ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第892話 大恋愛の先輩

 アルヴヘイム攻略団が結成された日の夜、八幡の携帯にスプリンガーから着信があった。

 

「よぉ八幡君、今日、例の集まりに行ってきたぜ、

まあ守秘義務を課せられたから、あまり詳しい事は言えないんだけどさ」

「へぇ、守秘義務とか意外としっかりしてますね、どんな感じでした?」

「う~ん、詳しくは言えないが、基本ルールは意外とまともだったな、

君から七つの大罪がどういう連中か聞いてたから正直驚いたよ」

「仕切りはもちろん七つの大罪なんですよね?へぇ、それは意外ですね」

 

 詳しい内容は聞けなかったが、

スプリンガーの口からまともという言葉が出るとは思っていなかったらしく、

八幡は感心したような声でそう言った。

 

「でもこれは俺の勘なんだが、多分あいつら、

活動が上手くいかなくなったらすぐにボロを出して、幹事ギルドの座を追われると思うな」

「何か気になる事でも?」

「リーダーのルシパー君は、多分誰かに指示されて俺達の所に来たんだと思う。

俺達への好意はそれなりに感じられたが、自分で考えて行動した結果じゃないから、

そのうち俺達に色々言われるのが嫌になって、ボロを出す事になると思うね」

「俺も聞きましたよ、あいつらが『姉御』とか言ってるの。

やっぱり黒幕がいるのは確かみたいですね。

ルシパーはまあ、感情を優先させるタイプに見えましたから、そうなる可能性が高そうです」

「まあそうは言っても、本当にルールがしっかりしてるから、

多分あいつらが何かやらかしても攻略団自体は残ると思うよ、君もその方がいいだろ?」

「はい、健全なライバルの存在は、やっぱり必要不可欠ですからね」

 

 八幡は我が意を得たりとばかりにそう即答した。

 

「俺達もそうなるように介入はするよ。

でもまあ活動が軌道に乗ったらおさらばだろうけどね」

 

 スプリンガーのその見切りの早さに苦笑しつつ、八幡はこう提案した。

 

「ははっ、そうなったらヴァルハラに入りますか?うちとしては歓迎しますけど」

「そうだね、うちの嫁も本当はそっちが望みだったっぽいし、

その時はそうさせてもらうよ。まあでもしばらくは本気で敵同士になるから、

かちあったらうちの嫁の相手を宜しくね」

「分かりました、俺も本気でやります」

 

 ここまでの会話から読み取れるのは、どうやらスプリンガーは、

話し合いの場での七つの大罪の言葉を頭から信じた訳ではないらしいという事である。

 

「それじゃあまたうちに遊びに来てよ、今度は噂の美人の彼女と一緒にね」

「はい、また機会を見て明日奈と一緒にお伺いしますね」

「それじゃあまたね」

「はい、またです」

 

(俺と境遇が似ているせいか、話し易いんだよなぁ、年上の友達って感じだな)

 

 電話を切った八幡はそう思いつつ、

二日前に初めてスプリンガーとラキアと会った時の事を思い出していた。

 

 

 

 その前の日八幡はマンションに一人で泊まり、ぐっすりと寝ていたのだが、

次の日の朝、優里奈を伴った陽乃の襲撃を受ける事となった。

 

「八幡君、八幡君」

「ん………その声は姉さんか?」

 

 八幡は眠い目を擦りながら起き上がり、その瞬間にその顔がとても柔らかい物に包まれた。

 

「………おい馬鹿姉、脂肪の塊を俺の顔に押し付けるのはやめろ」

「え~?今のは八幡君が自分から押し付けてきたんじゃない」

「いいからさっさとどけろ」

「もう、仕方ないなぁ。どう優里奈ちゃん、ちゃんと見てた?

今のが『ラッキーじゃないスケベ』よ」

「べ、勉強になります!」

 

 横からそんな優里奈の声が聞こえ、八幡はため息をつきながら、大きく伸びをした。

 

「優里奈に変な事を教えるなっての。で、何で俺が今日ここに泊まってるのが分かった?」

「昨日この部屋の明かりがついてたから、優里奈ちゃんに確認しておいたの」

「ふ~ん、要するにたまたまか。ってか姉さんは、会社にでも泊まってたのか?

さすがにこの時間に家から出社はしないだろ?」

「まあそんな感じ。ソファーで寝たからもう胸がこってこって仕方ないのよね、

どこかに私の胸のこりを揉み解してくれる、マッサージの名人の八幡君はいないかしら」

「思いっきり指名してんじゃねえか、

というかさっき顔で揉んでおいたから、もう胸はこってないはずだぞ」

「あら、言うようになったわね」

「いいからさっさと用件を言え」

 

 八幡にそう促された陽乃は、やれやれと肩を竦めながら八幡に言った。

 

「実は今日の放課後に、パーティーに付き合って欲しいの」

「パーティー?俺と姉さんで行くって事は、大事なパーティーか?」

「それもあるんだけど、今回は相手が八幡君をご指名なのよ」

「俺を?俺が知ってる相手か?」

「ううん、先方が言うには、先日の嘉納大臣がいたパーティーの席で八幡君の事を知って、

話しかけようとしたけど忙しそうだったから遠慮したらしくて、

今回もし良ければちょっと話したいんだってさ」

「へぇ、誰がそんな事を?」

「大野財閥の会長の旦那さん。

昨日大野財閥系の病院にメディキュボイドを導入する大口の契約が決まってね、

夜にあちらから招待されたって訳」

 

 八幡は大野財閥の存在は知っていたが、会長については何も知らなかった。

だが今の陽乃の言い方でピンとくるものはあったようだ。

 

「………って事は、会長は奥さんの方で、旦那さんは養子とかそんなパターンか?」

「ピンポーン!二人が出会ったのは小学校六年生の時で、

でも奥さんの方がすぐに渡米する事になって、

その時に旦那さんからおもちゃの指輪をもらった事で、

奥さんが旦那さんの事を好きになったらしいんだけど、

旦那さんはどうもやんちゃな人だったらしくて、

奥さんへの恋心にしばらく気付かないままでね。

で、奥さんが三年後に日本に戻ってきて、二人は中学三年の時に再会したんだけど、

成績に差がありすぎてお互い別の高校に進学する事になって、

それでも機会を見てまめに会ってたらしいんだけど、

そこから紆余曲折を経て、遂に旦那さんが自分の気持ちに気付いて奥さんに告白してね、

で、奥さんの親には内緒で恋愛してたらしいんだけど、

大学卒業を期に奥さんが親の意向を無視して旦那さんの所に行っちゃって、

で、両親と大喧嘩の末に旦那さんとの結婚を認めてもらって、

それでついに二人は結ばれたっていう、大恋愛だったらしいわよ」

「詳しいな、姉さん」

「まぁねぇ」

「でも正直ちょっと感動したわ」

 

 八幡がそう感じたのは、もしSAOの『残された百人事件』が無かったら、

自分と明日奈もそんな感じになってたかもしれないと共感したせいもあるだろう。

そしてその二人に興味が沸いた八幡は、陽乃の申し出を素直に受ける事にした。

 

「分かった、喜んでパーティーに参加させてもらう」

「そう、それじゃあお願いね」 

「でもパーティーで俺の事を知って話しかけようとしたって、何か理由でもあるのか?」

「それは八幡君がソレイユの人間だって知ったからでしょうね、あの二人、ゲーマーだから」

「え、そうなのか?」

「うん、まあ後は会ってのお楽しみね」

「………分かった、姉さんに乗せられるのは癪だが、

実際楽しみだから今回は乗せられてやるわ」

「じゃあ放課後にキットで学校に迎えに行くわね、準備宜しく」

「学校だと!?マジかよ、悪い優里奈、俺の礼服を用意してくれないか?」

「はい、すぐに用意しますね」

 

 優里奈は笑顔で八幡にそう答え、早速準備を始めた。相変わらずの主婦力である。

 

「それじゃあ後でね」

「おう、後でな」

 

 こうして八幡は前回から日をおかず、再びパーティーに出席する事になった。

そして学校に着いてすぐに、八幡は礼服がしわにならないように壁にかけた。

 

「八幡君、それ何?もしかしてまたパーティー?」

「お、鋭いな明日奈、今日は姉さんをエスコートしないといけないんだよ」

「八幡君と姉さんが二人で?って事は、相手はかなりの大物なんだね」

「おう、大野財閥の会長とその旦那さんの誘いらしいぞ」

「「「「大野財閥!?」」」」

 

 その言葉に明日奈のみならず、和人と里香と珪子も反応した。

 

「おいおい、随分とまた有名な名前が出てきたな」

「八幡も大変よねぇ」

「これもしがらみって奴だろ?」

「いずれ明日奈さんも、毎回そういうパーティーに駆り出される日々が………」

「や、やめて!あれって本当に疲れるんだからね!」

 

 どうやら明日奈はまだパーティーの類が苦手のようだ。

明日奈はそのまま愚痴を言い始め、八幡だけがうんうんとそれに頷いていた。

和人達にはまったく分からない世界である為、八幡だけが頷くのはまあ当然と言える。

 

「私達、庶民で良かったですね」

「本当にね」

「俺も庶民だっての」

 

 八幡は口を尖らせて里香と珪子に抗議した。

 

「まあでも今回は実は、結構楽しみにしてるんだよな」

「そうなんですか?」

「おう、実は姉さんからこんな話を聞いてな」

 

 八幡は四人に、今朝聞かされた話を語ってきかせた。

 

「わぁ、何か素敵ですね」

「だよな、俺と明日奈ももしかしたらそうなってたかもしれないな、

なんて思っちまって、感情移入してうるっときちまったよ」

「私と八幡君の恋愛は、別の意味でドラマチックだと思うけどね」

「ドラマチックっていうか、波乱万丈って気もするな」

「八幡と明日奈にとっては大恋愛の先輩だな!」

「おい和人、恥ずかしい事を真顔で言うな」

 

 その時あいこちゃんとゆうきちゃんが、ドールハウスの扉を開けて現れた。

 

「みんな、おはよう!」

「おはよう!」

「おはよう二人とも」

「おはよう、もうそんな時間か、そろそろ先生が来ちまうな」

 

 八幡はあいこちゃんを、そして明日奈がゆうきちゃんを抱え上げ、

自らの机に乗せたその時、入り口から先生が入室してきた。

そしてすぐにホームルームが始まって午前中の授業が進み、

お昼の間にあいこちゃんとゆうきちゃんに朝の話を聞かせて驚かせた後、

午後の授業を経て、あっという間に放課後となった。

 

「さて、急いで着替えないと」

「この光景、前にも見たわよね」

「ああ、優里奈の学校に八幡が行った時な」

「八幡君、気をつけてね」

「おう、しかし会長とその旦那さんってどんな人なんだろうなぁ」

「ふふっ、楽しみだね」

「おう、楽しみだ」

「それじゃあ俺達庶民はカラオケにでも行くか?」

「あ、私、エルザの新曲をフリ付きで覚えたんだよね」

 

 その明日奈の言葉に八幡は、ピタリと動きを止めた。

 

「う………それは俺も見てみたいな」

 

 歌うのは苦手だが、八幡は明日奈が歌っているのを見るのが好きだった。

八幡の周りにいる女性陣もそのほとんどが、

八幡にアピールをする為にそれ系の練習には余念がなく、

見ていてとても楽しい為、八幡は今ではすっかりカラオケ好きとなっていた。

もっともほとんどの場合、聞き専である。

 

「まあ私の歌はまた今度ね、こっちの機会はいつでもある訳だしね」

「まあそうだな、それじゃあ行ってくるわ」

 

 八幡はキットが正門から入ってくるのを目ざとく見付け、そう言った。

 

「うん、行ってらっしゃい」

「土産話を楽しみにしてるわよ」

「期待しててくれ」

 

 そして八幡はキットに乗り込んで陽乃と合流し、パーティー会場へと向かう事となった。




人物紹介に、ラキアとスプリンガーを追加しました。
小説情報のあらすじの一番最後に一文追加しました。
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