途中でプロットを大幅に変更したので大変でした!
「おいおいおい、凄っげぇな、これって嘉納さんのカットと同じ車かい?」
「こっちがオリジナルですよ、だよな、キット」
『はい、私がオリジナルです、春雄』
「名前もまんまじゃねえか!」
「キットはQUEEN2000の略なんで、微妙に違うんですけどね」
「くぅ、羨ましい………俺達世代じゃ憧れの車じゃねえか」
移動中、助手席には晶が乗る事になった。
というか速攻で助手席に乗り込み、占有してしまったのである。
という訳で今は八幡の後ろに理央が、そして晶の後ろに春雄が乗っていた。
助手席に座った晶は、わくわくした顔でキットと八幡が喋るのを見つめており、
直後にいきなり振り向いて、春雄をじっと見つめた。
「はぁ、マジかよ………」
その視線を受けて春雄は、ため息をつきながら八幡に言った。
「八幡君、晶がこれと同じ車を売ってもらうのは可能かって言ってるんだけど」
「え、まあ多少時間はかかりますが、多分平気ですよ」
八幡がそう言った瞬間に、晶の表情がパッと明るくなった。
「はぁ、分かった分かった、八幡君、今度話を詰めようか」
「分かりました、手配しておきますね」
こうしてキット三号車の開発が電撃的に決定した。
「よし、ここだ」
春雄の案内で到着したのは、古びたゲームセンターだった。
扉には一回五十円と書いており、実にうさんくさい事この上ない。
「ここですか」
「おう、いかにも昭和って感じだろ?」
「ですね」
八幡は苦笑しながら中に入った。そこには八幡ですら見た事がない、
古いアーケードゲームがずらりと並んでおり、八幡はそのレトロ感に目を輝かせた。
「うわ、今のゲームと比べると信じられないくらい簡単そうだね」
「このシンプルさがいいんだよ、
よし、晶さんと春雄さんに教えてもらって色々やってみようぜ」
二人はそう言って、スペースインベーダーやパックマンから始まり、
ファイナルファイトやストリートファイターII、
殿様の野望やタントアールといった様々なゲームをプレイしていった。
「どうだい?昔はこんな感じだったんだぜ」
「最初はこんな感じだったんだ………」
「でも今でも全然遊べますね」
「まあ俺と晶が子供の頃は、さすがにこの辺りがメインだったけどな」
そう言って晶と春雄はファイナルファイトに座り、プレイを始めた。
さすがに二人のゲームの腕は凄まじく、二人はそのままあっさりとクリアし、
八幡と理央は、感動したような声を上げた。
「うわぁ!」
「俺、ゲーセンとかでゲームがクリアされたのを見るのは初めてですよ」
「まだまだ腕は落ちちゃいないな、晶」
「むふぅ」
春雄は何度か死んでいたが、晶は一度も死ぬ事はなく、
更に春雄のフォローまでしているように見えた。
更には見せてもらった他のゲームのプレイでも、晶は凄まじい強さを発揮し、
今二人は、ストリートファイターIIのザンギエフのコサックダンスを目の当たりにしていた。
「何このシュールなエンディング」
「昔のゲームって大体こんな感じなんじゃないか?」
「い、色々凄いね………」
四人は次に、多少新し目なゲームを置いてある店に移動し、
そこで初期の3Dゲームを存分に堪能した。
「初期の頃ってこんな感じだったんだ」
「ポリゴンが随分荒いんだな、ちょっとやってみるか」
八幡と理央が選んだのは、ソウルエッジというゲームであった。
格闘ものよりも、武器を持っていた方が何となく遊び易そうだからという理由である。
「おお、この動き、オリジナル・ソードスキルに出来ねえかな」
「感想がいきなりそれ!?」
「オリジナル・ソードスキル?ああ、この前導入されたとか言ってたっけ」
「はい、でもあれって意外と作るのが大変みたいで、
俺も時間が無くて中々手をつけられてないんですよ」
「へぇ、今度チャレンジしてみるか、なぁ晶」
晶はその言葉に小さく頷いた。
八幡と理央の勝負は当然八幡が勝ち、理央は晶と交代した。
このゲームで晶が持ちキャラにしているのは、どうやらロックという重戦士であるらしい。
(どうやら晶さんはパワータイプのごついキャラが好きみたいだな)
八幡は晶がプレイする姿を見て、そんな感想を抱いていた。
もちろん二人の対戦の結果は八幡がフルボッコで終わっている。
(もしかしてALOでもこんな感じだったりしてな)
そして最後に最新のゲームセンターに行った四人は、
あまり長居する事なくそこを後にする事となった。
「カードに登録だの何だの鬱陶しいのが多いだろ?」
「そうですね、俺も来るのは久々でしたけど、昔はここまでじゃなかったような」
「通信費とかの問題もあるだろうし、やっぱりゲーセンは衰退していく運命なのかねぇ」
「そうとも言いきれないと思いますけど、
今後の店舗数は減少傾向にあるのかもしれませんね」
「まあでもそれなりに人はいるみたいだし、出来るだけ長く残って欲しいもんだよ」
「ですね」
春雄とそんな真面目な話をしながら店を出ようとした八幡は、
店の入り口で、『何が入っているか分かりません』というガチャを見つけた。
「ふ~ん」
八幡は何となくそれを回し、カプセルを開けると、
そこに入っていたのはおもちゃの指輪であった。
「何だこれ、ほれ理央、良かったらやるよ」
「えっ?」
理央はその言葉に目を見開き、その指輪を八幡から奪うように受け取った。
「あ、ありがと」
そう言って理央は、あろうことかその指輪を左手の薬指にはめようとした。
「ちょ、お前、何をしようとしてやがる」
「あっ、ごめん、つい嬉しくて」
そんな八幡の肩を、春雄がポンと叩いた。
「まあ頑張れ、色々とな」
「あ、はい………」
そして次に晶が一歩前に出て、理央が持っている指輪を懐かしそうに見詰めた。
「晶さん、そのおもちゃが気になるんですか?」
「ああ、同じような事が昔あったんだよ。
晶は小学校の時、一度アメリカに渡ってるんだけどよ、
その時俺が、お別れの品だって渡したおもちゃの指輪をずっと大事に持っててくれてな、
実は今でも首にかけてくれてるんだよ、な?晶」
晶はその言葉を受け、首にかけていたネックレスを取り出して二人に見せてきた。
「あっ、本当だ」
「うわぁ、かわいい」
「さすがに劣化してぼろぼろだけどな」
どうやらその指輪は何かでコーティングされているようで、
指輪を絶対に守ろうという晶の努力の跡が感じられた。
そこからは確かに二人の絆が感じられ、理央は自分も晶に習おうと、
今度首に巻く為のチェーンを買いに行こうと心に決めた。
「さて、こんな感じなんだが、参考になったかい?」
「はい、色々な世代のゲームを満遍なく選んで設置しようと思います、
古いゲームからも、絶対に何かいいインスピレーションが沸く事があると思うんで」
「ははっ、その調子でもっと面白いゲームを作ってくれよな」
「はい!」
そして四人が最後に行ったのは、日高商店という小さな酒屋だった。
その入り口には確かに古ぼけたゲーム機が置いてある。
そして晶は車を降り、店の方へと歩いていった。
「ここは?」
「ここは俺達の原点の一つなんだよな、中学校の同級生の家なんだけどよ、
行きつけだった、ゲームが置いてあった駄菓子屋が無くなりそうになった時に、
代わりにここに通ってたんだよ、ここは俺の実家と近いからな」
「へぇ、そうなんですね」
「まあここも一時は経営がヤバそうになったんだけど、
実はこっそりうちの系列店にお酒を納入してもらう事にして、
陰ながら援助したんだよな、あ、これは内緒な」
「内緒って晶さんにですか?」
「いや、その同級生にさ」
「ああ、なるほど」
見ると晶は同い年くらいの女性と話しており、その女性の隣に中学生くらいの子供がいた。
「あの女性が同級生の方ですか?」
「おう、日高小春っていうんだ、ここの店長で、ゲームの腕は晶並みだぞ」
「え、マジですか、凄いですね」
「あれ、店長さんは旦那さんじゃないんですか?」
その時理央が、そう春雄に質問した。
確かに酒屋は力仕事も多いだろうし、そう考えるのが普通だろう。
「いや、日高は独身だぞ、あの子は親戚の子でな、
SAO事件の時に兄を失って、その後両親が事故で亡くなっちまってな」
その春雄の説明に、八幡は思わず呟いた。
「うちの優里奈と同じ境遇ですか………」
「優里奈?誰だい?」
「あ、俺が引き取って育ててる子です、今度紹介しますね」
「へぇ、楽しみにしておくよ」
「それにしてもそんな感じですか、それはこっそり援助したくなりますよね」
「だろ?あの子は高校の時に、俺なんかを好きになってくれた子でな、
晶がいたから結局振る事になっちまったんだが、
晶がむしろ積極的に、その後も交流を続けてるんだよ」
「ライバルがいなくなるのが寂しいんじゃないですか?」
「かもしれないな」
その時小春が春雄に向けて手を振ってきた。
春雄はそれに対し、ぎこちなく手を振り返した。
「春雄さんはやっぱりあそこには行きにくいんですね」
「まあそういうもんだろ?俺は君とは違って繊細なんだ」
「お、俺も繊細ですよ!」
八幡はそう言って春雄に抗議した。
「ははははは、まあ頑張ってな」
「何をですか!?」
「本当に頑張ってよね」
「何でそこで理央が突っ込むかな」
「さあ、何でだろうね」
理央はとぼけたようにそう言い、八幡は肩を竦めた。
「あれ、おい、晶が八幡君を呼んでるぞ」
「え、あ、本当だ、ちょっと行ってきます」
見ると晶が八幡に手招きしており、八幡は車から降りてそちらに向かった。
「晶さん、どうしたんですか?」
「むふぅ」
晶はそう言って、いきなり八幡の背中におぶさった。
「あっ、春雄さん、あれ、いいんですか?」
その光景を車内から見ていた理央は、驚いてそう春雄に尋ねた。
「ん?あ~、あれな、実は俺達には子供がいなくてな、
どうも晶は八幡君の事が自分の息子みたいに思えるらしいんだよ」
「あ、そういう事ですか!」
理央は春雄にそう説明され、その表情を穏やかなものに変えた。
どうやら一瞬晶が新たなライバルになるのかと心配したらしい。
普通に考えればそんな事はある訳がないのだが、恋は盲目という奴だろうか。
「びっくりした、また八幡が年上の女性を落としたのかと思った」
「ああ、確かに八幡君って年上キラーっぽいよなぁ」
「そうなんですよ、社長のお母さんとか、噂だと『美咲』っていうお店の女将さんとか、
もう凄く八幡の事が好きっぽくって大変なんです」
「え、陽乃さんのお母さんって雪ノ下朱乃さんだよな?それに美咲って、まさか銀座の?」
「あ、はい、ミサキさんとは私も知り合いですけど確かにそう言ってましたね」
「マジかよ、あの二人はかなり近寄りがたいオーラを出してたはずだけど、凄えな八幡君」
さすがは大野財閥の会長補佐の春雄である、その二人の事はよく知っているようだ。
「昔から彼はあんな感じなのかい?」
「私は知り合ってからまだ日が浅いんで何ともですけど、
聞いた話だと、SAOから生きて戻ってきた後から、
今みたいにモテるようになったらしいですよ」
「SAO?八幡君はSAOにいたのかい?」
「あれ、これって言っちゃいけなかったのかな、
政財界の一部じゃもう結構有名な話だって認識だったんですけど」
「ああ、そう言えば聞いた事があるかもしれん、
SAOの英雄が、政財界に旋風を起こしつつあるってな」
「あ、多分それです、八幡は本当に凄いんですよ」
「なるほど、それじゃあもしかしたら………」
そう言って春雄は何か考えに沈み、理央は再び八幡達の方を見た。
八幡が晶を背負っているのは変わらないが、
いつの間にか、小春までもが横にいた中学生に背負われている。
「あれ、ちょっと目を離したらおかしな事になってる」
「理央ちゃん、俺達もちょっとあっちに行こうや」
「あっ、はい」
考えが纏まったのか、春雄が顔を上げてそう言った為、
理央も車を降り、八幡達の方へと向かった。