り、

予定通り夜九時くらいにあがってマンションへと向かった。

 

「お~い優里奈、もしかして詩乃もいるか?」

「あっ、八幡さん、お帰りなさい」

「もちろんいるわよ八幡」

「八幡、お帰りニャ」

 

 そんな八幡を出迎えたのは、優里奈と詩乃、そしてまさかのフェイリスであった。

 

「な、何でフェイリスがいる!?」

「私がいるのは変かニャ?」

「い、いや、珍しいと思ってな」

「実はそれには理由があるのニャ」

「八幡さん、とりあえず今お茶を入れますから、楽な格好に着替えてきて下さいね」

「お、おう、そうさせてもらうわ」

 

 八幡はフェイリスが言う理由と言うのが気になったが、

とりあえず優里奈に勧められた通り、先に着替える事にした。

 

「正直嫌な予感しかしないが………」

 

 八幡はそう考えながらも、ここで逃げ出すと後で何を言われるのか分からない為、

大人しく三人の前に出た。

 

「ふう………で?」

「実は八幡にちょっとした頼みがあるのニャ」

「頼み?」

「実は私達三人とも、もうすぐそれぞれの学校の文化祭があるのよね」

「文化祭?ああ、そんな時期か。って三人って事は、優里奈もか」

「それに八幡さんにも来て欲しいな、なんて………駄目、ですか?」

 

(良かったぁ、無茶振りが来ないで本当に良かったぁ)

 

 八幡はその三人の申し出に心から安堵した。

 

「いや、そのくらいならまったく問題ない、それじゃあお邪魔させてもらう事にする」

「やった!」

「まあ俺は優里奈の親代わりだし、問題はないさ」

「良かった、これでABCにドヤされなくて済むわ」

「ABCって……いや、確かにそう呼び始めたのは俺だけどよ」

「ありがとニャ、しっかりおもてなしするのニャ!」

「フェイリスはメイド喫茶でもやるのか?」

「うちの学校でそういうのが許されるはずがないのニャ」

「ああ、まあ言われてみればそうだな」

 

 この三人の中では、フェイリスが通う金糸雀学園が、ぶっちぎりのお嬢様学校であった。

 

「で、その文化祭はいつなんだ?」

「いきなりでごめんニャ、うちが一番早くて三日後なのニャ」

「私は四日後です」

「うちは一週間後ね」

「分かった、まあ大丈夫だろ、姉さんにもあまり根をつめないようにって言われてるしな、

息抜きのつもりで気楽に行かせてもらうわ」

 

 八幡は三人を安心させるようにそう言い、こうして文化祭をハシゴする事となった。

 

「それじゃあ八幡、これが招待状ニャ」

「おおう、さすがはお嬢様学校」

 

 そしてフェイリスが、笑顔で八幡に招待状を手渡してきた。

 

「これがあれば学校の敷地に入れるのニャ」

「あっ、これ、フェイリスの名前入りじゃない」

「誰から渡されたかちゃんと分かるようになってるのニャ、

学校側にも誰に渡したか報告するようになってて、二重にチェックする感じかニャ」

「さすがというか……うちなんか誰でもフリーパスですよ」

「もちろんうちもよ」

「それが普通だぞ、フェイリスの所が普通じゃないだけだからな」

 

 そして八幡を囲み、三人は自分の所が何をするのか説明を始めた。

 

「優里奈のところはコスプレ喫茶店……だと!?お父さんはそんなのは許しません!」

「そんな露出の多い格好はしませんって、ただの巫女服ですよ」

「……それっていつもと同じなんじゃ」

 

 アスカ・エンパイアにおいて、確かに優里奈はそのままではないが巫女服を着用している。

 

「だから抵抗が少なかったんですよね、本当は断ろうとしてたんですけど」

「ま、まさか胸が強調されたデザインじゃないだろうな!?」

「大丈夫ですよ、まったく普通の巫女服です」

「そうか、それならいい」

 

 その時八幡は、背後から殺気のこもった視線を感じ、慌てて振り向いた。

八幡の背後では、詩乃とフェイリスが、

自らの胸に手を当てながらじとっとした視線をこちらに向けていた。

 

「この親バカ」

「どうしてそこで真っ先に胸の事を聞くのニャ?殴っていいかニャ?」

「ち、違う、アスカ・エンパイアでの格好を知ってるからこその発言だ、

お前達とうちの優里奈を比べようとかのおかしな意図は無い」

「うちの……?」

「やっぱり親バカニャ」

「というか、私達も保護者は八幡のはずだけど?」

「そ、そうだな、うちの詩乃にうちのフェイリス」

 

 八幡はとってつけたようにそう言った。喋れば喋る程、墓穴を掘るスタイルである。

 

「とりあえず言ってみました、みたいな感じだったわよね」

「そうだニャそうだニャ!ひどいニャ八幡!」

「そう言われても……」

 

(はぁ、難しい年頃だよなぁ……)

 

 八幡はそう思いつつ、全力で話題を逸らそうと、二人に尋ねた。

 

「で、フェイリスと詩乃は何をするんだ?」

「うちはたこ焼き屋ニャ」

「フェ、フェイリスのイメージと合わねえ……」

「逆に庶民的なのが、うちの生徒には珍しくてウケるのニャ」

「いやいや、たこ焼きが珍しいってどんな世界だよ」

「うちはメイド喫茶よ」

「そっちがメイドだったか……」

 

 八幡は絶対に詩乃はツンデレメイドなんだろうなと思いつつも、口に出してはこう言った。

 

「まあ俺が行った時は、ちゃんと普通のメイドとして対応してくれよ」

「当たり前じゃない、それくらい余裕よ」

 

(こいつに普通のメイドなんて出来るのか?)

 

 八幡はそう思いつつも、余計な事を言うとまた詩乃に怒られると思い、黙っていた。

 

「それじゃあまあ、当日を楽しみにさせてもらうわ」

 

 それからしばらく話した後、寝室と居間で、四人はそれぞれ別れて眠りについた。

 

 

 

 そして迎えた三日後、八幡はキットに乗り、金糸雀学園へと到着した。

さすがは天下の金糸雀学園である、周りには高級車が並んでいた。

 

「さてと、それじゃあフェイリスを探すとしますかね」

 

 そして八幡はフェイリスに言われた通り、入り口で招待状を見せた。

 

「金糸雀学園にようこそ、招待状を拝見致しますね」

「あ、はい、お願いします」

 

 八幡はやや気圧されつつも、懐から招待状を取り出して相手に見せた。

 

「お預かりします、これはええと………えっ?留未穂さんの招待状?」

「あ、はい、私は比企谷と申しますが、何かおかしなとこでもありましたか?」

「あ、いえ、これは失礼しました、珍しかったのでつい……」

 

 その女生徒の話によると、

去年も何回か、生徒の関係者が学園を訪れる機会があったらしいのだが、

いまだかつて、そこに留未穂が誰かを招待した事は無かったらしい。

著名人や資産家の娘ばかりのこの学園で、親の遺産を自分で運用し、

学園に多額の寄付までしている留未穂はやはり格上の存在らしく、

その留未穂がいつ誰を招くかは、常に生徒達の間で話題になっていたようなのだ。

 

「あれ、俺は進路相談で少し前にここに来てるんですが……」

「えっ?じゃ、じゃああなたが噂の王子様ですの!?」

「お、王子?」

 

(ここでもかよ!)

 

 八幡はその聞きなれたフレーズに天を仰いだ。

 

「あっ、はい、少し前に留未穂さんが、素敵な殿方と腕を組んで、

校内を歩いてらしたという噂が広まったもので」

 

 更にその女生徒が言うには、学内でその姿を写真に撮るような不心得者はいないらしく、

どんな人物だったか、噂だけが一人歩きしていた状態であるらしい。

 

「そ、そうですか……まあ俺は、一応留未穂の保護者はやってますが、

王子なんて柄じゃない、ただの一般人ですからね」

「そんなの関係ありません、留未穂さんが選んだ人だというのが大事なんです!」

「あっ、はい……」

 

(何なんだこの学園は、俺の知ってる高校と違いすぎんぞ!)

 

 八幡は改めてそう思いつつも、その女生徒に笑顔で言った。

 

「それじゃあ今日は楽しませてもらいますね」

「あっ、はい、どうぞお入り下さい」

 

(ふう、先がおもいやられるな)

 

 そう思いつつ八幡は、フェイリスに教えられた通りに学園のメインストリートを進み、

美しい毛筆で、『たこ焼き』と書かれた屋台にたどり着いた。

 

「さてと留未穂は………お、いたいた、お~い留未穂、来てやったぞ」

 

 その言葉に店員達は特に大げさな反応はしなかったが、

他の女生徒達が剣呑な視線を向けてきた。

おそらくそういった口調で話す者は、基本ここにはいないのだろう。

 

『何だこいつ、留未穂さんに馴れ馴れしくしやがって』

 

 人の視線に敏感な八幡は、その視線からそんな意味を感じ取っていた。

 

(おお、怖い怖い)

 

 だがその視線は、次の瞬間に全て霧散した。

 

「あっ!八幡君、待ってて、今そっちに行くから!」

 

 割烹着を着て下を向きながら、美しい姿勢で一生懸命たこ焼きを作っていた留未穂が、

その言葉で顔を上げ、満面の笑顔でそう言ったからである。

 

「えっ?留未穂さんがあんな喋り方を……」

「あの殿方はどなたかしら」

「あっ、もしかして、噂の留未穂さんの王子様なのでは?」

 

 そんなひそひそ声が聞こえてきたが、八幡は当然スルーである。

 

「いやいや、仕事中なんだろ?それが落ち着くまで少し離れたところで見させてもらうわ。

とりあえずたこ焼きを一つ頼む」

「ごめんね、それじゃあこれ、出来たてだから!」

「おう、頑張ってな」

 

 八幡は留未穂からたこ焼きを受け取ると、

近くのベンチに腰掛けて、留未穂の働きぶりを眺めていた。

 

(メイクイーンでのあいつとこっちのあいつ、どっちが本当のあいつなんだろうなぁ)

 

 そんな事を考えているうちに、留未穂が仕事を終え、こちらへと駆け寄ってきた。

 

「八幡君、お待たせ!」

「おう、頑張って働いてたな、えらいぞ」

「えへへ」

 

 そう微笑む留未穂に、八幡はたこ焼きを一つ、楊枝に刺して差し出してきた。

 

「ほれ、お前も食うか?」

 

 留未穂はその言葉に顔を赤くして一瞬固まり、周りの者達もそれを見て固まった。

だが留未穂は意を決したようにそのまま口を開け、

八幡が差し出してきたたこ焼きを、楊枝ごとパクッとくわえ込んだ。

 

「まだ熱いから気をつけろよ」

「っ………あ、あひゅい………」

「ははっ、やっぱりお前、猫舌なのな」

「もう、八幡君の意地悪」

 

 そんな二人を周りの者達は、顔を赤くしながら遠巻きに眺めていた。

 

「ん、何だ?」

「八幡君、ここにはそういう事をする人は普通いないんだよ?」

「そういう事って、今の『あ~ん』みたいな事か?」

「う、うん、その『あ~ん』ね」

「でも楊枝は一本しか無いし、さすがに手掴みってのはなぁ」

「そういう事じゃないんだけどなぁ」

 

 留未穂はそう言って微笑んだ。

 

「屋台の方はもういいのか?」

「うん、事前にお休みをもらっておいたから!」

「そうか、それならまあいいんだが」

「その代わり、ちょっとお願いがあるの」

「ん、何だ?」

「私とあの子達と一緒に、写真を撮って欲しいの」

「写真を?ああ、まあ学園祭なんだし、そういう事もあるか」

 

 八幡は先ほどの受付の女生徒と話した事を思い出しながらそう言った。

要はさっきのは、勝手に撮影する者はいないという事なのだろう。

 

「別に構わないぞ、それじゃあぱぱっと撮っちまおうぜ」

「うん、ありがとう!」

 

 そして留未穂はクラスメート達を招き寄せ、そこで撮影会が始まった。

最初に留未穂が八幡の腕に自分の腕を絡め、二人で撮影した後、

他の女生徒達が、おずおずと留未穂にお願いをし、

八幡はその全員と二人きりで写真を撮る事になり、最後に全員で撮影をする事になった。

 

「ごめんね、枚数が多くて」

「いや、これがいい記念になるってならいいじゃないか」

「うん、ありがとう」

 

 そして撮影が終わった後、留未穂のクラスメート達は、

とても嬉しそうにお辞儀をして屋台へと戻っていった。

 

「さて、それじゃあ行こっ!」

「おう、そうだな」

 

 それから二人は一緒に校内を周り、

どこへ行っても周りの女生徒達から羨ましそうな視線を向けられた。

他にも若い男は何人もいたが、明らかに場違いだと思われるような者は当然おらず、

そのほとんどが、いかにも良家のお坊ちゃんのような雰囲気を出しており、

八幡の持つ、ある意味精悍さを感じさせるような者は一人もいなかった。

さすがにその中には女生徒に囲まれている者も何人か存在したが、

二人がその横を通ると、その囲んでいた女生徒達も、つい八幡に目を奪われていた。

八幡の存在感は、やはり凄まじいものがあるようだ。

だがその視線も、当然全てが好意的なものだとは限らない。

 

「あら、秋葉さんじゃない、随分と楽しそうですわね」

「あっ、幸原さん、ご機嫌よう」

 

 その滅多に聞かない珍しい苗字に、八幡は目を見張った。

 

「幸原?もしかして幸原って……」

「うん、幸原議員の娘さん、名前はりりすだよ」

「なるほど」

「うちの学校って男女交際が禁止なの、だからそれで難癖をつけにきたんだと思う」

「そうなのか?それにしちゃさっきのクラスメート達は……」

「みんなには事前に説明しておいたからね」

 

 留未穂は八幡にそう囁くと、その女生徒、幸原りりすに向かって言った。

 

「幸原さん、紹介するわ。こちらは比企谷さん、私の保護者をやってくれている方なの」

「えっ?そ、そうでしたの?」

 

 りりすはそう言われて表情を一変させた。

どうやら留未穂の推測は当たっていたのだろう、りりすは明らかに困惑していた。

そんなリリスを畳み掛けるように、八幡はその右手を差し出した。

 

「初めまして、比企谷です。お母様を先日パーティーでお見かけしましたよ」

 

 陽乃に引っ張りまわされてそういったパーティーに出席する事が多い八幡は、

遠めに幸原議員を見た事があった為、そう言った。

だが嫌いだから近くには行かなかったなどとはもちろん言えない。

 

「えっ、うちの母をですの?そ、そうでしたの……」

 

 その事から、りりすは八幡が、政財界にも顔が利くのだと認識し、完全に態度を改めた。

この勝負、完全に八幡と留未穂の勝利である。

りりすは完全に勢いを失い、八幡と握手をした後、よろよろと立ち去っていった。

 

「あいつとは仲が悪いのか?」

「う~ん、まあ良くはないかな、私はどちらかというと与党寄りだからね」

「ああ、そういう事か、まあそうだよな」

 

 八幡は、お嬢様学校の中でもそういった争いがあるのかと、

労わるような表情で留未穂の方を見た。

 

「ん?何?」

 

 留未穂はそんな八幡に笑顔を向けた。しんどい事もあるだろうに、

留未穂はそれでも八幡の前では気丈さを失う事は無かった。

 

「なぁ、さっき受付の人に聞いたけど、

この学校って、年に何回か、保護者が来る機会があるんだろ?」

「え?あ、う、うん」

「俺がお前の保護者になったのは最近だけど、

それでも今日までに何回かは、そういった機会があったんじゃないのか?」

「え、えっと、まあそうかな……」

「俺、そういうのに呼ばれてないよな?」

「そ、それは……」

 

 留未穂は八幡にそう言われてもじもじした。そんな留未穂の頭を八幡は優しく撫でた。

 

「何だ、遠慮してたのか?子供が大人にそんな気を遣うんじゃねえよ、

これからは俺に来て欲しい時はちゃんと言うんだぞ?」

「い、いいの?」

「ああ、もちろんだ、俺はお前の保護者だからな」

「う、うん、ありがとう八幡!」

 

 こうしてこの日の文化祭訪問は、留未穂にとっては忘れられない思い出の日となった。

この日以降、八幡は何度かこの金糸雀学園を訪れる事になる。




第888話は、多分あいこちゃんとゆうきちゃんが盛り上げてくれる予定です。
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