ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、昨日おとといは忙しすぎて投稿出来ませんでしたorz


第908話 稚拙な序盤戦

「序列六位と十位か、これは実にやり甲斐のある戦いになった」

「あら、一人相手に五十人以上で喧嘩を売っておいて、今更やり甲斐?」

「ふん、何とでも言え、俺達は連合のクズ共とは違う、

どんなに罵られようと、勝てる時に勝っておくのが我らの正義なのだ」

「あら潔い、でもそれが正解よ、うちに勝つ為にはそうするしかないものね、

私が貴方でも多分そうするわ」

「褒め言葉だと受け取っておく」

「さて、それでは存分にやりあいましょうか」

「ここからが本番だな」

「あら、それはどうかしらね」

 

 そう言いながらユキノはいきなり呪文を放ち、

敵と味方を分ける巨大な氷の壁が生成された。

 

「な、何をする!」

「あら、女同士の内緒話に興味津々?」

「う………」

 

 ルシパーはその言葉にとても嫌そうに首を振った。

 

「いや、聞きたくない、どうせ男共の悪口に決まってるからな」

「あら、そう思うの?」

「思うとかじゃない、ただ知ってるだけだ」

 

 どうやらその意見はルシパーの実体験に基づくものらしいと考えたユキノは、

それ以上ルシパーに対して突っ込むのをやめた。

それはルシパーへの気遣いであったが、それに気付いたのかどうか、

ルシパーは氷の向こうでくるりと踵を返しながら言った。

 

「五分やる、その後総攻撃に入る」

「あらお優しい事、それじゃあお言葉に甘えるわ」

 

 そのお礼に対し、ルシパーは何も言わずに仲間達の方へと去っていき、

ユキノはすぐに全面の壁を消した。MPの消費を抑える為である。

 

「おいルシパー、何で待たなきゃいけないんだよ!」

「まさか相手が女だからって、媚を売ってるんじゃないだろうな!」

「ハッ、んな訳あるかよ、もう少しすればアルン冒険者の会の十名と、

ALO攻略軍の二十二名が合流してくる、そうなったらもう勝ちだろうと思ったまでよ」

「「「「「おお!」」」」」

 

 そしてアルヴヘイム攻略団は休憩に入り、その間に戦闘準備を完全に整える事にした。

 

 

 

「ユキノ、あいつらは何だって?」

「五分ほど時間をくれるそうよ、その間に情報の摺り合わせをしましょう。

とりあえず一番気になるのは、プリンさんとベルディア君だったかしら、

その二人が今どうなっているのかという事なのだけれど」

「そうそうそれ、二人はどこにいるの?」

「まさかあいつらに倒されたとか?」

 

 そう言ってユキノとシノン、リオンはセラフィムの方を見た。

 

「ううん、大丈夫、逃がしただけ」

「初心者二人だけで大丈夫なの?」

「心配ない、信頼出来る人がついてくれている。具体的にはソニック・ドライバーの二人」

「ソニック・ドライバーって、この前ハチマンが言ってたベテランの人かぁ」

「それなら大丈夫だね」

「ええ、私も面識があるけれど、とにかく正義感の強い優しい人達だから大丈夫よ」

 

 ユキノにそう太鼓判を押され、シノンとリオンはそれで大人しく引き下がった。

 

「さて、それじゃあ戦闘の進め方だけど、さすがにあの序列のプレイヤーが相手だと、

セラでも完全に抑え込むのは難しいわよね?」

「ルシパーとサッタンがいたら、多分それで手一杯になりそう」

「へぇ、あの二人、結構やるんだね」

「連合の前衛と比べると天地の差、月とスッポン、それくらいステータスに差がある」

「あいつらを相手にしてた時のようにはいかないか」

「今ここには味方の魔法使いもいないしね」

「相手の魔法は私がある程度防げるけど、どう考えても不利だよね」

「とりあえず方針としては、他のメンバーが到着するまで時間を稼ぐという事になるわね」

「「「了解!」」」

 

 ヴァルハラが恐るべき戦闘力を発揮してきたのは、ただでさえ個人の能力が高い上に、

その個人がきっちりそれぞれの役割を果たし、

相乗効果で集団としての戦闘力を高められるという点にある。

今回に関しては、タンク、ヒーラー兼魔法使い、そして遠隔攻撃が二人と、

実にバランスが悪く、頭数も足りないのだ。

多くの手だれに接近戦を挑まれた場合が特にヤバい。

 

「さて、そろそろ時間ね、とりあえず戦場を『造る』わ」

 

 そう言ってユキノは何かの呪文を唱え、その瞬間に四人の背後に氷の壁がせり上がった。

 

「これで背後から攻撃を受ける心配は無いわ、背水の陣みたいになってしまったけれど」

「上等じゃない、そう簡単にやられてあげないわよ」

「魔法攻撃は私に任せて」

「みんなは私が守る!」

「それじゃあ戦いを始めましょうか」

 

 そのユキノの言葉を合図に敵が突撃を開始し、戦いの火蓋がきっておとされた。

最初に前に出てきたのは、先ほどクルスが言った二人であった。

オーソドックスな剣を構えるルシパーと、巨大なハンマーを手に持つサッタンである。

 

「フン、プチっと潰してやる」

「姫騎士は俺に任せろ」

「やれるものならやってみなさい」

 

 セラフィムはそう言いながら迎撃体勢をとり、

そしてルシパーはセラフィムに斬りかかった。

 

「ふんっ!」

 

 同時に魔法使い系のプレイヤー達が左右に展開し、横から四人に魔法を放ってきた。

 

「任せて!」

 

 だがその攻撃は、リオンがロジカルウィッチスピアを左右に向け、全て吸収した。

 

「くっ、厄介な………」

「ひるむな、飽和攻撃だ!さすがに全部の魔法なんか、吸収出来っこない!」

「いやぁ、それはどうかな」

 

 リオンはそう言って、今度は吸収した瞬間にその魔力を解放し、

擬似的なカウンターを放つような感じで反撃を開始した。

 

「うおっ」

「な、何でそんなにMPが保つんだ………」

 

 攻撃していた者達は焦ったような声を出し、交代で魔法を放ち続けたが、

自前のMPをまったく使っていないリオンは当然のようにそれを全て跳ね返す。

ロジカルウィッチの面目躍如である。

そしてこの事はヴァルハラ・リゾートにとってもいい結果をもたらした。

派手に魔法が飛び交っている為、近接アタッカーが近寄れなくなったのである。

その為に戦況は、いわゆる『一対百の戦いなら一対一を百回繰り返せばいいじゃない』

状態となり、正面のセラフィムとルシパー、サッタンの戦いが激しさを増した為、

他のプレイヤー達はただ指をくわえて戦況を見守る事しか出来なくなったのである。

 

「チャンスね」

 

 シノンは自身の安全が確保された事で、

余裕綽々で何も出来なくなった近接プレイヤー達に攻撃をを加えていった。

完全にアルヴヘイム攻略団側が不利な状況である。

ユキノはこの状況に内心で笑いを堪えていた。

せっかく数の上で有利な状況を作り上げたのに、アルヴヘイム攻略団の何と稚拙な事か。

だが余計な事を言って戦況が変わってしまっては困るので、

何かあった時にすぐ対応出来るようにMPを温存しつつ、

ユキノは冷静に周囲の状況を見守りつつ、セラフィムのサポートに徹したのであった。

 

 

 

「な、言っただろ?」

「本当だ、普通に余裕で戦ってる………」

「うちの連中って思ったより集団戦が苦手なのかなぁ………」

「そう思うなら手伝ってやれよ」

「無理無理、それなりにステータスは上げてあるけど、私は戦いには向いてないもの」

 

 一方この戦いをこっそり観戦していたスプリンガー達であったが、

そこにしれっとした顔でアスモゼウスが合流していた。

アスモゼウスが逃れようとした近くの木陰には、丁度スプリンガー達がおり、

鉢合わせしてしまった事に、最初は驚いたような声を上げたのだが、

すぐにお互い気まずそうな表情になり、この事は内緒という暗黙の了解を経て、

今こうして一緒に戦いの様子を観戦していると、まあそういう状況なのである。

 

「ねぇ、エロい姉ちゃんは幹部なんでしょ?こんな所にいていいの?」

「エ、エロい姉ちゃん………ま、まあいいけど。

いやぁ、良くはないんだけどね、今後はこういう事がよく起こるだろうし、

毎回まめに参加してたら面倒臭いな、とか思っちゃうのよねぇ」

「んだんだ、そもそも見てて分かるだろ?こっちの連携はバラバラだ

そういうのを今日予定してた狩りで摺り合わせる予定だったのに、

正直何で今ヴァルハラ相手に戦う事になってんだって話だよ」

 

 ここにアルヴヘイム攻略団がいたのは、どうやらそういう理由らしい。

 

「でもさすがにそろそろ一度引いて、体勢を立て直そうとするんじゃないか?」

「うん、アスタルト辺りが何か言うんじゃないかなぁ、

一歩引いてまごまごして、困ったような顔をしてるしね」

 

 そのアスモゼウスの言葉通り、

一人のプレイヤーが何もせずにまごまごしているのが見えた。

戦術眼は鋭いのだが、気が弱くて仲間に中々指示を出せない七つの大罪の軍師役である。

 

「うぅ、話を聞いてもらわないと………」

 

 そう思いつつもアスタルトは生来の気の弱さを発揮して中々動き出せない。

だがその時状況が変わった、アルン冒険者の会の十名と、

ALO攻略軍の二十二名が合流してきたのである。

 

「チャ、チャンス!ル、ルシパーさん、味方の援軍です!」

 

 その言葉を受け、ルシパーは一歩後ろに下がった。

 

 

 

「敵の援軍が来たみたいね」

「あれってアル冒とALO攻略軍よね」

「この状況が続いてくれれば楽なんだけど………」

「どうやら無理みたいよ、敵が引いていくわ」

 

 ルシパーは他の幹部達にも声をかけられ、一旦引く事にしたようだ。

前方で戦っていたセラフィムも、それを受けてこちらに戻ってくる。

 

「セラ、お疲れ様」

「さすがにあのクラスが相手だとしんどい」

「でもリオンのおかげで大分楽だったわよね」

「あの人達って馬鹿なのかな、学習能力は無いのかな?」

「リオンが何をしているのか、少しは考えればいいのにね」

 

 今回は相手の愚かさに助けられた格好だが、ユキノの知る限り、

少なくともアルン冒険者の会はまともな戦闘が行えるギルドだったはずだ。

そして敵が再びこちらに向かってきた。

今度は前衛陣が前面に押し出されており、魔法使い達は宙に浮き、

上空から味方に当たらないように攻撃してくるつもりのようだ。

 

「………まともになっちゃったわね」

「アル冒が加わったせいかしら」

「どうする?」

「正直この壁を維持するのもそろそろ限界なのよね、こっちの援軍はまだかしら」

「ちょっとハチマンに聞いてみましょうか」

「そんな時間は無いみたい、もう敵が来ちゃった」

「とにかく徹底抗戦ね、やれるだけやってみましょう」

 

 そう言いながら、ユキノは内心で迷っていた。

壁を解除して範囲攻撃魔法を使えば、敵の足を氷が覆って敵の行動を鈍らせる事が出来るが、

さすがにこの場所は、迷宮内と違って敵も空を飛べる為に効果が薄い。

そして敵の近接アタッカー陣がこちらに殺到してきた為、

ユキノは自身も多少は物理で相手をしないといけないなと思い、

以前ハチマンにもらい、ナタクに改良してもらった大剣を取り出した。

 

「仕方ないわね、まあ何とかなるでしょう」

 

 そう言ってユキノは剣を構え、セラフィムの斜め後ろに立った。

 

「ユキノ、あまり無理はしないでね」

「きついと思うけど、戦闘面でのフォローはお願いね、

ヒールはちゃんと飛ばすからそちらは任せて」

「うん」

 

 そして目の前に敵の近接アタッカーが殺到してきたその瞬間に、

遥か上空から何かが降ってきた。それを最初に見つけたのはシノンである。

 

「ユキノ、上!」

「全員下がって!今壁を解除するわ!」

 

 ユキノは咄嗟にそう叫び、四人は素早く後ろに下がった。

 

「むっ」

 

 ルシパー達もそのヴァルハラの行動を受け、何事かと足を止めた。

その眼の前に一本の剣が突き刺さる。その衝撃で爆風が起き、辺り一帯は煙に包まれた。

 

「うわああああ!」

「何だ?」

 

 そんな中、煙の中から嬉しそうな、それでいて少し拗ねたようなユキノの声がした。

 

「もう、遅いわよ」

「悪い悪い、後で何か奢るから勘弁してくれ」

「もう、約束よ」

 

 そして煙が晴れた後、そこには一人のプレイヤーが立っていた。

 

「ハ、ハチマン………」

「おう、それじゃあまあ、続きを始めるとするか」

 

 ハチマンはそう言って地面に突き刺さった雷丸を抜き、不敵に笑ったのであった。


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