「それじゃあそういう事で」
「ええ、チョイスは任せるわ、あと女の子の意見も欲しいから、
誰か適当に見繕って引っ張っていって頂戴」
「分かった、探してみるわ」
そんな会話をしながら八幡は社長室を出た。目指すは開発部である。
「お~いアルゴ、今暇か?」
「今のオレっちが暇に見えるなら、ハー坊は頭をカチ割って死ねばいいんじゃないカ」
アルゴは血走った目でそう言い、八幡は即座に部屋を出た。
「悪い、他を当たるわ」
どうやら年末のバージョンアップに向け、開発部は今、大忙しのようだ。
「受付は………連れていける訳がないな、秘書室は………」
八幡はそう呟きながら秘書室を覗きこんだ。
「あら八幡、何?」
「小猫、お前だけか?」
「ええそうよ」
「そうか、外出するのに誰か連れていきたかったんだが、それならいいわ」
「あら残念、でもさすがに私は動けないわ、ごめんね」
薔薇は本当に残念そうにそう言った。
八幡はそんな薔薇にひらひらと手を振り、次に次世代技術研究部へと向かった。
「こっちはどうかな」
だがそちらもバタバタと慌しさを感じさせた。年末が近いせいもあるのだろう。
「どうすっかなぁ、今日は萌郁もいないしなぁ」
八幡は部屋の前で腕組みしながら悩み始めた。
「何やってるの?」
「おわっ、何だ理央か、お前の方こそ何してるんだ?」
「勉強がひと段落したから飲み物を買いに行ってたの」
「飲み物ならビーカーでコーヒーでも入れればいいだろ」
「そんな物ここにある訳ないでしょ………」
理央はそう言いながら、八幡の目の前でマッ缶を取り出した。
「甘い方が良かったからこれをね」
「おお、やっとお前もマッ缶の良さが分かったか、えらいぞ理央」
「べ、別に八幡の真似をしてる訳じゃ………」
顔を赤くして、聞かれてもいない事をカミングアウトしてしまう理央であった。
「しかし勉強がひと段落か、そうかそうか、それは丁度いい」
「え?な、何が?」
「よいしょっと」
「きゃっ!」
八幡はそんな理央をいきなり肩に担ぎ、部屋の扉を開けて中にいた紅莉栖に声をかけた。
「お~い紅莉栖、こいつ借りてくぞ」
「えっ、八幡?どこに行くの?」
「仕事だ仕事、ちょっと女性の意見って奴が必要になってな」
「そう、別に構わないわよ、理央、行ってらっしゃい」
八幡が理央を肩に担いでいるのを見ても、
もはや目立った反応を示す事はない紅莉栖であった。
「しかしお前、腰が細いよなぁ」
「む、胸ばっかり大きくなりやがってとか思ってるんでしょ」
「何も言ってねえだろ………」
「わ、私だって結構忙しいんだからね」
「そうか、悪かったな、まあ息抜き代わりって事で今日くらい付き合え」
「ま、まあ仕事なんだから別にいいけどさ………」
そう言いながらも理央は内心で喜んでいた。
(これってデート?デートだよね?)
例え八幡がそうは思っていなくとも、理央さえそう思っていればこれはデートなのだ。
理央はそう考え、八幡にどこに行くのか尋ねた。
「仕事って言ってたけど、何の仕事?どこに行くの?」
「ゲーセンだ」
「ゲ、ゲームセンター?」
「おう、今度会社の寮に娯楽室を作る事にしたんでな、
どの筐体を買うか、その視察って感じだな」
「そ、そうなんだ」
そして入り口ホールに到着し、人が急に増えた為、
理央は恥ずかしくなり、八幡の背中をぽかぽかと叩いた。
「ちょっと、みんなが見てるからそろそろ下ろして!」
「やだよ、お前、逃げるかもだし」
「に、逃げない、逃げないから」
「本当か?だが断る!」
「な、何でよ!」
「お前が恥ずかしがってるのを見るのが楽しいからだ」
「こ、このブタ野郎………」
理央は思わずそう言った。咲太、佑真に続き、三人目のブタ野郎が誕生した瞬間である。
(そ、そうだ!)
「スカートの中が見えちゃう、見えちゃうから!」
その理央の必殺の言い訳に、しかし八幡は動じない。
「ん、そうか、それじゃあ俺がちゃんと手で押さえといてやるからな」
「ちょっ………」
そして八幡は理央のスカートを空いていた方の手で押さえた。
八幡の手が理央の太ももをまさぐる形である。
理央はその感触に益々顔を赤くしたが、
周りはそんな二人を生暖かい目で見つめるだけであった。唯一の例外がかおりである。
「八幡、理央ちゃん、随分楽しそうだね」
「よぉ、かおり」
「か、かおりさん、別に楽しくないから助けて!」
「それは私には無理かなぁ。で、どこに行くの?」
「ゲーセンに視察だ」
「そうなんだ、いいなぁ、私も行きたかった………」
「まあさすがに受付の人数は減らせないからな」
「だよね、行ってらっしゃい、気をつけてね」
「ああ、行ってくる」
「か、かおりさ~ん!」
理央の抵抗も空しく、八幡は結局キットの所まで理央をそのまま運び、
理央はやっと解放され、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「も、もうお嫁に行けない………」
それは遠まわしに八幡にアピールしたものだったが、
八幡はそれに気付かず、理央に向かって言った。
「そしたら俺がお前に相応しい相手をちゃんと見つけてやるから大丈夫だ」
そう言われた理央は、八幡の足を思いっきり踏みつけたのであった。
「痛ってぇな、一体何だよ!」
「もういいよ、さっさと行こう」
「お、おう………」
そして二人は若干遠いが、都内でも有数の大きさを誇るゲームセンターへと向かった。
アーケードゲームの経験はほぼ皆無であったが、
それでも理央はとても楽しそうに、八幡と色々なゲームを楽しんでいた。
「お前、こういうの、意外と好きなのか?」
「えっ?あ、うん、ま、まあ嫌いじゃないよ」
理央は別に嘘は言っていない。そこまで好きという訳ではないが、
今やってみて、いくつかのゲームをとても楽しいと思ったのは確かだったし、
何より理央は、そもそもアーケードゲームにそれほど詳しくない為、
微妙だと思ったゲームも、嫌う嫌わないというレベルには達していないのである。
「ふ~ん、それじゃあ次にこういう機会があったら、また理央を誘う事にするわ」
(や、やった、また八幡とデート出来る!)
理央はその事に気を良くし、テンションが上がった為、
益々ゲームが楽しくなり、満面の笑顔で色々なゲームを楽しんでいた。
だがテンションが上がりすぎるのもいい事ばかりではない。
理央は今、下手ではあるが、ダンス系のゲームで楽しそうに遊んでいるのだが、
八幡と一緒のせいで他人の目をまったく意識しておらず、
その胸の揺れが凄い事になっていた。ついでにスカートのめくれも危険であり、
遠くからは見えてはいないが、八幡の位置からだとその下着がチラチラと見えていた。
「り、理央、もう少し抑え目でな」
「え~?別にいいじゃん、楽しいんだから」
「い、いや、その、お前の胸とスカートがちょっと………な」
それで理央は自分の状態に気が付き、慌てて動くのを止めた。
「む、胸はともかく、もしかしてスカートの中、結構見えてた?」
「俺の位置からしか見えてなかったと思うが、ま、まあそうだな」
「何だ、それなら良かった」
(俺だけでも別に良くはないだろ………)
八幡は内心でそう突っ込んだが、理央は何も問題ないという顔で平然としていた。
「あ~、楽しかった」
「そ、そうか、まあそれならいいけどな」
二人はそのままメモをとりながら店内をチェックしていき、
最後に格闘ゲームのコーナーに到着した。
「ここは私には本当に縁が無いなぁ」
「まあ普通そうだよな、お、何か人だかりが出来てるな」
「何だろう、有名人でも来てるのかな?」
「ちょっと見てみるか」
そして二人はそちらに向かい、観客の輪に加わった。
「あ、対戦を見てるんだ」
「凄い盛り上がりだな、プロ同士とかの対戦か?」
「だぁ、勝てねえ!」
そんな中、ちょうど戦いに決着がついたのか、
聞き覚えのある声がそちらから聞こえてきた。
「あ、あれ、今の声………」
八幡は前に進み、そこで先日会ったばかりの顔を見付け、驚いたような声を上げた。
「は、春雄さん?それに晶さん?」
「おお?八幡君じゃないか、こんなところで会うなんて奇遇だな」
「お、お二人こそどうしてここに?」
「この近くで会合があってな、その帰りにちょっとまあ、息抜きにな」
「そういう事ですか、偶然ですね」
「君達はどうしてここに?」
「ええと………」
そんな八幡の袖を晶が引っ張った。
どうやら少し離れたところにあるベンチに行こうと言っているようだ。
「あ、分かりました、それじゃあ話は向こうに行ってからで」
「そうだな、休憩にしようや」
そして四人はベンチに座り、八幡は気を利かせて四人分の飲み物を購入した。
「どうぞ」
「おっ、ありがとな」
「………」
無言ではあったが、晶もとても嬉しそうに八幡に微笑んでくれた。
「えっと、そちらが君の彼女さんかい?」
「あ、いえ、これは双葉理央、俺の部下で未来のうちのホープです」
「こ、これとか言うな………初めまして、双葉理央です」
「で、こちらは大野財閥の会長の晶さんと、えっと………春雄さんの役職て何ですか?」
「会長補佐だな、まあこいつが何でもやっちまうんで、あんまり仕事は無いんだけどな」
「分かりました、会長補佐の春雄さんだ、理央」
「お、お会い出来て光栄です」
そして八幡は、今日ここに来ている理由を二人に説明した。
「え、そうなのか?はぁ、さすが動きが早えなぁ」
春雄は感心したようにそう言い、晶は何か言いたげに八幡の方を見た。
「あっ、はい、もちろん完成したら、お二人もお招きしますね」
八幡は晶にそう言い、晶はニコニコと頷いた。
「驚いた、八幡君、晶の言いたい事が分かるのかい?」
「いえ、でも今の流れだとそれしかないかなって」
「そういう事か、まあ確かにそうだよな」
そして二人は笑い、晶は春雄にだけ頭突きをかました。
「お、俺だけかよ………」
「フン」
晶は当然だというように鼻息を荒くした。
「そうだ、せっかくだから、お薦めのゲームを教えてもらえませんか?
新しいゲームだけじゃなく、古いゲームも揃えようって思ってるんですけど、
そっちの事はいまいちよく分からないんですよね」
「そうか、晶、時間は大丈夫だよな?」
晶はその春雄の言葉に頷いた。
「それじゃあちょっと遠いが、溝の口まで行くか」
「はい、お供します」
「それじゃあ車はっと………」
「あ、もし良かったら俺の車で一緒に行きませんか?」
「いいのか?じゃあそうさせてもらおうか」
そして四人はキットで溝の口へと向かった。