ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第906話 案内役は姫騎士

 ALOに初めてログインした小春と勇人は、現実ではありえない、

幻想的な街の中央に立っていた。

 

「ここがアルンって所?」

「凄いわねぇ、今のゲームはここまで進歩しているのね」

 

 勇人のキャラネームはベルディアと言う。

これは言うまでもなくディアベルを逆にしただけでである。

そして小春のキャラネームはスプリングからとってプリンにしたようだ。

微妙に春雄のスプリンガーに寄せているのは、

ラキアに対する小春なりのアピールなのかもしれない。

 

「ねぇベルディア、私、こんな見た目にしたんだけど、

おばさんが若作りしてるってハチマン君に笑われたりしないかな?」

「ハチマン兄ちゃんがそんな事思う訳ないじゃん、っていうか母さ………」

「プリン」

「………プリンの見た目って、前に見せてもらったプリンの若い頃の写真にそっくりだね」

「ふふん、どう、かわいいでしょ?」

「そ、そうですね」

「何で敬語なのよ!まったくもう、失礼しちゃうわ!」

 

 二人はゲームの中ではお互いを名前で呼び捨てにする事にしたらしい。

間違っても本名を呼んだりしないようにと八幡から念を押されたからである。

 

「でもその見た目だと、

スプリンガーさんやラキアさんに中の人が誰なのかすぐバレちゃいそう」

「それならそれでいいじゃない、

もしラキアがごついキャラを使ってるのなら、私の完全勝利よ!」

「そんな事で対抗心を燃やさなくても………」

 

 そう苦笑するベルディアの外見も、実は現実世界の勇人に酷似していた。

正確に言えば、勇人は兄である直人の外見に寄せているのであるが、

兄弟なのだから、そうなると結局リアルの勇人に似た外見になるのは当然である。

 

「さて、セラフィムさんはどっちから来るのかしらね」

「どうだろう、俺達右も左も分からないしね」

 

 二人はキョロキョロと辺りを見回した。

だがどこにもそれらしき姿は見えず、ただ時間だけが過ぎていく。

 

「待ち合わせ場所、間違ってないよな?」

「ログインしてすぐの広場にいてって言われたんだから大丈夫じゃない?」

「お待たせしました」

 

 その時つい先ほどまでリアルで聞いていた声が近くで聞こえ、

二人はきょろきょろしたが、周囲には誰もいない。

 

「あ、あれ?」

「姉ちゃん?」

「こっちだよ、ベルディア君」

「ど、どこ?」

「上だよ上」

「あっ!」

 

 その言葉で二人は、ALOでは空が飛べるのだという事実に思い当たった。

常識的に待ち合わせた者が空から来るなどという発想が浮かばないのは当然である。

そして二人の前にセラフィムが降り立ち、広場にいた者達は騒然となった。

 

「お、おい、姫騎士イージス様だぞ」

「凄えオーラだ、さすがは序列十五位」

「相変わらず美人だよなぁ………」

「馬鹿野郎、リアルでもそうだとは限らないだろ」

「いや、あの人は絶対美人だろ」

「そうだそうだ!」

「姫騎士様に踏まれたい………」

 

 一部変態が混じっているようだが、そんな周りの声を聞き、

二人はセラフィムが有名人だという事を嫌というほど理解した。

 

「姉ちゃん、格好いい!」

 

 セラフィムが着ているのは、ヴァルハラのタンクの正装であるルッセンフリードであった。

さすがにタンクがヴァルハラ・アクトンのような軽装でいる訳にはいかない為、

ハチマンとナタク、それにクリシュナが設計に関わって完成したその三つの鎧は、

セラフィムが白、ユイユイが赤、アサギが青のものを着用しており、

セラフィムのそれは、白の貴婦人と呼ばれていた。

そして腰にはハイエンド装備である、フォクスライヒバイテが装着されていた。

くるりと丸まった天使の羽のような装飾のついた長剣である。

ちなみにユイユイも同じタイプの武器を所有しており、名をハロ・ガロという。

アサギの鉄扇はバージョンアップを繰り返され、こちらは鉄扇公主と呼ばれている。

 

「本当に素敵よね………」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 そうお礼を言いながら、セラフィムは二人に初心者用の武器と防具を差し出してきた。

 

「本当はもっと性能のいいものをあげたいんだけど、

装備する為のステータスが多分全然足りないと思うから、

とりあえずは経験値を稼いでステータスを上げつつ、空を飛ぶ練習をしましょう」

「姉ちゃんはどんなステータスなの?」

「私はSTR-VITタイプかな、力と耐久力を上げてるの。

ちなみにハチマン様は万能寄りのAGIタイプ、速度重視よ」

「なるほど………どういう風にキャラを育てるか、考えておかないといけないのね」

「はい、一応うちのギルドの裏サイトのアドレスもお教えしますので、

そこを参考にすればいいと思います」

「ありがとう、是非参考にさせてもらうわ」

「俺も参考にさせてもらうよ、姉ちゃん!」

 

 勇人がそう叫んだ瞬間に周囲がどよめいた。

 

「おい、あの初心者、姫騎士様の弟らしいぞ」

「って事は、一緒にいるのは妹か?」

「かもしれないな、今後に注目だな」

 

 そんな声が聞こえたのだろう、セラフィムは二人に移動を提案した。

 

「あっ………と、ここじゃあ人目が多いから、とりあえず街の外に行こっか」

「う、うん!」

「ふふっ、妹、私が妹だってよ」

「プリン、ほら、行くよ!」

 

 そして三人は、そのままアルンの街を出て、

敵がほとんどおらず、基本的に誰も来ない草原へと移動した。

 

「さて、それじゃあ最初に飛び方を教えるね」

 

 二人はセラフィムから丁寧に説明してもらいながら、一生懸命飛ぶ為の訓練をした。

最初はコントローラーを使い、おっかなびっくりだった二人も、

徐々に飛ぶという感覚に慣れてきたのか、随意飛行はまだ無理だが、

フライトシミュレーターを使うような感覚で、それなりに自由に飛べるようになった。

 

「うわぁ、これ、楽しい!」

「まあ飛べるってのがALOの一番の売りだからね」

「慣れたら考えるだけで飛べるのよね?」

「ええ、きっとすぐに出来るようになるので、そうなったらもっと楽しいですよ」

 

 二人はもっと飛ぶ訓練をしたかったのだが、

最初からあまり長時間ログインするのは良くない為、次に戦闘訓練を行う事にした。

 

「それじゃあ私が弱い敵を釣ってきますから、最初は好きに攻撃してみて下さいね」

 

 そう言いながらクルスは飛んでいき、すぐにモンスターを複数連れて戻ってきた。

 

「二人とも、一体ずつ確実に仕留めて下さいね」

「ね、姉ちゃん、敵が姉ちゃんを噛んでるけど………」

 

 そのベルディアの言葉通り、雑魚モンスターはセラフィムを噛み、

今はブランとその腕にぶら下がっていた。

 

「大丈夫、このクラスの敵からはダメージをもらわないからね」

「そうなんだ、それじゃあプリン、頑張って攻撃してみよう!」

「おう!」

 

 そして二人は掛け声を発しながら敵に斬りかかっていった。

 

「えい!」

「とぉ!」

「あれ、二人とも、思ったよりも太刀筋が綺麗ですね」

「お、昨日のイメージトレーニングの成果が出たかな?」

「何かしたの?」

「うん、ソウルエッジってゲームの動きを二人でトレースしてみた。

意外と大変だったし意味があるかどうか分からなかったけど、まあ多少は効果が出たのかも」

「そうなんだ、ふふっ」

 

 二人が自宅でゲーム画面を見ながら仲良くその真似をしている光景を想像し、

セラフィムは微笑ましさを感じて、笑顔になった。

 

「よし、次!」

「はい、どうぞ」

 

 セラフィムは腕にぶら下がっていた敵を倒さないように慎重に放り出し、

二人は気合いを入れて、その敵に挑んでいった。

そんな光景が何度も繰り返され、二人のステータスもそれなりに上がる事となった。

ハチマンを尊敬するベルディアはAGIを、

そしてラキアをライバル視するプリンはSTRを中心に上げるようだ。

 

「本当はパワーレベリングをしたいところなんですけど、

生憎今日はみんな午前中は用事があって、来れなかったんですよね」

「そこまで気を遣ってもらわなくても大丈夫よ、今みたいな感じでも十分楽しいから」

「まあ後でハチマン様が来たらどんな無茶ぶりをしてくるか分からないので、

今のうちにもしそうなった場合の心得を説明しておきます」

「そうなったらそうなったで楽しそうだから別にいいんだけど、

確かに説明だけは聞いた方が良さそうね」

「ハチマン兄ちゃん、早く来てくれないかなぁ」

「もうすぐだから待っててね」

「うん、楽しみに待っとく!」

 

 そしてセラフィムからヴァルハラのパワーレベリングのやり方を教わった二人は絶句した。

 

「え、本当にそんな感じになるの?」

「見渡す限り敵みたいな………」

「うん、本当の本当にそんな感じだけど、二人が危険な目に遭う事はないから、

とにかく落ち着いてなるべく多くの敵に砂を投げてね、

あ、でも今回は多分、タンクに強化魔法をかける事になるかも。

簡単な呪文を後で教えるね」

「わ、分かった、頑張って覚えるよ!」

 

 これはハチマンが考えた経験値を得る方法であった。

パワーレベリングを受ける対象の者が、砂を大量に敵に向かって降らせ、

出来るだけ多くの敵と交戦状態に入ったとシステムに認識させる方法である。

これは場合によってはトン単位で砂を投げる事になる。

もしくはタンクを強化する事で、間接的に敵のヘイトリストに名前を乗せるのだ。

 

「さて、そろそろハチマン様達が来る時間なので、一度街に戻りましょっか」

「うん!それじゃあ街まで競争しようぜ、プリン」

「お、負けないわよ、ベルディア!」

「二人ともあまり無茶はしないでね」

 

 そしてセラフィムは、並んで飛ぶ二人を見守るように後からついていった。

 

(さて、ハチマン様はどうされるつもりなのかな)

 

 セラフィムはそんな事を考えながら飛んでいたが、

その為にプリンとベルディアの動きに反応するのが少し遅れた。

先ほど二人が話していたように、二人は競争だと言っていきなり速度を上げたのである。

 

「あっ、ここでその速度は!」

 

 ここは既にかなり街に近い場所であり、それなりに人通りも多い為、

ここで速度を上げるのは他のプレイヤーとかち合う可能性が高い。

セラフィムは速度を上げて二人の後を追ったが、最悪な事に、

競争する二人の正面から、十数名のプレイヤーの集団が飛んでくるのが見えた。

 

「二人とも、待って!」

 

 セラフィムはそう叫んで加速した。二人はその声が聞こえたのか僅かに速度を落としたが、

正面から近付いてくる点がプレイヤーの集団だとは気付いていない。

お互いに飛行している為、相対速度は単純計算で倍になるのだが、

その状態で前から何が来るのかを把握する為には、かなりの慣れが必要となる為である。

 

「くっ!」

 

 セラフィムは全力で飛び、何とか相手と接触する前に二人に追いつき、

その頭を無理やり下げさせ、衝突コースから外す事に成功した。

 

「ね、姉ちゃん?」

「二人とも、ちゃんと前を見て飛ばないと駄目だよ」

「前?あっ!」

 

 丁度その時、前にいた集団が、二人にも視認出来る距離まで迫ってきた。

 

「あっ、本当だ、ごめん姉ちゃん」

「遠くから点が近付いてきたら、それは他のプレイヤーだから、

今度からはよく注意して前を見てね」

「うん」

「セラフィムさん、ごめんなさいね」

「いえ、慣れないとこういうのは難しいですから」

 

 そして三人はその集団をやりすごそうと、低空をのんびりと進んでいたが、

その集団は何故か三人の真上で停止し、こちらに声をかけてきた。

 

「ああん?無茶な飛び方をしてる馬鹿がいたからシメてやろうと思ったら、

まさか姫騎士イージス様だったとはねぇ」

 

 そこにいたのはヴァルハラ内では敵対ギルドに分類されている、

チルドレン・オブ・グリークスのヘラクレスであり、

その後ろにはオルフェウスやテセウスの姿も見えた。装備に統一性がある事から、

ここにいる全員がチルドレン・オブ・グリークスのメンバーだと思われる。

セラフィムは戦闘になるかもしれないと考え、二人をかばうように前に出た。

 

「この距離なら、そちらに迷惑がかかるような事は何一つ無かったはず」

「へぇ、初心者か」

 

 セラフィムの言葉を無視して放たれたその言葉は、

本当に何気ない一言のようであり、事実ベルディアとプリンもそう思った。

だがセラフィムはそうは思わなかったらしく、剣を地面に突き立てながらこう叫んだ。

 

「展開、フォクスライヒバイテ!」

 

 その瞬間に、飾りの羽の部分がふわりと開いて一気に広がり、

フォクスライヒバイテは羽で縁取られたハートのような形の盾となった。

そしてその中心の剣の部分を引き抜いたセラフィムは、

その剣を真っ直ぐヘラクレスに向けた。

 

「で?」

「チッ、初心者どもを狙えば自由に動けなくなると思ったのに、対応が早すぎるぜ」

 

 その言葉でベルディアとプリンは、一歩間違えば危ないところだったのだと理解した。

同時に二人は自分達が足を引っ張らないようにと、大人しくセラフィムの背後に隠れた。

 

「やるなら相手になるけど?」

「一人で俺達全員を相手にするつもりか?」

「ええ、そのつもり。別に卑怯だとは思わないから安心するといい、

これはただの遭遇戦、ALOではよくある事」

「いい度胸だ、おいお前ら、やるぞ!」

 

 そう仲間達に声をかけた瞬間に、ヘラクレスは慌てて横に避けた。

そのすぐ横を、攻撃魔法なのだろうか、セラフィムが放った黒い光が通過していく。

 

「もう戦いは始まってる」

「だな!いくぞ!」

 

 こうしてセラフィム対チルドレン・オブ・グリークスの戦いが始まった。

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