ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第888話 あいこちゃんの性なる戦い

「さて、今日はエルザのコンサート、その後は体育か、

はぁ、体育ってのはさすがにちょっとだるいな」

 

 八幡がそう言った瞬間に、あいこちゃんとゆうきちゃんは頷き合った。

ついにかねてからの計画を実行する時が来たからである。

 

「八幡!来たよ!」

 

 丁度その時エルザが教室へと侵入してきた。

ホームルーム中だというのに何ともフリーダムな事である。

担任はこの事を予想しており、苦笑しつつもエルザの挨拶を認めてくれた。

 

「おはようございます、神崎エルザでっす!みんな、今日は私の歌を存分に楽しんでね!」

 

 実はエルザの挨拶が行われるのは毎回この教室だけである。

これは八幡と同じクラスに所属している事に対する特権の一つになりつつあった。

 

「で、八幡、あいこちゃんとゆうきちゃんにサインをあげる約束をしてるから、

このまま連れてってもいいかな?コンサート中は舞台脇の特等席で見てもらうつもりだし」

「俺達の席は正面の舞台近くだし、別に………」

「おお、特等席か、いいんじゃないか?二人ともエルザの熱心なファンらしいしな!」

 

 何か言いかけた八幡に被せるように和人がそう言い、八幡は一瞬黙った後、

あいこちゃんとゆうきちゃんを見ながらこう言った。

 

「お前達、そうしてもらうか?」

「う、うん!」

「ごめんね八幡、せっかくだしエルザの言葉に甘えるわ」

「そうか分かった、好きにしてくれ、今日の主役はお前だからな」

 

 こうしてあいこちゃんとゆうきちゃんはエルザと共に去っていった。

これが計画の始まりであった。

 

 

 

 キッカケは些細な事だった。授業中に黒板がよく見えずに、

身を乗り出したあいこちゃんが、

うっかりバランスを崩して八幡の机から落ちそうになったのだ。

八幡は慌ててあいこちゃんをキャッチし、何事もなかったかのように机に戻したのだが、

その時あいこちゃんは思わず声をあげそうになり、必死にそれを我慢した。

その理由は簡単である。八幡があいこちゃんを掬い上げた時、

八幡の手があいこちゃんの胸を鷲掴みにする格好になり、

そのせいであいこちゃんが、思わず嬌声を上げそうになったと、まあそんな訳である。

 

(はぁ、はぁ………危なかった、ついビクンってなってしまったわ、

うん、今のはまさかのラッキーパイタッチ!しかも八幡は、その事に気付いてない!)

 

 その後、あいこちゃんは授業中に三回ほど机から落ちそうになり、

最後には業を煮やした八幡に頭から拳骨をくらう事となった。

 

「っ………」

「お前はさっきから何度落ちれば気が済むんだ、動かすのは手だけにしろ。

しまいにゃ机にヒモで縛り付けるからな」

「うぅ………ご、ごめんなさい」

 

 そう謝りつつも、内心では縛られるのも一度経験してみたいわ、

などと考えていた藍子である。

だがやはりそれは、生身の体でなければ体験する意味があまり無い、

そう考えた藍子は、他に何かこういったラッキースケベは起こせないかと、

その日から毎日考え続けていた。

 

「う~ん、ユウ、何かいいアイデアは無い?」

「移動の時に、八幡の手の平の上に座るとかすれば、

おしりをずっと撫でられてる事にならない?」

「う~ん、それもアリだけど、あの乱暴に胸を揉まれる感覚を一度体験しちゃうと、

どうもそれじゃあ物足りなく感じてしまうのよ。

それにいつもの移動方法も気に入ってるのよね」

「あ、ボクも確かに明日奈にああやって運ばれるの、好き」

 

 木綿季はその藍子の意見に頷きながら、少し考えた後にこう言った。

 

「それなら目先を変えてみるってのはどうかな?」

「目先?何か思いついたの?」

「うん、この前見たマンガに載ってたんだけどさ、

八幡の着替えを覗いてみるってのはどう?」

「なるほど、視覚情報から興奮を得るという事ね」

 

 藍子は真剣にその効果を検討し、その意見の採用を決めた。

 

「いいわ、やってみましょう、もちろんユウも手伝うのよ」

「うん、分かった!」

 

 実に無邪気なようで、邪気に塗れた会話をする双子であった。

 

「とすると、狙うは男子更衣室、ただその一点ね」

 

 こうして藍子は入念な下準備を開始した。

最初に行ったのは、八幡が更衣室を使うスケジュールの確認である。

 

「体育の授業以外に着替える事って無いわよね、そうすると時間割によると、

水曜と金曜のお昼前って事になるわね………」

 

 そして次に行ったのは、現地の視察である。

だがさすがに理由も無く男子更衣室に入る事など不可能だ。

なので藍子は、八幡が男子更衣室の掃除当番になる日をじっと待った。

逸る気持ちを抑えながら、とにかくそのチャンスを待ったのだ。

そしてついにその日が訪れた。

その日の放課後の掃除の時間に、藍子はわざわざあいこちゃんにログインし、

教室に置いてある専用のドールハウスの中でひょこっと立ち上がった。

そして中から鍵を開け、外の様子を伺った。

幸いな事にそこには和人が残っており、今まさに帰ろうとしている最中であった。

 

「あっ、和人君、ちょっといいかしら?」

「あれ、あいこちゃんじゃないか、こんな時間にどうしたんだ?」

「実はちょっと八幡に聞きたい事があって、八幡の所に連れてって欲しいの」

「オーケーオーケー、ええと、今八幡は………今日は確か掃除当番だな、

場所はええと………男子更衣室か、それじゃあ行きますかね」

「うん、ありがとう」

 

 和人は掃除の当番表を見ながらそう言い、藍子はそんな和人にお礼を言った。

そして藍子は和人の頭の上にひょいっと乗せられ、八幡の所へと運ばれた。

ちなみにこれが、先日藍子と木綿季が話していた、お気に入りの移動方法である。

和人の頭の上にぐてっと寝そべるあいこちゃんの姿はとてもかわいく、

すれ違う他の生徒達が皆、あいこちゃんに手を振ってくれた。

あいこちゃんとゆうきちゃんは、今は学園のアイドルなのである。

 

「よぉ八幡、いるか?」

「おう和人、一緒に帰ろうって誘いにでも来てくれたのか?

悪い、まだ掃除が終わらないんだよな」

「あ、いや、実はあいこちゃんが、八幡に聞きたい事があるって言うから連れてきたんだよ」

「ん、そうか、それじゃあ藍子、そこの椅子にでも座って待っててくれ」

 

 こうして和人は、意図しないままに性に餓えたケダモノを、

男子更衣室に引き入れる事となってしまったのである。

 

「それじゃあ俺は先に帰るわ、今日はちょっと里香と約束があるからさ」

「おう、忙しいとこを悪かったな、またな、和人」

「うん、またな八幡」

 

 そして和人が去った後、八幡はホウキがけの手を止めないまま藍子に質問してきた。

 

「で、何について聞きたいんだ?」

「うん、リハビリの事についてちょっとね」

「ああ、なるほどな、でもそれなら明日奈か和人に聞いても良かったんじゃないか?」

「あっ、そういえばそうだったかも、でも明日奈は教室にいなかったのよね」

「ああ、そういえば今日は、ひよりと珪子とお茶しに行くとか言ってたわ」

「という訳で、面倒だと思うけど八幡がお願い」

「別に面倒じゃないさ、そもそも俺はお前達の保護者だからな」

「う、うん、八幡にはいつも感謝してるわ」

 

 そう殊勝そうな演技をしながらも、藍子は獲物を狙う鷹の目で、更衣室内を観察していた。

 

(窓の外………あいこちゃんの運動能力なら不可能じゃないかもしれないけど、

さすがに目立ちすぎるわよね。

カメラを事前にどこかに仕掛ける?ううん確かプライバシー対策で、

そういった物の電波が感知されたらすぐにガードマンが来ちゃうはず。

特にこの学校はそういうのが厳しいのよね。

そうするとやはり、事前に忍びこんで直接撮影するしかない。

その為の機能はあいこちゃんに標準装備されてるから、

手ぶらで侵入すればいいというのはいいわね。後はあそこの通風孔か………)

 

 藍子は通風孔がどこに通じているのか調べたいと思い、じっと機会を待った。

 

「それじゃあちょっとゴミ捨てに行ってくるわ」

「あ、うん、それじゃあここで大人しく待ってるわね」

「悪いな、すぐ戻る」

 

 そして八幡が更衣室から出ていった瞬間にあいこちゃんが動いた。

あいこちゃんは手首を射出し、通風孔の留め金を上手に外すと、

そこに手を引っ掛けてワイヤーを縮め、通風孔の中を覗きこんだ。

 

「サイズはあいこちゃんのサイズなら大丈夫ね、

あ、あれ?思ったよりも短い………左は多分外に通じてて、右は………確か女子更衣室だ」

 

 その通風孔は、まさかのスタンドアローンであり、

男子更衣室に侵入する為には、女子更衣室から入るしかない事が判明した。

 

「どうしよう、男子が着替えている時には、必然的に女子も着替えてるって事に………

さすがにその中を堂々とって訳にもいかないし、なにより明日奈にバレるのはまずいわ」

 

 藍子は完全に手詰まりとなった。だがそんな藍子をエロの神様は見捨てなかった。

その数日後の教室で、クラスメート達の、こんな会話が聞こえてきたからだ。

 

「おい、聞いたか?今度の金曜日に、また神崎エルザがうちの学校に来てくれるらしいぜ」

「この前桜島麻衣が、妹のドカちゃんと一緒に慰問に来てくれたばっかりなのにもうか!」

「ドカちゃん?ああ、スイートバレットの豊浜のどかな」

 

 桜島麻衣の妹である豊浜のどかは、麻衣とは母親が違うが大の仲良し姉妹であり、

先日八幡の伝手で、帰還者用学校に慰問と称して遊びに来てくれていたのである。

 

「うおお、エルザさん、約束を守ってくれたんだな」

「新曲披露だろ、楽しみだなぁ」

「で、いつ来てくれる事になったんだ?」

「今度の金曜らしいぞ、理事長権限で三時間目までの授業は全部無しだと」

「おぉ、さすが理事長、太っ腹だな!」

「これも間接的に八幡さんのおかげだよなぁ」

 

(金曜日!?しかも三限までですって!?おお神よ、あなたの粋なはからいに感謝します)

 

 その日の夜、藍子は早速ACSを使ってエルザにコンタクトをとった。

 

『エルザ、ちょっとお話があるの、八幡に関する事よ』

 

 エルザの反応は凄まじく早かった、すぐに電話がかかってきたのである。

最後の文言が利いたのは間違いないだろう。

 

『はいは~い、どうしたの?まだ悪だくみ?』

 

 このいきなりのエルザの言葉から分かるように、

エルザにとっての藍子は、自分と同じ種類の人間という認識であった。

くくりとしては、悪友、もしくは共犯者という事になる。

 

「うん、悪だくみ」

『さっすが藍子、いいねいいね、で、どんな?』

「ほら、私ってば今、あいこちゃんを使って学校に通ってるじゃない」

『うん、そだねぇ』

「でね、エルザが来てくれる今度の金曜なんだけど、

コンサートの後って私達のクラスは体育の授業なの。

そこで私、八幡の着替えを覗こうと思うんだよね』

『何それ詳しく』

「ちょっと長くなるけどいい?」

『いいよいいよ、全然いいよ!』

 

 そして藍子は先日机から落ちそうになった事から順番にエルザに説明した。

 

「実はこの前授業中に、うっかり八幡の机から落ちそうになってさ」

『ああ~、あいこちゃんのサイズならありそう』

「で、その時は八幡に助けてもらったんだけど、

その時八幡の手が、偶然あいこちゃんの胸をこれでもかってくらい揉む感じになってさ、

その感触がダイレクトに私に来て、正直気持ち良かった………」

 

 その説明を聞いたエルザは呆然と呟いた。

 

『そ、そんな手があったんだ………』

「目から鱗でしょ?しかも八幡はその事に気付いてないんだよ」

『わお、合法パイタッチとか、何その神って感じだよぉ!』

 

 エルザ、大興奮である。

 

「でね、もっとあいこちゃんを有効活用出来ないかって思って、

思いついたのが今回の覗きなの」

『なるほどなるほど、で、私は何をすればいい?』

「話が早い!エルザってばやっぱり最高!」

『ちゃんと報酬はもらうけどね』

「もちろんよ、とりあえず報酬はそれを撮影した動画と、

あいこちゃんの一日使用権でどう?」

『何よそれ、最高かよ!』

「契約成立ね、とりあえずあいこちゃんのサイズなら、

潜入さえ出来れば撮影自体は比較的簡単だと思うの。

そもそもデフォルトで、視界同調の録画機能が付いてる訳だし」

『ああ~、あそこの更衣室って盗撮関連への対応が凄く厳しいもんね、

それならいける、いけるよ!』

 

 帰還者用学校は、以前マスコミからちょっかいをかけられまくった為、

そういった方面への対策はかなり厳しいのである。

 

「それで手伝って欲しいのはね、コンサートの前に、

約束のサインをあげるとか言って、更衣室に連れ出して欲しいの。

そこの通風孔が、男子更衣室に繋がる唯一の侵入経路なの」

『そこにを放り込めばいいのね』

「うん、まあそんな感じかな、後はこっちで何とかするから」

『コンサート中にいなくなって、八幡に怪しまれない?』

「そこは共犯者を確保して何とかするつもり」

『当てはあるの?』

「うん、仕込みはしてあるわ」

『そっかぁ、オッケーオッケー、それじゃあ当日までに、計画を詰めていきましょう』

「とりあえず明日、協力者に接触するわ、なので明日また連絡するね」

『了解!み・な・ぎ・っ・て・きたああああああああ!』

「ありがとう、この計画は絶対に成功させましょう」

 

 こうして藍子とエルザの間に同盟関係が成立する事となった。

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