ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第909話 歯ごたえのある奴ら

「て、てめえ………」

「よぉルシパー、うちの連中が世話になったみたいだが、

これ以上お前らの好きにさせるつもりはないから覚悟しておけ」

「ハッ、望むところだ、勝てるとは思わねえが、全力で抵抗してやるぜ」

「そういうの、嫌いじゃないぜ」

 

 さりげなく闇風の口癖をパクりながら、ハチマンはゆっくりと前に出た。

だがそんなハチマンを制するように、セラフィムがその前に出た。

 

「ハチマン様、それは私の役目ですから」

「………そうだったな、それじゃあ久しぶりに暴れるか。っと、その前にっと」

 

 そう言ってハチマンはセラフィムの手を引き、数歩後ろに下がった。

 

「ハ、ハチマン様、みんなが見ている前でそんな………」

 

 セラフィムがそう言いながらもじもじし始めたのを見て、

ハチマンはため息をつきながらセラフィムに言った。

 

「違う違う、上だ上」

「上?」

 

 そう言われたセラフィムは上を向き、この場にいた他の者達も釣られて上を向いた。

よく見るとかなり上空に黒い点のような物が二つ見え、

それが何か気付いた瞬間に、セラフィムは慌ててフォクスライヒバイテを構えた。

 

「イージス!」

 

 その瞬間にハチマン達の前に光の盾が立ちはだかり、

直後にハチマン達とルシパー達の間に一本の剣が着弾し、派手に砂埃が舞った。

ハチマン達はセラフィムのおかげでその場に留まる事が出来たが、

ルシパー達は衝撃で盛大に後方へと飛ばされる事となった。

 

「くっ………」

「な、何だ?」

「何かが空から………」

 

 そして煙が晴れた後、そこにはキリトが立っていた、どこかで見たような光景である。

 

「うちの連中が世話になったみたいだが、

これ以上お前らの好きにさせるつもりはないから覚悟しておけ」

 

 その言葉に対する反応は何も無かった。

 

「あれ?おい、何か反応しろよ」

「え?あ、お、おう、ど、どんまい」

「どんまい?」

 

 キリトは首を傾げながら振り返り、ハチマンの方を見た。

そんなハチマンは、キリトに謝るように手の平を合わせていた。

 

「悪いキリト、それはさっき俺がやっちまった」

「ノオオオオオオオオオオ!」

 

 ハチマンにそう言われた瞬間に、キリトは頭を抱えながらそう絶叫した。

 

「くそっ、みんなで考えた格好いい登場パターンその一がもう使われてたなんて………」

「お、おう、悪いな、もしお前がいいなら仕切り直してもいいぞ」

「そ、それじゃあその二で………」

 

 キリトが気を取り直したようにそう言い、上空へと飛び立とうとした瞬間に、

上空で雷が閃き、キリトのすぐ隣にドカンと落ち、

その衝撃で周囲の者達は一瞬目を閉じた。

 

「あっ、ちょっ………」

 

 その耳に焦ったようなキリトの声が聞こえ、目を開けた一同の目の前に、

体に雷を纏った一人のプレイヤーが立っていた。

そのプレイヤーは斜め四十五度の角度で目を瞑ったまま上を向いており、

その立ち姿からは神々しさすら感じられた。

 

「我、同胞の叫びを聞き、雷土となりてこの地に飛来す。我が敵は汝なりや?」

 

 そう言いながらスッと目を開け、

ルシパー達の方を向きながらスッとそちらに剣を向けたのは、アスナであった。

 

「バ、バーサクヒーラー………」

「その名を知るとは、貴様らはデーモンの末裔か。

遥か昔、神話の時代からの因縁に、ここで決着を着けようぞ」

 

 そしてアスナは挑発するかのようにクイックイッと剣先を震わせた。

その姿にルシパー達は憤り、剣を構えたのだが、

そんな場の雰囲気をぶち壊すかのように、再びキリトが絶叫した。

 

「その二もやられたあああああああああ!」

 

 その声に一同はビクッとなったが、

そんな中、一人冷静な表情を保っていたユキノが、キリト目掛けていきなり剣を振るった。

だがキリトは地面に突き刺さったままになっていた彗王丸を素早く抜き、

その剣を彗王丸で難無く受け止めた。

 

「おいユキノ、いきなり何をするんだよ!」

「あら、ちゃんと動けるみたいね、とりあえず敵の皆さんが戸惑ってるから落ち着いて頂戴」

「ああ、悪かったよ」

 

 そう言ってキリトは立ち上がり、ルシパー達に剣先を向けた。

 

「で、俺の相手はたったこれだけか?」

 

 キリトはキメ顔でそう言ったが、

そんなキリトにハチマンがため息をつきながら声をかけた。

 

「キリト、今更格好つけてももう遅いからな」

「分かってるよ畜生おおおおお!」

 

 キリトは再び絶叫し、ユキノは責めるような口調でハチマンに言った。

 

「ハチマン君?」

「お、おう、すまん、ちょっと悪ノリしすぎたわ。それじゃあ………」

 

 そう言ってハチマンは雷丸を肩に担いだ。

それを見たキリトとアスナとセラフィムはピクリとし、同じように剣を肩に担いだ。

ユキノはいつの間にか剣を仕舞ってカイゼリンを取り出している。

 

音速突撃( ソニックラッシュ)!」

 

 ハチマンがいきなりそう叫んだ瞬間に、セラフィムが大音声を放った。

 

「フォクスライヒバイテ・ランツェ!」

 

 その瞬間にセラフィムの持つ剣が槍へと変化し、

セラフィムは同時にソードスキルを放った。

 

「ソニック・チャージ!」

 

 その言葉と共に、盾を構えた状態のセラフィムは、ルシパー達目掛けて突進した。

当然ルシパー達はその突進を受け止めようとしたのだが、

ソードスキルのシステムアシストがある為にその圧力は凄まじく、

正面にいたルシパーとサッタンは後方へと弾かれ、尻餅をつく事となった。

 

「くそっ!」

「むかつくなぁおい!」

 

 二人はそう叫んで立ち上がろうとしたが、その目の前で、

二人の横にいたせいで斜めに飛ばされたマモーンとベルゼバブーンの腹から剣が生え、

同時に矢と光の弾丸がそれぞれに着弾し、二人のHPはいきなり半分以下まで落ち込んだ。

 

「なっ………」

「馬鹿な!?」

 

 見るとその剣の持ち主は、セラフィムの横に立つアスナとキリトであった。

どうやらセラフィムと同時に突進したらしい。

シノンとリオンは残心状態にあり、遠隔攻撃が二人から放たれた事が分かる。

ハチマンとユキノは全員をフォローすべく、周囲に目を光らせているように見えた。

 

「お、おい、今何があった?」

 

 よろけながら立ち上がったマモーンとベルゼバブーンにルシパーがそう尋ね、

二人はブンブンと頭を振りながらそれに答えた。

 

「浮かされた瞬間に攻撃が来た」

「ああっ、くそっ、強制クリティカルヒットだよ!」

 

 その二人の説明でルシパー達は、

ハチマンが指示した音速突撃( ソニックラッシュ)の正体を知った。

 

「くっ、さすがにやる………」

「そっちこそ打たれ強いじゃないか、ちょっと驚いたよ」

 

 だが当初は九十名近くおり、ユキノ達に数人潰されたとはいえ、

アルヴヘイム攻略団は、まだ八十人近くは残っている。

 

「二人は下がれ、体勢を立て直す、タンクを中心に陣形を組め」

 

 そこでルシパーが冷静な口調でそう言った。

さすがにただ突っ込むだけのようなここまでの戦闘について、反省したらしい。

 

「いい判断だな」

「ふん、当たり前だ」

「でもそれはそれで、こっちには都合がいいんだけどな」

「何っ!?」

 

 その言葉を証明するかのように、ルシパー達の足元が氷に覆われた。

 

「そういう事ならこうするまでよ」

「くそっ、絶対零度か」

「それじゃあやるとするか」

 

 その状況を見て、遂にハチマンも重い腰を上げた。

半数くらいは宙に浮いていて無事だったとはいえ、

前衛陣の行動が阻害された事で、彼らもこちらに攻撃しにくくなっているのだ。

ハチマンはそのまま空中戦を始め、シノンとリオンがそのバックアップを開始した。

 

「この数相手に一人で戦うつもりか!」

「いや、まあさすがにお前ら相手に圧倒出来るなんて思っちゃいないさ、

俺の役目はまあ、こんな感じだ」

 

 そう言ってハチマンは、とにかく相手の体勢を崩す事を念頭に、

相手をかく乱しまくっていた。

そして体勢が崩れた者には容赦なくシノンとリオンの攻撃が突き刺さる。

 

「くそっ、たちが悪い………」

「遠隔物理アタッカーは全然数が少ないからな、お前達もちょっとは考えた方がいいぞ」

「………考慮する」

 

 その敵は素直にそう返事をしてからハチマンに討たれた。

 

「ん、今のは確か、アル冒のリーダーだったか、まあいいか、このまま押しきるぞ!」

 

 一方キリト達は、移動を制限された状態の敵を相手に凄まじい地上戦を繰り広げていた。

セラフィムを中心にキリトとアスナが左右から攻撃を仕掛け、どんどん敵を屠っていく。

だが敵も手をこまねいてその状況を見ていただけではなく、

既に何人かは、ユキノによる足の拘束から逃れていた。

 

「さすがは上位陣ね、歯ごたえがあるわ」

「ユキノ、足止めはもういい、後はフォローを頼む!」

「分かったわ、存分に暴れまくって頂戴」

 

 それからしばらく戦いは続き、敵は四分の一ほどまで討ち減らされていた。

もちろんヴァルハラで倒れた者は誰もいない。だが魔法攻撃を受けなくなった事で、

魔力を吸収出来なくなったリオンは戦闘力をほぼ失っており、

シノンは矢を撃ちつくし、今は自前の魔力を矢に変換して攻撃をしている状態となっていた。

大魔法を何発も放てるはずのユキノの魔力もかなり減っており、

キリト達がいかに激戦を繰り広げたかが分かる。

その状況を把握したハチマンは、下におりてルシパーの前に立った。

ルシパーはさすがというべきであろうか、キリトとアスナが相手でも、まだ生き残っていた。

 

「おいルシパー、さすがにもう頃合いだろ、そろそろ終わりにしないか?

お前達も何か予定があったんだろ?」

「ああん?ふざけるな!………と言いたいところだが、

喧嘩を売ったのはこっちだし、確かに予定が滞ってる、分かった、その提案を受け入れる」

「お、さすがは連合の馬鹿どもとは違うな、

お互い今日の戦闘の事を反省して改善したら、また戦おうぜ」

「もちろんそのつもりだ、次からはむざむざとやられたりはしない」

「おう、楽しみに待ってるからな、傲慢」

「ふん、首を洗って待っていろ、覇王」

 

 それを合図にアルヴヘイム攻略団は撤退していき、次々とリメインライトが消えていった。

こうして最初の遭遇戦は、ヴァルハラの勝利で終わった。


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